四周目 漆
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燃やし続けてしばらく。炭治郎が「起きなくては、起きなくては」と寝言を言うようになってきた。幸せな夢を見ていたはずなのに悪夢でも見ているかのような険しい表情。
つまりはもう起きるわけで。多分、自分の首に刃を当てているのだろう。私もあれにはかなりの覚悟が必要だった。
炭治郎の顔を覗き込んだ瞬間だった。
「うわああああああ!!」
「わっ!?」
ものすごい勢いで炭治郎が起き上がった。殺傷能力のある額が空を切っている。それを横に移動してサッと避ける。
間一髪、というところか。危ない危ない。私もそれから禰󠄀豆子ちゃんも、炭治郎の頭突きは無事に避けられたようでよかった。
「はあ、はあ、大丈夫……生きてる……」
「おはよう炭治郎」
「ム!」
「あっ!朝緋さんに禰󠄀豆子!二人とも、起こしてくれたんですね……ありがとう!」
「ああそれは禰󠄀豆子ちゃんの功績。私は何もしてないよ」
お疲れ気味の炭治郎にお弁当の時に配ったお茶を勧め、一息つかせる。その赤い目が、私に縛り上げられた子達に向いた。
「何も、とは言いますけどこの人達は?朝緋さんか昏倒させたのでは……?」
「その人達は鬼側の協力者。
炭治郎、起きている他の乗客や車掌、運転手にも協力者が紛れている。相手をする時は気をつけてね」
「?はい、わかりました」
炭治郎の目が、今度はぐるぅりと杏寿郎さん達に向かう。
「起きたのは俺だけなんですね。善逸や伊之助、煉獄さんは……」
「大丈夫。眠らせてくる鬼の血鬼術が混ざった切符を、禰󠄀豆子ちゃんに跡形もなく消し炭にしてもらったからその内起きるよ」
「切符……!うわ、本当だ!消し炭になっている!!でも、微かに禰󠄀豆子の燃える血の他に違う鬼の匂いがします。全然気がつかなかった……不甲斐ない」
むむむと唸り、消し炭を眺める炭治郎。
「……炭治郎はすごいねえ」
「え?」
「だって普通の隊士なら、夢の中だろうと自分の首を斬るなんて絶対できないよ。その胆力はどこで身に付けたの?相当過酷な修行をしたか、それとも持って生まれたものか。
自分の行動を不甲斐ないだなんて思えるのもすごい。心は既に柱と同等の強さだよ」
「ええっ!滅相もない!でもありがとうございます……!
修行かあ。ええと、俺に修行をつけてくれたのは鱗滝左近次という育手でして」
「うん。元水柱の鱗滝さんが育手なんだってね」
炭治郎の心の強さ、その胆力、そして、『主人公』として、どんな修行内容をこなしてきたのか非常に気になるところ。
炭治郎が語る修行について聞けば。
空気の非常に薄い山……低酸素トレーニングに加え、罠が張られたそのからの下山・登山。刀なんて持ったことも触ったこともなかったのに、初っ端から真剣で素振り。刀身を折ったらこちらの骨を折ると脅されるって何?
さらには今まで知らなかった呼吸法、基本の体力作りや柔軟はもちろん、転がし祭りと称しての、受け身と起き上がりの訓練。簡単なそれらも、実際にやると初心者ならキツかったろう。
滝行、そして水と一体化ということで、崖の上から滝壺に真っ逆さま。崖の上からってそんな、獅子じゃあるまいし。
そんな死ぬほどつらい鍛錬を続けて一年後。今度は巨大な岩を斬るようにと、言われたらしく。でも毎日毎日鍛錬を続けても斬ることはできず。
女の子と男の子が岩が切れるようにと、稽古をつけてくれたそうで。
その時の自分はまだ呼吸の常中というのは覚えていなかったため、かなり助かったと語る。
修行開始から二年。ようやく岩を真っ二つに斬ることができたそうだ。
過酷な修行だったと、炭治郎はなんでもないふうにサラリと語ってくれた。
「え、つまり二年!?二年でその強さに!?
