二周目 弐
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そんな折に舞い込むのは、やはり鬼殺の任務。
まだ、瑠火さんの死から幾許もないというのになんたる仕打ち。そう思ってしまうが、恨むなら鬼を恨もう。
槇寿朗さんが柱である限り任務が回ってくるのは当然のことなんだから。
「……離島の任務が来た。行ってくる」
「はい、どうかお気をつけて」
離島?離島にまで鬼殺の任が回ってくるの?
さすがの鬼殺隊でもまだ諸外国でのみ運用が始まった飛行船は所持してないだろうし、たとえ人間やめてるように見える柱でも……おっと失敬。海を自力で渡るのは不可能。
船で行くのだろうから、往復航路を考えるとかなりの時間はかかるはず。
心が弱っていると、鬼殺にも影響が出る。無事に帰ってきますようにと、私は毎日お祈りをして待っていた。
結果的にいえば、その心配は全くなかった。
轟音と共にやってきた炎の一閃で、島に巣食っていた蛇のような鬼の頸を一瞬にして落としたそうだ。
どちらが鬼かわからないほどの鬼神ぶりを聞いて、私はわかった。
大切な人を失った悲しみ、巡り巡ってその元凶である者への怒りを、全て目の前の鬼にぶつけているのだ。
任務に対しやる気は少しずつ削がれているようだが、鬼を目の前にすると憎しみが湧いて腕が疼くのだろう。私も上弦の参を思うたびそうなるからわかる。
「しばらくお世話になります」
そして代わりにもたらされたのは、幼い姿をした後の蛇柱の存在だった。私を心配して蜜璃ちゃんと炎柱邸に寄ってくれたのがついこの間のことに感じる。だから少し小さい、このおどおどした姿は懐かしく感じるなあ。
でもこの頃だったっけ……うん、そうだ。この頃だ。
槇寿朗さんが離島の任務に行くと言って、八丈島に渡っていたではないか。
蛇のような女鬼に支配されていた島。そこで、座敷牢に飼われる形で長年囚われていたのが伊黒小芭内だ。彼は簪一本で座敷牢を削り続け逃げ出したらしい。すごい努力だ!
逃げたはいいが鬼に捕まって危ないところを、槇寿朗さんが鬼の頸を刎ねたと、そういうことだ。
鬼から助かった後、引き会わせられた生き残りの従姉妹は、激しく罵ってきたと聞いた。伊黒さんの一族のこともたくさん知った。
彼女たちにされ続けた悪行によって、女が苦手になったということも。
もっとも、聞いたのは伊黒さん本人からではなく、杏寿郎さんからだったが。
杏寿郎さんはあまりそういったことを秘密に出来ない。秘密にしてくれと言われているならともかく、そうでもないなら私相手にだと漏らすことがある。
人の感情の機微には敏感なのに、そこだけポンコツだ。伊黒さんが知られたくなかったかもしれないことを、知ってしまった。
ごめん、伊黒さん……。
背負う一族の業を思うと普通の人生は歩めそうにないと思ったらしい。伊黒さんが選んだのは、やはり『前』同様に鬼殺の道だった。
まあ、この人がただの弱い人なわけがないのは、私がよく知っているけども。
だって修行し出したのは私の方が早いのに、伊黒さんは私より先に鬼殺隊に入っていた。その上、のちの蛇柱ときた。
その粘り強い精神力は尊敬に値する。この人も努力の人なのだ。
槇寿朗さんが育手を見つけるまでの間、少しでも仲良くなろうと思ったんだけど……。
「伊黒さ、」
サッ!
「すみません、伊ぐ、」
ササッ!!
「い……」
シュバッ!!
「…………」
「わはは!朝緋は避けられてばかりなのだな!!」
くうう〜杏寿郎さん相手なら普通に話してるのに、私の姿を見ると蛇のようにスルスルと移動していつのまにかいなくなる!
関節の柔らかさまで駆使して逃げるとは侮れん……。いやほんと、相変わらず関節柔らかいなぁ。他のことに使って欲しい能力だわ。私も本気で追いかけないから何だろうけどさ。
でも女性苦手意識はそう簡単に薄れない、か。『前』はどうやって少しとは言え仲良くなったんだっけ?教えて私の記憶〜!
