四周目 捌
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全身の水分が全て抜けてしまいそうなほど泣き続けた。
なのに涙は枯れず。涙で揺らぐ視界の中、そのまま朝を迎えた。
朝の日差しに照らされた槇寿朗さんの倒れる姿。その顔にも、杏寿郎さんが最期に見せたものと同じような、穏やかなものが乗っている。
しばらくして、足音が聞こえてきて。
千寿郎が帰ってきたと知る。でも、その時の私には千寿郎に声をかける余裕も何もなく。
庭にいた私を見つけ、挨拶をしてきた千寿郎が、私の更に先に広がる赤、その中心に倒れる人に気づく。
「おはようございます姉上。ただいま戻り……、ち、父上っ!!
うわあああああ!!父上!父上!!父上、腹を切って、……、父上!父上!?
死……!?あああああああ父上ぇぇぇぇ……!!なぜ?なぜ、父上が亡くなっているのですか!?」
血溜まりの中倒れる槇寿朗さんに駆け寄る。その冷たい体を前に、既に亡くなっていることを知り、今度は私に縋りつき、泣きながら肩を揺らしてくる。
「姉上!!一体何があったのです!!ねえ姉上っ!!」
俯いたままで返事は望めぬと悟ったのだろう、その目が周りに向けられた。
「……兄上は、兄上は……?
兄上ーっ!!どこですか!兄上ーーっ!!」
駆け出し、杏寿郎さんを探しに走る千寿郎。けれど、どこを探しても、見つからない。当然だ、だってもう杏寿郎さんは。
「はあ、はあ、一向にお姿が見えません……暗がりにも、北側のお部屋にも、さつま穴の中にも、蔵も……兄上が、どこにもいません……ねぇ、姉上……、」
いい加減伝えなきゃ、この事実を弟に。本当は言いたくないその事実。認めてしまうのが怖くてたまらない。
カラカラに乾いた唇が、ようやく開く。ひどく億劫でだるくなった声帯がやっと動いた。
「杏寿郎さんはもうこの世のどこにもいない。父様が杏寿郎さんの頸を日輪刀で斬ったの」
自分でもびっくりするくらい、小さくてか細く、低い声だった。
「頸!?日輪刀でって、つまり……、兄上が、死んだ……?そんな……父上だけでなく、兄上が……、どうして……。
なぜですか!なぜそんなことに!!」
「……人を襲う悪鬼になってしまったからよ。杏寿郎さんはただ、私をちょっと傷つけただけだったのに。
父様は息子が悪鬼に変わってしまった責任を取って、切腹してしまった。どちらも私には止めることができなかった……ごめんなさい」
謝ることしかできない。更に地に頭をつけ、俯く私。
「ちょっとって、…………、姉上っ!?すごい怪我ですよ!急いで治療をしなくては!
待っててください、お医者様を呼んできま、…その前に応急処置を!!包帯を持ってきますから!!」
死した親より生きている私。判断力の早く、鬼殺隊士の親兄弟を持ち怪我になれた弟が、家の中へ走っていく。
その姿をちらと目で追うと、視界の端に私の日輪刀が見えた。槇寿朗さんが杏寿郎さんの頸を刎ねた、私の炎が。
「まさか、私の日輪刀で杏寿郎さんが命を落とすだなんて、ね」
体が痛い。血も足りない。動悸と眩暈がひどい。動きが鈍い。歩くことも億劫で、ずるずると這うようにして日輪刀の元へ向かう。
抜いたそれは、杏寿郎さんを斬った事実なんてなかったのでは?と思わせるくらい鋭利で、綺麗で。赫と蒼の炎が、太陽の下でキラキラ輝いていた。
これで斬れば、貴方と同じところに行けるかなあ。きっと行けない。
私は地獄に落ちる。でもこの世の方が私にはもう、地獄そのもの。
貴方のいない世で生きるよりは、地獄に堕ちる方がマシだ。
自分の首に向かって、日輪刀の刃を当てる。
これをちょっと引けば、それで終わり。
怖くはない。早く死にたい。
千寿郎、ごめんね……。
けれどその瞬間、他でもない千寿郎が刀の動きを止めた。
「何をしているんですか!やめてください!姉上!!」
「千、寿朗……、私、楽になりたいの……お願い、死なせて……」
取り上げられる日輪刀。いつもならすぐ奪い返せるそれも、力の出ない今は取り返せず。
遠くに片されて、そちらに行けないよう押さえつけられてしまった。
貧血もあるけど大半は怪我のせいだ。回復の呼吸も間に合わないほど、あちこち抉られて動きの悪いこの体。
この程度の怪我如きで情けない、私……階級甲の鬼殺隊士なのに。