修行の内容もどう聞いてもブートキャンプだ……」
「ぶうときゃんぷ?」
「や、こっちの話……」
槇寿朗さんの修行とは比べ物にならないや。どれだけ槇寿朗さんが手加減し、私達に優しく指導してくれていたかがよくわかる。その中で自分を追い込んだのは、私自身や杏寿郎さん自身。きっと槇寿朗さんの指導は、自主性を重んじるものだったのだ。
鱗滝ブートキャンプおそるべし……。
いや、炭治郎がすごいのかもしれない。
私は二年でなんて、藤襲山に挑めるほど強くはなれない。
そりゃあ、修行開始の時期が幼少の頃。鍛錬してもなかなか身につかない歳ごろに始めているから、何年もかかっている可能性は高いよ?
なるほどそれで納得した。
炭治郎は技術面や経験はまだまだだけど、数年後には杏寿郎さんと同格の強さに。柱になるかもしれない。かもじゃない、なる。水柱は居るし、何柱になるかはわからないけど。
共に切磋琢磨すると力の底上げに繋がるから、善逸と伊之助も同じだ。柱になれる。
私も鱗滝さんに修行をつけてもらったら、もっと強くなれるかしら。
水の呼吸を覚えすぎて、水の呼吸使いになってしまうのだけは困るけどね。私はあくまでも、炎の呼吸使いなのだから。
その時、ピリリと空気が張り詰め、全身の毛が逆立つ感覚があった。……鬼の気配だ。
「どうしたんですか、朝緋さん」
「鬼の気配が上、先頭車両からしてくる……。禰󠄀豆子ちゃんはここに。炭治郎、行くよ」
「えっ、ええっ!?」
言うが早いか、炭治郎の手を引き客車から出て列車の上へと飛び上がる。炭治郎の足が浮くほど速く駆け抜けた先にあったのは、あの鬼の後ろ姿。
「おはよう鬼さん」
「うん、おはよう。まだ寝ててよかったのに。でもお前は眠っていないからおはようじゃないよねぇ。お前の切符、俺が作ったものじゃないね……?」
くるりと振り向く鬼の目には下壱の文字。
なるほどね。縄だけでなく切符を切った時でも、ばれてしまうということか。切符についてを探るように、私を上から下までジロジロ見ている。
見せつけるようにして、胸ポケットから自作のそれを出し。
「ふふん、自信作なの。そっくりで……しょっ!!」
「ああ!偽造してるとは思わなかったよ!!」
刀を振るう。炎の呼吸、壱ノ型・不知火。
しかし躱されることはわかっていた。炭治郎に続きを放つよう目配せする。
「俺は鬼殺隊、竈門炭治郎だ!今からお前を斬る!!うおおおおお!!」
えっちょっと待って律儀すぎない!?
「わ、私は炎柱継子、煉獄朝緋!」
つい、炭治郎に倣って自分も名乗りを上げてしまったではないか。
まあ、そうだよね。今から攻撃するって言ったもんね。躱されるに決まってた。下弦の壱が、炭治郎の攻撃を避けて答える。
「俺は下弦の壱、魘夢だよ。鬼狩り」
でもおかげで相手の鬼の名前を知ることができた。
……そういえば四回目の邂逅にしてようやくこの鬼の名前を聞いた。しかし聞いたところで次なんて必要ないし、これで聞き納めにしてやる所存!
「せっかくいい夢を見せてやっていたのになあ。眠らなかった女はともかく、お前はなんで起きたのかな?今度は父親が生き返る夢を見せてやろうか」
ブチ。
鬼の言葉が炭治郎の逆鱗に触れ、血管が切れる音がする。
「人の心の中に土足で踏み入るな!俺はお前を許さない!!」
「ん?お前、耳に花札の飾りをつけているね?無惨様からお前を殺すように言われている……!絶対に逃さないよ!!」
キレる炭治郎。そして狙う魘夢。
そうか、そういえば炭治郎は鬼舞辻無惨に狙われているんだったっけ。
「水の呼吸、拾ノ型・生生流転!」
水の体を持った龍神様が、虚空に出現する。
エフェクトではあるものの、その姿は美しく神々しく思わず拝みたくなるほどで。
炭治郎と私はどこか似ている。彼から学び取るものは多いはず。そう思い、炭治郎の技を出す時の動き、呼吸、コツを学び取ろうとそれを必死に眺めつつ刀を握る。
「援護するよっ!炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!!」
「強制昏倒・催眠の囁き……おねむりぃ〜」
迎え討って出た魘夢が左手を前に出す。強制的に眠らせてくるあの技だ。でも攻撃を中断するなんてしていられない。
あの特殊な波長の音波を聞かなければ問題ない!!