「伊黒さん!少しお話を……、」
ずべっ!
「ちょっと、大丈夫!?」
あいも変わらず逃げ出そうとしたけれど、伊黒さんは目の前でとうとう転けてしまった。
いくら関節が柔らかかろうと、体力はまだあまりついていないのだから仕方ない。箸より重いものはほとんど持ったことがないとの事だもの。
「俺に構うな。近づいてこないでくれ……女性は苦手なんだ」
ただ転けただけ。走ってもいない。なのに伊黒さんは、全力疾走の後と同じくらい疲れ切っていた。
「……息、切らしてる。
剣士になりたいんだよね?そのままじゃ、剣士どころか人並みに動き回ることもできませんよ」
「っ!?」
見下ろしてそう言えば、動揺してぴたりと動きが止まった。
「私はただ、貴方の好きな食べ物を知りたいだけ。うちに来てからほとんど食べてませんよね。何が好きなんですか?」
「剣士を目指す事と好物は何の関係が……」
「体力がないから、というよりあまり食べてないから満足に動けないんです。
剣士になりたいと思うなら、食べれる時はちょっぴりでも食べなくちゃ。体は食べたもので出来てる。
で!好きな食べ物は?」
マイクを差し出すが如く、拳を握って目の前に差し出す。意味がわからないなりに、観念した伊黒さんは教えてくれた。
ただ、このネタはこの時代の人にほとんど通用しなかった。
「…………脂っこいものは食べられない。
とろろ昆布、とか……あっさりしたものなら食べられる、と思う。
それと、誰かと一緒では食べられない」
油物NG、と。誰かとっていうのは、多分口元の包帯と関係があるんだろう。中を見られるのをとても嫌がるし。
「そっか!ならとろ昆布の入ったおみおつけと、とろ昆布を巻いたおにぎりにしようかな!
食べやすいように小さいの作るし、お部屋に運ぶのでぜひ食べてください。
他にもさっぱりあっさりしたもの中心に出します。残してもいいから食べてみてね!」
よく見なければわからないくらい小さかったが、伊黒さんは頷いてくれた。
しゅるり、その肩から伊黒さんを心配した鏑丸君が出てきた。わー、二度目ましてだ!相変わらず白蛇だから縁起がいい!!
首を伸ばす彼にそっと指を近づけ、巻きついてきた頭をそっと撫でる。ひんやり冷たい。気持ちいい。
「鏑丸がされるがままだ……」
ふふふ、敵意なき相手に噛み付いてこないのはよーくわかってるんだからね。
「鏑丸君っていうのね。この子は何食べるの?鶏肉の蒸した物とかでも大丈夫かな」
「……なぜそんなに俺にかまおうとした。自慢じゃないが俺はお前に挨拶もせず態度も悪かったろう。
俺に親切に振る舞ったところで、得はないはずだ」
「そう?でも鬼殺隊にあなたみたいに感覚が鋭くて、柔軟でしなやかな体を持つ人が入ってくれたら百人力だよ。ほらもう得があった。
体力がないのが玉に瑕だけど、これからつければいい話だし。そのためにご飯食べて栄養をつけるのは、とっても大事なこと」
たいした得ではないだろう。何なんだこの欲のない女は。ぼそりと聞こえたが続ける。
「あとね、単純に仲間が増えるのが嬉しい。私も杏寿郎兄さんも、鬼殺隊に入れるよう精進してるところなんだ!
一緒に頑張りましょう!」
「杏寿郎はともかく、お前が入れるかどうかは微妙そうだがな」
握手にもなる引き起こそうとした手は取られず、自分で起きあがろうとしている。
「失礼だなあ。それと、私は煉獄朝緋ですよ、伊黒小芭内さん」
「さんなんてつけるな気持ち悪い」
だが起き上がれずに結局、私の手をしっかりと取って立ち上がってくれた。私はその背をぱんと叩いて笑った。
昨日より仲良くなった私達に杏寿郎さんも千寿郎もどんな術を使ったのかとびっくりしていたけれど、嬉しそうに笑ってくれた。
伊黒さんの肌艶も良くなってきた頃、彼の育手がのあてが見つかった。
薄くだが微笑みながら煉獄家に、私達に手を振り、伊黒さんは育手に着いて行った。
まだ、瑠火さんの死から幾許もないというのになんたる仕打ち。そう思ってしまうが、恨むなら鬼を恨もう。
槇寿朗さんが柱である限り任務が回ってくるのは当然のことなんだから。
「……離島の任務が来た。行ってくる」
「はい、どうかお気をつけて」
離島?離島にまで鬼殺の任が回ってくるの?
