四周目 捌
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千寿郎も私が貰い子であるということは知っていたものの、その出生については一つも知らなかった。知る必要がないほどに、私達は仲の良い兄姉弟だったから。……過去形つらい。
「この鬼……明槻は私の双子の兄でね。私だけ人として助かって、明槻だけが鬼になって助かったのよ」
「ちーっす、昨日ぶり。鬼の明槻でーす」
改めての挨拶が軽い。
「……お顔ひとつも似てませんね」
「そういえばそうだね。明槻はこの大正と令和でも結構顔違うし」
「朝緋はカラーリング以外、今も前もほぼ一緒で瑠火さんにも似てるよな。えっつまり朝緋って美人な部類に入るのか!?ひくわー」
「なんでひくのよ」
思い切り叩いた。鬼の頭は固くて痛い。けれど私の拳よりも超強力な口撃が、千寿郎によって放たれた。
「姉上は可愛くて美人で気立も良くて明るくて剣術は強くて凛としてかっこよくて料理もお上手で僕の理想の女性ですよ失礼なことは言わないでください」
曇りなき眼で言われ、明槻が違う意味でひいている。
「あ、うん。千寿郎君は朝緋のモンペなわけだ」
「ごめん、そのようで……。
こほん。千寿郎、明槻はね、鬼殺隊には内緒の存在なんだけど、禰󠄀豆子ちゃんとは違うちょっと特殊な鬼なの。人を食べないで代わりにえっと……」
「虫とか害獣食べてる」
「うわ気持ち悪いですね」
「千寿郎、素直が故のどストレートすぎる発言だな。言葉の日輪刀が鋭い」
他愛のない話も時折交えながら会話する三人。
血はつながらないけど可愛い私の弟である千寿郎。
双子の兄であり鬼であり同じ時代出身でこの世界のことを外側から知っている明槻。
その性格と言葉のせいか、杏寿郎さんと千寿郎のような兄弟とは違う、変な関係がそこには出来上がっている。千寿郎の鋭い言葉が刺さり、どちらが上かわからない状態。
……こんな光景が見られるだなんて、なんだか不思議な気分だ。
ここに杏寿郎さんがいたらなぁ。あ、いや、いたら困るかも。嫉妬だけで頸斬り落としそう。
夕暮れ時の虫の音が聞こえだす頃、私は千寿郎に先に帰るよう促した。
まだ私は、明槻に用事がある。この先は千寿郎に聞かせるような楽しいものでもないはず。
明槻もまた、私に用事がある。戻すという用事が。
幼な子のように抱きついて、不安げに私を見上げてくる千寿郎。その頭を優しく撫で、そして抱きしめ返す。
「姉上、ちゃんと戻ってきますよね?」
「大丈夫、ちゃんと『戻る』よ。だから心配しないで?もうじき暗くなっちゃう。千寿郎は早くおかえり」
千寿郎は何度も私を振り返りながら、生家・煉獄家へと帰っていった。
見えなくなるまで手を振りながら、隣の明槻に話しかける。
「……ね。聞きたいことが幾つかあるんだけど」
「うん。なんだ」
「私は『今回』杏寿郎さんを鬼にしてしまった。その結果、槇寿朗さんまでも死なせてしまった」
思い出すだけで涙がまた出そうになる。グッと堪えて続ける。
「そうだな。鬼になっても人を襲わなければ違ったんだろうけど、駄目だったみたいだな。
知った時は驚いたよ。お前が死んだ『前回』以上にな。最悪のエンディングじゃねぇかって」
「バッドエンドは嫌いよ……」
物語も人生も、いつだってハッピーエンドがいい。
「『今回』ね、先に下弦の壱を探したの。
無限列車の任務が発令されるその前に、杏寿郎さんが参戦することになるその前に、下弦の壱を仕留めようと思って」
「無限列車の任務を消す?それはやめたほうがいい。バタフライエフェクトが起きる。
少しは『あの原作』に沿って勧めなくてはならない。違う場所で猗窩座がでたら乗客二百の命が〜どころじゃない、町ひとつ壊滅される。死人が出たらどうする。鬼殺隊が壊滅するような何か他のことが起きたら?もっと柱が死ぬかもしれない」
バタフライエフェクト。蝶の羽ばたきのような小さな動きをきっかけに、巨大な嵐を引き起こすほどの大きな出来事へ繋がってしまうという意味の言葉。
もしもあの場面でこうしていたら、こちらは助かる。けどもう一方は助からない。など、想像の通りに進まず重大な事故を招いてしまう可能性のある恐ろしいもの。
今回なんてその最たる例だ。
「そっ……かぁ……そうだよね……。つまり無限列車の任務は必要なのね」
「そもそもアレがきっかけで、主人公である炭治郎達は成長した。あの時点で炭治郎達は弱い。その弱さを自分自身で乗り越えるきっかけが、煉獄杏寿郎死する無限列車編というわけだ。
俺もお前も絶対に認めることはできないが、煉獄さんは必要不可欠な犠牲だったんだよ」
杏寿郎さんの死が、重要な意味を持つことはなんとなく理解していた。けど、必要不可欠な犠牲だなんて、やはり許せない。
ふざけるな、ふざけるな!!
