四周目 漆
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杏寿郎さんが私の元へとすっ飛んできた。抱き起こそうとしてくるけど、介助は必要ない。
「大丈夫か。まさかまた朝緋に庇われるとは……」
「平気。それに庇って当然です。貴方が傷つく姿はもう見たくありませんから」
杏寿郎さんが柱になる時の帝都での任務でも、私は杏寿郎さんを下がらせて庇い、前に出たっけ。
次いでやってきた目の前の鬼だけを見据え、振り返りもせず言葉を放った。
猗窩座が目の前の私を無視し、その後ろの杏寿郎さんだけに話しかける。
「鬼になれ、杏寿郎。
俺はお前とどこまでも戦い、高めあいたい。その女も鬼にして良いと言っているんだ。頷け、杏寿郎」
「もう一度言うが俺は君が嫌いだ。
俺は鬼にはならない。朝緋も鬼にはならない!」
気炎万象と、空式がぶつかり合う。再び戦いが勃発した。
「杏寿郎さ、師範!!」
戦いはより一層苛烈なものに変わる。
互いの力量を確認するようなものでなく、どちらも双方の命を刈り取る攻撃。
隙がなく動きも速すぎてついていくのがやっとなそれに、私も参加し、間合いに入り日輪刀を猗窩座の体へ刺しこむ。
こちらに傷がつこうとかまわない。杏寿郎さんだって、少しずつ傷が増えているのだから。
「攻撃を続けることは死を選ぶことと同意だぞ!鬼には敵わない!!」
「うおおおおおおあああ゛!!」
ビシッ、奴の拳が杏寿郎さんの額を掠った。血が噴き出す。続け様に放たれた連続の拳が今度は杏寿郎さんの脇腹に入る。肋が砕ける音がここまでよく聞こえた。
「あああああよくもよくもよくも!杏寿郎さんでなく私に当てに来なさいよっ!!昇り炎天気炎万象不知火ーーっ!!」
「く、は、朝緋……っ、がむしゃらに放っても駄目だ!
壱ノ型不知火!弐ノ型昇り炎天!」
「そういう貴方も、技の連発、でしょっ」
ーー今だ。
杏寿郎さんの美しく精悍な顔に迫る、猗窩座の拳。あれが当たると、杏寿郎さんの綺麗な左目が潰れてしまう。
「嗅げ!猗窩座ぁ!お前の好きな稀血だ!!」
「はぁ?だからどうしたっ!貴様の稀血になど興味はない!戦いに横槍を入れるなぁっ!!」
「ッ!!?」
腕を裂いて稀血を撒き散らすも、気持ちが完全に戦いに向いているのか、無視されてしまった。
やっぱり上弦には私の特殊な稀血効果がほとんど薄い!下弦の壱でもほぼ普通の稀血酔いしかしていなかったではないか!!
それとも、下弦の壱やこの上弦の参が特殊なだけ?特に、猗窩座は女性を食べない、殺さない鬼だというのだから。
向かう拳が杏寿郎さんの左目に強かに入った。
ああそんな……っ。
けれど、絶望の表情をするのはまだ早い。目が潰れてもまだ杏寿郎さんは負けていない。立ち止まる暇があるなら刃を振るえ!
杏寿郎さんだって、肋が折られた痛み、目が潰れた痛みをものともせず、型をはなっているではないか。
「参ノ型気炎万象!肆ノ型盛炎のうねり!ふっ、……!朝緋、伍の合わせ技だ!」
「ッ、はいっ!」
私が使う、無数の小さな虎が鬼を咬み殺す伍ノ型。杏寿郎さんの使う、猛虎が鬼を喰らい尽くす伍ノ型。
二人同時に放つ、必殺の型。
「伍ノ型・炎虎改、乱咬み!!」
「伍ノ型・炎虎!!」
雄々しい虎と無数の子虎が次々に唸り吼え、鬼へと爪を立て牙を穿ち、猛攻をしかける。
今まで合わせ技というと弐ノ型と参ノ型を使い、上下から巨大な顎で噛み砕くようなものだった。この技はそれ以上の威力に溢れる。
私の虎が鬼の肉を細かく食い破り、杏寿郎さんの虎がとどめを指す。
しかしその強力な合わせ攻撃も、猗窩座の乱式を前に打ち砕かれた。
「う゛、あぐ……っ!?」
虎達が負けた。炎の子虎ごと、弾き飛ばされる。
体がバラバラになるような痛みが全身を襲う。まさか本当に体がバラバラになっているのでは?いや、打撲痕だらけになっただけのようだ。でも、うまく立てなくて。
杏寿郎さんは……?
