四周目 漆
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気がつけば周りの乗客全てが、忍び寄る鬼の血鬼術の影響で眠りに落ちていた。
血鬼術は少しずつ、少しずつ浸食していったのだろう。ということは、列車との融合は徐々に始まっているに違いない。
次いで車掌さんが切符を切りに来た。生気がなさすぎて、それだけで幽霊のようにも見えて、若干おどろおどろしい。
確か、奥さんとお子さんが亡くなっていて、そのことを鬼に利用されているのだったね。かわいそうに。
でも、同情なんてしてあげない。あげられない。
悪い鬼に協力するものも悪だ。
さて、この偽造の切符が果たして通用するのか。
隠に頼んで同じ紙を取り寄せてもらったから紙の質は変わらない。ただし鉄道会社の正規品と違うので、印刷ではなく時間がかかるが手書き。
絵や文字を描いたり模写するのは得意か、だって?刺繍で杏寿郎さんのデフォルメお顔を、座布団にデザインし縫い付けるほどには得意だと思ってる。
だから見た目は全く一緒。見た目をより本物に近くする。その為にも列車調査に奔走していた時、切符は捨てず持ち帰ったんだもの。
杏寿郎さん、伊之助、善逸、そして炭治郎の切符に切り込みを入れられた。次は私の番。
車掌さんの様子にも注意を向け、ドキドキしながら切り込みを入れるのを見守る。
ーーぱちん。
私の切符が切られた瞬間、杏寿郎さん達が座席で眠りに落ちているのが目に入った。
いきなり睡魔に襲われた人のように、私もよろめきながら座席に腰掛け、眠ったふりをする。
車掌はあまり確認せず切り込みを入れていたため、偽造切符であることにも気が付かなかった。狸寝入りにも気が付かないで、急いで踵を返していった。
……もしかして、今ついて行けば鬼に遭遇する?
でも鬼にはバレているだろうな。おやおやおや?ひとり眠っていないぞ?と。
だって『前』の時に、私が眠らなかったことに気がついていたもの。縄のせいだったら、まだ気がついていないだろうけど。
どちらにせよ会うわけに行かない。だって今鉢合わせしたら、鬼の協力者達も一緒にいる空間に行くことになる。目の前で人質に取られてしまったら、助けることは難しいだろう。警戒心が強い上に、一網打尽にしてあとでゆっくり食べる、だなんて考えていた鬼だからこそ『毎回』乗客の命は守れた。
鬼に協力するのも悪だけど、人を死なせてはいけない。鬼殺隊は全ての人間を守る。
列車の夢で格好良く鬼を退治する、強く凛々しく雄々しい杏寿郎さんの姿。私の望む夢の中で共に幸せに暮らす、笑顔の杏寿郎さんの姿。
それらが見られなくなるのは、ちょっと残念ではあるものの、命がかかっている、今は私しか起きている者はいないのだから、私がしっかりしなくちゃ。
次に来るのは五人の鬼の若い協力者で。あの縄を繋ぎに来るはずで。
縄を持っているというなら、その縄で縛り上げてしまえばいい。
「杏寿郎さん……穏やかな寝顔だこと。どんな夢を見ているのかしら」
かつて眠らされた先で私の見た夢と同じような夢だったらいいのにな。
寝込みを襲うようで少し気はひけるけれど、露わとなっているその額にそっと口付ける。今は少しだけ眠っていてね、そういう気持ちを込めて。
足早に。しかし物音を立てぬようひっそりやってきた鬼の協力者達を昏倒させ、彼らが持っていた縄で縛り上げる。ちょっと強めに意識を刈り取ったから、しばらくは全く起きないでしょ。しばらくどころか永遠だったらどうしよう?とは思う。特に、結核を患っている子とか……。一般人に対する力の加減はとても難しい。
これで、彼らが改心するためのやり取りは完全になくなってしまったけれど、生きてさえいればどうとでもなる。
夢とはいつか覚めて、現実に戻るものなのだから。むぎゅっ、彼らの為にと持参していた藤のお守りをそれぞれ懐に押し込んでおく。よしよしこれで安心。
「ごめんね協力者さん達」
ごめんと言いつつ、毎回のように杏寿郎さんと繋がる女の子をちょっと憎らしく思いながら見つめてしまう。杏寿郎さんの夢……覗いてみたい。でも我慢だ。
人の心の中に土足で踏み入るな、って私の心に住んでる炭治郎が言ってるもんね。心の中だろうと、後輩に怒られるのは嫌。
……それにしてもこの縄、相変わらずいや〜な気配の漂う鬼の縄だなあ。
変なことに使う麻縄よりも嫌悪感が湧いて仕方がない。や、そんな真似は杏寿郎さんにされてないし、される気もないよ?