さすがの鬼殺隊でもまだ諸外国でのみ運用が始まった飛行船は所持してないだろうし、たとえ人間やめてるように見える柱でも……おっと失敬。海を自力で渡るのは不可能。
船で行くのだろうから、往復航路を考えるとかなりの時間はかかるはず。
心が弱っていると、鬼殺にも影響が出る。無事に帰ってきますようにと、私は毎日お祈りをして待っていた。
結果的にいえば、その心配は全くなかった。
轟音と共にやってきた炎の一閃で、島に巣食っていた蛇のような鬼の頸を一瞬にして落としたそうだ。
どちらが鬼かわからないほどの鬼神ぶりを聞いて、私はわかった。
大切な人を失った悲しみ、巡り巡ってその元凶である者への怒りを、全て目の前の鬼にぶつけているのだ。
任務に対しやる気は少しずつ削がれているようだが、鬼を目の前にすると憎しみが湧いて腕が疼くのだろう。私も上弦の参を思うたびそうなるからわかる。
「しばらくお世話になります」
そして代わりにもたらされたのは、幼い姿をした後の蛇柱の存在だった。私を心配して蜜璃ちゃんと炎柱邸に寄ってくれたのがついこの間のことに感じる。だから少し小さい、このおどおどした姿は懐かしく感じるなあ。
でもこの頃だったっけ……うん、そうだ。この頃だ。
槇寿朗さんが離島の任務に行くと言って、八丈島に渡っていたではないか。
蛇のような女鬼に支配されていた島。そこで、座敷牢に飼われる形で長年囚われていたのが伊黒小芭内だ。彼は簪一本で座敷牢を削り続け逃げ出したらしい。すごい努力だ!
逃げたはいいが鬼に捕まって危ないところを、槇寿朗さんが鬼の頸を刎ねたと、そういうことだ。
鬼から助かった後、引き会わせられた生き残りの従姉妹は、激しく罵ってきたと聞いた。伊黒さんの一族のこともたくさん知った。
彼女たちにされ続けた悪行によって、女が苦手になったということも。
もっとも、聞いたのは伊黒さん本人からではなく、杏寿郎さんからだったが。
杏寿郎さんはあまりそういったことを秘密に出来ない。秘密にしてくれと言われているならともかく、そうでもないなら私相手にだと漏らすことがある。
人の感情の機微には敏感なのに、そこだけポンコツだ。伊黒さんが知られたくなかったかもしれないことを、知ってしまった。
ごめん、伊黒さん……。
背負う一族の業を思うと普通の人生は歩めそうにないと思ったらしい。伊黒さんが選んだのは、やはり『前』同様に鬼殺の道だった。
まあ、この人がただの弱い人なわけがないのは、私がよく知っているけども。
だって修行し出したのは私の方が早いのに、伊黒さんは私より先に鬼殺隊に入っていた。その上、のちの蛇柱ときた。
その粘り強い精神力は尊敬に値する。この人も努力の人なのだ。
槇寿朗さんが育手を見つけるまでの間、少しでも仲良くなろうと思ったんだけど……。
「伊黒さ、」
サッ!
「すみません、伊ぐ、」
ササッ!!
「い……」
シュバッ!!
「…………」
「わはは!朝緋は避けられてばかりなのだな!!」
くうう〜杏寿郎さん相手なら普通に話してるのに、私の姿を見ると蛇のようにスルスルと移動していつのまにかいなくなる!
関節の柔らかさまで駆使して逃げるとは侮れん……。いやほんと、相変わらず関節柔らかいなぁ。他のことに使って欲しい能力だわ。私も本気で追いかけないから何だろうけどさ。
でも女性苦手意識はそう簡単に薄れない、か。『前』はどうやって少しとは言え仲良くなったんだっけ?教えて私の記憶〜!
