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「なぜ杏寿郎がここにいる」
意識を失ってしまった朝緋を抱え、客間へと続く渡り廊下を歩いていれば、父上と鉢合わせてしまった。
だがそれは仕方なきこと。朝緋は父上とここへ来たのだから。
父上にも多少の怒りは湧くが、それを表に出す気はない。
さすがに同室ではないと思うが、それでも父上と……と思うと、腹立たしくてたまらなくなる。眠っているこの子の体に、胎に。再び俺の怒りを。全てを刻んでしまおうか。ふふ、なかなか良い考えだ。
こういう怒りを全て受け止めるのは、いつだって朝緋だ。
「朝緋を迎えに。そのついでに日輪刀を研ぎに出しにきました」
「日輪刀がついでとな!?」
朝緋に抱く怒りとこれからを思う嬉しさとでせめぎ合う中、普段通りの口調で父上に返す。
ここ数ヶ月で父上とはたくさん会話ができていて、それを望んでいた息子としては大変嬉しく思う。前はこのような関係ではなかった。話なんてとてもじゃないができなくて……。
ん?……前?前とは何のことだろう。まあいい。
「それよりも朝緋はどうした」
「どうもこうも、眠っているだけです。度重なる任務で疲れていたところで入浴し、気持ちよくて寝入ってしまったのだと思います」
「風呂で寝る?溺れてしまうではないか。いくら刀鍛冶の里とはいえ、気が緩みすぎでは?」
「それだけ気持ちがよかったのでしょう。仕方のない愛し子だ……」
最終的に俺が与える快楽の気持ちよさで眠ってしまったのは本当のことだしな。俺が乱れに乱してしまった髪を、愛し気にゆるゆると梳いて撫でる。
「お前……女湯に入ったのか……」
「露天に朝緋の気配しかないのを確認して、それから顔を出したのみです。朝緋と俺は恋仲ですよ?朝緋の裸なら、見慣れておりますゆえ……。
いつまでも風呂で眠っていては風邪をひく。なので、服を着せこうして連れ出しただけです」
眠る朝緋に着物を着せることなど普段の行為後で慣れきっている。そんなこと、息をするかのように容易い。
「では、朝緋を布団に寝かせますのでこれにて!」
「杏寿郎、ちょっと待て」
む……、父上が朝緋の異変に気がついたようだ。俺が朝緋に刻んだ愛の跡に。
だらりと垂れ下がる足や腕。そこにも、首筋にもその跡があるからな。
「朝緋の体は噛み跡だらけのようだがどうした。寝落ちというより獣にでも襲われていたと言われたほうがしっくり……、
はっ!?…………杏寿郎、まさかお前……」
にぃんまりと笑みを浮かべれば、父上は理解したようだ。
鬼と変わらぬほど凶暴で、飢えた獣がいたことを。いや、今もここにいることを。
今度こそ、引き止められることはなかった。
朝緋が借りている部屋の中、既に敷かれていた布団へとその体を横たえる。
少しばかり帯を強めに締めてしまったからな。着ているものを緩めてやる。
……緩めるどころじゃない、全て脱がしてしまえと本能が急かしてくる。うむ、その本能には従うのが正解だな!
ある程度絞りはしたが、濡れてしまった隊服と羽織も張り付いて気持ちが悪いことだし脱いでしまってから、自身も朝緋の布団に入る。
もぞもぞ。組み敷いた体勢の朝緋に覆いかぶさって、彼女の着物を脱がしていれば。
「ん、ぅ……、」
まつ毛が震え、一呼吸おいてからゆるりと開く双眸。俺と同じ色をした瞳が、虚空を彷徨い、そして俺の顔を捉えた。
「おはよう朝緋。ようやくお目覚めか?」
「!?きょ、杏寿ろさ、んんっ!?」
目覚めと同時に、朝緋の口を唇で塞ぐ。舌で中を舐りあげ、朝緋の潤んだ舌に吸い付けば、その瞳も涙で潤んでいく。……かわいいな。その顔、もっと見たくなる。
それに熱いな……眠りに落ちていた朝緋の舌が、口内が熱い。そう感じると同時に、俺の体も燃えるように熱くなっていく。
風呂場でも散々朝緋を可愛がった後だというのに、俺の昂りはおさまらない。この熱さを目の前の朝緋にぶちまけてしまいたい。
そんな思いを舌先に乗せ、口内を荒々しく責め立てる。
「んぅう、やっ……やらぁっ!!」
ガリ、舌に朝緋の歯が思い切り立てられ、つい一度口を離してしまった。
「……また俺の舌を噛んだな?」
「ぁ、ご、ごめんなさい……」
イライラする。どうして朝緋は俺の気持ちに応えてくれないんだ。
噛まれることなど気にせずに、舌先を入れて荒々しく口吸いを続ける。
じゅる、じゅる、じゅる。
捕まえ絡めとった舌に吸い付き、引き上げる。
舌だけでなく、快楽をも引きあげるその動きを前に、朝緋が身を捩った。
「ん、やだ、くるし……、んん、やめてくださ、っは……水!水が飲みたいですっ、」
脱水か……。朝緋のその言葉を前に、大人しく起き上がりハアとため息。
「そういえば風呂上がりに水分をとっていないものな。どれ、水差しを取ってこよう」
しかし、起き上がった瞬間のことだった。
朝緋がものすごい速さで襖の辺りまで後退し、俺の手の内から逃れた。
「おお速いな!
