四周目 漆
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その世界でのそれは、一瞬のことだった。まるであの世界の杏寿郎さんが、鬼が私を眠らせた瞬間に送ってくれたかのようで。
「あはは、稀血のお前は確実に喰らわせてもら……、もう起きた!?なぜ……!」
「夢でしかないなら、幸せなそれに興味がないからよっ!頸を刎ねるのはちょびーっとだけ怖かったけどね!よくもビビらせてくれたわね!?」
そして、よくもあの杏寿郎さんを泣かせたわね。泣かせたのは私?大元を辿れば鬼にいくはずよ。つまり、鬼が悪い!慰謝料を要求する!
慰謝料はお前の頸だ!妖怪頸オイテケ降臨!!
ちょうど炭治郎が酷い夢から現実に戻ってきた。
「朝緋さん大丈夫ですかっ」
「なんとかねっ!炭治郎もよくぞ無事で……!」
無事?ううん。無事だし私の心配をするほどには冷静に見える。けれどその目は怒りで血走り、視線は憎い憎い鬼に向いていた。
「下弦の壱魘夢……夢を操り、よくも俺の家族に酷い言葉を言わせてくれたな。俺の家族を侮辱するのは許さない……っ」
『今まで』と違い、静かな怒りだ。短時間とはいえ、私が離脱したというワンクッションのせいか。
けれど、それ以上に、怒りの度合いは高く深く炭治郎の心に巣食い続けたようで。
その怒りは刃に込められた。
振るわれる炭治郎の日輪刀。追従するかのように私の技も二つ、振るわれる。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!」
三つの技が魘夢の頸を斬り飛ばした。ボトッ!落ちる頸、倒れる胴体。
「え、朝緋さん二つの呼吸を……、いやそれより、鬼を倒せた……?」
「しっ!炭治郎、まだ終わってないわ。これは本体ではない……手応えを感じなかったでしょう」
「……よくわかったねえ。お前の方が鬼殺隊歴が長いのかな?強そうだもんね?」
炭治郎が私の二本目の日輪刀に不思議そうな顔をするけど、そんなこと気にしてはいられない。
斬り落とした鬼の頭が持ち上がり、鬼の肉壁が盛り上がって蚯蚓のようにのたうち回る。
炭治郎の目が驚愕に揺れた。
「そりゃどーも。そういうお前はとっても気持ち悪くて、吐きそうな見た目ね」
「ふふ。素敵だねえその顔。そういう顔を見たかったんだ」
「うんでも私は炭治郎と違って、蚯蚓みたいでお前気持ち悪いオェッていう顔してるだけよ」
その間にも増える若芽のごとく、増えていく鬼の肉。炭治郎の表情を前に気分がいいらしく、魘夢が今の状況を説明してくれた。
私を除く鬼殺隊の者達が眠っている間に、汽車と融合。今や列車全てが魘夢の血であり肉であり骨。ここの乗客全てが、餌であり人質になっていると。
「ねえ魘夢、貴方いつ列車と融合をし始めたわけ?明るいうちから融合し初めていたら、太陽で焼かれてしまうでしょう?今までどこにいたのよ」
いい機会だからと、湧いた疑問をぶつけて探る。
もちろん諦める気も、やられる気も死ぬ気もないけれど万が一、いや億が一にも駄目だった時を考えて『次』の私へ記憶を託す。
「そんなこと知ってどうするのさ。お前はこの列車の人間達と共に、俺に食われて終わるのだから知る必要ないよね。だから教えてあげないよ」
「なんだよドけち!」
とぷん、魘夢の頭部が肉の中に消えていく。逃げられた……といっても、本体は融合しているし、頸は先頭車両で今のは偽物。
なぜ炎の呼吸使いなのに水の呼吸をも使えるのか、炭治郎が聞きたそうにしている。でも今はとにかく乗客が食べられないようにと守ることが先決。ついでに私は食われないように気をつけるのも大切で。
「何両なら守れる?」
「二両が限界ですね」
「二両か……。ん、ちょうど伊之助が起きたみたいよ、声が聞こえてくる。彼と一緒に乗客を守って」
「わかりました」
善逸は覚醒途中のようだけど……彼は起こさないほうが強いから放っておこう。何も言ってこないところを見ると、炭治郎も同意見のようだ。
「私はそろそろ起きる師範に報告しに行きつつ、その周りの乗客を守るに徹する。
炭治郎、鬼は先頭車両の運転席真下。守りながらそっちを目指して鬼の頸を取るのよ」
「わかりま……ええっ、ま、真下!?」
「私も後で向かうからよろしくね」
そう言って別れる。
私が行ってもいいけれど、私は稀血がバレてしまっているから鬼により一層付け狙われている状態。それに、炭治郎と伊之助、それに善逸禰󠄀豆子ちゃんらで乗客のいる車両を守り切るのはきついはず。私と、そして杏寿郎さんが守って、その隙に炭治郎達に鬼の頸を切らせたほうが効率がいい。
鬼の肉により、無限列車が太る。肉がそこかしこから滲み出て、触腕がいくつもいくつも生えてくる。
乗客と、そして私を狙うそれを一呼吸で斬り捨てながら、先を急ぐ。
……うん。大丈夫だ、この先では善逸と禰󠄀豆子ちゃんが鬼の触腕と戦っている。炭治郎も、運転席方面へ移動中、か。
気配を探りながら後方へと向かう。
守りと攻撃が一番鉄壁なはずの前方車両というわけでもないのに、私の行く手を阻み、そして捕まえるべく、触腕はどんどん湧いて出てきて。
ほんと、稀血って鬼から大人気で嫌になるよねっ!?