「ッ、そんなの絶対に認めないに決まってるでしょ!!他の場面で、炭治郎達には自分の弱さを実感させればいい!私が根性ごと叩き直してやる!!自分自身も、杏寿郎さんも、炭治郎達ももっと強くする!!」
明槻の胸ぐらに掴み掛かる勢いで詰め寄るも、冷静にその腕は外され、静かに言われた。
「朝緋には無理だ。あれは煉獄さんの言葉があったからこそ。柱という絶対的に強者の死があったからこそ身に染みた。『最終決戦』で煉獄さんの心を燃やせって言葉が後押しをしたくらいだぞ」
「それでも!それでも杏寿郎さんが死ぬ運命は駄目!絶対に嫌!」
「ああ、その通りだ。だから何度もやり直してるんだろうが。朝緋の気持ちはわかってるよ。朝緋の好い人だもんな。愛っていいよなぁ……。
まあ別に、下弦の壱を討伐すんのは誰でもいいし、お前が先に討伐した……ええと、切り裂き魔の鬼はいつ倒してもいい。要は無限列車に乗ればそれでいいと思う」
「適当だなあ……」
無限列車任務を起こし、列車に乗る。つまり結局は四十名は犠牲になるんじゃないのさ。
「でもさ、一般人に私たちの夢に入らせたりなんかして、下弦の壱って何しようとしてたの?よくは知らないんだよね。良い夢見せてくるくせに精神を破壊って聞いてるけどどうやって?
一般人必要なくない?良い夢を見せてる間にフツーに食べちゃえばいいじゃない」
「今更ーー!?今更それ聞いてくるのかよ!」
「はぁ?こっちは戦闘や任務に集中してる最中なんで、そんなことまで鬼に聞けないしわかるわけないでしょ」
やれやれ、と呟けばため息を吐き出しながら明槻が教えてくれた。下弦の壱魘夢本人よりわかりやすい魘夢の血鬼術講座。
私達の夢には外側があり、夢の侵入者が外側の壁を持っていた錐で傷つけて穴を開け、そこに広がる精神のお部屋に行く。宙にぷかぷか浮かんでいるまあるい核をプッツン!玉羊羹刺す感覚で壊すのがミッションだそうだ。玉羊羹食べたい。
破壊されると廃人になるらしい。
夢からも逃れられなった私達は、幸せな夢の中で永遠に揺蕩いながら、鬼に喰われて終わるのだろう。少しだけ、いいななんて思ったのは内緒。
「切符を偽造する方法を思いついたってんなら大丈夫だろうけど、夢に侵入されないよう気をつけろよ。侵入されても破壊されるな。お前は稀血。魘夢に喰われるのだけは回避しろ。
あの鬼を強化するのはまずい。性格的に猗窩座よりまずい」
「は?猗窩座よりまずいなんてあるわけない猗窩座なんか嫌いだ憎い憎い早く頸斬りたい頸落としたい頸オイテケ殺したい許さない呪う」
猗窩座の話が出た瞬間、目が澱み始め、口から呪いの言葉がまろび出る。
「こわっ!?
あのさあ……気持ちはわかるし俺も煉獄さんのことのほうが好きだけどよ、猗窩座をあんまり嫌わないでやってくれな?」
「アァ゛!?」
「だから怖いって!あいつも悪い奴じゃないんだよ……鬼になったきっかけの話が、」
「うそつけ!!杏寿郎さんを何度も傷つけといて、殺しておいて、上弦の参にまでのし上がっておいて悪い奴じゃない!?上弦の鬼になるまでに何人の人間を食べたと!?何十人?何百人?明槻貴方何言ってるの?気持ちまで鬼に引っ張られたわけ?猗窩座だけは許さない……!『今回』は頭を下げちゃったけど、次は仕留める!絶対に殺す!!
