四周目 捌
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暗がりと夜にしか歩けなくなった杏寿郎さんを連れ、暗い夜道をこそこそ、生家煉獄家へ急ぐ。
禰󠄀豆子ちゃんのように小さくなって箱に入れるわけでもなし、廃村の屋敷から拝借した羽織を二人揃って頭から被り、競歩のごとく進む。
だって、杏寿郎さんの髪は目立つもの。私の髪もメッシュのようで、同じく目立つ方。少しでも隠しておかないと、誰かに見つかってしまう。
……でもこの見た目、怪しいことこの上ない。煉獄家に盗みに入るコソ泥の気分だ。
頭に流れてきたこのBGMは●ックンチェイスのかな?誰かさんが過去作を引っ張り出して遊んでたっけ。懐かしい。
気分は忍者や宇髄さん。門を上から乗り越えて庭に降り立ち、まずは挨拶をと槇寿朗さんの部屋に……。
そう思って後をついてきた杏寿郎さんに呼びかけようとした瞬間だった。
「動くな」
こちらから声をかけに行くよりも先に、槇寿朗さんに日輪刀の鋒を突きつけられ、ヒヤリとした。黒と赫に彩られた燃える刃の炎が、私と杏寿郎さんの顔を舐める。
「ち、父上、俺と朝緋です!」
「ああ、やはりな。杏寿郎、朝緋……お前達だったか。鬼の気配を感じて刃を突きつけてしまった、許せ」
「当然の措置でしょうとも!問答無用で頸を斬られてもおかしくはありませんでした!斬らずにいてくださって感謝しているくらいです!!」
「感謝はするな」
日輪刀を鞘にしまい込んだ槇寿朗さんに、顔を隠すベールのような羽織を取り、首を垂れる。
「父様……こんな夜更けに帰ってきて、申し訳ありません」
「理由も知っているが、鬼殺隊士なら夜中に戻ることもある。気にしなくていい」
ぽむぽむと頭を叩きながら、未だ羽織を被り、顔のわからぬ杏寿郎さんの姿を眺めている。
「杏寿郎、鬼となったその顔を見せろ」
そっと静かに羽織を脱ぐ杏寿郎さん。その目は私の血の摂取によって飢えがおさまり普段と同様の色彩で。変わっているところと言えば、縦長の瞳孔、鋭い牙、黒に彩られた長い爪くらい。
「なんだ。人の時とほとんど変わらないではないか。俺はてっきり、八本腕を生やすとか、もっと恐ろしい形相の鬼になっているかと思ったぞ」
「よもや!?さすがにそれはないと思いますが……」
八本腕……んー、千手観音……いや、蛸かな?
「しかし……生きて戻れとはいったが、よもや鬼になって戻るとはな。
知らせを受けた時の俺の気持ちはわかるか?千寿郎なんかは、それはもうひどく泣いて泣いて……宥めるのが大変だった」
相当大変だったのか、大きなため息。それを見て、杏寿郎さんがしょもももーんと、眉根を下げた。
「すみません。鬼になるくらいならあの場で死ねばよかったのですが……」
「杏寿郎さんは悪くない!
父様、ごめんなさい……私が杏寿郎さんを鬼にしてしまいました。倒すべき鬼に頭を下げ、許しを乞い、そして鬼に……。私は、とんでもないことをしでかしてしまいました……っ!