なんだ、水が欲しいというのは俺から離れるための口実だったか。まんまと騙されてしまったな!」
俺が脱がせた着物も途中で掴み、体に巻きつけ羽織っている。
相変わらず動きの素早い子だ。さすがは速さに特化した、特殊な炎の呼吸の使い手だけはある。
「杏寿郎さん貴方、こんなに噛んで……!体のあちこち噛み跡だらけなんですけど?
あ、こっちにも。と思ったら、ここにも!
杏寿郎さん、どれだけ噛んだの!?」
着物を中途半端に体に引っ掛けたことで、見えそうで見えなくなった裸体が、余計この目に扇情的に映る。
それを上から下までじっくり視姦してから答えにかかる。
「そうさなぁ……君が気を遣ってからも噛んでいた気がするな!」
しかし朝緋がどんなに速かろうとも、俺にはまだまだ及ばない。
炎の呼吸を少々一息。一気に距離を詰め、朝緋の体を抱き寄せる。
「ひゃ、」
「ふむ……散らされたもみじのように美しい噛み跡だし、いいのではないか?
それにどうせ俺ごときがつけた歯形など、鬼殺隊士の君の体ならすぐに消えてしまう。傷も残らん」
「……そ、そういう問題ではありませんっ」
今度は思い切りドン、と突き飛ばされた。
「あっち行って!近寄らないで!杏寿郎さんなんて……」
その後の言葉は聞きたくない。言わないでくれ。
そう思うのに、紡がれる。俺を否定する、拒否する言葉。
「嫌い嫌い嫌い!!」
「嫌いだと……?それだけは許せん言葉だということ、朝緋ならわかっていよう。
撤回しろ。撤回してくれたら、何もしない」
「やだ。撤回しない」
随分と機嫌を損ねてしまったようだ。だが、俺とてまだまだ朝緋に怒っている。ここにくるまでに、今まで生きてきた分の鬱憤が。朝緋に対する怒りが、ぐつぐつ煮込まれて凝縮して、腹の底で爆発しそうになっている。
「やだじゃない。……君とは少々『オハナシ』が必要なようだな。布団に入り温まりながらゆっくりじっくり時間をかけて話をしようではないか……?」
「やっ!杏寿郎さんとなんて寝ない!えっちしない!!部屋から出てってください!」
話し合いが必要なのも本当のこと。だが朝緋が言う、それ以外の思惑がないといえば嘘になる。仕方なかろう?目の前に好いたおなごがほぼ裸に近い状態で、俺という獣を前に震えているのだから。
それでも、その言い方には余計腹が立った。
ピキッ、血管の切れる音が聞こえる。
「朝緋が言うえっちとはまぐわいのことだな!俺としないというなら誰とする気だ!?」
「しない!しないしない!もう誰ともしな、離して、触らないでっ!!」
腕を掴む。パシ、と振り払われる。体ごと朝緋を包み込むよう近づき直せば、
「ぎゃあ!?こっち来んな!!」
「こっちに来るな、だと!?口が悪すぎるのではないかっ!君には躾が必要なようだな!?」
「来るなって……言いましたよっ!!」
炎の呼吸仕込みの朝緋の渾身の蹴りが、俺の側頭部目掛けて飛んできた。
「足技とは行儀も悪いぞ、朝緋っ」
朝緋め、本気でやったな……。
防いだ腕が痺れている。防げたからよいものの、当たっていたら軽く脳震盪を引き起こしていたであろう威力。常人ならば、脳震盪どころではない。確実に死んでいた。
そのまま朝緋の足を掴み、ずるずると引っ張る。俺に引っ張り倒され、朝緋の頭が逆に床に打ちつけられた。
「きゃっ!」
「大人しくしろ。どんなに君が強くなろうとも、柱である俺に敵うものか!……ふんっ!!」
ぐい……、ブンッッ!!