そもそも鬼殺隊士なので、鬼の血鬼術が込められていようと媒体自体が普通の縄なら、簡単に引きちぎれると思う。
禰󠄀豆子ちゃんが入っている箱を数回ノックする。
「禰󠄀豆子ちゃん、出てきてくれる?大丈夫、今は夜だから」
ギィ、とゆっくり開いたそこから転げ落ちるようにしてかわいい桃色の塊が出てきた。もちろん、落ちたらかわいそうだから受け止める。三六〇度全方向からかわいい。
「ム?……ムー!!」
起きたばかりなのか寝ぼけ眼の禰󠄀豆子ちゃん。でも私の姿を目にした途端、自らも抱きついてきてすりすりと頬擦りしてくれた。
よかった。この前会ったことを覚えてくれていたのね。嫌われてもいないみたいで安心した。
箱に入る為用の小さなフォルムの彼女の頭を撫で、幼な子に呼びかけるようにゆっくり優しいトーンで声をかける。
「眠っているみんなを起こしたいのだけれど、手伝ってくれるかな?貴方のお兄ちゃんなんて、泣いてるよね。早く起こして禰󠄀豆子ちゃんはここだよー、って慰めてあげなくっちゃ」
「ムン!」
力いっぱい頷いて手を広げてくれた。そのふくふくした小さなおてては、『前回』同様やはりかわいい。
「起こす方法だけど、みんなが持っているこれ……私のは偽物なんだけど切符ね?握っているか、ポケットに入っているかしているこれを燃やしてほしいの」
「ム!」
「お、やる気満々ね!任せたよ禰󠄀豆子ちゃん!」
禰󠄀豆子ちゃんが血鬼術を使い、ぼぼぼと切符を燃やして回ってくれた。しかしぴくりとも動かない四人。
「ありがとう。……でも、さすがにまだ起きないみたいだねえ」
二人揃って同じ方向にうーん?と首を傾げる。何か、何か足りないような……?
ただでさえこの世は残酷で。特に鬼殺隊に所属している人なんて、鬼との戦い、斬った張ったで心が休まる時が少ない。杏寿郎さんと私は肉体的にも精神的にも支え合える恋仲だからまだいいほう。お互いが心の拠り所だもの。
それでも、幸せな夢を見ているのであれば、なおさらそこから出たくなくなる。
私もそうだった。生きている家族達。病気にかからず元気そうな瑠火さん、笑顔の槇寿朗さんや千寿郎。愛し合える杏寿郎さんという私のたった一人の存在。
夢と知ってからも、覚めたくないなあ。現実に戻りたくないなあってすごくすごく思ったもの。
「ムー……」
禰󠄀豆子ちゃんが炭治郎を起こすべく微笑ましい悪戯を決行している。
ほっぺたをびろびろ伸ばしてむにむに潰し……、ゴチン!!
「あっ」
起きないからと、自らの額で炭治郎の額を頭突いた。禰󠄀豆子ちやんの額が割れ、血がダラダラ。涙もダラダラ。いたそお……。
駄目だよ禰󠄀豆子ちゃん。炭治郎は柱すら転倒させるほどの石頭なんだから。
怒った禰󠄀豆子ちゃんが全力で炭治郎を燃やしにかかる。
燃やすというより燃える血の血鬼術で、下弦の壱の血鬼術の気配を吹き飛ばそうとしているように見える。それさえ消せば、起きると思ったのだろうね。原理は合っている。
禰󠄀豆子ちゃんには申し訳ないけど今ので思い出した。燃える血の血鬼術に包まれると、対象者はさらに起きやすくなるんだった。涙する禰󠄀豆子ちゃんをあやしながら、頼んでみる。
「よしよし。痛いの痛いの飛んでけ〜!大丈夫、大丈夫……ほら痛くない、痛くない。
……あのね、他のみんなも燃やしてくれる?特に、杏寿郎さん。そこの炎のような人を。
この人に早く起きてほしいんだあ……」
柱だし。
でも禰󠄀豆子ちゃんからは私の表情が、感情が、切なそうに、愛しい人をただただ見つめる目に見えたみたいで。
私の手をとって、杏寿郎さんの手へと導き、繋がせてきた。
「……ありがとう。そうだよ、この人は私にとってすごく大切な人なの。
禰󠄀豆子ちゃんがお兄ちゃんをとても大切にしてるのと一緒だね」
私の大切な貴方、どうか早くその目に私を映して。
血鬼術は少しずつ、少しずつ浸食していったのだろう。ということは、列車との融合は徐々に始まっているに違いない。
次いで車掌さんが切符を切りに来た。生気がなさすぎて、それだけで幽霊のようにも見えて、若干おどろおどろしい。
