二周目 弐
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槇寿朗さんが任務に酒瓶を持ち込むようになった。
令和の世なら一発で解雇処分だろうそれも、万年人手不足な鬼殺隊。ましてや相手は柱ゆえ、そう簡単に咎められる事はなかった。
お酒を飲みながら任務なんて危ないと一家総出で訴えたけれど、既に酒を持ち込むほど自暴自棄状態に陥っていた槇寿朗さんには効かず。
柱ゆえの馬鹿みたいな力強さで投げ飛ばされ、全員ねじ伏せられてしまった。んー、強い。
『また』だ。結局また始まってしまったというわけだ。止められなかった。
そこまであの炎柱ノ書に書いてあった内容は、ショックなものだったのか。そこにきて瑠火さんの死だ。
いや、それだけじゃない。任務先でまた『何か』あったのは確実。
だって「つい先日に笑い合った仲間が死ぬのはよくある話だ。鬼の言動には反吐が出る!」先日酒に入り浸りながら、そんなことを口走っていたもの。
乱暴な言動は子に悪影響だ。それどころか、まだ小さな千寿郎が怪我する心配もある。早急にそう判断した私と杏寿郎さんは、槇寿朗さんを少しだけ遠巻きに。避けるようになっていった。
……だって、近寄ると暴言が飛んでくるようになったもの。近づきたくとも、話したくともそれが出来ないんじゃどうしようもない。
物理的なものだけじゃない。家族との心距離は日に日に開く。
いつしか髭も剃らず、人相も別人のように変わっていった。短髪も今や伸び放題。ちょっとワイルドでかっこいいかもしれないけど……ってそれは置いといて。
杏寿郎さんのような、朗らかで優しい笑顔だったのに。太陽のような人だったのに。
今や炎とは対極の、氷のようにとても冷たい人になってしまった。
私にはどうもできない。
だって、私の声すら届かなくなってしまったから。
そんな折、任務の際に鬼を取り逃してしまったとの話を聞いた。
最近はよくあるのだと、鎹烏が悲しそうに漏らす。いつもは逃しても他の隊士が斬って事なきを得るそうだ。そんなこと初耳なんですが?
今回は一人任務だったようで、完全に鬼をどこかへと逃してしまったらしい。
柱なのにそれってちょっとまずいんじゃ……思った通り柱の間ではかなり問題視されていると聞いた。
前回の柱合会議にも出ていないそうで、知った時はお玉を取り落としてしまったほどの衝撃を受けた。
さすがの杏寿郎さんもそれにはショックを覚えていたし、なんなら自分の部屋でひっそりと憤慨していた。あまり怒ることのない杏寿郎さんが珍しい。
私はただ落胆した。でも落胆しても、何も変わらない。槇寿朗さんは、元の優しくて温かい人には戻ってくれない。
「朝緋!指南書は三巻しかない!俺達だけで強くなるしかないな!共に頑張ろう!!」
私達はこれ以上槇寿朗さんに修行をつけてもらえないだろう。そう諦め、手元に三巻しか持ってこれなかった指南書を毎夜のように読み耽った。
朝稽古に、昼学校。帰ってからは家事とまた稽古。指南書をゆっくり読める時間なんて夜しかなくて。
一緒に読んでいた千寿郎が睡魔に負けて眠ってしまうと起きているのは杏寿郎さんと私、二人だけ。
「ほら、読みづらいしもっとこっちに寄って。千寿郎は寝ているから潰さないようにな」
川の字三人で布団を被り、枕元の明かりだけで本を読む。なんだかキャンプテントや秘密基地にこもっているかのよう。
杏寿郎さんも結構大きくなったけれど、子供だけでこうして夜更かしなんていつぶりだろう。真面目に読まなくちゃいけないのだけれど、楽しいという気持ちが湧いてくる。
すぐ隣の杏寿郎さんと腕やら足がぶつかるたび、くふくふと笑いが漏れるほど。
「こーら、笑ってないでちゃんと読め。読まないならくすぐり攻撃してしまうぞ?」
「わっ、もうくすぐってる〜!やめてくださいよ!千寿郎が起きちゃう!!」
「ならくすぐられても平気なように鍛錬しよう!!」
「くすぐりは鍛錬じゃないよ!」
わははと快活に笑う杏寿郎さん。かわいい寝顔を晒す千寿郎。その隣で二人の暖かさを甘受する私。
こういうのを、幸せと呼ぶのだろう。ここに槇寿朗さんや瑠火さんもいたら最高だったのに……。泣けてくる。
ん?三巻の他にはないのかって?
