四周目 捌
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私達からの文を待っていたのか、すぐに御館様からの返事は届いた。
人を食うか食わないか。それがわからないから認めるとの話はひとつもない。当たり前だ。証人が私しかいない以上、杏寿郎さんが元柱だとしても、そう簡単に認められはしない。禰󠄀豆子ちゃんのように、実績は一つたりともない。
いや、元柱だからこそ、それが敵側に堕ちた時を考え、認めてはもらえないのだろう。
けれど、今のこの状態での私の任務復帰は認められた。指令を送るので近場の鬼殺をと、書いてある。因みに言うと炎柱は不在の、空席扱いに戻った。
……他の柱はどう考えているんだろう。何をしているだろう。探していたりして?手紙に書いていないからわからないけれど、知るのはちょっと怖い。
煉獄杏寿郎の様子がどちらに転ぶか確定したら、また連絡をと書いてある。それとは別に、呪いが解けた場合もだ。
きっとその時に本部に行くか行かないか、処罰があるかないのかが決まる。
「御館様からの文にはなんと?」
「認める認めないは、禰󠄀豆子ちゃんと違って鬼になってからの日にちが浅すぎて決められないみたい」
「そんな気はしていた」
いつもなら手紙を覗き込んでくるのに、鬼になってからというもの、変なところで遠巻きになった。少し離れたところから私を見て、内容を聞いてくる。柱の影から見るのはやめい。どこぞの家政婦みたいだよ。
「で、私へのお咎めは今のところなくて、鬼殺を続けることになったよ。ちょうどこの先にある街道で鬼が出没するとのことでその討伐指令が出てる」
鬼殺隊はいつでも人員不足だものね。猫の手も借りたいというやつだ。うにゃー。
「なるほど。俺も行こう!竈門妹のように、俺も鬼殺隊の一員として戦えることを示さねば!」
「杏寿郎さんはまだ駄目」
「何故!?炎の呼吸なら使えるぞ!」
「人換算では馬鹿強くても、鬼としてはまだ弱いはずです。何も食べていませんし、いつ他の鬼と共鳴して理性を失うかどうかもわからない。だから貴方はお留守番です」
「むう……仕方ないか。今の俺は飢えという火薬を詰めた爆弾を抱えているようなものだものな」
爆弾なんかに例えないで欲しい。
他にこれしかないから食べている兵糧丸。それを口にする私を眺めながら、杏寿郎さんがつぶやく。
「鬼は人の肉以外を食べられないのだろうか」と。明槻は特殊な鬼だからともかく、他の鬼では聞いたことがない。長年の疑問だ。
「携帯食の兵糧丸しかないけど、食べてみる?」
試しに一粒渡す。私が作ったものなので、忍者が口にしているような栄養価の高いものとは違うけど、味は甘くておいしい。あとカロリーも高い。つまりお菓子であり、杏寿郎さんも好きなやつだ。
でも、駄目だったみたいで。
「ーーがは、ごほっ!……食べられないようだな。胃が受け付けん。
こんなに美味そうな香りだというに残念だ……」
兵糧丸に匂いは皆無。杏寿郎さんがいい匂いだと発し、手にとったのは。
「杏寿郎さん!これは私の腕ですよ!齧らないで!?」
「よ、よもやっ!すまん!!」
私の腕だった。一瞬にして袖を捲り上げ、一の腕に唇を寄せて牙を見え隠れさせていた。謝りながらも、食べたくてたまらないとその目が語る。
健啖家で食べることが大好きな杏寿郎さんから、食事を奪ってしまった。何も食べられないだなんて、私だったら絶対に耐えられないのに。
「やっぱり……私の事、食べてみます?指一本くらいなら最悪無くったって刀は握れ、」
「そういう冗談は言うものじゃない!」
喉奥で唸り私を叱りつけながらも、瞳孔を更に縦に割って私の指を「いつ喰おう?今喰うか?」と凝視している彼。
鬼としての感情は、目の表面や視線の動きでもう、よくわかるようになった。
その後私は杏寿郎さんをこの地に置いて、鬼の討伐に街道へと向かった。
鬼は大した強さでもなく、血鬼術ひとつ使えないまだまだ弱い個体だった。
血鬼術か……杏寿郎さんも力をつけたら、何かしら使えるようになるのだろうか。
でも、食事も出来ない、禰󠄀豆子ちゃんのように眠りで強くなる事も出来ないなら、どうやって身体能力を強化するの。どうやって血鬼術を得るの。
生きてさえいてくれればそれでいいと私は思っているけれど、杏寿郎さんならどうせ鬼として生きるなら、禰󠄀豆子ちゃんのように強く、そして人を助く良き鬼に、と考えているはず。
薄闇に消えていく鬼の体を横目に、腰に日輪刀を収めながら考えてみた。