「姉上まで死んでしまったら、僕はどうしたらいいのですか……!?どこにも行かないって、約束したじゃないですか!!」
「でも、でも……!私の生きる意味はもうなくなった!!お願いだから死なせてよ……」
槇寿朗さんには貴方を頼まれたけど、千寿郎は私なんていなくても生きていける強さを持っている。父の死を前にしても、私という怪我人の対処を先にと、冷静な判断ができたのが何よりの証拠。
そして私は、死という救済が欲しい。死にたい。
「父上や兄上はそれを望みますか?貴女の死を望みますか?僕は望みません」
「望まない……でしょうね。
杏寿郎さんにも、生きることが私への咎と言われた。俺を想って生きていけと言われた。
でもそんな口約束なんて関係ない。貴方が、千寿郎が死んでいいと言ってくれさえすれば私はこの頸を斬って、今すぐにでも楽になれる……」
私の目が、槇寿朗さんの日輪刀、そして部屋に置かれたもう一本の日輪刀へと向かう。
今の千寿郎はそれを見逃さなかった。
「駄目です!死んでいいだなんて、僕は絶対に言わない!!
鎹烏さん!お願いします!持っていってください!!」
鎹烏の要、あずま、そして普段家にはいないはずの、槇寿朗さんの鎹烏までもが飛んできて、家にあるすべての日輪刀を掴んで飛んで行ってしまった。
私が地獄に行くための片道切符は、日輪刀でないと駄目なのに。
「ああっ、返して……!!返しなさい!!
千寿郎の、馬鹿ぁ……っ、なんでよ、なんで死なせてくれないのよ……ひどい、ひどいよ……生きていたくないよぉ…………」
「いいえ姉上、どんなに酷いと言われてもいい。貴女には生きてもらいます。死なせない。それが、父上と兄上の総意でもあるのですから」
千寿郎に縋りついていたけどその力は失われ、ずるずると地に倒れていく。
涙を流し続けた疲れと、怪我のせいか、私はそのまま眠るように気を失ってしまった。
なのに涙は枯れず。涙で揺らぐ視界の中、そのまま朝を迎えた。
朝の日差しに照らされた槇寿朗さんの倒れる姿。その顔にも、杏寿郎さんが最期に見せたものと同じような、穏やかなものが乗っている。
しばらくして、足音が聞こえてきて。
千寿郎が帰ってきたと知る。でも、その時の私には千寿郎に声をかける余裕も何もなく。
庭にいた私を見つけ、挨拶をしてきた千寿郎が、私の更に先に広がる赤、その中心に倒れる人に気づく。
「おはようございます姉上。ただいま戻り……、ち、父上っ!!
うわあああああ!!父上!父上!!父上、腹を切って、……、父上!父上!?
死……!?あああああああ父上ぇぇぇぇ……!!なぜ?なぜ、父上が亡くなっているのですか!?」
血溜まりの中倒れる槇寿朗さんに駆け寄る。その冷たい体を前に、既に亡くなっていることを知り、今度は私に縋りつき、泣きながら肩を揺らしてくる。
「姉上!!一体何があったのです!!ねえ姉上っ!!」
俯いたままで返事は望めぬと悟ったのだろう、その目が周りに向けられた。
「……兄上は、兄上は……?
兄上ーっ!!どこですか!兄上ーーっ!!」
駆け出し、杏寿郎さんを探しに走る千寿郎。けれど、どこを探しても、見つからない。当然だ、だってもう杏寿郎さんは。
「はあ、はあ、一向にお姿が見えません……暗がりにも、北側のお部屋にも、さつま穴の中にも、蔵も……兄上が、どこにもいません……ねぇ、姉上……、」
いい加減伝えなきゃ、この事実を弟に。本当は言いたくないその事実。認めてしまうのが怖くてたまらない。
カラカラに乾いた唇が、ようやく開く。ひどく億劫でだるくなった声帯がやっと動いた。
「杏寿郎さんはもうこの世のどこにもいない。父様が杏寿郎さんの頸を日輪刀で斬ったの」
自分でもびっくりするくらい、小さくてか細く、低い声だった。
「頸!?日輪刀でって、つまり……、兄上が、死んだ……?そんな……父上だけでなく、兄上が……、どうして……。
なぜですか!なぜそんなことに!!」
「……人を襲う悪鬼になってしまったからよ。杏寿郎さんはただ、私をちょっと傷つけただけだったのに。
父様は息子が悪鬼に変わってしまった責任を取って、切腹してしまった。どちらも私には止めることができなかった……ごめんなさい」
謝ることしかできない。更に地に頭をつけ、俯く私。
「ちょっとって、…………、姉上っ!?すごい怪我ですよ!急いで治療をしなくては!
