四周目 捌
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それから何度目かの鬼討伐任務。
今回の鬼はなかなか強く、体は巨大で鋭い鎌のような腕を何本も持つ異形の鬼だった。もはや巨大なカマキリの化け物。いや、地球に三分間だけいられるヒーローに退治されるような怪獣だ。顔は人というのが気持ち悪いけど。
そして、強いといってもこんな鬼如きに遅れを取る私ではない。三分どころか、一分で討伐してやる。
「お前の頸貰い受ける!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!」
私に向かって仕掛けられた鎌を飛び上がってかわしきる。
そのまま、次々繰り出される鎌の腕の中を掻い潜り、鬼の頸に刃を走らせた。
その際、肩口に鎌がザクリと食い込み、血があたりに飛び散ったが気にする暇はない。
「お前、稀血だった、か……けひひっ!美味いなぁ……これで、俺も強、く、」
ぼとりと落ちた頸に。その口元にも血が飛び、鬼が舌を這わして舐め取っている。
けれどその頸はすでに斬れてしまっていて。
「私が稀血だからなんだというの。馬鹿ね、頸を斬られた鬼が今更飲んだところで治るわけもないのに」
なのに私を食おうと、消えつつある腕をこちらに伸ばして。いつまでも笑っている鬼に引導を渡すべく、日輪刀を今一度走らせる。
私の炎が鬼をあの世へと導いた。
それにしても肩口がズキズキと痛い。負傷は久しぶりのことで。鬼の鎌に毒はなさそうだからいいけど、出血がなかなか止まらない。
巻いた包帯も、血が染みに染みて、そのうち使い物にならなくなるだろう。もう替えがないのになあ。
今いるのは荒屋というより、廃村にあった大きめの屋敷だ。つい最近までは人がいたのか、この屋敷のみまだ使えるものも多く、食料もあるのでありがたく頂戴している。……多分、今回の鬼による被害を受けた村だと思う。全員が鬼に、というより一部村の人間が逃げ出し、村を完全に捨てたという感じ。他のお家はボロボロで住めたものじゃない。
杏寿郎さんの元へ戻り、任務終了を伝えると、労いの言葉と共に、怪我したことを盛大に指摘された。
「待て、朝緋!怪我をしたのだな!?どうりで血の匂いがすると思った!!」
「ええまあ。こんなの擦り傷ですよ。包帯の見た目が仰々しいけど」
「頸は斬れているのだろうな!朝緋の血を得た鬼は強くなる!逃してはいないか!?」
「実は血を舐められました。ですがそれは、既に頸を刎ねたあとです」
「そうか、ならよかった……ってそこじゃない!
だめだ、寄るな、寄るな寄るな……ここを出ろ!頼むから、その血を、朝緋の体を近づけないでくれ!せめて血が止まるまでこの屋敷ではないところに行っていてくれ!!君は稀血なんだぞ!?」
寄るなって、出てけって。必死だけど雑にも見えるほど、手で何度もシッシッと追い出そうとしてくる。
「稀血だからって、出血してるからってそれ酷くない?こんな夜更けにどこへ行けと?近くに藤の家もないってのに。それこそ違う鬼に狙われちゃうよ。貴方以外の鬼に襲われちゃうよ」
そうなったら頸をすぱすぱ斬り落とすけど。頸落とし祭り開催じゃー。
「確かに。酷いことを言ってしまった、すまない。……なあ、藤の香はないのか?いつも人に渡すためと持ち歩いていたろう」
「無限列車の中で人に渡したものが最後」
「むう……せめて匂いを防ぐことができればなあ」
「んー。これなら平気では?」
手拭いを渡して耳で縛り、簡易マスク完成。鼻栓してる姿は見たくないからやめておいた。
ただし匂いは平気になっても、目の前には血色に染まった包帯姿。その後も杏寿郎さんはちらちらと、包帯を巻いた箇所を見てきた。隊服で隠してみたけど、そこに傷があるとわかってるから無意味そうだね。
「仰々しいと言っていたが、そこまで傷は深くないのだったな。痛みはどうだ?」
「痛みは大丈夫。回復の呼吸もしてるから、もう血も止まるし」
血を飲みたい思いと血を飲みたくない思い。常に戦う貴方は、私の言葉にやっと胸を撫で下ろす。
ずいと近寄ってきて、二人の距離が少し縮む。隣同士で囲炉裏を囲む中、今は拳一つ分しか間は空いていない。
「……こうしていると、君と二人、夫婦として慎ましやかに暮らしているかのような気分になるな」
「そうですね」
「また朝緋に触れられたらいいのに……」
「え、触ればいいじゃない?散々、私のあちこちに触れてきた人が何を今さら」
「今の俺では駄目だ。爪で君が傷つく」
鋭く長い漆黒の爪。人を簡単に傷つけてしまいそうでパッと見は恐ろしいけれど気をつければ大丈夫だ。
手が鋏の男性も、愛する者を傷つけたくなくて壊れ物を扱う時のようにそっとそっと触れていた。……でもあれは映画の話。
「ヘーキだよ。ほら、こうしても平気。傷つける気がないなら意外と傷なんてつかないものだよ。鬼に変わってすぐも、私のこと、わがままだなって、腕の中に入れてくれたじゃない。忘れた?」
手のひらを重ね、そして指を絡めあって握る。私の指がすぐ近くにあることが怖いのか、当たりそうな爪を少しだけ浮かそうとしてくる。
そう、そういう考慮ができれば。思いやりがあれば、鬼だって人と共にいられる。
「朝緋……。
なあ、また君を抱きしめていいか?」
手は外され、背中にぎゅうと回される腕。その鼓動も、今までの杏寿郎さんのままで。
「もう抱きしめてるじゃない。
……あ、待って。私、鬼殺後でいっぱい汗かいてるの。恥ずかしいから、抱きしめてくれるなら体を拭いてからがいいな」
「俺は気にしない」
そう言ってさらに強く抱きしめてくる。
「私が気にする!