御館様も、もしかしたら血鬼術の獲得をと考えているかもしれない。言い方は悪いけど、鬼を滅する為には鬼も利用する。そういうところもあるのが御館様だから。
でも組織のトップという者は時に冷たくシビアにならなくちゃいけないし、そんなところも人間臭くて私は慕っている。
……とにかく急いで戻ろう。杏寿郎さんが待ってる。
「ただいま」
まだ朝は遠く、空は深い藍色に落ち着いている中、荒屋へと戻る。ちなみにこの荒屋、すでに三軒目。これで簡単には見つからないね。
杏寿郎さんは、まるで観篝のようにして、焚かれた囲炉裏の炎を見つめていた。
瞳が鬼色の紅でなく、炎に照らされた影響か、元の杏寿郎さんの瞳の色に見える。燃えるように温かい色だ。
その目がちらりと私を向いた。
「おかえり、怪我はないようだな」
「雑魚の鬼なんかに遅れをとる私じゃありません」
「……雑魚、か。
俺も今は雑魚のようなものだ」
「杏寿郎さんが雑魚?ありえない……元柱の鬼ですよ?今すぐは無理でも、そのうち上弦の鬼になるほどの強さをお持ちだと思います」
「そんなものになる気はない」
うん知ってる。
鬼殺後の日輪刀の手入れを行っていれば、遠目から覗いてきた。御自身だって、今まで散々手入れしてきた日輪刀をだ。
「……何?珍しいものでも見たみたいな顔だね」
「朝緋には申し訳ないが、鬼を討伐したあとそのまま俺の頸を斬ってくれればいいものを、と思ってしまってな」
「それは絶対にしません!!」
そこだけは大声ではっきりと言い切る。
「それに、飢餓状態が落ち着くなど変化があったり、呪いが解けている、などがあればお館様にも報告しなくちゃいけませんからね」
「そうだったな。
呪いか……。奴の名を言えればよいのだが」
「はい。でもまだ今は、言うのも考えるのもやめておきましょう?万が一貴方を失うことがあれば私は……」
かつて貴方は、無限列車の任務で命を落とした私を追って、自らも死を選んだ。
それと同じだ。私も、杏寿郎さんを失いたくない。
ただでさえ、あんなにもならないと言っていた鬼にまでその身を落とさせて、後ろめたさでいっぱいなのに。
なのに貴方を失うことがあれば、私の心は申し訳ない思いや悲しさ、つらい気持ち、絶望……ありとあらゆる負の感情であふれて壊れてしまう。
私も杏寿郎さんの後を追って死を選ぶだろう。
人を食うか食わないか。それがわからないから認めるとの話はひとつもない。当たり前だ。証人が私しかいない以上、杏寿郎さんが元柱だとしても、そう簡単に認められはしない。禰󠄀豆子ちゃんのように、実績は一つたりともない。
いや、元柱だからこそ、それが敵側に堕ちた時を考え、認めてはもらえないのだろう。
けれど、今のこの状態での私の任務復帰は認められた。指令を送るので近場の鬼殺をと、書いてある。因みに言うと炎柱は不在の、空席扱いに戻った。
……他の柱はどう考えているんだろう。何をしているだろう。探していたりして?手紙に書いていないからわからないけれど、知るのはちょっと怖い。
煉獄杏寿郎の様子がどちらに転ぶか確定したら、また連絡をと書いてある。それとは別に、呪いが解けた場合もだ。
きっとその時に本部に行くか行かないか、処罰があるかないのかが決まる。
「御館様からの文にはなんと?」
「認める認めないは、禰󠄀豆子ちゃんと違って鬼になってからの日にちが浅すぎて決められないみたい」
「そんな気はしていた」
いつもなら手紙を覗き込んでくるのに、鬼になってからというもの、変なところで遠巻きになった。少し離れたところから私を見て、内容を聞いてくる。柱の影から見るのはやめい。どこぞの家政婦みたいだよ。
「で、私へのお咎めは今のところなくて、鬼殺を続けることになったよ。ちょうどこの先にある街道で鬼が出没するとのことでその討伐指令が出てる」
鬼殺隊はいつでも人員不足だものね。猫の手も借りたいというやつだ。うにゃー。
「なるほど。俺も行こう!竈門妹のように、俺も鬼殺隊の一員として戦えることを示さねば!」
「杏寿郎さんはまだ駄目」
「何故!?炎の呼吸なら使えるぞ!」
「人換算では馬鹿強くても、鬼としてはまだ弱いはずです。何も食べていませんし、いつ他の鬼と共鳴して理性を失うかどうかもわからない。だから貴方はお留守番です」
「むう……仕方ないか。今の俺は飢えという火薬を詰めた爆弾を抱えているようなものだものな」
爆弾なんかに例えないで欲しい。
他にこれしかないから食べている兵糧丸。それを口にする私を眺めながら、杏寿郎さんがつぶやく。