残りは全て槇寿朗さんのところだ。もしかしたら他の巻は既に破られてしまっているかもしれない。どちらにせよあの部屋に侵入……は、掃除してるのが私だからできるけど、持ち出すには相当の勇気がいる。恐ろしいからやめておこうと私達は決めた。
というわけで教えてもらえなくなった型は、自分達が独学で覚えるしかない。
残念なことにそこには伍ノ型までと、奥義が記されているのみだったが。
ちょっとー!陸から捌を教えてよー!!私が知りたいのはそこなのに……!
そうして、満足いくまでとはいかずとも鍛錬しているうちにその時は来た。杏寿郎さんがまだ奥義玖ノ型を覚えていないというのに、その時は来てしまった。
当初、杏寿郎さんが最終選別に行くと、決めていた日取りがだ。
まだ覚えきれていない型しかなくて不安だったが、私が止めても無駄だった。杏寿郎さんは最終選別に参加すると言って聞かず、ついには喧嘩にまで発展してしまった。多分喧嘩したのは初めてかもしれない。
「お願いだから行かないでください!まだ早い、早いです!」
「もう頃合いだ!俺はもう待てない!絶対帰ってくると約束する!!朝緋は俺の剣の腕を信用しないのか!俺の腕は君が一番知っているだろう!!」
「知ってるけど鬼を相手にした事ないじゃん!!やられちゃうかもしれないじゃん!それについては信用できない!『前』と同じように無事で済むかどうかわからない!!」
「『前』とは何のことだろうか!それといつもと口調が違うな!?」
アメリカンフットボールの選手よろしく杏寿郎さんの腰に飛びついて抱きつく。
ずるずると引き摺られているけれど、絶対に離さない……!行くというならそのまま私も連れて行くがいい!!今の私はスッポンだ!
「うおおお朝緋離せえええええ!!」
「嫌ですううう!そんなに離して欲しかったら私を倒してからいってく、いったああああい!!?本気!本気で叩いたあああ!!」
俺の屍を越えて征けとは言おうとしたけれど、腰にしがみつく私の頭にものすごい勢いで拳を入れるとは思わないよね?杏寿郎さん貴方ご自身の力がどのくらい強いかもしかしてわかってらっしゃらない?
「朝緋ほどの相手に本気を出すのは当たり前だ!」
「いや弱いと思われているより嬉しいですけどね!妹相手に本気って!?うぉわ頭凹んでるー!絶対許さない!!」
尚も飛んできそうだった手を逆に捕まえて、私は杏寿郎さんの袖口から覗く腕に思い切り噛み付いた。
「いった!?何をする朝緋!噛むなんて君は鬼にでもなったつもりか!!」
「鬼なんかと一緒にしないでください!仕返しです今の私はスッポンなんだい!」
私の体ごとぶんばぶんばと腕を振られる。うっ!目が回る……!けど離してやるものか。
回る視界の中、千寿郎に見つかってしまった!これだけ騒げば当然だった。
「兄上姉上!?お二人とも何してるんですか!
兄上は最終選別に行ったのでは!?早く行ってもらわないと父上が帰ってきます!」
「よもや!?」
そうだった。出先から帰ってくるまでに最終選別に行かないと大変なことになる。
って、行かせない気でいたんだから知られてもいいけども!!
