四周目 漆
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温泉にゆるりと入ること数分。
全集中の呼吸を会得しているためか体温はもともと高いほうだけど、温泉のおかげか体の芯からぽっかぽかに温まってきて気持ちがいい。
まぶたの上と下がちゅーをしたがっている……。眠い、寝たい。ふわんふわんする。
「気持ちいーね」
「ああ、そうだな。芋でも食べたい気分だ!」
岩の反対側から芋を所望する杏寿郎さんの声がする。ちゃぷり、少しだけ白く濁る湯と戯れながらの会話だ。
「ここで?温泉の中でっていうと、桶に浮かんだお酒って感じするんだけど杏寿郎さんはお芋なんだね」
安定の芋好きめ。でもこれぞ杏寿郎さんという感じで、思わず笑みが溢れる。
「ああ、芋だな!酒は飲まん!!
君が二十になったら共に飲む約束を……うむ?したような、していないような……まあいい!今は飲まない!!」
あれ……?それって確か……。『以前』の約束で……、違ったっけ?杏寿郎さんに『前』の記憶が残っているのだろうか。
明槻の血鬼術ってもしかしてその辺りが適当?明槻自体少しばかり適当人間、ううん。適当鬼だからなあ。
考え込んで湯の中でぶくぶくしていれば。
「なあ朝緋、そちらに行ってもいいか?」
「えっ……、…………ど、どうぞ」
そんなことを言われ、空気をぶくぶく出す動きが乱れた。大きな気泡が水面で弾ける。
岩という女と男を隔てる衝立を越え、私の背後に回る杏寿郎さん。
こんなにも広いお風呂なのに、彼はぴったりと私に張り付いて、後ろから抱きしめてきた。そのまま股の間に座らせられ、体が緊張でぴくりと震える。
ちゃぷんという水音だけで恥ずかしくてたまらないのに……ドキドキしてきちゃう。私の鼓動、聞こえちゃってないかな?
杏寿郎さんの呼気が、耳にあたる。
「喧嘩したからだろうか、いつもと違って初々しいな。近づいただけで恥ずかしがるだなんて思わなかったぞ」
「いつもだってすごく恥ずかしいよ?ただ、貴方についていくのに必死で……、」
「愛いやつめ」
こちらを向け、そう囁かれて顔を杏寿郎さん側へと言う通りに捻れば、唇が塞がれる。小鳥がくちばしで小さく突き合うように、優しく何度も重ねられる口づけ。
「ん、私は、杏寿郎さん、にも……気持ちよくなって欲しいって、そう思ってるだけなの、です……、ん、はぁ、……」
深い口づけというわけでもないのに、息が上がる。温かい吐息同士が震えながらぶつかる。
唇を離して額をこつんと合わせながら互いの目をじっと見つめると、柔らかくとろりと落ちてくる、あたたかくて慈愛に満ちた視線。
「かわいい……俺の朝緋はかわいいなあ……」
少しカサついた囁き声で、かわいいと連呼されだけなのに、腰の奥がきゅうと疼いた。
声とは不思議だ。
そこまで声フェチというわけでもないのに、それが杏寿郎さんの声だと思うだけで、体が悦んでしまう。
いつも悦んでいる、そう言った杏寿郎さんの言葉も、偽りではなかったということね。
「なあ……駄目だろうか?君を食べたい」
指で唇をするりと撫でられながら、その先を望まれた。ふに、唇が指に押され形を変える。そして口の中へと侵入しようとしてくる。
その指をぺろりと舐めてから、首を振った。
「駄目。だってここ、共用の温泉だもの。誰か来ちゃったらどうするの?」
「む…………、そういえばそうだ。
ん?となると今の状態でも、朝緋の裸が他の人にも見られてしまう可能性が!?見せてやるものか!!」
「きゃあ!?」
体全体で覆いかぶさるようにして、隠そうとしてきた。布でもない限りどうやっても無理なのに……重い。水圧で少し軽くなる湯の中でよかった。
「杏寿郎さんは柱なんだから、誰か来たら気配でわかるでしょっ」
「よもやっ!そうだった!!」
上から退き、再び後ろから私を抱きしめる体勢に戻った。私をゼロ距離で抱くのは変わらないのね。
「むむ!?ならば今ここで朝緋を食べても問題はないのではなかろうか!」