私と炭治郎、そして鬼の技が真っ向からぶつかり合った。
つまりはもう起きるわけで。多分、自分の首に刃を当てているのだろう。私もあれにはかなりの覚悟が必要だった。
炭治郎の顔を覗き込んだ瞬間だった。
「うわああああああ!!」
「わっ!?」
ものすごい勢いで炭治郎が起き上がった。殺傷能力のある額が空を切っている。それを横に移動してサッと避ける。
間一髪、というところか。危ない危ない。私もそれから禰󠄀豆子ちゃんも、炭治郎の頭突きは無事に避けられたようでよかった。
「はあ、はあ、大丈夫……生きてる……」
「おはよう炭治郎」
「ム!」
「あっ!朝緋さんに禰󠄀豆子!二人とも、起こしてくれたんですね……ありがとう!」
「ああそれは禰󠄀豆子ちゃんの功績。私は何もしてないよ」
お疲れ気味の炭治郎にお弁当の時に配ったお茶を勧め、一息つかせる。その赤い目が、私に縛り上げられた子達に向いた。
「何も、とは言いますけどこの人達は?朝緋さんか昏倒させたのでは……?」
「その人達は鬼側の協力者。
炭治郎、起きている他の乗客や車掌、運転手にも協力者が紛れている。相手をする時は気をつけてね」
「?はい、わかりました」
炭治郎の目が、今度はぐるぅりと杏寿郎さん達に向かう。
「起きたのは俺だけなんですね。善逸や伊之助、煉獄さんは……」
「大丈夫。眠らせてくる鬼の血鬼術が混ざった切符を、禰󠄀豆子ちゃんに跡形もなく消し炭にしてもらったからその内起きるよ」
「切符……!うわ、本当だ!消し炭になっている!!でも、微かに禰󠄀豆子の燃える血の他に違う鬼の匂いがします。全然気がつかなかった……不甲斐ない」
むむむと唸り、消し炭を眺める炭治郎。
「……炭治郎はすごいねえ」
「え?」
「だって普通の隊士なら、夢の中だろうと自分の首を斬るなんて絶対できないよ。その胆力はどこで身に付けたの?相当過酷な修行をしたか、それとも持って生まれたものか。
自分の行動を不甲斐ないだなんて思えるのもすごい。心は既に柱と同等の強さだよ」
「ええっ!滅相もない!でもありがとうございます……!
修行かあ。ええと、俺に修行をつけてくれたのは鱗滝左近次という育手でして」
「うん。元水柱の鱗滝さんが育手なんだってね」
炭治郎の心の強さ、その胆力、そして、『主人公』として、どんな修行内容をこなしてきたのか非常に気になるところ。
炭治郎が語る修行について聞けば。
空気の非常に薄い山……低酸素トレーニングに加え、罠が張られたそのからの下山・登山。刀なんて持ったことも触ったこともなかったのに、初っ端から真剣で素振り。刀身を折ったらこちらの骨を折ると脅されるって何?
さらには今まで知らなかった呼吸法、基本の体力作りや柔軟はもちろん、転がし祭りと称しての、受け身と起き上がりの訓練。簡単なそれらも、実際にやると初心者ならキツかったろう。
滝行、そして水と一体化ということで、崖の上から滝壺に真っ逆さま。崖の上からってそんな、獅子じゃあるまいし。
そんな死ぬほどつらい鍛錬を続けて一年後。今度は巨大な岩を斬るようにと、言われたらしく。でも毎日毎日鍛錬を続けても斬ることはできず。
女の子と男の子が岩が切れるようにと、稽古をつけてくれたそうで。
その時の自分はまだ呼吸の常中というのは覚えていなかったため、かなり助かったと語る。
修行開始から二年。ようやく岩を真っ二つに斬ることができたそうだ。
過酷な修行だったと、炭治郎はなんでもないふうにサラリと語ってくれた。
「え、つまり二年!?二年でその強さに!?
修行の内容もどう聞いてもブートキャンプだ……」
「ぶうときゃんぷ?」
「や、こっちの話……」
槇寿朗さんの修行とは比べ物にならないや。どれだけ槇寿朗さんが手加減し、私達に優しく指導してくれていたかがよくわかる。その中で自分を追い込んだのは、私自身や杏寿郎さん自身。きっと槇寿朗さんの指導は、自主性を重んじるものだったのだ。
鱗滝ブートキャンプおそるべし……。
いや、炭治郎がすごいのかもしれない。
私は二年でなんて、藤襲山に挑めるほど強くはなれない。
そりゃあ、修行開始の時期が幼少の頃。鍛錬してもなかなか身につかない歳ごろに始めているから、何年もかかっている可能性は高いよ?