私が全部悪いのです……、私が、杏寿郎さんに、死んでほしくなくって、」
「いいんだ。もういい、もういいんだ朝緋……。俺が悪かったんだ、俺が致命傷を受けてしまったから……」
槇寿朗さんに謝っていたはずなのに、いつのまにかその対象はお互いに変わる。
抱きしめあって謝り合う私と杏寿郎さん。
頭上からは今一度、大きなため息が聞こえた。
「誰も許さんとは言っていない。死んでほしいとも言っていない。愛する者が死するその時、鬼になってくれれば……その選択肢があると知れば、誰だって迷うだろう。
それに俺は、人に仇をなさず逆に人を守る鬼がいると知ったばかりだ。杏寿郎もそうなれることを願っている。信じたいと思うよ」
今度は杏寿郎さんと二人、頭を撫でられる。
「父様……ありがとう……」
「父上は竈門少年の妹、鬼の少女に会ったのですね」
「ああ。だからそう心配をしなくていいんだ。
だというに、彼らに羽織だけ届けさせおって……まったく、お前達はこの煉獄家と縁を切るつもりだったのか?」
顔を見合わせてから、バツが悪そうに言葉を紡ぐ。
「その予定でした……」
「はい、結局こうして父様のもとへ、生家へと戻って来てしまいましたが……」
「ふっ、そんなことせずとも、俺はお前達の鎹烏から聞いたその瞬間に腹を切ろうと思ったぞ。今こそ磨き立ての日輪刀が輝く時だとな」
ははは、と笑いながら言っているけど、それは笑えない。冗談が過ぎるよ槇寿朗さん。
「まあ、そうして責任を取ろうとしたが、直後に御館様の烏が来てな。この通り生きている。
……お前達も、よくぞ生きて戻った」
おかえり。
ふわりとした笑顔と共に言われて、夜中なのに声を上げて泣き、槇寿朗さんの胸元に飛びついてしまった。我慢できなかった。
「ううっ、父様ぁ!ただいま、帰りました……っ!」
「あーこらこら、着物が濡れるしよれる。俺の着物で涙を拭くな強く掴むな」
「ずびっ、……父上……」
「って、杏寿郎お前まで!これではびっちょびちょになってしま……うわ!?」
飛びついた二人分の勢いに耐えきれず、槇寿朗さんが後ろに倒れる。倒れたまま、私達二人を受け止めて撫でる様は、さすが父親という感じで。
「よしよし、よく頑張ったな。よく、乗客を守り抜いた。えらいぞ……二人とも、ご苦労だった。
……ほら、中に入れ。まだ話はある」
促されて立ち上がる私達は、すでに幼な子にでも戻った気分で。もしかしたら今なら杏寿郎さんも、禰󠄀豆子ちゃんみたいな小さい子になれるのでは、と一瞬思うほどで。
ごしごしと涙を拭って初めて、本来の年齢を取り戻した。
「お前達の声が外に漏れてしまうと危険だ。ここに他の柱が探しにくることはもうないとは思うが、万が一ということもあり得る。特に、杏寿郎の声は大きすぎて外に響きやすい」
「んんっ!よもや!?俺の声はそこまで大きいとは思えませんが!!」
「十分うるさいことを自覚しろ」
ごん!拳一発、いい音したね。
「杏寿郎さん、しー!だよ、夜中だよ。千寿郎は寝てるんでしょ?起こしたらかわいそう」
「千寿郎!あの子にも早く会いたいものだ!!」
「ああ。千寿郎には朝になったら伝えよう。だから静かにして早く入れ!」
「父上もうるさいですが」
ごん!!拳二発目もいい音がした。
禰󠄀豆子ちゃんのように小さくなって箱に入れるわけでもなし、廃村の屋敷から拝借した羽織を二人揃って頭から被り、競歩のごとく進む。
だって、杏寿郎さんの髪は目立つもの。私の髪もメッシュのようで、同じく目立つ方。少しでも隠しておかないと、誰かに見つかってしまう。
……でもこの見た目、怪しいことこの上ない。煉獄家に盗みに入るコソ泥の気分だ。
頭に流れてきたこのBGMは●ックンチェイスのかな?誰かさんが過去作を引っ張り出して遊んでたっけ。懐かしい。
気分は忍者や宇髄さん。門を上から乗り越えて庭に降り立ち、まずは挨拶をと槇寿朗さんの部屋に……。
そう思って後をついてきた杏寿郎さんに呼びかけようとした瞬間だった。
「動くな」
こちらから声をかけに行くよりも先に、槇寿朗さんに日輪刀の鋒を突きつけられ、ヒヤリとした。黒と赫に彩られた燃える刃の炎が、私と杏寿郎さんの顔を舐める。
「ち、父上、俺と朝緋です!」
「ああ、やはりな。杏寿郎、朝緋……お前達だったか。鬼の気配を感じて刃を突きつけてしまった、許せ」
「当然の措置でしょうとも!問答無用で頸を斬られてもおかしくはありませんでした!斬らずにいてくださって感謝しているくらいです!!」
「感謝はするな」
日輪刀を鞘にしまい込んだ槇寿朗さんに、顔を隠すベールのような羽織を取り、首を垂れる。
「父様……こんな夜更けに帰ってきて、申し訳ありません」
「理由も知っているが、鬼殺隊士なら夜中に戻ることもある。気にしなくていい」
ぽむぽむと頭を叩きながら、未だ羽織を被り、顔のわからぬ杏寿郎さんの姿を眺めている。
「杏寿郎、鬼となったその顔を見せろ」
そっと静かに羽織を脱ぐ杏寿郎さん。その目は私の血の摂取によって飢えがおさまり普段と同様の色彩で。変わっているところと言えば、縦長の瞳孔、鋭い牙、黒に彩られた長い爪くらい。
「なんだ。人の時とほとんど変わらないではないか。俺はてっきり、八本腕を生やすとか、もっと恐ろしい形相の鬼になっているかと思ったぞ」
「よもや!?さすがにそれはないと思いますが……」
八本腕……んー、千手観音……いや、蛸かな?
