四周目 捌
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「……腰が痛い」
「うむ!」
「うむ!じゃないやい。
私今、杏寿郎さんのこと呪いたいって、すごくすっごく思ってる」
「そうむくれてくれるな。痛いだけではなく、ちゃんと気持ちよかったろう?」
「痛みは少なかったかも。気持ちよさも……あった。でもまた血を吸われた。それも、吸い付くされる勢いで」
「代わりに同じ分だけ腹に注いだのだからいいではないか」
「キィー!呪う!呪ってやる!!」
布団の中うんうん唸る私。
杏寿郎さんはその隣でぴっかぴかの大満足なお顔。にこにこしながら私のおなかをさすり、撫で続けている。
別に子供が出来たとかではない……と、思う。
でも杏寿郎さんのせいでおなかが少し膨れているのは変わらなくて。
これは、悪鬼な杏寿郎さんの行いの結果だ。
「呪いといえばだが。
呪いが消えたこと、血鬼術が使えるようになったこと、御館様に報告せねばならんな。何か変わったことがあれば早めに言ったほうがいいのだろう?」
その通りだ。
腰は痛いし体のあちこちが軋むけれど、そんなことは言っていられない。重い腰を上げ、二人で御館様への文を書いていく。
御館様に隠し事はできない。
杏寿郎さんが私の血をたっぷりと摂取してしまったこともきちんと書いた。書かないと、呪いのことも血鬼術のことも説明できないし。
私の血を飲む。つまり、人に。私に手をかけた。……処罰があるかもしれない。
返事が来るまでは、気が気じゃなかった。
因みに、食欲と睡眠欲の代わりに、杏寿郎さんが性欲に走ってしまうことも彼自ら手紙に書いていた。
御館様に隠し事はしたくないけど、でもできることなら言いたくない話。プライバシーの侵害だ!
そして今、私は隠によって鬼殺隊本部、産屋敷邸へと連れて行かれている最中だ。
杏寿郎さん?少し遠くの洞窟奥でお留守番。眠れないからと、一心不乱に筋トレをしてたわ。
鬼は筋トレしたって筋力なんてつかないのに……。指摘したら、腕立て伏せをする姿を見せると、朝緋がムラムラして喜ぶだろう、ですって。失礼な、私をなんだと思ってるの……。
そんな杏寿郎さんを、本部に連れて行くことは出来ない。そりゃまあ、彼は行きたがっていたけれど鬼化している以上、よほどのことがない限りそれは無理な話で。
いくら呪いが消えていても、鬼は鬼なのだ。
禰󠄀豆子ちゃんは特別に本部に連れて行かれたけれど、基本的には鬼を本部に連れて行くなんて、あってはならない。
本部に着いてすぐは御館様もお見えにはならない。少しの間、心洗われる綺麗な庭園を眺めながら外で待つ。
そばでは私を運んでくれた隠二人がひそひそ会話し、そして意を決して話しかけてきた。
「あの〜、朝緋さん、ですよね。自分のこと覚えてますか?隠の後藤です」
「覚えてます。お久しぶりです後藤さん。そちらの女性隠さんも、同じ空間にいましたよね」
「お、覚えていていただけて光栄です!」
炭治郎と禰󠄀豆子ちゃんが参加していた柱合会議。あの時にいた隠達だ。
「お聞きしたいのですが、炎柱様は今どこにいるので?」
「炎柱様もですが、貴女もしばらくご活躍をお聞きしませんでした。どこにいたのですか?他の柱もお二人を探していますよ」
行方不明扱い、とまでいかないけれど音信不通で連絡がつかない私達。一部柱は仲が良く、頻繁に手紙のやり取りをする仲だった。それが手紙を送っても返信なしで返ってくるとなれば……捜索されるに決まっている。
まずいな、私が本部にいるなんて知られたら恐ろしいぞ。拷問までいかなくとも、そうとう詰め寄られる。この隠二人にも、黙っていてもらわないと駄目かもね。