私だけでなく乗客に向かっていくそれらを、まとめて斬り刻まんともう一本を構える。
「水の呼吸、参ノ型・流流舞いっ!」
水が自由自在に流れるような足運びで、舞い踊り回転しながら、全てを斬り落とす。
やったね、鬼が列車を太らせたおかげで、普段より広くて刀が振りやすい〜!
喜ぶ私の背後から、杏寿郎さんの声が聞こえた。
「よもや。やはり朝緋は二本目の日輪刀を持っていたのだな。それに、使うのが水の呼吸とは……」
その言葉にぎくりとしながら振り向くと、怒っているのかどうなのかわからない顔で、杏寿郎さんが間近から私を覗き込んでいた。
「わあ、バレちゃったあ……」
「バレるも何も、今目の前で使ったろう。どういうことか、あとで説明してもらうからな?」
やっぱり少し怒ってらっしゃるようで、ムギュリと鼻の頭をつままれた。
でもその理由は定かではない。隠していたことか、それとも水の呼吸に浮気したことか。どちらもかもしれない。
「ぷえ、わかりましたよぅ……」
「うむ。
しかし、うたた寝している間にこんな事態になっていようとはな。柱として不甲斐なしだ。
朝緋、他の隊士は?これは一体どういう状況なんだ?手短に報告を」
「鬼が列車と融合、一体化して乗客二百人が人質に取られています。また、私も稀血を知られてしまったが故、私の周りには鬼の触腕が群がっている状態。竈門隊士と嘴平隊士は鬼の本体の頸を取りに運転席のある車両へ。我妻隊士と竈門隊士の妹は、乗客を守るべく己が刃を振るっています」
「なるほど、なっ!」
淡々と、しかし素早く話す。その間も迫る触腕は斬り落としていく。杏寿郎さんもまた、日輪刀を振り上げ振り下ろし、私や乗客に向かうそれらを一刀両断した。
「それに気が付かず眠りこけるとは……、」
「わ、きゃ!?」
腰に、背中に回る腕。ガシリと抱き上げられた。
「穴があったら入りたいところだなっ!!」
燃え盛り爆発する炎のごとく、周りを細かく大きく斬りつけながら、杏寿郎さんがスピードを上げて走り抜ける。一両、二両、三両……いや、五両ほど進んだところで、その足は止まった。ものすごい衝撃だった。
「少し揺らしてしまったが大丈夫か」
「ええ。大丈夫です。でもすっご……、さすがは柱ですね……」
途中の鬼の肉はすべて細切れだし、炎の呼吸をたっぷり帯びた斬撃のおかげで再生にもかなりの時間がかかりそうだ。
「本当か?舌は噛んでいないだろうか?どれ、調べてやろう!」
は?