「しかし……生きて戻れとはいったが、よもや鬼になって戻るとはな。
知らせを受けた時の俺の気持ちはわかるか?千寿郎なんかは、それはもうひどく泣いて泣いて……宥めるのが大変だった」
相当大変だったのか、大きなため息。それを見て、杏寿郎さんがしょもももーんと、眉根を下げた。
「すみません。鬼になるくらいならあの場で死ねばよかったのですが……」
「杏寿郎さんは悪くない!
父様、ごめんなさい……私が杏寿郎さんを鬼にしてしまいました。倒すべき鬼に頭を下げ、許しを乞い、そして鬼に……。私は、とんでもないことをしでかしてしまいました……っ!
私が全部悪いのです……、私が、杏寿郎さんに、死んでほしくなくって、」
「いいんだ。もういい、もういいんだ朝緋……。俺が悪かったんだ、俺が致命傷を受けてしまったから……」
槇寿朗さんに謝っていたはずなのに、いつのまにかその対象はお互いに変わる。
抱きしめあって謝り合う私と杏寿郎さん。
頭上からは今一度、大きなため息が聞こえた。
「誰も許さんとは言っていない。死んでほしいとも言っていない。愛する者が死するその時、鬼になってくれれば……その選択肢があると知れば、誰だって迷うだろう。
それに俺は、人に仇をなさず逆に人を守る鬼がいると知ったばかりだ。杏寿郎もそうなれることを願っている。信じたいと思うよ」
今度は杏寿郎さんと二人、頭を撫でられる。
「父様……ありがとう……」
「父上は竈門少年の妹、鬼の少女に会ったのですね」
「ああ。だからそう心配をしなくていいんだ。
だというに、彼らに羽織だけ届けさせおって……まったく、お前達はこの煉獄家と縁を切るつもりだったのか?」
顔を見合わせてから、バツが悪そうに言葉を紡ぐ。
「その予定でした……」
「はい、結局こうして父様のもとへ、生家へと戻って来てしまいましたが……」
「ふっ、そんなことせずとも、俺はお前達の鎹烏から聞いたその瞬間に腹を切ろうと思ったぞ。今こそ磨き立ての日輪刀が輝く時だとな」
ははは、と笑いながら言っているけど、それは笑えない。冗談が過ぎるよ槇寿朗さん。
「まあ、そうして責任を取ろうとしたが、直後に御館様の烏が来てな。この通り生きている。
……お前達も、よくぞ生きて戻った」
おかえり。
ふわりとした笑顔と共に言われて、夜中なのに声を上げて泣き、槇寿朗さんの胸元に飛びついてしまった。我慢できなかった。
「ううっ、父様ぁ!ただいま、帰りました……っ!」
「あーこらこら、着物が濡れるしよれる。俺の着物で涙を拭くな強く掴むな」
「ずびっ、……父上……」
「って、杏寿郎お前まで!これではびっちょびちょになってしま……うわ!?」
飛びついた二人分の勢いに耐えきれず、槇寿朗さんが後ろに倒れる。倒れたまま、私達二人を受け止めて撫でる様は、さすが父親という感じで。
「よしよし、よく頑張ったな。よく、乗客を守り抜いた。えらいぞ……二人とも、ご苦労だった。
……ほら、中に入れ。まだ話はある」
促されて立ち上がる私達は、すでに幼な子にでも戻った気分で。もしかしたら今なら杏寿郎さんも、禰󠄀豆子ちゃんみたいな小さい子になれるのでは、と一瞬思うほどで。
ごしごしと涙を拭って初めて、本来の年齢を取り戻した。
「お前達の声が外に漏れてしまうと危険だ。ここに他の柱が探しにくることはもうないとは思うが、万が一ということもあり得る。特に、杏寿郎の声は大きすぎて外に響きやすい」
「んんっ!よもや!?俺の声はそこまで大きいとは思えませんが!!」
「十分うるさいことを自覚しろ」
ごん!拳一発、いい音したね。
「杏寿郎さん、しー!だよ、夜中だよ。千寿郎は寝てるんでしょ?起こしたらかわいそう」
「千寿郎!あの子にも早く会いたいものだ!!」
「ああ。千寿郎には朝になったら伝えよう。だから静かにして早く入れ!」
「父上もうるさいですが」
ごん!!拳二発目もいい音がした。