でも千寿郎は心配しつつ杏寿郎さんを送り出す気満々で。既に先ほど切り火をしたばかりだ。
「それで?姉上は何ををなさっているんですか?」
幼いとは思えぬ凄みある笑みを見てしまい、私は大人しく杏寿郎さんの腕や腰から身をひいた。うーん、やはり瑠火さんのお子さんだ!有無を言わさないその顔、よく似てる。
今一度、今度は私から切り火をさせてもらい、杏寿郎さんはようやく藤襲山へと出立した。
目指すは、最終選別。
令和の世なら一発で解雇処分だろうそれも、万年人手不足な鬼殺隊。ましてや相手は柱ゆえ、そう簡単に咎められる事はなかった。
お酒を飲みながら任務なんて危ないと一家総出で訴えたけれど、既に酒を持ち込むほど自暴自棄状態に陥っていた槇寿朗さんには効かず。
柱ゆえの馬鹿みたいな力強さで投げ飛ばされ、全員ねじ伏せられてしまった。んー、強い。
『また』だ。結局また始まってしまったというわけだ。止められなかった。
そこまであの炎柱ノ書に書いてあった内容は、ショックなものだったのか。そこにきて瑠火さんの死だ。
いや、それだけじゃない。任務先でまた『何か』あったのは確実。
だって「つい先日に笑い合った仲間が死ぬのはよくある話だ。鬼の言動には反吐が出る!」先日酒に入り浸りながら、そんなことを口走っていたもの。
乱暴な言動は子に悪影響だ。それどころか、まだ小さな千寿郎が怪我する心配もある。早急にそう判断した私と杏寿郎さんは、槇寿朗さんを少しだけ遠巻きに。避けるようになっていった。
……だって、近寄ると暴言が飛んでくるようになったもの。近づきたくとも、話したくともそれが出来ないんじゃどうしようもない。
物理的なものだけじゃない。家族との心距離は日に日に開く。
いつしか髭も剃らず、人相も別人のように変わっていった。短髪も今や伸び放題。ちょっとワイルドでかっこいいかもしれないけど……ってそれは置いといて。
杏寿郎さんのような、朗らかで優しい笑顔だったのに。太陽のような人だったのに。
今や炎とは対極の、氷のようにとても冷たい人になってしまった。
私にはどうもできない。
だって、私の声すら届かなくなってしまったから。
そんな折、任務の際に鬼を取り逃してしまったとの話を聞いた。
最近はよくあるのだと、鎹烏が悲しそうに漏らす。いつもは逃しても他の隊士が斬って事なきを得るそうだ。そんなこと初耳なんですが?
今回は一人任務だったようで、完全に鬼をどこかへと逃してしまったらしい。
柱なのにそれってちょっとまずいんじゃ……思った通り柱の間ではかなり問題視されていると聞いた。
前回の柱合会議にも出ていないそうで、知った時はお玉を取り落としてしまったほどの衝撃を受けた。
さすがの杏寿郎さんもそれにはショックを覚えていたし、なんなら自分の部屋でひっそりと憤慨していた。あまり怒ることのない杏寿郎さんが珍しい。
私はただ落胆した。でも落胆しても、何も変わらない。槇寿朗さんは、元の優しくて温かい人には戻ってくれない。
「朝緋!指南書は三巻しかない!俺達だけで強くなるしかないな!共に頑張ろう!!」
私達はこれ以上槇寿朗さんに修行をつけてもらえないだろう。そう諦め、手元に三巻しか持ってこれなかった指南書を毎夜のように読み耽った。
朝稽古に、昼学校。帰ってからは家事とまた稽古。指南書をゆっくり読める時間なんて夜しかなくて。
一緒に読んでいた千寿郎が睡魔に負けて眠ってしまうと起きているのは杏寿郎さんと私、二人だけ。
「ほら、読みづらいしもっとこっちに寄って。千寿郎は寝ているから潰さないようにな」
川の字三人で布団を被り、枕元の明かりだけで本を読む。なんだかキャンプテントや秘密基地にこもっているかのよう。
杏寿郎さんも結構大きくなったけれど、子供だけでこうして夜更かしなんていつぶりだろう。真面目に読まなくちゃいけないのだけれど、楽しいという気持ちが湧いてくる。
すぐ隣の杏寿郎さんと腕やら足がぶつかるたび、くふくふと笑いが漏れるほど。
「こーら、笑ってないでちゃんと読め。読まないならくすぐり攻撃してしまうぞ?」
「わっ、もうくすぐってる〜!やめてくださいよ!千寿郎が起きちゃう!!」
「ならくすぐられても平気なように鍛錬しよう!!」
「くすぐりは鍛錬じゃないよ!」
わははと快活に笑う杏寿郎さん。かわいい寝顔を晒す千寿郎。その隣で二人の暖かさを甘受する私。
こういうのを、幸せと呼ぶのだろう。ここに槇寿朗さんや瑠火さんもいたら最高だったのに……。泣けてくる。
ん?三巻の他にはないのかって?
