五周目 壱
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一年も経てば視線を合わせてもお互いに恋愛感情が発生してしまう『あの鍵が開く時の感覚』はなくなった。
私達は毎日のように木刀を打ち合っている。鍛錬として打ち稽古する際、相手の目をしっかり見ることになるのだから聞こえなくなってきても当然。
そもそもが真剣勝負に恋の視線も何もない。
もちろん、あの音がしなくなろうと私は杏寿郎さんのことが大好きだよ。そこは変わらない。
……もしかしたら、私が気が付かないところで杏寿郎さんも私に恋愛感情を抱いてくれているかもしれない。なんて思う。
ただし聞くわけにいかないので知りようはない。
本当なら。本当ならば。貴方に抱きつきたい、抱きしめてもらいたい。貴方の気持ちを聞きたい。
だけど、駄目なんだ。この心は隠さなくちゃ。貴方の気持ちも知ってはならない。
街でお祭りがあったのは、それから少し先のこと。
屋台には握り寿司、天ぷら、うどん、団子、焼きもろこし、飴細工、甘酒などの食べ物系が出ており、他には金魚掬いに弓を使った射的、大道芸にひよこの販売、古着屋、道具屋、植木販売なんかも出ていた。
浅草あたりに行けば毎日がお祭りのように屋台がずらりだけど、うちの近所は武家屋敷も多く、通り沿いのお祭りでこうしてたくさん出店するのは年に数回だ。
私も杏寿郎さんも、新しい浴衣でおめかしして非番だった槇寿朗さんに連れられ、物珍しげに店を見て回った。
瑠火さんと千寿郎はあとから合流予定で、少ししたら槇寿朗さんが迎えに行くことになっている。
「父上!ひよこ!ひよこが売られています!!」
焼きもろこしと団子を二刀流のように手にして交互に食べながら、興奮気味にひよこの屋台を覗く杏寿郎さん。ひよこより杏寿郎さんがかわいい。
「ああひよこだな。だが飼わんぞ」
「でも父様、雌鶏は鶏卵を産みますね」
「飼わんぞ」
「誰も欲しいとは言ってませんよ?」
「そうだな」
槇寿朗さんは動物が苦手だもんね。鎹烏は平気だけどそれだって本当は触りたくないみたいだし。私は動物を飼いたい。わんちゃん猫ちゃん鶏さん牛さん大好き。虫と爬虫類以外ならどんとこい。
「朝緋。動物以外なら買うから、欲しいものがあったら遠慮せず言えよ」
「特にないです。あ、母様と千寿郎に飴細工のお土産だったら買って帰りたいなぁ」
買ってもらった甘酒をズズズと一飲みそう返すと、ため息を吐かれた。
「欲のない娘だなあ」
欲がなくて可愛げがないって言いたいのかも。すみませんね、私はもともと可愛げなんてもの持ち合わせてないんですよ。
杏寿郎さんが持っているどちらも食べ終わる頃、通り沿いでおかしな服を売る屋台を見つけた。
黒地にふりふりの白のレース、短めのスカート、白のエプロン、赤い胸元のリボン……は?メイド服?んんん?メイド服?おかえりなさいませご主人様の服?ここはメイドカフェか?
思わず立ち止まって二度見した。なんなら三度見くらいした。
……なしてここにメイド服?年代を考えると前田氏のご先祖、いやご家族の作品だよねこれ。幟にも前田呉服店って書いてあるし。
相変わらず、生まれる時代間違えてる人だね!?しかも、正統派の長いスカートで露出少ないタイプじゃなくて、絶対領域が作れそうな短いタイプだよこれ!……前田氏……貴方の家族全員そういう人達なのか。
私が立ち止まったことでクンと手を引かれたからか、同じように杏寿郎さんが立ち止まってしまった。
あ、やば。手を繋いでたんだった。
気がついた時には遅く、槇寿朗さんと同じように私が欲しがりそうなものを探していた杏寿郎さんによって、大きな声で知らされてしまった。
「む!父上!朝緋はこの変な着物が欲しいみたいです!!」
「えっ」
杏寿郎さん、私別に欲しくないんですけど!それもメイド服なんて!!やめてーー!!