「伊黒さん!少しお話を……、」
ずべっ!
「ちょっと、大丈夫!?」
あいも変わらず逃げ出そうとしたけれど、伊黒さんは目の前でとうとう転けてしまった。
いくら関節が柔らかかろうと、体力はまだあまりついていないのだから仕方ない。箸より重いものはほとんど持ったことがないとの事だもの。
「俺に構うな。近づいてこないでくれ……女性は苦手なんだ」
ただ転けただけ。走ってもいない。なのに伊黒さんは、全力疾走の後と同じくらい疲れ切っていた。
「……息、切らしてる。
剣士になりたいんだよね?そのままじゃ、剣士どころか人並みに動き回ることもできませんよ」
「っ!?」
見下ろしてそう言えば、動揺してぴたりと動きが止まった。
「私はただ、貴方の好きな食べ物を知りたいだけ。うちに来てからほとんど食べてませんよね。何が好きなんですか?」
「剣士を目指す事と好物は何の関係が……」
「体力がないから、というよりあまり食べてないから満足に動けないんです。
剣士になりたいと思うなら、食べれる時はちょっぴりでも食べなくちゃ。体は食べたもので出来てる。
で!好きな食べ物は?」
マイクを差し出すが如く、拳を握って目の前に差し出す。意味がわからないなりに、観念した伊黒さんは教えてくれた。
ただ、このネタはこの時代の人にほとんど通用しなかった。
「…………脂っこいものは食べられない。
とろろ昆布、とか……あっさりしたものなら食べられる、と思う。
それと、誰かと一緒では食べられない」
油物NG、と。誰かとっていうのは、多分口元の包帯と関係があるんだろう。中を見られるのをとても嫌がるし。
「そっか!ならとろ昆布の入ったおみおつけと、とろ昆布を巻いたおにぎりにしようかな!
食べやすいように小さいの作るし、お部屋に運ぶのでぜひ食べてください。
他にもさっぱりあっさりしたもの中心に出します。残してもいいから食べてみてね!」
よく見なければわからないくらい小さかったが、伊黒さんは頷いてくれた。
しゅるり、その肩から伊黒さんを心配した鏑丸君が出てきた。わー、二度目ましてだ!相変わらず白蛇だから縁起がいい!!
首を伸ばす彼にそっと指を近づけ、巻きついてきた頭をそっと撫でる。ひんやり冷たい。気持ちいい。
「鏑丸がされるがままだ……」
ふふふ、敵意なき相手に噛み付いてこないのはよーくわかってるんだからね。
「鏑丸君っていうのね。この子は何食べるの?鶏肉の蒸した物とかでも大丈夫かな」
「……なぜそんなに俺にかまおうとした。自慢じゃないが俺はお前に挨拶もせず態度も悪かったろう。
俺に親切に振る舞ったところで、得はないはずだ」
「そう?でも鬼殺隊にあなたみたいに感覚が鋭くて、柔軟でしなやかな体を持つ人が入ってくれたら百人力だよ。ほらもう得があった。
体力がないのが玉に瑕だけど、これからつければいい話だし。そのためにご飯食べて栄養をつけるのは、とっても大事なこと」
たいした得ではないだろう。何なんだこの欲のない女は。ぼそりと聞こえたが続ける。
「あとね、単純に仲間が増えるのが嬉しい。私も杏寿郎兄さんも、鬼殺隊に入れるよう精進してるところなんだ!
一緒に頑張りましょう!」
「杏寿郎はともかく、お前が入れるかどうかは微妙そうだがな」
握手にもなる引き起こそうとした手は取られず、自分で起きあがろうとしている。
「失礼だなあ。それと、私は煉獄朝緋ですよ、伊黒小芭内さん」
「さんなんてつけるな気持ち悪い」
だが起き上がれずに結局、私の手をしっかりと取って立ち上がってくれた。私はその背をぱんと叩いて笑った。
昨日より仲良くなった私達に杏寿郎さんも千寿郎もどんな術を使ったのかとびっくりしていたけれど、嬉しそうに笑ってくれた。
伊黒さんの肌艶も良くなってきた頃、彼の育手がのあてが見つかった。
薄くだが微笑みながら煉獄家に、私達に手を振り、伊黒さんは育手に着いて行った。