四周目 捌
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隣から朝緋を止める声がした。
「朝緋さん!やめてあげてください!」
目だけを動かして見てみれば、悲痛な顔をした竈門少年がそこに立っていた。
竈門少年……すぐそばにいたのか。猪頭少年も、それから黄色い少年もいたのだな。
一つも気配を察知できなかった。そんなこともわからないなんて、柱失格だな。
いや、鬼になるのなら俺はもう柱ではない。鬼殺隊隊士ですらなくなるのだろう。
不死川あたりに知られれば、脅威とみなされ、頸を斬られるだろうなあ。
「鬼に変貌する苦痛に必死に耐えながらも、飲みたくないという匂いを発している煉獄さんに、朝緋さんは無理矢理血を与えるんですか!」
天の助けにも思える竈門少年の言葉。そうだ、どうか俺の気持ちを代弁してくれ。
「炭治郎……そんな、私は無理矢理だなんて、」
「朝緋さんはーー、」
「炭治郎。お願い、今は見逃して。血を少し与えるだけなの。
潰れてしまった左目。お腹の穴。折れた肋骨……怪我を綺麗に治してあげたいだけなの。
私の血を飲めば、きっと治るはずだから」
治るだろうとも。でも頼むからやめてくれ。俺はまだ人間だが、既に変わりたての鬼と同様の存在。一番飢餓がひどい状態ゆえ、今血を飲めば終わりだ。人間性が失われてしまう可能性がある。
日輪刀を肌に滑らせようとする朝緋の手を、竈門少年が止めてくれた。
「一度血を口にすれば終わりです。血の味を覚えてしまえば終わりなんです。禰󠄀豆子もそれをわかっているから、決して人の血を口にしないんです」
「終わりだなんて、そんなことはない。この人に限ってそんなことは……禰󠄀豆子ちゃんだって、きっと大丈夫で、」
「そう言って鬼となった肉親、友達、恋人……大切な人に血や肉を与え、結局食われてしまった人をこれまでの任務下で見たことはないのですか?朝緋さんほどの階級なら、そういう場面に遭遇したことはある、違いますか?」
「それは……」
ああ、あるな。俺もあるが、朝緋もそういった場面を幾度となく目にしてきた。
大切な相手が鬼となり、自分の身を差し出してしまい、その味を前に理性を失ってしまい殺された人達。
朝緋、何人も見てきたことを思い出せ。
その者達は揃って皆『この人は大丈夫』と、俺達が鬼の頸を斬るのを邪魔してきただろう。今の朝緋もそれと同じだ。
「鬼に変わっていっているのは確実です。だから血は与えずに待ってあげてください。
煉獄さんもまた、理性を失わず禰󠄀豆子のような人を守る優しい鬼になると信じてます。だから、俺は煉獄さんの頸を斬ったりもしません。
善逸と伊之助も同じ気持ちです」
竈門少年ーーっ!君はなんて良い子なんだ!!朝緋を盗られると思った自分が恥ずかしくてたまらない!
叶うことなら、他の二人含めてまとめて継子にしたかったよ……。
「でも、炭治郎……どうするんだ。このままだとその内隠が来ちゃうぞ。煉獄さんが鬼に……ってバレちまう」
「俺達はギョロ目が鬼になるのを待っているわけにはいかねぇ……。まだら、お前はどうすんだ?」
竈門少年達の視線が朝緋に集まり、朝緋が俺の髪を柔らかく撫でながら呟くように言葉を発する。
俺も君の髪に触れたい。君を抱きしめたいなあ。
「私は杏寿郎さんを連れてしばらく隠れる。今の杏寿郎さんを、隠にも他の隊士にも見せるわけにいかないもの。
貴方達には任務の報告義務があるし、今回の怪我の治療もある。それが終われば他の任務も言い渡されるでしょう。ここは任せて戻って。
とりあえずね、禰󠄀豆子ちゃんを容認してくれた御館様ならきっとわかってくれると思うの。あとで私からも鎹烏経由で伝えるけれど、炭治郎達からも報告の際に、話をしておいてくれると助かる」
御館様は竈門妹をお認めになった人だからな。俺が同じように人を食べぬ鬼になるのであれば、わかっていただけるだろう。だがそれは二年もの間という事実あってのこと。変わりたての俺を容認してくれるかというと別だろうに、朝緋のその自信はどこからくる?