「どれどれ、なんだこれは……ピラピラして珍しいレェス?だらけではないか。それに今着るものというよりもう少し歳を重ねてから着るにふさわしそうな大きさだぞ……だが娘の欲しがるもの!店主!これを買おう!!」
「まいどー」
「父様、要らない!私、服なんて要らないよぅ!間に合ってる!!」
「なんだ、ようやく朝緋が欲しがるものが見つかったと思ったのに要らないのか」
「似合うと思ったのに要らないのか」
うっ……!そんな二人揃ってしょもん、という効果音の出そうな顔しないで……!
「だ、だってこんなピラピラしたのは似合わないし、そもそももーちょいおっきくならないと着れないんでしょ!?」
「似合うから安心してくれ!
それに大きくならぬと着れない?なら尚更買っておいた方がいいのでは?その時の出会いでしか見つからないものもあろう。
父上!ぜひ購入しておきましょう!!俺はさまざまな衣装を着た朝緋が見たいです!!」
「そうだな!杏寿郎!!俺も色々な衣服に身を包む娘の姿が見たい!」
結託すなし。そうは言うけどこれメイド服ですからね。
結局、押し切られて買われてしまった。似合わないしあとで見た時後悔しても知らないよ。
少ない数だがこれから花火が上がる。
夕方になり、槇寿朗さんが家に瑠火さんと千寿郎を迎えに行き、二人で誰もいない寺の境内に座り待っていた時だ。
「っ……!」
「どうした朝緋」
肌が粟立つようなピリピリとした感覚が走り抜け、思わずすくっと立ち上がる。
鬼だ。
これは鬼が出た時の、邪悪な空気。誰かが襲われている気配はないけれど、槇寿朗さんがいない今、独特の鬼の気配に気がついたのは私だけだ。
もしかしたら杏寿郎さんにもわかるかも?でも、それは鬼と出会ったことがある場合。
この杏寿郎さんはまだ鬼と対峙したことはないのだから、私の行動を不思議がっても仕方ない。
「杏寿郎兄さんはここにいて」
「朝緋!?おい、待てっ」
静止も聞かず駆け出す。
ここにいてと言ったのに追ってくるけど、それを止める暇もない。もし少しでも遅れて、誰かが襲われていたらと思うと気が気じゃない。
私はもう、根っこの部分からどっぷりと鬼殺隊に染まっているのだ。
暗くなり出したそこには、男の子がうずくまって声を振るわせていた。
「ううう、う、ウゥ……、」
「……君、大丈夫?」
私より小さい男の子だ。『前回』の私が初めて相対した鬼の男の子にどこか似ている。
声はかけるけどでも、その気配はやはり鬼。それもこの様子、変わりたての鬼だ。
この鬼に逃げられぬよう、そして自分が喰われぬよう気をつけながら鬼殺隊士を待たねば、と思ったけれど、変わりたてならどんなに待ったところで鬼殺隊士が来るわけはない。
なら柱である槇寿朗さんを呼ぶ他な……。
その時、杏寿郎さんが私に追いついた。
「はぁ、はぁ、朝緋……君は足が速いな……ん?朝緋、その子はどうしたんだ?こんな暗い場所で迷ったのか?それとも君、具合でも悪いのか!」
「近づいちゃ駄目っ」
うずくまる鬼に近づきすぎる杏寿郎さんの手を引いて後ろに下がらせる。
そうだ、杏寿郎さんに槇寿朗さんを呼んできて貰えば……。
「杏寿郎兄さん!父様を呼んできて!!この子……鬼化したばかりの子だと思う!」
「な、鬼だと!危険だ!今の俺達には何もできない!逃げよう!!」
「鬼を放置するってこと?煉獄家たる私達が鬼を前に逃げるわけには……っ!?」
鬼化が終わった男の子が、とうとう私達の方へと向かって来た。唾液を撒き散らしながら口元の牙を剥き出し、振りかぶって来た鋭い爪。
それによって私と杏寿郎さんは分断されてしまった。私の方がより鬼から近く、狙いは私に絞られた。
「ガゥゥゥ……ッ」
「朝緋!」
「私は足が速い方だからなんとかなる!!行って!……早く呼んできて!!」
「わ、わかった!」