待っててください、お医者様を呼んできま、…その前に応急処置を!!包帯を持ってきますから!!」
死した親より生きている私。判断力の早く、鬼殺隊士の親兄弟を持ち怪我になれた弟が、家の中へ走っていく。
その姿をちらと目で追うと、視界の端に私の日輪刀が見えた。槇寿朗さんが杏寿郎さんの頸を刎ねた、私の炎が。
「まさか、私の日輪刀で杏寿郎さんが命を落とすだなんて、ね」
体が痛い。血も足りない。動悸と眩暈がひどい。動きが鈍い。歩くことも億劫で、ずるずると這うようにして日輪刀の元へ向かう。
抜いたそれは、杏寿郎さんを斬った事実なんてなかったのでは?と思わせるくらい鋭利で、綺麗で。赫と蒼の炎が、太陽の下でキラキラ輝いていた。
これで斬れば、貴方と同じところに行けるかなあ。きっと行けない。
私は地獄に落ちる。でもこの世の方が私にはもう、地獄そのもの。
貴方のいない世で生きるよりは、地獄に堕ちる方がマシだ。
自分の首に向かって、日輪刀の刃を当てる。
これをちょっと引けば、それで終わり。
怖くはない。早く死にたい。
千寿郎、ごめんね……。
けれどその瞬間、他でもない千寿郎が刀の動きを止めた。
「何をしているんですか!やめてください!姉上!!」
「千、寿朗……、私、楽になりたいの……お願い、死なせて……」
取り上げられる日輪刀。いつもならすぐ奪い返せるそれも、力の出ない今は取り返せず。
遠くに片されて、そちらに行けないよう押さえつけられてしまった。
貧血もあるけど大半は怪我のせいだ。回復の呼吸も間に合わないほど、あちこち抉られて動きの悪いこの体。
この程度の怪我如きで情けない、私……階級甲の鬼殺隊士なのに。
「姉上まで死んでしまったら、僕はどうしたらいいのですか……!?どこにも行かないって、約束したじゃないですか!!」
「でも、でも……!私の生きる意味はもうなくなった!!お願いだから死なせてよ……」
槇寿朗さんには貴方を頼まれたけど、千寿郎は私なんていなくても生きていける強さを持っている。父の死を前にしても、私という怪我人の対処を先にと、冷静な判断ができたのが何よりの証拠。
そして私は、死という救済が欲しい。死にたい。
「父上や兄上はそれを望みますか?貴女の死を望みますか?僕は望みません」
「望まない……でしょうね。
杏寿郎さんにも、生きることが私への咎と言われた。俺を想って生きていけと言われた。
でもそんな口約束なんて関係ない。貴方が、千寿郎が死んでいいと言ってくれさえすれば私はこの頸を斬って、今すぐにでも楽になれる……」
私の目が、槇寿朗さんの日輪刀、そして部屋に置かれたもう一本の日輪刀へと向かう。
今の千寿郎はそれを見逃さなかった。
「駄目です!死んでいいだなんて、僕は絶対に言わない!!
鎹烏さん!お願いします!持っていってください!!」
鎹烏の要、あずま、そして普段家にはいないはずの、槇寿朗さんの鎹烏までもが飛んできて、家にあるすべての日輪刀を掴んで飛んで行ってしまった。
私が地獄に行くための片道切符は、日輪刀でないと駄目なのに。
「ああっ、返して……!!返しなさい!!
千寿郎の、馬鹿ぁ……っ、なんでよ、なんで死なせてくれないのよ……ひどい、ひどいよ……生きていたくないよぉ…………」
「いいえ姉上、どんなに酷いと言われてもいい。貴女には生きてもらいます。死なせない。それが、父上と兄上の総意でもあるのですから」
千寿郎に縋りついていたけどその力は失われ、ずるずると地に倒れていく。
涙を流し続けた疲れと、怪我のせいか、私はそのまま眠るように気を失ってしまった。