私と違い立ってはいるものの、満身創痍は変わらず。刀を握る手が震え、血がそこかしこから垂れている。
駄目だ、どんなに鍛錬しても。強くなっても。上弦の参に勝てない。
「もっと戦おう。死ぬな、杏寿郎」
お前がそれを言うな。何度も杏寿郎さんを殺したお前が。
「どう足掻いても人間は鬼に勝てない……」
猗窩座が語る中、聞こえる杏寿郎さんの呼吸の音。
私の呼吸と違い息切れじゃない呼吸音。奥義を放つためのそれ。
杏寿郎さんが奥義を放つための闘気に包まれた。玖ノ型がための構えをとる。
でもそれは駄目だ。無理だ。
また命と引き換えになってしまう。非常に強い大技ではあるけれど、隙が大きくて攻撃を受けやすい諸刃の剣なのだから。
「俺は……俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!!」
「……やめて、やめて杏寿郎さん……いやだよ……、」
いやいやと首を振るも、杏寿郎さんは目の前の鬼の頸をとることに。自分の命の炎を燃やすことに集中していて。
私の言葉はもう届かない。命を捨てる覚悟をも決めてしまった。
この場にいる全ての者を。人間を守るために。
「炎の呼吸……奥義!」
大気が震える。私の涙腺も体も、震えていた。
私は貴方を死なせたくない。
もう、貴方が死ぬのは嫌だ。見たくない。見たく、ないよ……。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!!『玖ノ型・煉獄』ッ!!」
「破壊殺・滅式!!」
強大な技同士がぶつかり合う。炎が燃え盛り、煙が巻き上がる。炎が夜空を赤く染め上げ、しかし何も見えなくなる。
いやだいやだいやだ!杏寿郎さん!!
体よ、動け……!杏寿郎さんのために、動いて……!!
この中で何が起きているのか私は知っている。
懸命に動かした足。煙の晴れたそこには、猗窩座の腕に体を貫かれた杏寿郎さんの姿があった。
「あ、ああ……いやああああああ!!」
まただ。また、私は貴方を失うのか。
「大丈夫か。まさかまた朝緋に庇われるとは……」
「平気。それに庇って当然です。貴方が傷つく姿はもう見たくありませんから」
杏寿郎さんが柱になる時の帝都での任務でも、私は杏寿郎さんを下がらせて庇い、前に出たっけ。
次いでやってきた目の前の鬼だけを見据え、振り返りもせず言葉を放った。
猗窩座が目の前の私を無視し、その後ろの杏寿郎さんだけに話しかける。
「鬼になれ、杏寿郎。
俺はお前とどこまでも戦い、高めあいたい。その女も鬼にして良いと言っているんだ。頷け、杏寿郎」
「もう一度言うが俺は君が嫌いだ。
俺は鬼にはならない。朝緋も鬼にはならない!」
気炎万象と、空式がぶつかり合う。再び戦いが勃発した。
「杏寿郎さ、師範!!」
戦いはより一層苛烈なものに変わる。
互いの力量を確認するようなものでなく、どちらも双方の命を刈り取る攻撃。
隙がなく動きも速すぎてついていくのがやっとなそれに、私も参加し、間合いに入り日輪刀を猗窩座の体へ刺しこむ。
こちらに傷がつこうとかまわない。杏寿郎さんだって、少しずつ傷が増えているのだから。
「攻撃を続けることは死を選ぶことと同意だぞ!鬼には敵わない!!」
「うおおおおおおあああ゛!!」
ビシッ、奴の拳が杏寿郎さんの額を掠った。血が噴き出す。続け様に放たれた連続の拳が今度は杏寿郎さんの脇腹に入る。肋が砕ける音がここまでよく聞こえた。
「あああああよくもよくもよくも!杏寿郎さんでなく私に当てに来なさいよっ!!昇り炎天気炎万象不知火ーーっ!!」
「く、は、朝緋……っ、がむしゃらに放っても駄目だ!