「鬼は人の肉以外を食べられないのだろうか」と。明槻は特殊な鬼だからともかく、他の鬼では聞いたことがない。長年の疑問だ。
「携帯食の兵糧丸しかないけど、食べてみる?」
試しに一粒渡す。私が作ったものなので、忍者が口にしているような栄養価の高いものとは違うけど、味は甘くておいしい。あとカロリーも高い。つまりお菓子であり、杏寿郎さんも好きなやつだ。
でも、駄目だったみたいで。
「ーーがは、ごほっ!……食べられないようだな。胃が受け付けん。
こんなに美味そうな香りだというに残念だ……」
兵糧丸に匂いは皆無。杏寿郎さんがいい匂いだと発し、手にとったのは。
「杏寿郎さん!これは私の腕ですよ!齧らないで!?」
「よ、よもやっ!すまん!!」
私の腕だった。一瞬にして袖を捲り上げ、一の腕に唇を寄せて牙を見え隠れさせていた。謝りながらも、食べたくてたまらないとその目が語る。
健啖家で食べることが大好きな杏寿郎さんから、食事を奪ってしまった。何も食べられないだなんて、私だったら絶対に耐えられないのに。
「やっぱり……私の事、食べてみます?指一本くらいなら最悪無くったって刀は握れ、」
「そういう冗談は言うものじゃない!」
喉奥で唸り私を叱りつけながらも、瞳孔を更に縦に割って私の指を「いつ喰おう?今喰うか?」と凝視している彼。
鬼としての感情は、目の表面や視線の動きでもう、よくわかるようになった。
その後私は杏寿郎さんをこの地に置いて、鬼の討伐に街道へと向かった。
鬼は大した強さでもなく、血鬼術ひとつ使えないまだまだ弱い個体だった。
血鬼術か……杏寿郎さんも力をつけたら、何かしら使えるようになるのだろうか。
でも、食事も出来ない、禰󠄀豆子ちゃんのように眠りで強くなる事も出来ないなら、どうやって身体能力を強化するの。どうやって血鬼術を得るの。
生きてさえいてくれればそれでいいと私は思っているけれど、杏寿郎さんならどうせ鬼として生きるなら、禰󠄀豆子ちゃんのように強く、そして人を助く良き鬼に、と考えているはず。
薄闇に消えていく鬼の体を横目に、腰に日輪刀を収めながら考えてみた。
御館様も、もしかしたら血鬼術の獲得をと考えているかもしれない。言い方は悪いけど、鬼を滅する為には鬼も利用する。そういうところもあるのが御館様だから。
でも組織のトップという者は時に冷たくシビアにならなくちゃいけないし、そんなところも人間臭くて私は慕っている。
……とにかく急いで戻ろう。杏寿郎さんが待ってる。
「ただいま」
まだ朝は遠く、空は深い藍色に落ち着いている中、荒屋へと戻る。ちなみにこの荒屋、すでに三軒目。これで簡単には見つからないね。
杏寿郎さんは、まるで観篝のようにして、焚かれた囲炉裏の炎を見つめていた。
瞳が鬼色の紅でなく、炎に照らされた影響か、元の杏寿郎さんの瞳の色に見える。燃えるように温かい色だ。
その目がちらりと私を向いた。
「おかえり、怪我はないようだな」
「雑魚の鬼なんかに遅れをとる私じゃありません」
「……雑魚、か。
俺も今は雑魚のようなものだ」
「杏寿郎さんが雑魚?ありえない……元柱の鬼ですよ?今すぐは無理でも、そのうち上弦の鬼になるほどの強さをお持ちだと思います」
「そんなものになる気はない」
うん知ってる。
鬼殺後の日輪刀の手入れを行っていれば、遠目から覗いてきた。御自身だって、今まで散々手入れしてきた日輪刀をだ。
「……何?珍しいものでも見たみたいな顔だね」
「朝緋には申し訳ないが、鬼を討伐したあとそのまま俺の頸を斬ってくれればいいものを、と思ってしまってな」
「それは絶対にしません!!」
そこだけは大声ではっきりと言い切る。
「それに、飢餓状態が落ち着くなど変化があったり、呪いが解けている、などがあればお館様にも報告しなくちゃいけませんからね」
「そうだったな。
呪いか……。奴の名を言えればよいのだが」
「はい。でもまだ今は、言うのも考えるのもやめておきましょう?万が一貴方を失うことがあれば私は……」
かつて貴方は、無限列車の任務で命を落とした私を追って、自らも死を選んだ。
それと同じだ。私も、杏寿郎さんを失いたくない。
ただでさえ、あんなにもならないと言っていた鬼にまでその身を落とさせて、後ろめたさでいっぱいなのに。
なのに貴方を失うことがあれば、私の心は申し訳ない思いや悲しさ、つらい気持ち、絶望……ありとあらゆる負の感情であふれて壊れてしまう。
私も杏寿郎さんの後を追って死を選ぶだろう。