確か、奥さんとお子さんが亡くなっていて、そのことを鬼に利用されているのだったね。かわいそうに。
でも、同情なんてしてあげない。あげられない。
悪い鬼に協力するものも悪だ。
さて、この偽造の切符が果たして通用するのか。
隠に頼んで同じ紙を取り寄せてもらったから紙の質は変わらない。ただし鉄道会社の正規品と違うので、印刷ではなく時間がかかるが手書き。
絵や文字を描いたり模写するのは得意か、だって?刺繍で杏寿郎さんのデフォルメお顔を、座布団にデザインし縫い付けるほどには得意だと思ってる。
だから見た目は全く一緒。見た目をより本物に近くする。その為にも列車調査に奔走していた時、切符は捨てず持ち帰ったんだもの。
杏寿郎さん、伊之助、善逸、そして炭治郎の切符に切り込みを入れられた。次は私の番。
車掌さんの様子にも注意を向け、ドキドキしながら切り込みを入れるのを見守る。
ーーぱちん。
私の切符が切られた瞬間、杏寿郎さん達が座席で眠りに落ちているのが目に入った。
いきなり睡魔に襲われた人のように、私もよろめきながら座席に腰掛け、眠ったふりをする。
車掌はあまり確認せず切り込みを入れていたため、偽造切符であることにも気が付かなかった。狸寝入りにも気が付かないで、急いで踵を返していった。
……もしかして、今ついて行けば鬼に遭遇する?
でも鬼にはバレているだろうな。おやおやおや?ひとり眠っていないぞ?と。
だって『前』の時に、私が眠らなかったことに気がついていたもの。縄のせいだったら、まだ気がついていないだろうけど。
どちらにせよ会うわけに行かない。だって今鉢合わせしたら、鬼の協力者達も一緒にいる空間に行くことになる。目の前で人質に取られてしまったら、助けることは難しいだろう。警戒心が強い上に、一網打尽にしてあとでゆっくり食べる、だなんて考えていた鬼だからこそ『毎回』乗客の命は守れた。
鬼に協力するのも悪だけど、人を死なせてはいけない。鬼殺隊は全ての人間を守る。
列車の夢で格好良く鬼を退治する、強く凛々しく雄々しい杏寿郎さんの姿。私の望む夢の中で共に幸せに暮らす、笑顔の杏寿郎さんの姿。
それらが見られなくなるのは、ちょっと残念ではあるものの、命がかかっている、今は私しか起きている者はいないのだから、私がしっかりしなくちゃ。
次に来るのは五人の鬼の若い協力者で。あの縄を繋ぎに来るはずで。
縄を持っているというなら、その縄で縛り上げてしまえばいい。
「杏寿郎さん……穏やかな寝顔だこと。どんな夢を見ているのかしら」
かつて眠らされた先で私の見た夢と同じような夢だったらいいのにな。
寝込みを襲うようで少し気はひけるけれど、露わとなっているその額にそっと口付ける。今は少しだけ眠っていてね、そういう気持ちを込めて。
足早に。しかし物音を立てぬようひっそりやってきた鬼の協力者達を昏倒させ、彼らが持っていた縄で縛り上げる。ちょっと強めに意識を刈り取ったから、しばらくは全く起きないでしょ。しばらくどころか永遠だったらどうしよう?とは思う。特に、結核を患っている子とか……。一般人に対する力の加減はとても難しい。
これで、彼らが改心するためのやり取りは完全になくなってしまったけれど、生きてさえいればどうとでもなる。
夢とはいつか覚めて、現実に戻るものなのだから。むぎゅっ、彼らの為にと持参していた藤のお守りをそれぞれ懐に押し込んでおく。よしよしこれで安心。
「ごめんね協力者さん達」
ごめんと言いつつ、毎回のように杏寿郎さんと繋がる女の子をちょっと憎らしく思いながら見つめてしまう。杏寿郎さんの夢……覗いてみたい。でも我慢だ。
人の心の中に土足で踏み入るな、って私の心に住んでる炭治郎が言ってるもんね。心の中だろうと、後輩に怒られるのは嫌。
……それにしてもこの縄、相変わらずいや〜な気配の漂う鬼の縄だなあ。
変なことに使う麻縄よりも嫌悪感が湧いて仕方がない。や、そんな真似は杏寿郎さんにされてないし、される気もないよ?
