五周目 壱
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なぜ鱗滝さんを知っているかは、鎹烏から聞いたことにした。
というより、槇寿朗さんが家にいる時の鎹烏のお世話は私がしている。その時に、あとから食い違いが出てこないようにと、色々なことを鎹烏から前もって実際に毎回聞いている。私ったら用意周到!
槇寿朗さんや瑠火さんからの許可はすんなり出た。鱗滝さんからも許可が出た。
ただし炎の呼吸の鍛錬を欠かさないこと、花嫁修行に値する茶道、華道、お琴にお裁縫、料理、そしてしばらく学校に通わないが故の勉学を怠らないことを条件にだ。
はー、日頃からかなりの優等生でいてよかった。飛び級制度はないけど尋常小学校の最終学年の学問すら今は百点取れる成績だもんね。数ヶ月学校通わなくてもいいだなんて特別待遇は、こんな私だからこそ可能だ。
でもちょっと、条件が厳しいかも?完璧にやり切れるけどさ。
そんな中で反対していたのは杏寿郎さんただ一人。彼は私が家を出る最後まで渋り続け、反対していた。
「朝緋は俺の元で強くなるべきだ!俺と一緒に強くなればそれでいい!何も、他の呼吸の育手の元になど行かなくてもいいではないか!!」
大丈夫だよ。もっともっと強くなって帰ってくるから。弱いままの私なんて見せないから。
そう伝えたら、そうじゃない!とぷんぷんされたっけ。
水、雷、風、岩。派生の音など。
私は常々、他の呼吸の習得を試したいと思っていた。
水の呼吸は私に合うかも、なんて槇寿朗さんも言っていたときもあることだし。『前回』は他の呼吸も合う可能性が、とまで言われた。
そして私はものの見事に水の呼吸を覚え、実際に使ってみせた。
ただしその精度も威力も、水の呼吸を専門とする隊士に及ばない。当たり前だけど炭治郎の拾ノ型の方が強かった。
加えて、二本目の日輪刀の存在が大きかっただけで。
炎の呼吸については正直間に合っている部分が大きい。では、水の呼吸を『前』よりさらに強い呼吸とするには?
水の呼吸を専門に教える師の元で、適切な鍛錬を積むのが一番だ。そう、白羽の矢は『前回』ですでに立っていた。
そうして降り立ったこの地。
「到着が夕方になっちゃったな。ほほう、あれが狭霧山……確かに空気が薄そお〜」
人里離れた山近く。狭霧山と呼ばれた山の標高は高く、上の方は霞がかかって何も見えなくなっている。もしかしたら頂上付近では雨が降っているやら雷が鳴っているやらしているかもしれない。山の天気は変わりやすいって、よくいうもんね。
ここで炭治郎の恐れるブートキャンプが……。
おっとその前に鱗滝さんに会わなくては何も始まらない。狭霧山の麓に一軒だけポツンと建つのが、鱗滝さんのお宅というお話だ。
「あのおうちかな?」
本当に一軒のみ建っている。買い物などはどうしてるんだろう。ちょっぴり不便そうに見えるけど住めば都なんだろうな。
私も令和の記憶を思い出した直後は、この時代が少々不便に感じてしまったもの。今は慣れてる。
「ごめんくださ……ぎゃっ」
「おぬしが煉獄朝緋だな?」
こんこんと戸を叩こうとしたら中から先に開いた。そこから顔を出したのは、お面をつけた男性だ。
ここはいつから刀鍛冶の里に、って火男のお面じゃなくて天狗のお面!……え、誰?
とりあえず質問に答えるのが先か。
「私が煉獄朝緋ですけど……あの、此方は鱗滝左近次様のお宅でよろしかったでしょうか」
「ああ、儂が鱗滝左近次だ。儂は常時この天狗の面をつけておるのだ。知らん者は驚くよな。驚かせてしまいすまないな」
「いえ……」
貴方かーい!火男の面をつけている刀鍛冶で耐性がついているから平気だけど、普通は驚くよね。
「話は聞いている。入れ」
中に通され、腰を落ち着ける。おろした荷物から文やら何やら取り出し、どんどん渡していく。
「こちら炎柱・煉獄槇寿朗からの文です。詳しいことはそちらに書かれているかと。あ、それとこれもよかったらどうぞ」
「拝見する。
おお、菓子と……、さつまいも?」
「私が育てたさつまいもです。すごくすっごく美味しいので、お土産に持って参りました」
「は、はあ……」
え?さつまいもってお土産で一番喜ばれるものだよね。困惑されてる!やばい、チョイス間違えた……?