「無限列車の任務に共に当たっていたという竈門達にも尋問が行きましたが、誰も答えず。あの猪アタマでさえ、だんまりだったんスよ」
尋問……炭治郎達には悪いことをしたなあ。柱の勢いは怖かっただろうに。
黙ったままの私に痺れを切らし、女性隠が加えてくる。
「朝緋さん。言えないならせめて仲がよいという、恋柱様や蟲柱様にくらいは教えてもいいのでは?心配しておりましたよ」
「そっか、彼女達が……。でもごめんなさい、今は例外なく誰にも教えられないのです。私や炎柱がどこにいたのか、どこにいるのか……何も言えないんです」
せめて生きているか死んでいるかくらいは教えてもいいとは思う。それすら、秘密なのだ。でも隠すということは生きていると言っているようなもので。
より一層、疑いの目は私に向くのだろう。
御館様がお見えになった。私は御館様より部屋へと通され、膝を突き合わせて話をした。隠には退出してもらっている。聞かせるわけにいかないもんね。
私の血をたくさん飲んだこと、私を傷つけたことについては、いい顔はなされなかった。当たり前だ。
一度でも血を口にした鬼は、どんなに理性的でも野蛮な鬼と化すことが多いと言われているのだから。
柱になるほどの強さの人間がそうなった時の被害は、相当なものになるだろう。
けれど、処罰はなし。
血のおかげとはいえ、一番の厄介ごとである呪いを破り、早い段階から血鬼術を得たその優秀さ。御館様としても、心強く感じているのだ。
そして杏寿郎さんの意志が未だに鬼殺隊への貢献に向いているところが大きい。
人は守るもの。傷つけないもの。
だから味方の区分に入らせていただけて、なおかつ処罰もないのだ。
「それから、杏寿郎が鬼と化したこと、他の柱にはまだ言わない方がいいと思うんだ。けれど、彼が不在というだけで皆いつもよりぴりぴりしている」
杏寿郎さんは他の柱からもとても好かれている存在だった。そのさっぱりして快活で明るい性格によって、彼らの仲を上手く取り持つ、繋ぎや潤滑油のような役割を担っていた。
それが無くなって、余計に空気が悪くなったのかもしれない。
「彼らは君の居場所含め、杏寿郎を探しているから気をつけて欲しい。ただ、いつかは知られてしまうかもしれない。万が一知られてしまった時は、私から言えるように手配しておこうね」
「ありがとうございます」
バックに御館様。なんと心強い!
「だからね、朝緋。
どうか杏寿郎が、これ以上鬼にならないようにしてあげてね」
すう、と目を細めた御館様にそう言われた。
「?彼はもう鬼ですが」
「そうだね。
……朝緋の心の平穏を願っているよ」
下げていた頭をゆるりと撫でられた。
心の……?体じゃなくて、心の平穏なんだ?
「ありがとう……ございます」
今後の拠点、そして今後どのように動けばいいのかの話になった。
「炎柱邸はお勧めしない。柱達が暇を見つけては見に行っている場所だからね。
逆に、生家には見に行っていないよ。一度訪れた時に、槇寿朗がここには杏寿郎も朝緋もいないと、皆を追い返してしまってね。杏寿郎達を隠しているようなそんな様子ではなく、ひどく落ち込んでいるような様相のそれを前に、柱達が遠慮してしまったんだ」
「父様、無事なんですね。よかった……」
「槇寿朗も君達の弟千寿郎も無事だよ。
責任を感じて腹を切ったりはしていないから安心して。朝緋は危惧していたよね?」
「……、はい」
そんなことまで御館様は察していたのか。
「槇寿朗は、鬼であろうとも杏寿郎を迎え入れる準備している。彼らは待っている。
羽織だけ帰ってくるなんて悲しいだろう?帰る気があるなら帰っておあげ」
生家に、煉獄家に帰れる……!帰ってもいいのですね、槇寿朗さんっ!千寿郎っ!!
家族に会いたい……!!
