四周目 漆
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「お前も鬼にならないか」
鬼が杏寿郎さんを鬼へと誘う。
一刀両断で断り、杏寿郎さんが名乗りをあげた。こんな、上弦の参・猗窩座になんて律儀に名乗る必要ないのに。
「鬼になろう、杏寿郎。そうすれば、この先ずっと百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」
「いいや鬼にはならない。
強さとは肉体に対してのみ使われる言葉ではない。別に俺は肉体の強さを求めてはいないし、永遠も求めていない。死するその時まで大切な者との時間を尊び、大切に生きていきたい」
杏寿郎さんのおっしゃる通りですとも。
でも駄目だ。毎回、猗窩座による杏寿郎さんの呼び捨てにはブチ切れてしまう。『今回』も我慢はできそうにない。いや、我慢しない。その頸もぎって殺す……っ!
私の足が気持ちよりも更に先に動いた。
「うちの師範はお前みたいに鬼になってまで戦いたいわけじゃないんで!バトルジャンキーじゃないんで!!鬼への勧誘新聞購読全てお断りっ!!」
「朝緋!?」
いつも熱き炎が浮かんでいるこの心と頭。それを流れる水のイメージに変えて日輪刀を振るう。
「水の呼吸、弐ノ型・水車ッ!!」
頭の中で緩やかな水車がのどかに回る。のどかな風景の中、杏寿郎さんと一緒に芝生で横になりながら、それを眺めている私の姿まで浮かんでくる。
気持ちよさそう……なんて素敵な休日だろう。
けれど技の相手は憎い鬼。回る勢いは凄まじく、回転部分には鋸の刃がびっしりついて巻き込む者を斬り刻む。一気にホラー展開だ。
「小賢しい真似を……。弱者は嫌いだがしつこい女も嫌いだ!退け!!」
上段から迫る私の刃を腕で受け止める猗窩座。スッパリ斬り落とされた腕もまた生えたが本人も私も気にしない。
だって、悪いけどこれで終わりじゃないもの。普段の日輪刀を手に、今度は頭の中いっぱいに炎を描きだす。これが真打ち。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
鬼になるならないの会話なんてこれ以上させない。話は進ませない。鬼はさっさと殺すに限る。憎い憎い上弦の参ならなおさらだ。
赤く、そして蒼い炎を纏う豪速の斬撃が、猗窩座の頸に食い込んだ。
「私はね!お前を斬る!そのためにこの技を磨いてきた!この最速の壱ノ型を!!」
まるでニトロチャージ。ニトロ化合物と呼ばれる火薬をどんどん積んで爆発させ、爆風の勢いで速くなるような勢いで振り抜いた刃。
苛烈に燃え盛る私の炎が、ジュウジュウと鬼の肉を焼き、頸斬りを進めていく。
「ガッ、貴様……っ!?」
ーーこのまま斬り落とせるのでは?
そう思ったのはほんの僅かな時間だけ。
「……ぇ?…………ぎゃんっ!?」
日輪刀を鷲掴みにされ。
気がつけば私ごと思い切り投げ飛ばされていた。地面へと強かに体を打ち付けた衝撃で肋骨が折れたかヒビが入ったか。
痛いけれど血が出ていない、死んでもいないだけよしとしよう。
「ふう、……まさかお前ごときに頸を斬られそうになるとはな。油断できんやつだ。
だが、この程度すぐに治る」
あーあ、せっかく私が斬り落としかけた頸の傷が、一瞬で塞がってしまった。怪我をしただけ私の損じゃん。杏寿郎さんには怒られるだろうし。
「何を勝手な行動をしている朝緋!相手は上弦だぞ!?力量もわからないのに無茶をするな!俺は二度と君を失いたくない……!」
ほらね、こんなふうに。
って、二度?今、杏寿郎さん……無意識だろうけど二度って言った?