「御館様にだけなんて、他の柱が不審がると思うのですが」
「そうね。それでこの付近を探されたら困るかもね……早めに違う場所に逃げるよ。あと、柱ではないけれど、他にも私達のことを伝えてほしい相手がいるの。頼まれてくれる?」
「もちろんです」
そう言って朝緋が俺から炎柱の羽織を外した。自らの羽織も脱いで、竈門少年に渡している。
「どうかこれを、煉獄家の生家に届けて」
俺の赤い炎と朝緋の青い炎。それを脱ぐということは、煉獄家との義絶、鬼殺隊脱退を仄めかしているようなもの。
俺のため全てを捨てる覚悟をしていたのか。それだけの決意を胸に、俺を鬼に……。
朝緋は俺を選んだ。優越感からかその事実に、喉が鳴りそうだった。飢えを感じた。目の前の自身の番を噛みたい、食べたい、血を啜りたい。そんな思いが湧いてしまった。
いや、それは駄目だ。その欲求は全力で抑えておかねばな。
「それと炭治郎が列車の中で杏寿郎さんに聞いていたヒノカミ神楽。それについての記述が、私達の生家、煉獄家に保管されている歴代の炎柱の書の中にあるかもしれない」
「ええっ。ヒノカミ神楽が、煉獄さんの家に……?」
「煉獄槇寿朗……私達の父様に読ませてもらうよう頼んでみて。私が許可したと伝えれば、きっと読ませてくれるはず」
歴代の炎柱の書……父上がよく読んでいたな。炎の呼吸の指南書とは違うので、俺は読まなかったが、よもや朝緋はたくさんあるあの書まで読んでいたのか。いや、朝緋は勤勉だから読んでいてもおかしくない。
「ヒノカミ神楽のことまで気にかけてくださり、ありがとうございます。あの……何か他に言伝はないんですか?」
「父様と弟の千寿郎には不出来な娘で。姉で御免なさいと、一言伝えてくれればいいよ。何を言おうとしたところで、謝る以外の言葉が見つからないもの。
羽織だけで、私の気持ちは十分に伝わる」
眉根を下げた朝緋が、切なく笑った。
「朝緋さん!やめてあげてください!」
目だけを動かして見てみれば、悲痛な顔をした竈門少年がそこに立っていた。
竈門少年……すぐそばにいたのか。猪頭少年も、それから黄色い少年もいたのだな。
一つも気配を察知できなかった。そんなこともわからないなんて、柱失格だな。
いや、鬼になるのなら俺はもう柱ではない。鬼殺隊隊士ですらなくなるのだろう。
不死川あたりに知られれば、脅威とみなされ、頸を斬られるだろうなあ。
「鬼に変貌する苦痛に必死に耐えながらも、飲みたくないという匂いを発している煉獄さんに、朝緋さんは無理矢理血を与えるんですか!」
天の助けにも思える竈門少年の言葉。そうだ、どうか俺の気持ちを代弁してくれ。
「炭治郎……そんな、私は無理矢理だなんて、」
「朝緋さんはーー、」
「炭治郎。お願い、今は見逃して。血を少し与えるだけなの。
潰れてしまった左目。お腹の穴。折れた肋骨……怪我を綺麗に治してあげたいだけなの。
私の血を飲めば、きっと治るはずだから」
治るだろうとも。でも頼むからやめてくれ。俺はまだ人間だが、既に変わりたての鬼と同様の存在。一番飢餓がひどい状態ゆえ、今血を飲めば終わりだ。人間性が失われてしまう可能性がある。
日輪刀を肌に滑らせようとする朝緋の手を、竈門少年が止めてくれた。
「一度血を口にすれば終わりです。血の味を覚えてしまえば終わりなんです。禰󠄀豆子もそれをわかっているから、決して人の血を口にしないんです」
「終わりだなんて、そんなことはない。この人に限ってそんなことは……禰󠄀豆子ちゃんだって、きっと大丈夫で、」
「そう言って鬼となった肉親、友達、恋人……大切な人に血や肉を与え、結局食われてしまった人をこれまでの任務下で見たことはないのですか?朝緋さんほどの階級なら、そういう場面に遭遇したことはある、違いますか?」
「それは……」
ああ、あるな。俺もあるが、朝緋もそういった場面を幾度となく目にしてきた。
大切な相手が鬼となり、自分の身を差し出してしまい、その味を前に理性を失ってしまい殺された人達。
朝緋、何人も見てきたことを思い出せ。
その者達は揃って皆『この人は大丈夫』と、俺達が鬼の頸を斬るのを邪魔してきただろう。今の朝緋もそれと同じだ。
「鬼に変わっていっているのは確実です。だから血は与えずに待ってあげてください。
煉獄さんもまた、理性を失わず禰󠄀豆子のような人を守る優しい鬼になると信じてます。だから、俺は煉獄さんの頸を斬ったりもしません。
善逸と伊之助も同じ気持ちです」
竈門少年ーーっ!君はなんて良い子なんだ!!朝緋を盗られると思った自分が恥ずかしくてたまらない!