荷物の半分以上がさつまいもだよどうしよう。今こそ杏寿郎さんの胃袋の存在が必要だ。
読み終えたのだろう、蛇腹折りのそれを畳みこちらに向き直る鱗滝さん。その目が私の周りに並べられた大量の芋を一瞥していった。ごめんなさいこれ全部お土産です。
「文で大体のことを理解した。
結論から言えば、煉獄朝緋。おぬしはすでに儂の教えなど必要ないほどに強い」
「強くないです。それにこの歳です。まだまだ体力的には弱い。技術もない。経験もない。私には鍛える部分しかございません」
「……おぬしからは強者の匂いがしている。肉体面ではなく、心が強い匂いが」
「え?」
匂い!?この人も炭治郎と同じ、嗅覚で人の感情まで読み取れちゃう人なの?
「ああ、鼻が利くのでな」
「匂いで会話しないでください!」
やっぱり炭治郎と同じじゃないのさ。
「すまんすまん。そもそも朝緋は炎の呼吸を学んでいるだろうに」
「はい、私は炎の呼吸の使い手となるべく、炎柱の元で鍛錬を積んでいます。でも同時に水の呼吸を覚え、そちらも使いこなしたいとも考えています。欲張りで申し訳ありません」
申し訳ないといいながらも、駄目と言われたところで諦める気ゼロなのでただひたすら首を垂れてお願いする。
「複数の呼吸を、か。考えとしては悪くない。相当に大変だがな。
教えるのは構わんが、ここに書いてある学業に裁縫、茶道、華道、お琴に料理。それもこなさなくてはならんのだろう。修行しながら全てやれるのか」
にっと笑う。
「やれないんじゃない、やるんですよ。全て完璧にこなします。大体、たくさん書いてありますが茶道華道お琴の道具は荷物になりますから持ってきていませんし、それらはもう完璧なのでやる必要もございません。料理と勉強はさせていただきたいですが。
鱗滝さんはただひとつ、私を甘やかさないでくだされば……」
「そのつもりだ。儂はおぬしの条件とやらを考慮しないし、甘やかす気はない」
「ぜひよろしくお願いします」
スパルタ上等!ブートキャンプの始まりね。
「では鍛錬場を案内する。そこの木刀を持って先に外に出ていなさい」
先に、ねぇ……。
気がついていないふりをしながら、家から一歩出る。その瞬間、目だけを鬼の面で隠し殺気を放つ三人の人間に飛びかかられた。
「うおおお!!」
「やあああっ!!」
「はああっ!」
それぞれ相手も木刀を持っている。全員体格は杏寿郎さんと同じくらいで、杏寿郎さんよりも若干速い。けれど私はもっと速い。
「ふっ!はっ、……っと!!」
打ち込んできたそれを全てすれすれでかわしきり、距離をとることに成功した。
ふふん、スピードなら負けないよ。三人の中の一人、女の子の動きをかわすのは大変だったけれど。
え?持っている木刀で応戦しないのかって?これが本物の鬼ならそうしたし、なんなら木刀だろうが頸をとる勢いで薙ぎ払ったと思う。
でも痛いし相手は人だからさ……避けるだけにしたってわけ。
「ふむ。判断が早いな。いいや、気がついていたか」
「やはり鱗滝さんの差金でしたか。外に気配がありましたしお面を被っていて怪しくとも、鬼でないとわかったので打ち返しませんでした」
三人がお面を外して顔をこちらに向けた。
そのまま自己紹介され、私も名乗りをあげる。
その紹介を聞きながら、頬に傷のある宍色の髪の子……錆兎の足元が、私が木刀を避けたことで抉れているのを見やる。……この中では錆兎が一番強そう。
黒髪のかわいい女の子……真菰は攻撃力こそ低そうだけれど、とにかく身軽ですばしっこいタイプかな。
そして最後に紹介されたのはどこからどう見ても、冨岡さん。名乗られた名前も冨岡義勇だった。
えっ、冨岡さん!?でも私が知っている冨岡さんより随分と表情豊か……目がキラキラしてる。本当に同じ人?同姓同名じゃなくて?それとも若い時は性格が違っていたの?
羽織も燕脂一色だし。確か冨岡さんって、右腕側が燕脂の。左腕側が錆兎と同じ模様の半分ぶつ柄が違う羽織を着ていた気がするのよね。
私の視線が自分のところで困惑気味に止まったからだろう、冨岡さんがきょとんとしている。
「俺の顔に何かついている?」
「ううん、ついてないです」
この表情、冨岡さんだ。天然ボケが入ってる感じが、今から垣間見えてるや。
それにしてもみんな私より年上かあ。ああでもそれはそうだよね。だって、冨岡さんなんて杏寿郎さんの一個上だったもの。
杏寿郎さん……どうしてるかなあ。お腹いっぱいご飯食べてるかなあ。
私はもう既に貴方に会いたくてたまらなくなっている。
というより、槇寿朗さんが家にいる時の鎹烏のお世話は私がしている。その時に、あとから食い違いが出てこないようにと、色々なことを鎹烏から前もって実際に毎回聞いている。私ったら用意周到!