「ふ……なんだ、その女、杏寿郎の番か。ならば女も鬼にしてやる。そこそこの強さは見受けられるからな、鬼になれば思う存分に強さを発揮できよう。共にいたいというなら、鬼になれば永遠に共に生きられるぞ。似たような鬼が上弦にいる。きっと無惨様もお許しになるだろう。
条件としては申し分ないはず。杏寿郎、鬼になろう」
はあ?人の話聞いてたのこの鬼。
いや、それより二人で一つという鬼が上弦に……。なんかとっても重大なこと聞いちゃった気がする。
「……俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならん。朝緋もだ」
即答すれば少し残念そうに笑い、血鬼術を発動した。
「そうか……。鬼にならないなら殺す」
純粋で無垢で、だからこそ恐ろしい殺気が広がっていく。今度こそ杏寿郎さんが日輪刀を抜いた。
「朝緋っ!竈門少年と共に離れていろ!!」
「でも……っ」
「聞け!『炎柱継子煉獄朝緋』!柱の命令だ!!」
トリガーとなるその言葉を使うなんてひどい。鋭く短くそう言われ、体がびくりと止まってしまった。
命令通り炭治郎を連れて今は離れる。けれど、私は諦めない。この戦いに参戦する。貴方を失いたくないから、柱の命令だろうと無視する。
少しでもこちら側が劣勢に感じた瞬間、私は弾丸のように飛び出すだろう。
いつもと同じ。
刃と拳。またも杏寿郎さんと猗窩座の一騎打ちが始まってしまった。
目の前で激しい戦いが繰り広げられる。
食事面、修行開始時期、鍛錬の多さ、槇寿朗さんによる稽古。『前』よりも格段に強化された杏寿郎さんの力、技、肉体。
だけれど、上弦の鬼は柱が数人で相手をしても敵わないほど強いといわれる存在。
薄く、深く、浅く、広く。斬撃は届きはしても。腕を斬り飛ばしても、体を抉っても決定打は与えられず。
伊之助が合流する頃、杏寿郎さんが鬼を追って森の中へ消えた。
まずい、あの場面で杏寿郎さんには攻撃が当たる。上弦の参の拳は、一撃一撃が殺傷能力が高く、ともすれば一瞬で命を刈り取られるほどの強さを持つ。
一発だとしても食らって欲しくない。
「朝緋さん!?命令が……!」
「まだら!動いちゃ駄目なんだろ!?」
「そんなもの知るかっ!!」
あ、伊之助からの呼び名がまだらに戻っている。キャラメル女じゃ呼びにくいもんね。
でも気にする余裕はない。
遅れて向かえば、杏寿郎さんの刃が鬼に振るわれる直前だった。
その刃を絡めとるようにして、自らの日輪刀を潜り込ませる。
「朝緋!?命令はどうしたっ!隊律違反だ!!」
「戦いを前に隊律違反なんて知らない聞こえないアーアー!!」
大声で杏寿郎さんの声を遮り、有り余る体力で刃を振るう。
猗窩座の腕がまた飛んだ。それもまた、すぐに生えてくるけど。お前はトカゲか。
「せっかく良い気分で殺死合 をしていたのに貴様ぁ!」
「ふんだ!杏寿郎さんを傷つけたら絶対に許さない……っ!!この人の相手をしたくば、私を殺してからにしなさい!!」
胴体や腕なんて狙わない。殺すべくして、攻撃を受けるのを躊躇わず、頸を執拗にも付け狙う。
多少の怪我なんてどうでも良い。私の稀血がバレようとも良い。むしろ、稀血はここぞというタイミングでバラしてこそ。
上弦には少し効きづらいみたいだけど、この鬼も『大人』の『男』の鬼なのだから。
「クッ……俺と杏寿郎の戦いに水を差す邪魔者め……っ、退けえ!」
「退くものかっ!!」
二人の刀と拳の迫り合いが続く中、もう我慢がならなかったのだろう、衝動的に蹴り飛ばされ、森から外へと放り出された。
「ああっ!!」
「朝緋っ!くそ……っ」
痛い。けれど怪我も傷もない!これなら大きな痣ができて終わりなはずだ。そして間一髪、受け身も取れた。
「朝緋さんっ!」
「まだら!!」
炭治郎と伊之助が悲痛な叫びを上げる。でも大丈夫。ハンドサインを送って下がらせた。
……もしかして猗窩座は、私が女だから手加減を?
そういえば『女は殺さない』のだったか。一体どういう意味だろうか。わからないけれど、これは使えるのでは……?