…………で、なんだっけ?もう一度言ってくれるかな?」
「はあ……もういいわ。憎しみに我を忘れてその炎で身を焼き過ぎないようにな」
にっこり笑えば、くるりと後ろを向いて壁に手をつく明槻に言われて終わった。私何か変なこと言った?
「そういえば明槻に紅葉マークあるのはお年寄りの証なの?」
「今大正時代だぞ、紅葉マークはさすがにないわ。俺年寄りとも違うぞ。本体はかわいいお子ちゃまだぞ。大体なんのことだ」
「うなじにある模様だよ」
明槻のうなじには鮮やかな紅葉の文様が浮かんでいる。この時代の出身地である神社に関係していそうだけど……でも幼少期にはなかったことを私は知っている。
「あ、よく見たら七枚の葉の三枚が、枯れたみたいに黒くなってる。そういえば『前』に再会した時は一枚が黒かったよね?」
「七枚の紅葉……、その内三枚が黒で、お前との再会時に一枚が黒く?
………………戻りの残機……、」
「最後、何か言った?」
「いいや何も」
硬い表情で考え込む明槻を前に、紅葉マークについてはそれ以上何も聞けなかった。
「あ、それとな。炭治郎に会ったら任務について聞いておけ。炭治郎がそれまでどんな任務してきたか、何がつらかったか。『物語』だけでは語られなかった鬼との相対がそこにあるかもしれん。改善点を見つけ導いてやれ。炭治郎を強くしたいなら、そこからヒントを得るのが良い。お前もアドバイスしやすいはずだ」
「わかった」
自分も鍛えなくちゃならない。けれど主人公……炭治郎も鍛えないとならない。杏寿郎さんを今度こそ救うためだもん。頑張らなくちゃ。……またこんな結果になってしまったら?そう思うととっても怖くて泣きそうだけど。
「もう『戻して』もいいな?」
「……うん。千寿郎には一言挨拶したかったけど」
「大丈夫、また会える。あっちでまた抱きしめてやりゃいい。全てお前の頑張りひとつだ。
今度こそ全員で笑い合える未来を。朝緋が望む温かな炎の未来を掴め」
グッドラック、またも放たれたその言葉と共に血鬼術が発動した。
「この鬼……明槻は私の双子の兄でね。私だけ人として助かって、明槻だけが鬼になって助かったのよ」
「ちーっす、昨日ぶり。鬼の明槻でーす」
改めての挨拶が軽い。
「……お顔ひとつも似てませんね」
「そういえばそうだね。明槻はこの大正と令和でも結構顔違うし」
「朝緋はカラーリング以外、今も前もほぼ一緒で瑠火さんにも似てるよな。えっつまり朝緋って美人な部類に入るのか!?ひくわー」
「なんでひくのよ」
思い切り叩いた。鬼の頭は固くて痛い。けれど私の拳よりも超強力な口撃が、千寿郎によって放たれた。
「姉上は可愛くて美人で気立も良くて明るくて剣術は強くて凛としてかっこよくて料理もお上手で僕の理想の女性ですよ失礼なことは言わないでください」
曇りなき眼で言われ、明槻が違う意味でひいている。
「あ、うん。千寿郎君は朝緋のモンペなわけだ」
「ごめん、そのようで……。
こほん。千寿郎、明槻はね、鬼殺隊には内緒の存在なんだけど、禰󠄀豆子ちゃんとは違うちょっと特殊な鬼なの。人を食べないで代わりにえっと……」
「虫とか害獣食べてる」
「うわ気持ち悪いですね」
「千寿郎、素直が故のどストレートすぎる発言だな。言葉の日輪刀が鋭い」
他愛のない話も時折交えながら会話する三人。
血はつながらないけど可愛い私の弟である千寿郎。
双子の兄であり鬼であり同じ時代出身でこの世界のことを外側から知っている明槻。
その性格と言葉のせいか、杏寿郎さんと千寿郎のような兄弟とは違う、変な関係がそこには出来上がっている。千寿郎の鋭い言葉が刺さり、どちらが上かわからない状態。
……こんな光景が見られるだなんて、なんだか不思議な気分だ。
ここに杏寿郎さんがいたらなぁ。あ、いや、いたら困るかも。嫉妬だけで頸斬り落としそう。
夕暮れ時の虫の音が聞こえだす頃、私は千寿郎に先に帰るよう促した。