「ちょっと待って。それただ口吸いしたいだけですよね?いつまで私のこと抱き上げてるんですか!下ろしてくださいっ!!」
「む!おはようの口づけくらいあってもいいだろう。朝緋はけちだ」
「鬼殺の最中にすること違うっ!」
べしべしべし!自由の利く足で、杏寿郎さんを蹴りつける。杏寿郎さんは大人しくおろしてくれたけれど、最後に私の唇へと小さく口づけを落としていった。
はあ……まったく、油断も隙もない。
「あはは、稀血のお前は確実に喰らわせてもら……、もう起きた!?なぜ……!」
「夢でしかないなら、幸せなそれに興味がないからよっ!頸を刎ねるのはちょびーっとだけ怖かったけどね!よくもビビらせてくれたわね!?」
そして、よくもあの杏寿郎さんを泣かせたわね。泣かせたのは私?大元を辿れば鬼にいくはずよ。つまり、鬼が悪い!慰謝料を要求する!
慰謝料はお前の頸だ!妖怪頸オイテケ降臨!!
ちょうど炭治郎が酷い夢から現実に戻ってきた。
「朝緋さん大丈夫ですかっ」
「なんとかねっ!炭治郎もよくぞ無事で……!」
無事?ううん。無事だし私の心配をするほどには冷静に見える。けれどその目は怒りで血走り、視線は憎い憎い鬼に向いていた。
「下弦の壱魘夢……夢を操り、よくも俺の家族に酷い言葉を言わせてくれたな。俺の家族を侮辱するのは許さない……っ」
『今まで』と違い、静かな怒りだ。短時間とはいえ、私が離脱したというワンクッションのせいか。
けれど、それ以上に、怒りの度合いは高く深く炭治郎の心に巣食い続けたようで。
その怒りは刃に込められた。
振るわれる炭治郎の日輪刀。追従するかのように私の技も二つ、振るわれる。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!」
三つの技が魘夢の頸を斬り飛ばした。ボトッ!落ちる頸、倒れる胴体。
「え、朝緋さん二つの呼吸を……、いやそれより、鬼を倒せた……?」
「しっ!炭治郎、まだ終わってないわ。これは本体ではない……手応えを感じなかったでしょう」
「……よくわかったねえ。お前の方が鬼殺隊歴が長いのかな?強そうだもんね?」
炭治郎が私の二本目の日輪刀に不思議そうな顔をするけど、そんなこと気にしてはいられない。
斬り落とした鬼の頭が持ち上がり、鬼の肉壁が盛り上がって蚯蚓のようにのたうち回る。
炭治郎の目が驚愕に揺れた。
「そりゃどーも。そういうお前はとっても気持ち悪くて、吐きそうな見た目ね」
「ふふ。素敵だねえその顔。そういう顔を見たかったんだ」
「うんでも私は炭治郎と違って、蚯蚓みたいでお前気持ち悪いオェッていう顔してるだけよ」
その間にも増える若芽のごとく、増えていく鬼の肉。炭治郎の表情を前に気分がいいらしく、魘夢が今の状況を説明してくれた。
私を除く鬼殺隊の者達が眠っている間に、汽車と融合。今や列車全てが魘夢の血であり肉であり骨。ここの乗客全てが、餌であり人質になっていると。
「ねえ魘夢、貴方いつ列車と融合をし始めたわけ?明るいうちから融合し初めていたら、太陽で焼かれてしまうでしょう?今までどこにいたのよ」
いい機会だからと、湧いた疑問をぶつけて探る。
もちろん諦める気も、やられる気も死ぬ気もないけれど万が一、いや億が一にも駄目だった時を考えて『次』の私へ記憶を託す。
「そんなこと知ってどうするのさ。お前はこの列車の人間達と共に、俺に食われて終わるのだから知る必要ないよね。だから教えてあげないよ」
「なんだよドけち!」
とぷん、魘夢の頭部が肉の中に消えていく。逃げられた……といっても、本体は融合しているし、頸は先頭車両で今のは偽物。
なぜ炎の呼吸使いなのに水の呼吸をも使えるのか、炭治郎が聞きたそうにしている。でも今はとにかく乗客が食べられないようにと守ることが先決。ついでに私は食われないように気をつけるのも大切で。
「何両なら守れる?」
「二両が限界ですね」
「二両か……。ん、ちょうど伊之助が起きたみたいよ、声が聞こえてくる。彼と一緒に乗客を守って」
「わかりました」
善逸は覚醒途中のようだけど……彼は起こさないほうが強いから放っておこう。何も言ってこないところを見ると、炭治郎も同意見のようだ。
「私はそろそろ起きる師範に報告しに行きつつ、その周りの乗客を守るに徹する。
炭治郎、鬼は先頭車両の運転席真下。守りながらそっちを目指して鬼の頸を取るのよ」
「わかりま……ええっ、ま、真下!?」
「私も後で向かうからよろしくね」
そう言って別れる。
私が行ってもいいけれど、私は稀血がバレてしまっているから鬼により一層付け狙われている状態。それに、炭治郎と伊之助、それに善逸禰󠄀豆子ちゃんらで乗客のいる車両を守り切るのはきついはず。私と、そして杏寿郎さんが守って、その隙に炭治郎達に鬼の頸を切らせたほうが効率がいい。
鬼の肉により、無限列車が太る。肉がそこかしこから滲み出て、触腕がいくつもいくつも生えてくる。
乗客と、そして私を狙うそれを一呼吸で斬り捨てながら、先を急ぐ。
……うん。大丈夫だ、この先では善逸と禰󠄀豆子ちゃんが鬼の触腕と戦っている。炭治郎も、運転席方面へ移動中、か。
気配を探りながら後方へと向かう。
守りと攻撃が一番鉄壁なはずの前方車両というわけでもないのに、私の行く手を阻み、そして捕まえるべく、触腕はどんどん湧いて出てきて。
ほんと、稀血って鬼から大人気で嫌になるよねっ!?
