四周目 捌
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ぱさり、先程まで杏寿郎さんが纏っていた長羽織を上からかけられる。
見上げたそこにいたのは、沈んだ顔をした槇寿朗さんだった。
「いつまでも外でそうしていては体を冷やす。朝緋は体も食われ、怪我だらけだ。早く治療をしなくてはならない。夜が明けたら、蝶屋敷に行って診てもらえ。……自分で、いや、千寿郎が帰ってくる。行けるな?」
「怪我の治療なんて……」
と、その時気がついた。
槇寿朗さんが、切腹裃を。薄い青をその身に纏っていることに。ご自分の日輪刀を携えていることに。
「とう、さま……?」
庭で何かの準備を始めている。それは、何?その道具、何?
「市井の人々相手ではないとはいえ、杏寿郎が朝緋や俺に。人に牙を剥いた。その責任を取らねばならない」
「責任、って……」
「こんなことになると思っていた。杏寿郎が鬼になってしまったと聞いた時から、その準備はしていた。
この書を御館様に。こっちは朝緋と千寿郎、二人の分だ」
手紙を受け取ろうとして、でも手は出せず。ただただ体が震える。
「ねぇちょっとやだ、何してるの、父様……、なに、その、格好。道具。日輪刀……、何する気……?まさか、ねえ、嘘でしょ?」
「はあ……千寿郎が友人の家に泊まりに行って不在の時でよかったよ。杏寿郎が鬼と化して朝緋を襲う姿も、この光景も、何も見せなくて済んだのだから。
だが、刀鍛冶によって磨かれた刀身。美しく生まれ変わったこやつが最初に斬るのが、やはり自分になってしまうとはな。
なんとも皮肉なものだ」
槇寿朗さんは切腹する気だ。
それも、今すぐこの場で!!感情のままにやろうというなら、頼むから一旦落ち着いて……!!考え直して!!
「ねえってば!父様、変な冗談はやめてよ……!落ち着いてってば!そんなことしないで!
杏寿郎さんもいないのに、父様まで失うなんて耐えられない。やだよ……!!」
「これは決めていたことだ!!
……責任は全て俺が引き受ける。だからお前は気にする必要ない。だが、頼む。俺の最期を見ていてくれ。
背負わせてすまない。許せよ、朝緋……」
またも突き飛ばされた。私は肉を喰われ血を吸われ、貧血のせいか思ったより動けない状態だったらしい。簡単に倒れてしまい、やってくる目眩ですぐに立ち上がることができなかった。
夜明けの遠い空の下、月に輝く刀。
その刃が、槇寿朗さんの脇腹に吸い込まれ、横に一閃された。
ブシャ、ごぽり。
「あ、あ、あああああ!!!」
腹から、そして口から流れ、吐き出される赤。
「父様、父様父様ぁ!槇寿ろ、さ、やだやだやだ!死なないでよ、やだ、槇寿朗さんまでいなくなるなんて、やだよ!!
お、お医者様、お医者様に診せれば、しのぶちゃん……!しのぶちゃんのところに、蝶屋敷にっ」
「ご、ふ、……ヒュー、かひゅ、朝緋……、もう、俺はすぐに死ぬだろう。だから蟲柱など呼ぶな。つらいだろうから、介錯も……しなくていい。そのままでいい……」
「も、喋らないで!あああ、どうしよう、血が、血が止まらない……!」
押さえても押さえても後から後から流れる血。杏寿郎さんが猗窩座に体を貫かれた時と同じ、じわじわと地面にまで染みていく血。
私のトラウマ。あの光景が脳裏に甦り、ボロボロとこぼれ落ちる涙。
「……っ、しかし、最期に嫌なものを見せてしまった、な」
「待って、待って待って、ねえ待って、駄目……っ」
「朝緋、俺の、俺達の娘になってくれてありがとう。杏寿郎を愛してくれて、ありがとう。
……千寿郎を、頼む」
「頼むって……無理、無理だよ……いや、死なないでよ!槇寿朗さん、待って……!!」
そう言い残して、槇寿朗さんは目を閉じ、そしてその目が開くことは二度となかった。
「うそ、うそうそうそ、……いやぁっっ!!」
こんな結末なんて要らない。望んでなかったのに。
見上げたそこにいたのは、沈んだ顔をした槇寿朗さんだった。
「いつまでも外でそうしていては体を冷やす。朝緋は体も食われ、怪我だらけだ。早く治療をしなくてはならない。夜が明けたら、蝶屋敷に行って診てもらえ。……自分で、いや、千寿郎が帰ってくる。行けるな?」
「怪我の治療なんて……」
と、その時気がついた。
槇寿朗さんが、切腹裃を。薄い青をその身に纏っていることに。ご自分の日輪刀を携えていることに。
「とう、さま……?」
庭で何かの準備を始めている。それは、何?その道具、何?