朝緋の体を振り回し、投げ飛ばす。ガシャン!障子戸が吹っ飛び、朝緋が庭先まで飛んでいった。
「い、いったぁい!!」
よもや、痛いで済むとは。俺もかなりの勢いで投げたのだが……さすがは俺の継子。俺の朝緋。
「くっ……、敵わないだなんて、そんなことないっ!柱のすぐ下の階級、甲の実力を。炎柱直属の継子として貴方に鍛えられた私の力を侮らないでくださいねっ!!」
「わはは!双方素っ裸に近い状態での組手か!よろしい、来い!受けて立つ!!」
立ち上がった朝緋が臨戦体勢を取る。
下着同然の姿の俺、裸に着物を羽織っただけの朝緋。夜の営み前のような、どこかそそられる格好のままで相手に拳を、蹴りを繰り出し、投げ飛ばし合う。
朝緋も強くなったものだ。
拳も、俺が教えた投げ技も大して痛くはないが、蹴りが腹に入った時は少し痛いと感じるほどで。
柱同士とまではいかんが俺のような柱と、その直属の継子であり階級が高い隊士との喧嘩だ。被害は相当なもの。
部屋の中の惨状は、嵐が過ぎ去った後のようだった。
意識を失ってしまった朝緋を抱え、客間へと続く渡り廊下を歩いていれば、父上と鉢合わせてしまった。
だがそれは仕方なきこと。朝緋は父上とここへ来たのだから。
父上にも多少の怒りは湧くが、それを表に出す気はない。
さすがに同室ではないと思うが、それでも父上と……と思うと、腹立たしくてたまらなくなる。眠っているこの子の体に、胎に。再び俺の怒りを。全てを刻んでしまおうか。ふふ、なかなか良い考えだ。
こういう怒りを全て受け止めるのは、いつだって朝緋だ。
「朝緋を迎えに。そのついでに日輪刀を研ぎに出しにきました」
「日輪刀がついでとな!?」
朝緋に抱く怒りとこれからを思う嬉しさとでせめぎ合う中、普段通りの口調で父上に返す。
ここ数ヶ月で父上とはたくさん会話ができていて、それを望んでいた息子としては大変嬉しく思う。前はこのような関係ではなかった。話なんてとてもじゃないができなくて……。
ん?……前?前とは何のことだろう。まあいい。
「それよりも朝緋はどうした」
「どうもこうも、眠っているだけです。度重なる任務で疲れていたところで入浴し、気持ちよくて寝入ってしまったのだと思います」
「風呂で寝る?溺れてしまうではないか。いくら刀鍛冶の里とはいえ、気が緩みすぎでは?」
「それだけ気持ちがよかったのでしょう。仕方のない愛し子だ……」
最終的に俺が与える快楽の気持ちよさで眠ってしまったのは本当のことだしな。俺が乱れに乱してしまった髪を、愛し気にゆるゆると梳いて撫でる。
「お前……女湯に入ったのか……」
「露天に朝緋の気配しかないのを確認して、それから顔を出したのみです。朝緋と俺は恋仲ですよ?朝緋の裸なら、見慣れておりますゆえ……。
いつまでも風呂で眠っていては風邪をひく。なので、服を着せこうして連れ出しただけです」
眠る朝緋に着物を着せることなど普段の行為後で慣れきっている。そんなこと、息をするかのように容易い。
「では、朝緋を布団に寝かせますのでこれにて!」
「杏寿郎、ちょっと待て」
む……、父上が朝緋の異変に気がついたようだ。俺が朝緋に刻んだ愛の跡に。
だらりと垂れ下がる足や腕。そこにも、首筋にもその跡があるからな。
「朝緋の体は噛み跡だらけのようだがどうした。寝落ちというより獣にでも襲われていたと言われたほうがしっくり……、
はっ!?…………杏寿郎、まさかお前……」
にぃんまりと笑みを浮かべれば、父上は理解したようだ。
鬼と変わらぬほど凶暴で、飢えた獣がいたことを。いや、今もここにいることを。
今度こそ、引き止められることはなかった。
朝緋が借りている部屋の中、既に敷かれていた布団へとその体を横たえる。
少しばかり帯を強めに締めてしまったからな。着ているものを緩めてやる。
……緩めるどころじゃない、全て脱がしてしまえと本能が急かしてくる。うむ、その本能には従うのが正解だな!