「はいっ!!」
ここで初めて大きく明るく、返事ができた。
「任務の指令はこれまで通りに朝緋に送る。けれど、その頻度は少なくしておくよ。君にはなるべく杏寿郎についていてもらわないといけないから。もちろん、強い者の手が欲しい時は頼まざるを得ないけどね。
炎柱が不在となっている今、その担当地区の見回りや、行くはずだった任務は他の隊士、他の柱にまわっている。なのに鬼の動きはここ最近活発で。猫の手も……ううん、鬼の手も借りたい状態、かな」
「うっすみません……耳に痛いですね……」
特に、杏寿郎さん不在で増えた仕事についてが。
「ふふ。最後のはちょっとした冗談を言ってみたかっただけだから気にしないで?」
御館様も冗談言うんだね。
「うむ!」
「うむ!じゃないやい。
私今、杏寿郎さんのこと呪いたいって、すごくすっごく思ってる」
「そうむくれてくれるな。痛いだけではなく、ちゃんと気持ちよかったろう?」
「痛みは少なかったかも。気持ちよさも……あった。でもまた血を吸われた。それも、吸い付くされる勢いで」
「代わりに同じ分だけ腹に注いだのだからいいではないか」
「キィー!呪う!呪ってやる!!」
布団の中うんうん唸る私。
杏寿郎さんはその隣でぴっかぴかの大満足なお顔。にこにこしながら私のおなかをさすり、撫で続けている。
別に子供が出来たとかではない……と、思う。
でも杏寿郎さんのせいでおなかが少し膨れているのは変わらなくて。
これは、悪鬼な杏寿郎さんの行いの結果だ。
「呪いといえばだが。
呪いが消えたこと、血鬼術が使えるようになったこと、御館様に報告せねばならんな。何か変わったことがあれば早めに言ったほうがいいのだろう?」
その通りだ。
腰は痛いし体のあちこちが軋むけれど、そんなことは言っていられない。重い腰を上げ、二人で御館様への文を書いていく。
御館様に隠し事はできない。
杏寿郎さんが私の血をたっぷりと摂取してしまったこともきちんと書いた。書かないと、呪いのことも血鬼術のことも説明できないし。
私の血を飲む。つまり、人に。私に手をかけた。……処罰があるかもしれない。
返事が来るまでは、気が気じゃなかった。
因みに、食欲と睡眠欲の代わりに、杏寿郎さんが性欲に走ってしまうことも彼自ら手紙に書いていた。
御館様に隠し事はしたくないけど、でもできることなら言いたくない話。プライバシーの侵害だ!
そして今、私は隠によって鬼殺隊本部、産屋敷邸へと連れて行かれている最中だ。
杏寿郎さん?少し遠くの洞窟奥でお留守番。眠れないからと、一心不乱に筋トレをしてたわ。
鬼は筋トレしたって筋力なんてつかないのに……。指摘したら、腕立て伏せをする姿を見せると、朝緋がムラムラして喜ぶだろう、ですって。失礼な、私をなんだと思ってるの……。
そんな杏寿郎さんを、本部に連れて行くことは出来ない。そりゃまあ、彼は行きたがっていたけれど鬼化している以上、よほどのことがない限りそれは無理な話で。
いくら呪いが消えていても、鬼は鬼なのだ。
禰󠄀豆子ちゃんは特別に本部に連れて行かれたけれど、基本的には鬼を本部に連れて行くなんて、あってはならない。
本部に着いてすぐは御館様もお見えにはならない。少しの間、心洗われる綺麗な庭園を眺めながら外で待つ。
そばでは私を運んでくれた隠二人がひそひそ会話し、そして意を決して話しかけてきた。
「あの〜、朝緋さん、ですよね。自分のこと覚えてますか?隠の後藤です」
「覚えてます。お久しぶりです後藤さん。そちらの女性隠さんも、同じ空間にいましたよね」
「お、覚えていていただけて光栄です!」
炭治郎と禰󠄀豆子ちゃんが参加していた柱合会議。あの時にいた隠達だ。
「お聞きしたいのですが、炎柱様は今どこにいるので?」
「炎柱様もですが、貴女もしばらくご活躍をお聞きしませんでした。どこにいたのですか?他の柱もお二人を探していますよ」
行方不明扱い、とまでいかないけれど音信不通で連絡がつかない私達。一部柱は仲が良く、頻繁に手紙のやり取りをする仲だった。それが手紙を送っても返信なしで返ってくるとなれば……捜索されるに決まっている。
まずいな、私が本部にいるなんて知られたら恐ろしいぞ。拷問までいかなくとも、そうとう詰め寄られる。この隠二人にも、黙っていてもらわないと駄目かもね。
「無限列車の任務に共に当たっていたという竈門達にも尋問が行きましたが、誰も答えず。あの猪アタマでさえ、だんまりだったんスよ」