お風呂のお湯を沸かすから杏寿郎さんも入ろうよ。鬼だってお風呂くらい入るよ!」
「そうだな。水浴びをする鬼も見たことがあったな。だが、共に入るのだけは駄目だ」
「そう、だね……それは今はやめておこっか。杏寿郎さん、お風呂が沸いたら先に入ってきてよ」
まだ沸いていないのに、私は杏寿郎さんの体をぐいぐい押した。
杏寿郎さんがすっかりお風呂で温まったあと、次は私がお風呂をいただいてきた。替えの服はないので、この家にあった適当な浴衣をお借りした。
杏寿郎さんもそうだ。隊服を脱ぎ、この家の主人の物と思しき着流しを身に纏っている。
「あれ?血みどろの包帯、脱いだ隊服と一緒に置いたはずだけど……ないなあ」
呼吸を極めているから血は止まったしもう必要ないとはいえ、ないのは不自然。だって、隊服はあるんだよ?ねずみでも出て持ってった?あんなゴミを?
不思議に思いながら、杏寿郎さんのいる部屋に戻ると。
そこには包帯を持っていったねずみがいた。
今回の鬼はなかなか強く、体は巨大で鋭い鎌のような腕を何本も持つ異形の鬼だった。もはや巨大なカマキリの化け物。いや、地球に三分間だけいられるヒーローに退治されるような怪獣だ。顔は人というのが気持ち悪いけど。
そして、強いといってもこんな鬼如きに遅れを取る私ではない。三分どころか、一分で討伐してやる。
「お前の頸貰い受ける!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!」
私に向かって仕掛けられた鎌を飛び上がってかわしきる。
そのまま、次々繰り出される鎌の腕の中を掻い潜り、鬼の頸に刃を走らせた。
その際、肩口に鎌がザクリと食い込み、血があたりに飛び散ったが気にする暇はない。
「お前、稀血だった、か……けひひっ!美味いなぁ……これで、俺も強、く、」
ぼとりと落ちた頸に。その口元にも血が飛び、鬼が舌を這わして舐め取っている。
けれどその頸はすでに斬れてしまっていて。
「私が稀血だからなんだというの。馬鹿ね、頸を斬られた鬼が今更飲んだところで治るわけもないのに」
なのに私を食おうと、消えつつある腕をこちらに伸ばして。いつまでも笑っている鬼に引導を渡すべく、日輪刀を今一度走らせる。
私の炎が鬼をあの世へと導いた。
それにしても肩口がズキズキと痛い。負傷は久しぶりのことで。鬼の鎌に毒はなさそうだからいいけど、出血がなかなか止まらない。
巻いた包帯も、血が染みに染みて、そのうち使い物にならなくなるだろう。もう替えがないのになあ。
今いるのは荒屋というより、廃村にあった大きめの屋敷だ。つい最近までは人がいたのか、この屋敷のみまだ使えるものも多く、食料もあるのでありがたく頂戴している。……多分、今回の鬼による被害を受けた村だと思う。全員が鬼に、というより一部村の人間が逃げ出し、村を完全に捨てたという感じ。他のお家はボロボロで住めたものじゃない。
杏寿郎さんの元へ戻り、任務終了を伝えると、労いの言葉と共に、怪我したことを盛大に指摘された。
「待て、朝緋!怪我をしたのだな!?どうりで血の匂いがすると思った!!」
「ええまあ。こんなの擦り傷ですよ。包帯の見た目が仰々しいけど」
「頸は斬れているのだろうな!朝緋の血を得た鬼は強くなる!逃してはいないか!?」
「実は血を舐められました。ですがそれは、既に頸を刎ねたあとです」
「そうか、ならよかった……ってそこじゃない!