槇寿朗さんや瑠火さんからの許可はすんなり出た。鱗滝さんからも許可が出た。
ただし炎の呼吸の鍛錬を欠かさないこと、花嫁修行に値する茶道、華道、お琴にお裁縫、料理、そしてしばらく学校に通わないが故の勉学を怠らないことを条件にだ。
はー、日頃からかなりの優等生でいてよかった。飛び級制度はないけど尋常小学校の最終学年の学問すら今は百点取れる成績だもんね。数ヶ月学校通わなくてもいいだなんて特別待遇は、こんな私だからこそ可能だ。
でもちょっと、条件が厳しいかも?完璧にやり切れるけどさ。
そんな中で反対していたのは杏寿郎さんただ一人。彼は私が家を出る最後まで渋り続け、反対していた。
「朝緋は俺の元で強くなるべきだ!俺と一緒に強くなればそれでいい!何も、他の呼吸の育手の元になど行かなくてもいいではないか!!」
大丈夫だよ。もっともっと強くなって帰ってくるから。弱いままの私なんて見せないから。
そう伝えたら、そうじゃない!とぷんぷんされたっけ。
水、雷、風、岩。派生の音など。
私は常々、他の呼吸の習得を試したいと思っていた。
水の呼吸は私に合うかも、なんて槇寿朗さんも言っていたときもあることだし。『前回』は他の呼吸も合う可能性が、とまで言われた。
そして私はものの見事に水の呼吸を覚え、実際に使ってみせた。
ただしその精度も威力も、水の呼吸を専門とする隊士に及ばない。当たり前だけど炭治郎の拾ノ型の方が強かった。
加えて、二本目の日輪刀の存在が大きかっただけで。
炎の呼吸については正直間に合っている部分が大きい。では、水の呼吸を『前』よりさらに強い呼吸とするには?
水の呼吸を専門に教える師の元で、適切な鍛錬を積むのが一番だ。そう、白羽の矢は『前回』ですでに立っていた。
そうして降り立ったこの地。
「到着が夕方になっちゃったな。ほほう、あれが狭霧山……確かに空気が薄そお〜」
人里離れた山近く。狭霧山と呼ばれた山の標高は高く、上の方は霞がかかって何も見えなくなっている。もしかしたら頂上付近では雨が降っているやら雷が鳴っているやらしているかもしれない。山の天気は変わりやすいって、よくいうもんね。
ここで炭治郎の恐れるブートキャンプが……。
おっとその前に鱗滝さんに会わなくては何も始まらない。狭霧山の麓に一軒だけポツンと建つのが、鱗滝さんのお宅というお話だ。
「あのおうちかな?」
本当に一軒のみ建っている。買い物などはどうしてるんだろう。ちょっぴり不便そうに見えるけど住めば都なんだろうな。
私も令和の記憶を思い出した直後は、この時代が少々不便に感じてしまったもの。今は慣れてる。
「ごめんくださ……ぎゃっ」
「おぬしが煉獄朝緋だな?」
こんこんと戸を叩こうとしたら中から先に開いた。そこから顔を出したのは、お面をつけた男性だ。
ここはいつから刀鍛冶の里に、って火男のお面じゃなくて天狗のお面!……え、誰?
とりあえず質問に答えるのが先か。
「私が煉獄朝緋ですけど……あの、此方は鱗滝左近次様のお宅でよろしかったでしょうか」
「ああ、儂が鱗滝左近次だ。儂は常時この天狗の面をつけておるのだ。知らん者は驚くよな。驚かせてしまいすまないな」
「いえ……」
貴方かーい!火男の面をつけている刀鍛冶で耐性がついているから平気だけど、普通は驚くよね。
「話は聞いている。入れ」
中に通され、腰を落ち着ける。おろした荷物から文やら何やら取り出し、どんどん渡していく。
「こちら炎柱・煉獄槇寿朗からの文です。詳しいことはそちらに書かれているかと。あ、それとこれもよかったらどうぞ」
「拝見する。
おお、菓子と……、さつまいも?」
「私が育てたさつまいもです。すごくすっごく美味しいので、お土産に持って参りました」
「は、はあ……」
え?さつまいもってお土産で一番喜ばれるものだよね。困惑されてる!やばい、チョイス間違えた……?