使えるものは、なんでも使え。
鬼が杏寿郎さんを鬼へと誘う。
一刀両断で断り、杏寿郎さんが名乗りをあげた。こんな、上弦の参・猗窩座になんて律儀に名乗る必要ないのに。
「鬼になろう、杏寿郎。そうすれば、この先ずっと百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」
「いいや鬼にはならない。
強さとは肉体に対してのみ使われる言葉ではない。別に俺は肉体の強さを求めてはいないし、永遠も求めていない。死するその時まで大切な者との時間を尊び、大切に生きていきたい」
杏寿郎さんのおっしゃる通りですとも。
でも駄目だ。毎回、猗窩座による杏寿郎さんの呼び捨てにはブチ切れてしまう。『今回』も我慢はできそうにない。いや、我慢しない。その頸もぎって殺す……っ!
私の足が気持ちよりも更に先に動いた。
「うちの師範はお前みたいに鬼になってまで戦いたいわけじゃないんで!バトルジャンキーじゃないんで!!鬼への勧誘新聞購読全てお断りっ!!」
「朝緋!?」
いつも熱き炎が浮かんでいるこの心と頭。それを流れる水のイメージに変えて日輪刀を振るう。
「水の呼吸、弐ノ型・水車ッ!!」
頭の中で緩やかな水車がのどかに回る。のどかな風景の中、杏寿郎さんと一緒に芝生で横になりながら、それを眺めている私の姿まで浮かんでくる。
気持ちよさそう……なんて素敵な休日だろう。
けれど技の相手は憎い鬼。回る勢いは凄まじく、回転部分には鋸の刃がびっしりついて巻き込む者を斬り刻む。一気にホラー展開だ。
「小賢しい真似を……。弱者は嫌いだがしつこい女も嫌いだ!退け!!」
上段から迫る私の刃を腕で受け止める猗窩座。スッパリ斬り落とされた腕もまた生えたが本人も私も気にしない。
だって、悪いけどこれで終わりじゃないもの。普段の日輪刀を手に、今度は頭の中いっぱいに炎を描きだす。これが真打ち。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
鬼になるならないの会話なんてこれ以上させない。話は進ませない。鬼はさっさと殺すに限る。憎い憎い上弦の参ならなおさらだ。
赤く、そして蒼い炎を纏う豪速の斬撃が、猗窩座の頸に食い込んだ。
「私はね!お前を斬る!そのためにこの技を磨いてきた!この最速の壱ノ型を!!」
まるでニトロチャージ。ニトロ化合物と呼ばれる火薬をどんどん積んで爆発させ、爆風の勢いで速くなるような勢いで振り抜いた刃。
苛烈に燃え盛る私の炎が、ジュウジュウと鬼の肉を焼き、頸斬りを進めていく。
「ガッ、貴様……っ!?」
ーーこのまま斬り落とせるのでは?
そう思ったのはほんの僅かな時間だけ。
「……ぇ?…………ぎゃんっ!?」
日輪刀を鷲掴みにされ。
気がつけば私ごと思い切り投げ飛ばされていた。地面へと強かに体を打ち付けた衝撃で肋骨が折れたかヒビが入ったか。
痛いけれど血が出ていない、死んでもいないだけよしとしよう。
「ふう、……まさかお前ごときに頸を斬られそうになるとはな。油断できんやつだ。
だが、この程度すぐに治る」
あーあ、せっかく私が斬り落としかけた頸の傷が、一瞬で塞がってしまった。怪我をしただけ私の損じゃん。杏寿郎さんには怒られるだろうし。
「何を勝手な行動をしている朝緋!相手は上弦だぞ!?力量もわからないのに無茶をするな!俺は二度と君を失いたくない……!」
ほらね、こんなふうに。
って、二度?今、杏寿郎さん……無意識だろうけど二度って言った?