「だーめ。ここでは嫌。おっきい声出たら恥ずかしい……。
それとも、杏寿郎さんは私の恥ずかしいトコ、独り占めしないで他の人に見せちゃってもいいの?見せたくないんでしょ?」
「……嫌だ。絶対に嫌だ。
裸を見せるのも嫌だが、俺は朝緋の声も何もかも独り占めせねば気が済まん……!」
他の人に見せたくないのは私も同じ。自分のことも、杏寿郎さんの裸も、他の人になんて見せたくない。
「ならせめて、お部屋に移動してからにしよう?そしたら、私をいっぱいいっぱい、かわいがってください」
「ああ!暴れた時の後片付けも早く終わらせてな!!」
そういえば片付けがあるんだった。
私はともかく、杏寿郎さんはその間『待て』ができるのだろうか。
よくよく仲直りし、そしてよくよく温まり部屋へと移動……早急に片付けをすると、私達は再び布団の中で貪るようにしてお互いを温め合った。
せっかく汗も洗い流してきたのに、また汗だくになっちゃったなあ。
あとでまた、お風呂入らなくっちゃ。
ご飯は食べすぎてないけれど、こんなことばかりシて、羽目は外しすぎたような気がする。
「ん……、杏寿郎さん……」
朝方、彼の胸元にすり寄って、愛しい鼓動を確かめる。とくんとくん、生きてる音がする。大好きな杏寿郎さんの匂いがする。
最近の私の癖だ。
くすぐったそうに身を捩りながらも、私の頭を撫でてくれた。……なんと幸せなのだろう。
ずっと、ずっとこうしてたい。
「気持ち良かったようでなによりだ。だが、朝緋の声が思い切り聞けないのは、少し残念だったな……」
隣の部屋の槇寿朗さんに聞かれたくなくて声は控えめにした。
声を出さないようにして体を重ねることの大変さが、身に染みた夜だった。
あまりあって欲しくはないけれど、次にこういう機会があれば、ぜひ手拭いを用意しておいてほしいところ。お口に手拭いを当てるか噛むかして、声を我慢するから。
あ、でも、なんだか絵面的に変態チックだなあ……。私か杏寿郎さんか、どちらかが変な性癖に目覚めたら困る。
まあ、どっちにしろ声を抑えたところで槇寿朗さんにはバレバレだったろうね。だって槇寿朗さんだし。
それでも親子なら最低限の配慮は必要で。ただ、恥ずかしいからしばらく顔を合わせたくないというのが本音だ。
男同士だから杏寿郎さんはある程度平気かもしれないけど、そこは男親と娘という関係上、仕方のないことかな。
全集中の呼吸を会得しているためか体温はもともと高いほうだけど、温泉のおかげか体の芯からぽっかぽかに温まってきて気持ちがいい。
まぶたの上と下がちゅーをしたがっている……。眠い、寝たい。ふわんふわんする。
「気持ちいーね」
「ああ、そうだな。芋でも食べたい気分だ!」
岩の反対側から芋を所望する杏寿郎さんの声がする。ちゃぷり、少しだけ白く濁る湯と戯れながらの会話だ。
「ここで?温泉の中でっていうと、桶に浮かんだお酒って感じするんだけど杏寿郎さんはお芋なんだね」
安定の芋好きめ。でもこれぞ杏寿郎さんという感じで、思わず笑みが溢れる。
「ああ、芋だな!酒は飲まん!!
君が二十になったら共に飲む約束を……うむ?したような、していないような……まあいい!今は飲まない!!」
あれ……?それって確か……。『以前』の約束で……、違ったっけ?杏寿郎さんに『前』の記憶が残っているのだろうか。
明槻の血鬼術ってもしかしてその辺りが適当?明槻自体少しばかり適当人間、ううん。適当鬼だからなあ。
考え込んで湯の中でぶくぶくしていれば。
「なあ朝緋、そちらに行ってもいいか?」
「えっ……、…………ど、どうぞ」
そんなことを言われ、空気をぶくぶく出す動きが乱れた。大きな気泡が水面で弾ける。
岩という女と男を隔てる衝立を越え、私の背後に回る杏寿郎さん。
こんなにも広いお風呂なのに、彼はぴったりと私に張り付いて、後ろから抱きしめてきた。そのまま股の間に座らせられ、体が緊張でぴくりと震える。
ちゃぷんという水音だけで恥ずかしくてたまらないのに……ドキドキしてきちゃう。私の鼓動、聞こえちゃってないかな?