荷物の半分以上がさつまいもだよどうしよう。今こそ杏寿郎さんの胃袋の存在が必要だ。
読み終えたのだろう、蛇腹折りのそれを畳みこちらに向き直る鱗滝さん。その目が私の周りに並べられた大量の芋を一瞥していった。ごめんなさいこれ全部お土産です。
「文で大体のことを理解した。
結論から言えば、煉獄朝緋。おぬしはすでに儂の教えなど必要ないほどに強い」
「強くないです。それにこの歳です。まだまだ体力的には弱い。技術もない。経験もない。私には鍛える部分しかございません」
「……おぬしからは強者の匂いがしている。肉体面ではなく、心が強い匂いが」
「え?」
匂い!?この人も炭治郎と同じ、嗅覚で人の感情まで読み取れちゃう人なの?
「ああ、鼻が利くのでな」
「匂いで会話しないでください!」
やっぱり炭治郎と同じじゃないのさ。
「すまんすまん。そもそも朝緋は炎の呼吸を学んでいるだろうに」
「はい、私は炎の呼吸の使い手となるべく、炎柱の元で鍛錬を積んでいます。でも同時に水の呼吸を覚え、そちらも使いこなしたいとも考えています。欲張りで申し訳ありません」
申し訳ないといいながらも、駄目と言われたところで諦める気ゼロなのでただひたすら首を垂れてお願いする。
「複数の呼吸を、か。考えとしては悪くない。相当に大変だがな。
教えるのは構わんが、ここに書いてある学業に裁縫、茶道、華道、お琴に料理。それもこなさなくてはならんのだろう。修行しながら全てやれるのか」
にっと笑う。
「やれないんじゃない、やるんですよ。全て完璧にこなします。大体、たくさん書いてありますが茶道華道お琴の道具は荷物になりますから持ってきていませんし、それらはもう完璧なのでやる必要もございません。料理と勉強はさせていただきたいですが。
鱗滝さんはただひとつ、私を甘やかさないでくだされば……」
「そのつもりだ。儂はおぬしの条件とやらを考慮しないし、甘やかす気はない」
「ぜひよろしくお願いします」
スパルタ上等!ブートキャンプの始まりね。
「では鍛錬場を案内する。そこの木刀を持って先に外に出ていなさい」
先に、ねぇ……。
気がついていないふりをしながら、家から一歩出る。その瞬間、目だけを鬼の面で隠し殺気を放つ三人の人間に飛びかかられた。
「うおおお!!」
「やあああっ!!」
「はああっ!」
それぞれ相手も木刀を持っている。全員体格は杏寿郎さんと同じくらいで、杏寿郎さんよりも若干速い。けれど私はもっと速い。
「ふっ!はっ、……っと!!」
打ち込んできたそれを全てすれすれでかわしきり、距離をとることに成功した。
ふふん、スピードなら負けないよ。三人の中の一人、女の子の動きをかわすのは大変だったけれど。
え?持っている木刀で応戦しないのかって?これが本物の鬼ならそうしたし、なんなら木刀だろうが頸をとる勢いで薙ぎ払ったと思う。
でも痛いし相手は人だからさ……避けるだけにしたってわけ。
「ふむ。判断が早いな。いいや、気がついていたか」
「やはり鱗滝さんの差金でしたか。外に気配がありましたしお面を被っていて怪しくとも、鬼でないとわかったので打ち返しませんでした」
三人がお面を外して顔をこちらに向けた。
そのまま自己紹介され、私も名乗りをあげる。
その紹介を聞きながら、頬に傷のある宍色の髪の子……錆兎の足元が、私が木刀を避けたことで抉れているのを見やる。……この中では錆兎が一番強そう。
黒髪のかわいい女の子……真菰は攻撃力こそ低そうだけれど、とにかく身軽ですばしっこいタイプかな。
そして最後に紹介されたのはどこからどう見ても、冨岡さん。名乗られた名前も冨岡義勇だった。
えっ、冨岡さん!?でも私が知っている冨岡さんより随分と表情豊か……目がキラキラしてる。本当に同じ人?同姓同名じゃなくて?それとも若い時は性格が違っていたの?
羽織も燕脂一色だし。確か冨岡さんって、右腕側が燕脂の。左腕側が錆兎と同じ模様の半分ぶつ柄が違う羽織を着ていた気がするのよね。
私の視線が自分のところで困惑気味に止まったからだろう、冨岡さんがきょとんとしている。
「俺の顔に何かついている?」
「ううん、ついてないです」
この表情、冨岡さんだ。天然ボケが入ってる感じが、今から垣間見えてるや。
それにしてもみんな私より年上かあ。ああでもそれはそうだよね。だって、冨岡さんなんて杏寿郎さんの一個上だったもの。
杏寿郎さん……どうしてるかなあ。お腹いっぱいご飯食べてるかなあ。
私はもう既に貴方に会いたくてたまらなくなっている。