そもそも鬼殺隊士なので、鬼の血鬼術が込められていようと媒体自体が普通の縄なら、簡単に引きちぎれると思う。
禰󠄀豆子ちゃんが入っている箱を数回ノックする。
「禰󠄀豆子ちゃん、出てきてくれる?大丈夫、今は夜だから」
ギィ、とゆっくり開いたそこから転げ落ちるようにしてかわいい桃色の塊が出てきた。もちろん、落ちたらかわいそうだから受け止める。三六〇度全方向からかわいい。
「ム?……ムー!!」
起きたばかりなのか寝ぼけ眼の禰󠄀豆子ちゃん。でも私の姿を目にした途端、自らも抱きついてきてすりすりと頬擦りしてくれた。
よかった。この前会ったことを覚えてくれていたのね。嫌われてもいないみたいで安心した。
箱に入る為用の小さなフォルムの彼女の頭を撫で、幼な子に呼びかけるようにゆっくり優しいトーンで声をかける。
「眠っているみんなを起こしたいのだけれど、手伝ってくれるかな?貴方のお兄ちゃんなんて、泣いてるよね。早く起こして禰󠄀豆子ちゃんはここだよー、って慰めてあげなくっちゃ」
「ムン!」
力いっぱい頷いて手を広げてくれた。そのふくふくした小さなおてては、『前回』同様やはりかわいい。
「起こす方法だけど、みんなが持っているこれ……私のは偽物なんだけど切符ね?握っているか、ポケットに入っているかしているこれを燃やしてほしいの」
「ム!」
「お、やる気満々ね!任せたよ禰󠄀豆子ちゃん!」
禰󠄀豆子ちゃんが血鬼術を使い、ぼぼぼと切符を燃やして回ってくれた。しかしぴくりとも動かない四人。
「ありがとう。……でも、さすがにまだ起きないみたいだねえ」
二人揃って同じ方向にうーん?と首を傾げる。何か、何か足りないような……?
ただでさえこの世は残酷で。特に鬼殺隊に所属している人なんて、鬼との戦い、斬った張ったで心が休まる時が少ない。杏寿郎さんと私は肉体的にも精神的にも支え合える恋仲だからまだいいほう。お互いが心の拠り所だもの。
それでも、幸せな夢を見ているのであれば、なおさらそこから出たくなくなる。
私もそうだった。生きている家族達。病気にかからず元気そうな瑠火さん、笑顔の槇寿朗さんや千寿郎。愛し合える杏寿郎さんという私のたった一人の存在。
夢と知ってからも、覚めたくないなあ。現実に戻りたくないなあってすごくすごく思ったもの。
「ムー……」
禰󠄀豆子ちゃんが炭治郎を起こすべく微笑ましい悪戯を決行している。
ほっぺたをびろびろ伸ばしてむにむに潰し……、ゴチン!!
「あっ」
起きないからと、自らの額で炭治郎の額を頭突いた。禰󠄀豆子ちやんの額が割れ、血がダラダラ。涙もダラダラ。いたそお……。
駄目だよ禰󠄀豆子ちゃん。炭治郎は柱すら転倒させるほどの石頭なんだから。
怒った禰󠄀豆子ちゃんが全力で炭治郎を燃やしにかかる。
燃やすというより燃える血の血鬼術で、下弦の壱の血鬼術の気配を吹き飛ばそうとしているように見える。それさえ消せば、起きると思ったのだろうね。原理は合っている。
禰󠄀豆子ちゃんには申し訳ないけど今ので思い出した。燃える血の血鬼術に包まれると、対象者はさらに起きやすくなるんだった。涙する禰󠄀豆子ちゃんをあやしながら、頼んでみる。
「よしよし。痛いの痛いの飛んでけ〜!大丈夫、大丈夫……ほら痛くない、痛くない。
……あのね、他のみんなも燃やしてくれる?特に、杏寿郎さん。そこの炎のような人を。
この人に早く起きてほしいんだあ……」
柱だし。
でも禰󠄀豆子ちゃんからは私の表情が、感情が、切なそうに、愛しい人をただただ見つめる目に見えたみたいで。
私の手をとって、杏寿郎さんの手へと導き、繋がせてきた。
「……ありがとう。そうだよ、この人は私にとってすごく大切な人なの。
禰󠄀豆子ちゃんがお兄ちゃんをとても大切にしてるのと一緒だね」
私の大切な貴方、どうか早くその目に私を映して。