「市井の人々相手ではないとはいえ、杏寿郎が朝緋や俺に。人に牙を剥いた。その責任を取らねばならない」
「責任、って……」
「こんなことになると思っていた。杏寿郎が鬼になってしまったと聞いた時から、その準備はしていた。
この書を御館様に。こっちは朝緋と千寿郎、二人の分だ」
手紙を受け取ろうとして、でも手は出せず。ただただ体が震える。
「ねぇちょっとやだ、何してるの、父様……、なに、その、格好。道具。日輪刀……、何する気……?まさか、ねえ、嘘でしょ?」
「はあ……千寿郎が友人の家に泊まりに行って不在の時でよかったよ。杏寿郎が鬼と化して朝緋を襲う姿も、この光景も、何も見せなくて済んだのだから。
だが、刀鍛冶によって磨かれた刀身。美しく生まれ変わったこやつが最初に斬るのが、やはり自分になってしまうとはな。
なんとも皮肉なものだ」
槇寿朗さんは切腹する気だ。
それも、今すぐこの場で!!感情のままにやろうというなら、頼むから一旦落ち着いて……!!考え直して!!
「ねえってば!父様、変な冗談はやめてよ……!落ち着いてってば!そんなことしないで!
杏寿郎さんもいないのに、父様まで失うなんて耐えられない。やだよ……!!」
「これは決めていたことだ!!
……責任は全て俺が引き受ける。だからお前は気にする必要ない。だが、頼む。俺の最期を見ていてくれ。
背負わせてすまない。許せよ、朝緋……」
またも突き飛ばされた。私は肉を喰われ血を吸われ、貧血のせいか思ったより動けない状態だったらしい。簡単に倒れてしまい、やってくる目眩ですぐに立ち上がることができなかった。
夜明けの遠い空の下、月に輝く刀。
その刃が、槇寿朗さんの脇腹に吸い込まれ、横に一閃された。
ブシャ、ごぽり。
「あ、あ、あああああ!!!」
腹から、そして口から流れ、吐き出される赤。
「父様、父様父様ぁ!槇寿ろ、さ、やだやだやだ!死なないでよ、やだ、槇寿朗さんまでいなくなるなんて、やだよ!!
お、お医者様、お医者様に診せれば、しのぶちゃん……!しのぶちゃんのところに、蝶屋敷にっ」
「ご、ふ、……ヒュー、かひゅ、朝緋……、もう、俺はすぐに死ぬだろう。だから蟲柱など呼ぶな。つらいだろうから、介錯も……しなくていい。そのままでいい……」
「も、喋らないで!あああ、どうしよう、血が、血が止まらない……!」
押さえても押さえても後から後から流れる血。杏寿郎さんが猗窩座に体を貫かれた時と同じ、じわじわと地面にまで染みていく血。
私のトラウマ。あの光景が脳裏に甦り、ボロボロとこぼれ落ちる涙。
「……っ、しかし、最期に嫌なものを見せてしまった、な」
「待って、待って待って、ねえ待って、駄目……っ」
「朝緋、俺の、俺達の娘になってくれてありがとう。杏寿郎を愛してくれて、ありがとう。
……千寿郎を、頼む」
「頼むって……無理、無理だよ……いや、死なないでよ!槇寿朗さん、待って……!!」
そう言い残して、槇寿朗さんは目を閉じ、そしてその目が開くことは二度となかった。
「うそ、うそうそうそ、……いやぁっっ!!」
こんな結末なんて要らない。望んでなかったのに。