なるほどそれで納得した。
炭治郎は技術面や経験はまだまだだけど、数年後には杏寿郎さんと同格の強さに。柱になるかもしれない。かもじゃない、なる。水柱は居るし、何柱になるかはわからないけど。
共に切磋琢磨すると力の底上げに繋がるから、善逸と伊之助も同じだ。柱になれる。
私も鱗滝さんに修行をつけてもらったら、もっと強くなれるかしら。
水の呼吸を覚えすぎて、水の呼吸使いになってしまうのだけは困るけどね。私はあくまでも、炎の呼吸使いなのだから。
その時、ピリリと空気が張り詰め、全身の毛が逆立つ感覚があった。……鬼の気配だ。
「どうしたんですか、朝緋さん」
「鬼の気配が上、先頭車両からしてくる……。禰󠄀豆子ちゃんはここに。炭治郎、行くよ」
「えっ、ええっ!?」
言うが早いか、炭治郎の手を引き客車から出て列車の上へと飛び上がる。炭治郎の足が浮くほど速く駆け抜けた先にあったのは、あの鬼の後ろ姿。
「おはよう鬼さん」
「うん、おはよう。まだ寝ててよかったのに。でもお前は眠っていないからおはようじゃないよねぇ。お前の切符、俺が作ったものじゃないね……?」
くるりと振り向く鬼の目には下壱の文字。
なるほどね。縄だけでなく切符を切った時でも、ばれてしまうということか。切符についてを探るように、私を上から下までジロジロ見ている。
見せつけるようにして、胸ポケットから自作のそれを出し。
「ふふん、自信作なの。そっくりで……しょっ!!」
「ああ!偽造してるとは思わなかったよ!!」
刀を振るう。炎の呼吸、壱ノ型・不知火。
しかし躱されることはわかっていた。炭治郎に続きを放つよう目配せする。
「俺は鬼殺隊、竈門炭治郎だ!今からお前を斬る!!うおおおおお!!」
えっちょっと待って律儀すぎない!?
「わ、私は炎柱継子、煉獄朝緋!」
つい、炭治郎に倣って自分も名乗りを上げてしまったではないか。
まあ、そうだよね。今から攻撃するって言ったもんね。躱されるに決まってた。下弦の壱が、炭治郎の攻撃を避けて答える。
「俺は下弦の壱、魘夢だよ。鬼狩り」
でもおかげで相手の鬼の名前を知ることができた。
……そういえば四回目の邂逅にしてようやくこの鬼の名前を聞いた。しかし聞いたところで次なんて必要ないし、これで聞き納めにしてやる所存!
「せっかくいい夢を見せてやっていたのになあ。眠らなかった女はともかく、お前はなんで起きたのかな?今度は父親が生き返る夢を見せてやろうか」
ブチ。
鬼の言葉が炭治郎の逆鱗に触れ、血管が切れる音がする。
「人の心の中に土足で踏み入るな!俺はお前を許さない!!」
「ん?お前、耳に花札の飾りをつけているね?無惨様からお前を殺すように言われている……!絶対に逃さないよ!!」
キレる炭治郎。そして狙う魘夢。
そうか、そういえば炭治郎は鬼舞辻無惨に狙われているんだったっけ。
「水の呼吸、拾ノ型・生生流転!」
水の体を持った龍神様が、虚空に出現する。
エフェクトではあるものの、その姿は美しく神々しく思わず拝みたくなるほどで。
炭治郎と私はどこか似ている。彼から学び取るものは多いはず。そう思い、炭治郎の技を出す時の動き、呼吸、コツを学び取ろうとそれを必死に眺めつつ刀を握る。
「援護するよっ!炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!!」
「強制昏倒・催眠の囁き……おねむりぃ〜」
迎え討って出た魘夢が左手を前に出す。強制的に眠らせてくるあの技だ。でも攻撃を中断するなんてしていられない。
あの特殊な波長の音波を聞かなければ問題ない!!
私と炭治郎、そして鬼の技が真っ向からぶつかり合った。