まだ私は、明槻に用事がある。この先は千寿郎に聞かせるような楽しいものでもないはず。
明槻もまた、私に用事がある。戻すという用事が。
幼な子のように抱きついて、不安げに私を見上げてくる千寿郎。その頭を優しく撫で、そして抱きしめ返す。
「姉上、ちゃんと戻ってきますよね?」
「大丈夫、ちゃんと『戻る』よ。だから心配しないで?もうじき暗くなっちゃう。千寿郎は早くおかえり」
千寿郎は何度も私を振り返りながら、生家・煉獄家へと帰っていった。
見えなくなるまで手を振りながら、隣の明槻に話しかける。
「……ね。聞きたいことが幾つかあるんだけど」
「うん。なんだ」
「私は『今回』杏寿郎さんを鬼にしてしまった。その結果、槇寿朗さんまでも死なせてしまった」
思い出すだけで涙がまた出そうになる。グッと堪えて続ける。
「そうだな。鬼になっても人を襲わなければ違ったんだろうけど、駄目だったみたいだな。
知った時は驚いたよ。お前が死んだ『前回』以上にな。最悪のエンディングじゃねぇかって」
「バッドエンドは嫌いよ……」
物語も人生も、いつだってハッピーエンドがいい。
「『今回』ね、先に下弦の壱を探したの。
無限列車の任務が発令されるその前に、杏寿郎さんが参戦することになるその前に、下弦の壱を仕留めようと思って」
「無限列車の任務を消す?それはやめたほうがいい。バタフライエフェクトが起きる。
少しは『あの原作』に沿って勧めなくてはならない。違う場所で猗窩座がでたら乗客二百の命が〜どころじゃない、町ひとつ壊滅される。死人が出たらどうする。鬼殺隊が壊滅するような何か他のことが起きたら?もっと柱が死ぬかもしれない」
バタフライエフェクト。蝶の羽ばたきのような小さな動きをきっかけに、巨大な嵐を引き起こすほどの大きな出来事へ繋がってしまうという意味の言葉。
もしもあの場面でこうしていたら、こちらは助かる。けどもう一方は助からない。など、想像の通りに進まず重大な事故を招いてしまう可能性のある恐ろしいもの。
今回なんてその最たる例だ。
「そっ……かぁ……そうだよね……。つまり無限列車の任務は必要なのね」
「そもそもアレがきっかけで、主人公である炭治郎達は成長した。あの時点で炭治郎達は弱い。その弱さを自分自身で乗り越えるきっかけが、煉獄杏寿郎死する無限列車編というわけだ。
俺もお前も絶対に認めることはできないが、煉獄さんは必要不可欠な犠牲だったんだよ」
杏寿郎さんの死が、重要な意味を持つことはなんとなく理解していた。けど、必要不可欠な犠牲だなんて、やはり許せない。
ふざけるな、ふざけるな!!
「ッ、そんなの絶対に認めないに決まってるでしょ!!他の場面で、炭治郎達には自分の弱さを実感させればいい!私が根性ごと叩き直してやる!!自分自身も、杏寿郎さんも、炭治郎達ももっと強くする!!」
明槻の胸ぐらに掴み掛かる勢いで詰め寄るも、冷静にその腕は外され、静かに言われた。
「朝緋には無理だ。あれは煉獄さんの言葉があったからこそ。柱という絶対的に強者の死があったからこそ身に染みた。『最終決戦』で煉獄さんの心を燃やせって言葉が後押しをしたくらいだぞ」
「それでも!それでも杏寿郎さんが死ぬ運命は駄目!絶対に嫌!」
「ああ、その通りだ。だから何度もやり直してるんだろうが。朝緋の気持ちはわかってるよ。朝緋の好い人だもんな。愛っていいよなぁ……。
まあ別に、下弦の壱を討伐すんのは誰でもいいし、お前が先に討伐した……ええと、切り裂き魔の鬼はいつ倒してもいい。要は無限列車に乗ればそれでいいと思う」
「適当だなあ……」
無限列車任務を起こし、列車に乗る。つまり結局は四十名は犠牲になるんじゃないのさ。
「でもさ、一般人に私たちの夢に入らせたりなんかして、下弦の壱って何しようとしてたの?よくは知らないんだよね。良い夢見せてくるくせに精神を破壊って聞いてるけどどうやって?