「ふ……なんだ、その女、杏寿郎の番か。ならば女も鬼にしてやる。そこそこの強さは見受けられるからな、鬼になれば思う存分に強さを発揮できよう。共にいたいというなら、鬼になれば永遠に共に生きられるぞ。似たような鬼が上弦にいる。きっと無惨様もお許しになるだろう。
条件としては申し分ないはず。杏寿郎、鬼になろう」
はあ?人の話聞いてたのこの鬼。
いや、それより二人で一つという鬼が上弦に……。なんかとっても重大なこと聞いちゃった気がする。
「……俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならん。朝緋もだ」
即答すれば少し残念そうに笑い、血鬼術を発動した。
「そうか……。鬼にならないなら殺す」
純粋で無垢で、だからこそ恐ろしい殺気が広がっていく。今度こそ杏寿郎さんが日輪刀を抜いた。
「朝緋っ!竈門少年と共に離れていろ!!」
「でも……っ」
「聞け!『炎柱継子煉獄朝緋』!柱の命令だ!!」
トリガーとなるその言葉を使うなんてひどい。鋭く短くそう言われ、体がびくりと止まってしまった。
命令通り炭治郎を連れて今は離れる。けれど、私は諦めない。この戦いに参戦する。貴方を失いたくないから、柱の命令だろうと無視する。
少しでもこちら側が劣勢に感じた瞬間、私は弾丸のように飛び出すだろう。
いつもと同じ。
刃と拳。またも杏寿郎さんと猗窩座の一騎打ちが始まってしまった。
目の前で激しい戦いが繰り広げられる。
食事面、修行開始時期、鍛錬の多さ、槇寿朗さんによる稽古。『前』よりも格段に強化された杏寿郎さんの力、技、肉体。
だけれど、上弦の鬼は柱が数人で相手をしても敵わないほど強いといわれる存在。
薄く、深く、浅く、広く。斬撃は届きはしても。腕を斬り飛ばしても、体を抉っても決定打は与えられず。
伊之助が合流する頃、杏寿郎さんが鬼を追って森の中へ消えた。
まずい、あの場面で杏寿郎さんには攻撃が当たる。上弦の参の拳は、一撃一撃が殺傷能力が高く、ともすれば一瞬で命を刈り取られるほどの強さを持つ。
一発だとしても食らって欲しくない。
「朝緋さん!?命令が……!」
「まだら!動いちゃ駄目なんだろ!?」
「そんなもの知るかっ!!」
あ、伊之助からの呼び名がまだらに戻っている。キャラメル女じゃ呼びにくいもんね。
でも気にする余裕はない。
遅れて向かえば、杏寿郎さんの刃が鬼に振るわれる直前だった。
その刃を絡めとるようにして、自らの日輪刀を潜り込ませる。
「朝緋!?命令はどうしたっ!隊律違反だ!!」
「戦いを前に隊律違反なんて知らない聞こえないアーアー!!」
大声で杏寿郎さんの声を遮り、有り余る体力で刃を振るう。
猗窩座の腕がまた飛んだ。それもまた、すぐに生えてくるけど。お前はトカゲか。
「せっかく良い気分で
「ふんだ!杏寿郎さんを傷つけたら絶対に許さない……っ!!この人の相手をしたくば、私を殺してからにしなさい!!」
胴体や腕なんて狙わない。殺すべくして、攻撃を受けるのを躊躇わず、頸を執拗にも付け狙う。
多少の怪我なんてどうでも良い。私の稀血がバレようとも良い。むしろ、稀血はここぞというタイミングでバラしてこそ。
上弦には少し効きづらいみたいだけど、この鬼も『大人』の『男』の鬼なのだから。
「クッ……俺と杏寿郎の戦いに水を差す邪魔者め……っ、退けえ!」
「退くものかっ!!」
二人の刀と拳の迫り合いが続く中、もう我慢がならなかったのだろう、衝動的に蹴り飛ばされ、森から外へと放り出された。
「ああっ!!」
「朝緋っ!くそ……っ」
痛い。けれど怪我も傷もない!これなら大きな痣ができて終わりなはずだ。そして間一髪、受け身も取れた。
「朝緋さんっ!」
「まだら!!」
炭治郎と伊之助が悲痛な叫びを上げる。でも大丈夫。ハンドサインを送って下がらせた。
……もしかして猗窩座は、私が女だから手加減を?
そういえば『女は殺さない』のだったか。一体どういう意味だろうか。わからないけれど、これは使えるのでは……?
使えるものは、なんでも使え。