今一度心配そうにこちらを見て、それから杏寿郎さんは煉獄家の方へと急いで向かった。
よし、これで杏寿郎さんは安全だし、呼びに行ってくれたからそのうち槇寿朗さんも来てくれる。
それまでは鬼ごっこに興じるとしますか。
私達は毎日のように木刀を打ち合っている。鍛錬として打ち稽古する際、相手の目をしっかり見ることになるのだから聞こえなくなってきても当然。
そもそもが真剣勝負に恋の視線も何もない。
もちろん、あの音がしなくなろうと私は杏寿郎さんのことが大好きだよ。そこは変わらない。
……もしかしたら、私が気が付かないところで杏寿郎さんも私に恋愛感情を抱いてくれているかもしれない。なんて思う。
ただし聞くわけにいかないので知りようはない。
本当なら。本当ならば。貴方に抱きつきたい、抱きしめてもらいたい。貴方の気持ちを聞きたい。
だけど、駄目なんだ。この心は隠さなくちゃ。貴方の気持ちも知ってはならない。
街でお祭りがあったのは、それから少し先のこと。
屋台には握り寿司、天ぷら、うどん、団子、焼きもろこし、飴細工、甘酒などの食べ物系が出ており、他には金魚掬いに弓を使った射的、大道芸にひよこの販売、古着屋、道具屋、植木販売なんかも出ていた。
浅草あたりに行けば毎日がお祭りのように屋台がずらりだけど、うちの近所は武家屋敷も多く、通り沿いのお祭りでこうしてたくさん出店するのは年に数回だ。
私も杏寿郎さんも、新しい浴衣でおめかしして非番だった槇寿朗さんに連れられ、物珍しげに店を見て回った。
瑠火さんと千寿郎はあとから合流予定で、少ししたら槇寿朗さんが迎えに行くことになっている。
「父上!ひよこ!ひよこが売られています!!」
焼きもろこしと団子を二刀流のように手にして交互に食べながら、興奮気味にひよこの屋台を覗く杏寿郎さん。ひよこより杏寿郎さんがかわいい。
「ああひよこだな。だが飼わんぞ」
「でも父様、雌鶏は鶏卵を産みますね」
「飼わんぞ」
「誰も欲しいとは言ってませんよ?」
「そうだな」
槇寿朗さんは動物が苦手だもんね。鎹烏は平気だけどそれだって本当は触りたくないみたいだし。私は動物を飼いたい。わんちゃん猫ちゃん鶏さん牛さん大好き。虫と爬虫類以外ならどんとこい。
「朝緋。動物以外なら買うから、欲しいものがあったら遠慮せず言えよ」
「特にないです。あ、母様と千寿郎に飴細工のお土産だったら買って帰りたいなぁ」
買ってもらった甘酒をズズズと一飲みそう返すと、ため息を吐かれた。
「欲のない娘だなあ」
欲がなくて可愛げがないって言いたいのかも。すみませんね、私はもともと可愛げなんてもの持ち合わせてないんですよ。
杏寿郎さんが持っているどちらも食べ終わる頃、通り沿いでおかしな服を売る屋台を見つけた。
黒地にふりふりの白のレース、短めのスカート、白のエプロン、赤い胸元のリボン……は?メイド服?んんん?メイド服?おかえりなさいませご主人様の服?ここはメイドカフェか?
思わず立ち止まって二度見した。なんなら三度見くらいした。
……なしてここにメイド服?年代を考えると前田氏のご先祖、いやご家族の作品だよねこれ。幟にも前田呉服店って書いてあるし。
相変わらず、生まれる時代間違えてる人だね!?しかも、正統派の長いスカートで露出少ないタイプじゃなくて、絶対領域が作れそうな短いタイプだよこれ!……前田氏……貴方の家族全員そういう人達なのか。
私が立ち止まったことでクンと手を引かれたからか、同じように杏寿郎さんが立ち止まってしまった。
あ、やば。手を繋いでたんだった。
気がついた時には遅く、槇寿朗さんと同じように私が欲しがりそうなものを探していた杏寿郎さんによって、大きな声で知らされてしまった。
「む!父上!朝緋はこの変な着物が欲しいみたいです!!」
「えっ」
杏寿郎さん、私別に欲しくないんですけど!それもメイド服なんて!!やめてーー!!