一般人必要なくない?良い夢を見せてる間にフツーに食べちゃえばいいじゃない」
「今更ーー!?今更それ聞いてくるのかよ!」
「はぁ?こっちは戦闘や任務に集中してる最中なんで、そんなことまで鬼に聞けないしわかるわけないでしょ」
やれやれ、と呟けばため息を吐き出しながら明槻が教えてくれた。下弦の壱魘夢本人よりわかりやすい魘夢の血鬼術講座。
私達の夢には外側があり、夢の侵入者が外側の壁を持っていた錐で傷つけて穴を開け、そこに広がる精神のお部屋に行く。宙にぷかぷか浮かんでいるまあるい核をプッツン!玉羊羹刺す感覚で壊すのがミッションだそうだ。玉羊羹食べたい。
破壊されると廃人になるらしい。
夢からも逃れられなった私達は、幸せな夢の中で永遠に揺蕩いながら、鬼に喰われて終わるのだろう。少しだけ、いいななんて思ったのは内緒。
「切符を偽造する方法を思いついたってんなら大丈夫だろうけど、夢に侵入されないよう気をつけろよ。侵入されても破壊されるな。お前は稀血。魘夢に喰われるのだけは回避しろ。
あの鬼を強化するのはまずい。性格的に猗窩座よりまずい」
「は?猗窩座よりまずいなんてあるわけない猗窩座なんか嫌いだ憎い憎い早く頸斬りたい頸落としたい頸オイテケ殺したい許さない呪う」
猗窩座の話が出た瞬間、目が澱み始め、口から呪いの言葉がまろび出る。
「こわっ!?
あのさあ……気持ちはわかるし俺も煉獄さんのことのほうが好きだけどよ、猗窩座をあんまり嫌わないでやってくれな?」
「アァ゛!?」
「だから怖いって!あいつも悪い奴じゃないんだよ……鬼になったきっかけの話が、」
「うそつけ!!杏寿郎さんを何度も傷つけといて、殺しておいて、上弦の参にまでのし上がっておいて悪い奴じゃない!?上弦の鬼になるまでに何人の人間を食べたと!?何十人?何百人?明槻貴方何言ってるの?気持ちまで鬼に引っ張られたわけ?猗窩座だけは許さない……!『今回』は頭を下げちゃったけど、次は仕留める!絶対に殺す!!
…………で、なんだっけ?もう一度言ってくれるかな?」
「はあ……もういいわ。憎しみに我を忘れてその炎で身を焼き過ぎないようにな」
にっこり笑えば、くるりと後ろを向いて壁に手をつく明槻に言われて終わった。私何か変なこと言った?
「そういえば明槻に紅葉マークあるのはお年寄りの証なの?」
「今大正時代だぞ、紅葉マークはさすがにないわ。俺年寄りとも違うぞ。本体はかわいいお子ちゃまだぞ。大体なんのことだ」
「うなじにある模様だよ」
明槻のうなじには鮮やかな紅葉の文様が浮かんでいる。この時代の出身地である神社に関係していそうだけど……でも幼少期にはなかったことを私は知っている。
「あ、よく見たら七枚の葉の三枚が、枯れたみたいに黒くなってる。そういえば『前』に再会した時は一枚が黒かったよね?」
「七枚の紅葉……、その内三枚が黒で、お前との再会時に一枚が黒く?
………………戻りの残機……、」
「最後、何か言った?」
「いいや何も」
硬い表情で考え込む明槻を前に、紅葉マークについてはそれ以上何も聞けなかった。
「あ、それとな。炭治郎に会ったら任務について聞いておけ。炭治郎がそれまでどんな任務してきたか、何がつらかったか。『物語』だけでは語られなかった鬼との相対がそこにあるかもしれん。改善点を見つけ導いてやれ。炭治郎を強くしたいなら、そこからヒントを得るのが良い。お前もアドバイスしやすいはずだ」
「わかった」
自分も鍛えなくちゃならない。けれど主人公……炭治郎も鍛えないとならない。杏寿郎さんを今度こそ救うためだもん。頑張らなくちゃ。……またこんな結果になってしまったら?そう思うととっても怖くて泣きそうだけど。
「もう『戻して』もいいな?」
「……うん。千寿郎には一言挨拶したかったけど」
「大丈夫、また会える。あっちでまた抱きしめてやりゃいい。全てお前の頑張りひとつだ。
今度こそ全員で笑い合える未来を。朝緋が望む温かな炎の未来を掴め」
グッドラック、またも放たれたその言葉と共に血鬼術が発動した。