尋問……炭治郎達には悪いことをしたなあ。柱の勢いは怖かっただろうに。
黙ったままの私に痺れを切らし、女性隠が加えてくる。
「朝緋さん。言えないならせめて仲がよいという、恋柱様や蟲柱様にくらいは教えてもいいのでは?心配しておりましたよ」
「そっか、彼女達が……。でもごめんなさい、今は例外なく誰にも教えられないのです。私や炎柱がどこにいたのか、どこにいるのか……何も言えないんです」
せめて生きているか死んでいるかくらいは教えてもいいとは思う。それすら、秘密なのだ。でも隠すということは生きていると言っているようなもので。
より一層、疑いの目は私に向くのだろう。
御館様がお見えになった。私は御館様より部屋へと通され、膝を突き合わせて話をした。隠には退出してもらっている。聞かせるわけにいかないもんね。
私の血をたくさん飲んだこと、私を傷つけたことについては、いい顔はなされなかった。当たり前だ。
一度でも血を口にした鬼は、どんなに理性的でも野蛮な鬼と化すことが多いと言われているのだから。
柱になるほどの強さの人間がそうなった時の被害は、相当なものになるだろう。
けれど、処罰はなし。
血のおかげとはいえ、一番の厄介ごとである呪いを破り、早い段階から血鬼術を得たその優秀さ。御館様としても、心強く感じているのだ。
そして杏寿郎さんの意志が未だに鬼殺隊への貢献に向いているところが大きい。
人は守るもの。傷つけないもの。
だから味方の区分に入らせていただけて、なおかつ処罰もないのだ。
「それから、杏寿郎が鬼と化したこと、他の柱にはまだ言わない方がいいと思うんだ。けれど、彼が不在というだけで皆いつもよりぴりぴりしている」
杏寿郎さんは他の柱からもとても好かれている存在だった。そのさっぱりして快活で明るい性格によって、彼らの仲を上手く取り持つ、繋ぎや潤滑油のような役割を担っていた。
それが無くなって、余計に空気が悪くなったのかもしれない。
「彼らは君の居場所含め、杏寿郎を探しているから気をつけて欲しい。ただ、いつかは知られてしまうかもしれない。万が一知られてしまった時は、私から言えるように手配しておこうね」
「ありがとうございます」
バックに御館様。なんと心強い!
「だからね、朝緋。
どうか杏寿郎が、これ以上鬼にならないようにしてあげてね」
すう、と目を細めた御館様にそう言われた。
「?彼はもう鬼ですが」
「そうだね。
……朝緋の心の平穏を願っているよ」
下げていた頭をゆるりと撫でられた。
心の……?体じゃなくて、心の平穏なんだ?
「ありがとう……ございます」
今後の拠点、そして今後どのように動けばいいのかの話になった。
「炎柱邸はお勧めしない。柱達が暇を見つけては見に行っている場所だからね。
逆に、生家には見に行っていないよ。一度訪れた時に、槇寿朗がここには杏寿郎も朝緋もいないと、皆を追い返してしまってね。杏寿郎達を隠しているようなそんな様子ではなく、ひどく落ち込んでいるような様相のそれを前に、柱達が遠慮してしまったんだ」
「父様、無事なんですね。よかった……」
「槇寿朗も君達の弟千寿郎も無事だよ。
責任を感じて腹を切ったりはしていないから安心して。朝緋は危惧していたよね?」
「……、はい」
そんなことまで御館様は察していたのか。
「槇寿朗は、鬼であろうとも杏寿郎を迎え入れる準備している。彼らは待っている。
羽織だけ帰ってくるなんて悲しいだろう?帰る気があるなら帰っておあげ」
生家に、煉獄家に帰れる……!帰ってもいいのですね、槇寿朗さんっ!千寿郎っ!!
家族に会いたい……!!
「はいっ!!」
ここで初めて大きく明るく、返事ができた。
「任務の指令はこれまで通りに朝緋に送る。けれど、その頻度は少なくしておくよ。君にはなるべく杏寿郎についていてもらわないといけないから。もちろん、強い者の手が欲しい時は頼まざるを得ないけどね。
炎柱が不在となっている今、その担当地区の見回りや、行くはずだった任務は他の隊士、他の柱にまわっている。なのに鬼の動きはここ最近活発で。猫の手も……ううん、鬼の手も借りたい状態、かな」
「うっすみません……耳に痛いですね……」
特に、杏寿郎さん不在で増えた仕事についてが。
「ふふ。最後のはちょっとした冗談を言ってみたかっただけだから気にしないで?」
御館様も冗談言うんだね。