杏寿郎さんの呼気が、耳にあたる。
「喧嘩したからだろうか、いつもと違って初々しいな。近づいただけで恥ずかしがるだなんて思わなかったぞ」
「いつもだってすごく恥ずかしいよ?ただ、貴方についていくのに必死で……、」
「愛いやつめ」
こちらを向け、そう囁かれて顔を杏寿郎さん側へと言う通りに捻れば、唇が塞がれる。小鳥がくちばしで小さく突き合うように、優しく何度も重ねられる口づけ。
「ん、私は、杏寿郎さん、にも……気持ちよくなって欲しいって、そう思ってるだけなの、です……、ん、はぁ、……」
深い口づけというわけでもないのに、息が上がる。温かい吐息同士が震えながらぶつかる。
唇を離して額をこつんと合わせながら互いの目をじっと見つめると、柔らかくとろりと落ちてくる、あたたかくて慈愛に満ちた視線。
「かわいい……俺の朝緋はかわいいなあ……」
少しカサついた囁き声で、かわいいと連呼されだけなのに、腰の奥がきゅうと疼いた。
声とは不思議だ。
そこまで声フェチというわけでもないのに、それが杏寿郎さんの声だと思うだけで、体が悦んでしまう。
いつも悦んでいる、そう言った杏寿郎さんの言葉も、偽りではなかったということね。
「なあ……駄目だろうか?君を食べたい」
指で唇をするりと撫でられながら、その先を望まれた。ふに、唇が指に押され形を変える。そして口の中へと侵入しようとしてくる。
その指をぺろりと舐めてから、首を振った。
「駄目。だってここ、共用の温泉だもの。誰か来ちゃったらどうするの?」
「む…………、そういえばそうだ。
ん?となると今の状態でも、朝緋の裸が他の人にも見られてしまう可能性が!?見せてやるものか!!」
「きゃあ!?」
体全体で覆いかぶさるようにして、隠そうとしてきた。布でもない限りどうやっても無理なのに……重い。水圧で少し軽くなる湯の中でよかった。
「杏寿郎さんは柱なんだから、誰か来たら気配でわかるでしょっ」
「よもやっ!そうだった!!」
上から退き、再び後ろから私を抱きしめる体勢に戻った。私をゼロ距離で抱くのは変わらないのね。
「むむ!?ならば今ここで朝緋を食べても問題はないのではなかろうか!」
「だーめ。ここでは嫌。おっきい声出たら恥ずかしい……。
それとも、杏寿郎さんは私の恥ずかしいトコ、独り占めしないで他の人に見せちゃってもいいの?見せたくないんでしょ?」
「……嫌だ。絶対に嫌だ。
裸を見せるのも嫌だが、俺は朝緋の声も何もかも独り占めせねば気が済まん……!」
他の人に見せたくないのは私も同じ。自分のことも、杏寿郎さんの裸も、他の人になんて見せたくない。
「ならせめて、お部屋に移動してからにしよう?そしたら、私をいっぱいいっぱい、かわいがってください」
「ああ!暴れた時の後片付けも早く終わらせてな!!」
そういえば片付けがあるんだった。
私はともかく、杏寿郎さんはその間『待て』ができるのだろうか。
よくよく仲直りし、そしてよくよく温まり部屋へと移動……早急に片付けをすると、私達は再び布団の中で貪るようにしてお互いを温め合った。
せっかく汗も洗い流してきたのに、また汗だくになっちゃったなあ。
あとでまた、お風呂入らなくっちゃ。
ご飯は食べすぎてないけれど、こんなことばかりシて、羽目は外しすぎたような気がする。
「ん……、杏寿郎さん……」
朝方、彼の胸元にすり寄って、愛しい鼓動を確かめる。とくんとくん、生きてる音がする。大好きな杏寿郎さんの匂いがする。
最近の私の癖だ。
くすぐったそうに身を捩りながらも、私の頭を撫でてくれた。……なんと幸せなのだろう。
ずっと、ずっとこうしてたい。
「気持ち良かったようでなによりだ。だが、朝緋の声が思い切り聞けないのは、少し残念だったな……」
隣の部屋の槇寿朗さんに聞かれたくなくて声は控えめにした。
声を出さないようにして体を重ねることの大変さが、身に染みた夜だった。
あまりあって欲しくはないけれど、次にこういう機会があれば、ぜひ手拭いを用意しておいてほしいところ。お口に手拭いを当てるか噛むかして、声を我慢するから。
あ、でも、なんだか絵面的に変態チックだなあ……。私か杏寿郎さんか、どちらかが変な性癖に目覚めたら困る。
まあ、どっちにしろ声を抑えたところで槇寿朗さんにはバレバレだったろうね。だって槇寿朗さんだし。
それでも親子なら最低限の配慮は必要で。ただ、恥ずかしいからしばらく顔を合わせたくないというのが本音だ。
男同士だから杏寿郎さんはある程度平気かもしれないけど、そこは男親と娘という関係上、仕方のないことかな。