叶うことなら、他の二人含めてまとめて継子にしたかったよ……。
「でも、炭治郎……どうするんだ。このままだとその内隠が来ちゃうぞ。煉獄さんが鬼に……ってバレちまう」
「俺達はギョロ目が鬼になるのを待っているわけにはいかねぇ……。まだら、お前はどうすんだ?」
竈門少年達の視線が朝緋に集まり、朝緋が俺の髪を柔らかく撫でながら呟くように言葉を発する。
俺も君の髪に触れたい。君を抱きしめたいなあ。
「私は杏寿郎さんを連れてしばらく隠れる。今の杏寿郎さんを、隠にも他の隊士にも見せるわけにいかないもの。
貴方達には任務の報告義務があるし、今回の怪我の治療もある。それが終われば他の任務も言い渡されるでしょう。ここは任せて戻って。
とりあえずね、禰󠄀豆子ちゃんを容認してくれた御館様ならきっとわかってくれると思うの。あとで私からも鎹烏経由で伝えるけれど、炭治郎達からも報告の際に、話をしておいてくれると助かる」
御館様は竈門妹をお認めになった人だからな。俺が同じように人を食べぬ鬼になるのであれば、わかっていただけるだろう。だがそれは二年もの間という事実あってのこと。変わりたての俺を容認してくれるかというと別だろうに、朝緋のその自信はどこからくる?
「御館様にだけなんて、他の柱が不審がると思うのですが」
「そうね。それでこの付近を探されたら困るかもね……早めに違う場所に逃げるよ。あと、柱ではないけれど、他にも私達のことを伝えてほしい相手がいるの。頼まれてくれる?」
「もちろんです」
そう言って朝緋が俺から炎柱の羽織を外した。自らの羽織も脱いで、竈門少年に渡している。
「どうかこれを、煉獄家の生家に届けて」
俺の赤い炎と朝緋の青い炎。それを脱ぐということは、煉獄家との義絶、鬼殺隊脱退を仄めかしているようなもの。
俺のため全てを捨てる覚悟をしていたのか。それだけの決意を胸に、俺を鬼に……。
朝緋は俺を選んだ。優越感からかその事実に、喉が鳴りそうだった。飢えを感じた。目の前の自身の番を噛みたい、食べたい、血を啜りたい。そんな思いが湧いてしまった。
いや、それは駄目だ。その欲求は全力で抑えておかねばな。
「それと炭治郎が列車の中で杏寿郎さんに聞いていたヒノカミ神楽。それについての記述が、私達の生家、煉獄家に保管されている歴代の炎柱の書の中にあるかもしれない」
「ええっ。ヒノカミ神楽が、煉獄さんの家に……?」
「煉獄槇寿朗……私達の父様に読ませてもらうよう頼んでみて。私が許可したと伝えれば、きっと読ませてくれるはず」
歴代の炎柱の書……父上がよく読んでいたな。炎の呼吸の指南書とは違うので、俺は読まなかったが、よもや朝緋はたくさんあるあの書まで読んでいたのか。いや、朝緋は勤勉だから読んでいてもおかしくない。
「ヒノカミ神楽のことまで気にかけてくださり、ありがとうございます。あの……何か他に言伝はないんですか?」
「父様と弟の千寿郎には不出来な娘で。姉で御免なさいと、一言伝えてくれればいいよ。何を言おうとしたところで、謝る以外の言葉が見つからないもの。
羽織だけで、私の気持ちは十分に伝わる」
眉根を下げた朝緋が、切なく笑った。