残りは全て槇寿朗さんのところだ。もしかしたら他の巻は既に破られてしまっているかもしれない。どちらにせよあの部屋に侵入……は、掃除してるのが私だからできるけど、持ち出すには相当の勇気がいる。恐ろしいからやめておこうと私達は決めた。
というわけで教えてもらえなくなった型は、自分達が独学で覚えるしかない。
残念なことにそこには伍ノ型までと、奥義が記されているのみだったが。
ちょっとー!陸から捌を教えてよー!!私が知りたいのはそこなのに……!
そうして、満足いくまでとはいかずとも鍛錬しているうちにその時は来た。杏寿郎さんがまだ奥義玖ノ型を覚えていないというのに、その時は来てしまった。
当初、杏寿郎さんが最終選別に行くと、決めていた日取りがだ。
まだ覚えきれていない型しかなくて不安だったが、私が止めても無駄だった。杏寿郎さんは最終選別に参加すると言って聞かず、ついには喧嘩にまで発展してしまった。多分喧嘩したのは初めてかもしれない。
「お願いだから行かないでください!まだ早い、早いです!」
「もう頃合いだ!俺はもう待てない!絶対帰ってくると約束する!!朝緋は俺の剣の腕を信用しないのか!俺の腕は君が一番知っているだろう!!」
「知ってるけど鬼を相手にした事ないじゃん!!やられちゃうかもしれないじゃん!それについては信用できない!『前』と同じように無事で済むかどうかわからない!!」
「『前』とは何のことだろうか!それといつもと口調が違うな!?」
アメリカンフットボールの選手よろしく杏寿郎さんの腰に飛びついて抱きつく。
ずるずると引き摺られているけれど、絶対に離さない……!行くというならそのまま私も連れて行くがいい!!今の私はスッポンだ!
「うおおお朝緋離せえええええ!!」
「嫌ですううう!そんなに離して欲しかったら私を倒してからいってく、いったああああい!!?本気!本気で叩いたあああ!!」
俺の屍を越えて征けとは言おうとしたけれど、腰にしがみつく私の頭にものすごい勢いで拳を入れるとは思わないよね?杏寿郎さん貴方ご自身の力がどのくらい強いかもしかしてわかってらっしゃらない?
「朝緋ほどの相手に本気を出すのは当たり前だ!」
「いや弱いと思われているより嬉しいですけどね!妹相手に本気って!?うぉわ頭凹んでるー!絶対許さない!!」
尚も飛んできそうだった手を逆に捕まえて、私は杏寿郎さんの袖口から覗く腕に思い切り噛み付いた。
「いった!?何をする朝緋!噛むなんて君は鬼にでもなったつもりか!!」
「鬼なんかと一緒にしないでください!仕返しです今の私はスッポンなんだい!」
私の体ごとぶんばぶんばと腕を振られる。うっ!目が回る……!けど離してやるものか。
回る視界の中、千寿郎に見つかってしまった!これだけ騒げば当然だった。
「兄上姉上!?お二人とも何してるんですか!
兄上は最終選別に行ったのでは!?早く行ってもらわないと父上が帰ってきます!」
「よもや!?」
そうだった。出先から帰ってくるまでに最終選別に行かないと大変なことになる。
って、行かせない気でいたんだから知られてもいいけども!!
でも千寿郎は心配しつつ杏寿郎さんを送り出す気満々で。既に先ほど切り火をしたばかりだ。
「それで?姉上は何ををなさっているんですか?」
幼いとは思えぬ凄みある笑みを見てしまい、私は大人しく杏寿郎さんの腕や腰から身をひいた。うーん、やはり瑠火さんのお子さんだ!有無を言わさないその顔、よく似てる。
今一度、今度は私から切り火をさせてもらい、杏寿郎さんはようやく藤襲山へと出立した。
目指すは、最終選別。