私だけでなく乗客に向かっていくそれらを、まとめて斬り刻まんともう一本を構える。
「水の呼吸、参ノ型・流流舞いっ!」
水が自由自在に流れるような足運びで、舞い踊り回転しながら、全てを斬り落とす。
やったね、鬼が列車を太らせたおかげで、普段より広くて刀が振りやすい〜!
喜ぶ私の背後から、杏寿郎さんの声が聞こえた。
「よもや。やはり朝緋は二本目の日輪刀を持っていたのだな。それに、使うのが水の呼吸とは……」
その言葉にぎくりとしながら振り向くと、怒っているのかどうなのかわからない顔で、杏寿郎さんが間近から私を覗き込んでいた。
「わあ、バレちゃったあ……」
「バレるも何も、今目の前で使ったろう。どういうことか、あとで説明してもらうからな?」
やっぱり少し怒ってらっしゃるようで、ムギュリと鼻の頭をつままれた。
でもその理由は定かではない。隠していたことか、それとも水の呼吸に浮気したことか。どちらもかもしれない。
「ぷえ、わかりましたよぅ……」
「うむ。
しかし、うたた寝している間にこんな事態になっていようとはな。柱として不甲斐なしだ。
朝緋、他の隊士は?これは一体どういう状況なんだ?手短に報告を」
「鬼が列車と融合、一体化して乗客二百人が人質に取られています。また、私も稀血を知られてしまったが故、私の周りには鬼の触腕が群がっている状態。竈門隊士と嘴平隊士は鬼の本体の頸を取りに運転席のある車両へ。我妻隊士と竈門隊士の妹は、乗客を守るべく己が刃を振るっています」
「なるほど、なっ!」
淡々と、しかし素早く話す。その間も迫る触腕は斬り落としていく。杏寿郎さんもまた、日輪刀を振り上げ振り下ろし、私や乗客に向かうそれらを一刀両断した。
「それに気が付かず眠りこけるとは……、」
「わ、きゃ!?」
腰に、背中に回る腕。ガシリと抱き上げられた。
「穴があったら入りたいところだなっ!!」
燃え盛り爆発する炎のごとく、周りを細かく大きく斬りつけながら、杏寿郎さんがスピードを上げて走り抜ける。一両、二両、三両……いや、五両ほど進んだところで、その足は止まった。ものすごい衝撃だった。
「少し揺らしてしまったが大丈夫か」
「ええ。大丈夫です。でもすっご……、さすがは柱ですね……」
途中の鬼の肉はすべて細切れだし、炎の呼吸をたっぷり帯びた斬撃のおかげで再生にもかなりの時間がかかりそうだ。
「本当か?舌は噛んでいないだろうか?どれ、調べてやろう!」
は?
「ちょっと待って。それただ口吸いしたいだけですよね?いつまで私のこと抱き上げてるんですか!下ろしてくださいっ!!」
「む!おはようの口づけくらいあってもいいだろう。朝緋はけちだ」
「鬼殺の最中にすること違うっ!」
べしべしべし!自由の利く足で、杏寿郎さんを蹴りつける。杏寿郎さんは大人しくおろしてくれたけれど、最後に私の唇へと小さく口づけを落としていった。
はあ……まったく、油断も隙もない。