壱ノ型不知火!弐ノ型昇り炎天!」
「そういう貴方も、技の連発、でしょっ」
ーー今だ。
杏寿郎さんの美しく精悍な顔に迫る、猗窩座の拳。あれが当たると、杏寿郎さんの綺麗な左目が潰れてしまう。
「嗅げ!猗窩座ぁ!お前の好きな稀血だ!!」
「はぁ?だからどうしたっ!貴様の稀血になど興味はない!戦いに横槍を入れるなぁっ!!」
「ッ!!?」
腕を裂いて稀血を撒き散らすも、気持ちが完全に戦いに向いているのか、無視されてしまった。
やっぱり上弦には私の特殊な稀血効果がほとんど薄い!下弦の壱でもほぼ普通の稀血酔いしかしていなかったではないか!!
それとも、下弦の壱やこの上弦の参が特殊なだけ?特に、猗窩座は女性を食べない、殺さない鬼だというのだから。
向かう拳が杏寿郎さんの左目に強かに入った。
ああそんな……っ。
けれど、絶望の表情をするのはまだ早い。目が潰れてもまだ杏寿郎さんは負けていない。立ち止まる暇があるなら刃を振るえ!
杏寿郎さんだって、肋が折られた痛み、目が潰れた痛みをものともせず、型をはなっているではないか。
「参ノ型気炎万象!肆ノ型盛炎のうねり!ふっ、……!朝緋、伍の合わせ技だ!」
「ッ、はいっ!」
私が使う、無数の小さな虎が鬼を咬み殺す伍ノ型。杏寿郎さんの使う、猛虎が鬼を喰らい尽くす伍ノ型。
二人同時に放つ、必殺の型。
「伍ノ型・炎虎改、乱咬み!!」
「伍ノ型・炎虎!!」
雄々しい虎と無数の子虎が次々に唸り吼え、鬼へと爪を立て牙を穿ち、猛攻をしかける。
今まで合わせ技というと弐ノ型と参ノ型を使い、上下から巨大な顎で噛み砕くようなものだった。この技はそれ以上の威力に溢れる。
私の虎が鬼の肉を細かく食い破り、杏寿郎さんの虎がとどめを指す。
しかしその強力な合わせ攻撃も、猗窩座の乱式を前に打ち砕かれた。
「う゛、あぐ……っ!?」
虎達が負けた。炎の子虎ごと、弾き飛ばされる。
体がバラバラになるような痛みが全身を襲う。まさか本当に体がバラバラになっているのでは?いや、打撲痕だらけになっただけのようだ。でも、うまく立てなくて。
杏寿郎さんは……?
私と違い立ってはいるものの、満身創痍は変わらず。刀を握る手が震え、血がそこかしこから垂れている。
駄目だ、どんなに鍛錬しても。強くなっても。上弦の参に勝てない。
「もっと戦おう。死ぬな、杏寿郎」
お前がそれを言うな。何度も杏寿郎さんを殺したお前が。
「どう足掻いても人間は鬼に勝てない……」
猗窩座が語る中、聞こえる杏寿郎さんの呼吸の音。
私の呼吸と違い息切れじゃない呼吸音。奥義を放つためのそれ。
杏寿郎さんが奥義を放つための闘気に包まれた。玖ノ型がための構えをとる。
でもそれは駄目だ。無理だ。
また命と引き換えになってしまう。非常に強い大技ではあるけれど、隙が大きくて攻撃を受けやすい諸刃の剣なのだから。
「俺は……俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!!」
「……やめて、やめて杏寿郎さん……いやだよ……、」
いやいやと首を振るも、杏寿郎さんは目の前の鬼の頸をとることに。自分の命の炎を燃やすことに集中していて。
私の言葉はもう届かない。命を捨てる覚悟をも決めてしまった。
この場にいる全ての者を。人間を守るために。
「炎の呼吸……奥義!」
大気が震える。私の涙腺も体も、震えていた。
私は貴方を死なせたくない。
もう、貴方が死ぬのは嫌だ。見たくない。見たく、ないよ……。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!!『玖ノ型・煉獄』ッ!!」
「破壊殺・滅式!!」
強大な技同士がぶつかり合う。炎が燃え盛り、煙が巻き上がる。炎が夜空を赤く染め上げ、しかし何も見えなくなる。
いやだいやだいやだ!杏寿郎さん!!
体よ、動け……!杏寿郎さんのために、動いて……!!
この中で何が起きているのか私は知っている。
懸命に動かした足。煙の晴れたそこには、猗窩座の腕に体を貫かれた杏寿郎さんの姿があった。
「あ、ああ……いやああああああ!!」
まただ。また、私は貴方を失うのか。