だめだ、寄るな、寄るな寄るな……ここを出ろ!頼むから、その血を、朝緋の体を近づけないでくれ!せめて血が止まるまでこの屋敷ではないところに行っていてくれ!!君は稀血なんだぞ!?」
寄るなって、出てけって。必死だけど雑にも見えるほど、手で何度もシッシッと追い出そうとしてくる。
「稀血だからって、出血してるからってそれ酷くない?こんな夜更けにどこへ行けと?近くに藤の家もないってのに。それこそ違う鬼に狙われちゃうよ。貴方以外の鬼に襲われちゃうよ」
そうなったら頸をすぱすぱ斬り落とすけど。頸落とし祭り開催じゃー。
「確かに。酷いことを言ってしまった、すまない。……なあ、藤の香はないのか?いつも人に渡すためと持ち歩いていたろう」
「無限列車の中で人に渡したものが最後」
「むう……せめて匂いを防ぐことができればなあ」
「んー。これなら平気では?」
手拭いを渡して耳で縛り、簡易マスク完成。鼻栓してる姿は見たくないからやめておいた。
ただし匂いは平気になっても、目の前には血色に染まった包帯姿。その後も杏寿郎さんはちらちらと、包帯を巻いた箇所を見てきた。隊服で隠してみたけど、そこに傷があるとわかってるから無意味そうだね。
「仰々しいと言っていたが、そこまで傷は深くないのだったな。痛みはどうだ?」
「痛みは大丈夫。回復の呼吸もしてるから、もう血も止まるし」
血を飲みたい思いと血を飲みたくない思い。常に戦う貴方は、私の言葉にやっと胸を撫で下ろす。
ずいと近寄ってきて、二人の距離が少し縮む。隣同士で囲炉裏を囲む中、今は拳一つ分しか間は空いていない。
「……こうしていると、君と二人、夫婦として慎ましやかに暮らしているかのような気分になるな」
「そうですね」
「また朝緋に触れられたらいいのに……」
「え、触ればいいじゃない?散々、私のあちこちに触れてきた人が何を今さら」
「今の俺では駄目だ。爪で君が傷つく」
鋭く長い漆黒の爪。人を簡単に傷つけてしまいそうでパッと見は恐ろしいけれど気をつければ大丈夫だ。
手が鋏の男性も、愛する者を傷つけたくなくて壊れ物を扱う時のようにそっとそっと触れていた。……でもあれは映画の話。
「ヘーキだよ。ほら、こうしても平気。傷つける気がないなら意外と傷なんてつかないものだよ。鬼に変わってすぐも、私のこと、わがままだなって、腕の中に入れてくれたじゃない。忘れた?」
手のひらを重ね、そして指を絡めあって握る。私の指がすぐ近くにあることが怖いのか、当たりそうな爪を少しだけ浮かそうとしてくる。
そう、そういう考慮ができれば。思いやりがあれば、鬼だって人と共にいられる。
「朝緋……。
なあ、また君を抱きしめていいか?」
手は外され、背中にぎゅうと回される腕。その鼓動も、今までの杏寿郎さんのままで。
「もう抱きしめてるじゃない。
……あ、待って。私、鬼殺後でいっぱい汗かいてるの。恥ずかしいから、抱きしめてくれるなら体を拭いてからがいいな」
「俺は気にしない」
そう言ってさらに強く抱きしめてくる。
「私が気にする!
お風呂のお湯を沸かすから杏寿郎さんも入ろうよ。鬼だってお風呂くらい入るよ!」
「そうだな。水浴びをする鬼も見たことがあったな。だが、共に入るのだけは駄目だ」
「そう、だね……それは今はやめておこっか。杏寿郎さん、お風呂が沸いたら先に入ってきてよ」
まだ沸いていないのに、私は杏寿郎さんの体をぐいぐい押した。
杏寿郎さんがすっかりお風呂で温まったあと、次は私がお風呂をいただいてきた。替えの服はないので、この家にあった適当な浴衣をお借りした。
杏寿郎さんもそうだ。隊服を脱ぎ、この家の主人の物と思しき着流しを身に纏っている。
「あれ?血みどろの包帯、脱いだ隊服と一緒に置いたはずだけど……ないなあ」
呼吸を極めているから血は止まったしもう必要ないとはいえ、ないのは不自然。だって、隊服はあるんだよ?ねずみでも出て持ってった?あんなゴミを?
不思議に思いながら、杏寿郎さんのいる部屋に戻ると。
そこには包帯を持っていったねずみがいた。