「どれどれ、なんだこれは……ピラピラして珍しいレェス?だらけではないか。それに今着るものというよりもう少し歳を重ねてから着るにふさわしそうな大きさだぞ……だが娘の欲しがるもの!店主!これを買おう!!」
「まいどー」
「父様、要らない!私、服なんて要らないよぅ!間に合ってる!!」
「なんだ、ようやく朝緋が欲しがるものが見つかったと思ったのに要らないのか」
「似合うと思ったのに要らないのか」
うっ……!そんな二人揃ってしょもん、という効果音の出そうな顔しないで……!
「だ、だってこんなピラピラしたのは似合わないし、そもそももーちょいおっきくならないと着れないんでしょ!?」
「似合うから安心してくれ!
それに大きくならぬと着れない?なら尚更買っておいた方がいいのでは?その時の出会いでしか見つからないものもあろう。
父上!ぜひ購入しておきましょう!!俺はさまざまな衣装を着た朝緋が見たいです!!」
「そうだな!杏寿郎!!俺も色々な衣服に身を包む娘の姿が見たい!」
結託すなし。そうは言うけどこれメイド服ですからね。
結局、押し切られて買われてしまった。似合わないしあとで見た時後悔しても知らないよ。
少ない数だがこれから花火が上がる。
夕方になり、槇寿朗さんが家に瑠火さんと千寿郎を迎えに行き、二人で誰もいない寺の境内に座り待っていた時だ。
「っ……!」
「どうした朝緋」
肌が粟立つようなピリピリとした感覚が走り抜け、思わずすくっと立ち上がる。
鬼だ。
これは鬼が出た時の、邪悪な空気。誰かが襲われている気配はないけれど、槇寿朗さんがいない今、独特の鬼の気配に気がついたのは私だけだ。
もしかしたら杏寿郎さんにもわかるかも?でも、それは鬼と出会ったことがある場合。
この杏寿郎さんはまだ鬼と対峙したことはないのだから、私の行動を不思議がっても仕方ない。
「杏寿郎兄さんはここにいて」
「朝緋!?おい、待てっ」
静止も聞かず駆け出す。
ここにいてと言ったのに追ってくるけど、それを止める暇もない。もし少しでも遅れて、誰かが襲われていたらと思うと気が気じゃない。
私はもう、根っこの部分からどっぷりと鬼殺隊に染まっているのだ。
暗くなり出したそこには、男の子がうずくまって声を振るわせていた。
「ううう、う、ウゥ……、」
「……君、大丈夫?」
私より小さい男の子だ。『前回』の私が初めて相対した鬼の男の子にどこか似ている。
声はかけるけどでも、その気配はやはり鬼。それもこの様子、変わりたての鬼だ。
この鬼に逃げられぬよう、そして自分が喰われぬよう気をつけながら鬼殺隊士を待たねば、と思ったけれど、変わりたてならどんなに待ったところで鬼殺隊士が来るわけはない。
なら柱である槇寿朗さんを呼ぶ他な……。
その時、杏寿郎さんが私に追いついた。
「はぁ、はぁ、朝緋……君は足が速いな……ん?朝緋、その子はどうしたんだ?こんな暗い場所で迷ったのか?それとも君、具合でも悪いのか!」
「近づいちゃ駄目っ」
うずくまる鬼に近づきすぎる杏寿郎さんの手を引いて後ろに下がらせる。
そうだ、杏寿郎さんに槇寿朗さんを呼んできて貰えば……。
「杏寿郎兄さん!父様を呼んできて!!この子……鬼化したばかりの子だと思う!」
「な、鬼だと!危険だ!今の俺達には何もできない!逃げよう!!」
「鬼を放置するってこと?煉獄家たる私達が鬼を前に逃げるわけには……っ!?」
鬼化が終わった男の子が、とうとう私達の方へと向かって来た。唾液を撒き散らしながら口元の牙を剥き出し、振りかぶって来た鋭い爪。
それによって私と杏寿郎さんは分断されてしまった。私の方がより鬼から近く、狙いは私に絞られた。
「ガゥゥゥ……ッ」
「朝緋!」
「私は足が速い方だからなんとかなる!!行って!……早く呼んできて!!」
「わ、わかった!」
今一度心配そうにこちらを見て、それから杏寿郎さんは煉獄家の方へと急いで向かった。
よし、これで杏寿郎さんは安全だし、呼びに行ってくれたからそのうち槇寿朗さんも来てくれる。
それまでは鬼ごっこに興じるとしますか。