ある程度絞りはしたが、濡れてしまった隊服と羽織も張り付いて気持ちが悪いことだし脱いでしまってから、自身も朝緋の布団に入る。
もぞもぞ。組み敷いた体勢の朝緋に覆いかぶさって、彼女の着物を脱がしていれば。
「ん、ぅ……、」
まつ毛が震え、一呼吸おいてからゆるりと開く双眸。俺と同じ色をした瞳が、虚空を彷徨い、そして俺の顔を捉えた。
「おはよう朝緋。ようやくお目覚めか?」
「!?きょ、杏寿ろさ、んんっ!?」
目覚めと同時に、朝緋の口を唇で塞ぐ。舌で中を舐りあげ、朝緋の潤んだ舌に吸い付けば、その瞳も涙で潤んでいく。……かわいいな。その顔、もっと見たくなる。
それに熱いな……眠りに落ちていた朝緋の舌が、口内が熱い。そう感じると同時に、俺の体も燃えるように熱くなっていく。
風呂場でも散々朝緋を可愛がった後だというのに、俺の昂りはおさまらない。この熱さを目の前の朝緋にぶちまけてしまいたい。
そんな思いを舌先に乗せ、口内を荒々しく責め立てる。
「んぅう、やっ……やらぁっ!!」
ガリ、舌に朝緋の歯が思い切り立てられ、つい一度口を離してしまった。
「……また俺の舌を噛んだな?」
「ぁ、ご、ごめんなさい……」
イライラする。どうして朝緋は俺の気持ちに応えてくれないんだ。
噛まれることなど気にせずに、舌先を入れて荒々しく口吸いを続ける。
じゅる、じゅる、じゅる。
捕まえ絡めとった舌に吸い付き、引き上げる。
舌だけでなく、快楽をも引きあげるその動きを前に、朝緋が身を捩った。
「ん、やだ、くるし……、んん、やめてくださ、っは……水!水が飲みたいですっ、」
脱水か……。朝緋のその言葉を前に、大人しく起き上がりハアとため息。
「そういえば風呂上がりに水分をとっていないものな。どれ、水差しを取ってこよう」
しかし、起き上がった瞬間のことだった。
朝緋がものすごい速さで襖の辺りまで後退し、俺の手の内から逃れた。
「おお速いな!
なんだ、水が欲しいというのは俺から離れるための口実だったか。まんまと騙されてしまったな!」
俺が脱がせた着物も途中で掴み、体に巻きつけ羽織っている。
相変わらず動きの素早い子だ。さすがは速さに特化した、特殊な炎の呼吸の使い手だけはある。
「杏寿郎さん貴方、こんなに噛んで……!体のあちこち噛み跡だらけなんですけど?
あ、こっちにも。と思ったら、ここにも!
杏寿郎さん、どれだけ噛んだの!?」
着物を中途半端に体に引っ掛けたことで、見えそうで見えなくなった裸体が、余計この目に扇情的に映る。
それを上から下までじっくり視姦してから答えにかかる。
「そうさなぁ……君が気を遣ってからも噛んでいた気がするな!」
しかし朝緋がどんなに速かろうとも、俺にはまだまだ及ばない。
炎の呼吸を少々一息。一気に距離を詰め、朝緋の体を抱き寄せる。
「ひゃ、」
「ふむ……散らされたもみじのように美しい噛み跡だし、いいのではないか?
それにどうせ俺ごときがつけた歯形など、鬼殺隊士の君の体ならすぐに消えてしまう。傷も残らん」
「……そ、そういう問題ではありませんっ」
今度は思い切りドン、と突き飛ばされた。
「あっち行って!近寄らないで!杏寿郎さんなんて……」
その後の言葉は聞きたくない。言わないでくれ。
そう思うのに、紡がれる。俺を否定する、拒否する言葉。
「嫌い嫌い嫌い!!」
「嫌いだと……?それだけは許せん言葉だということ、朝緋ならわかっていよう。
撤回しろ。撤回してくれたら、何もしない」
「やだ。撤回しない」
随分と機嫌を損ねてしまったようだ。だが、俺とてまだまだ朝緋に怒っている。ここにくるまでに、今まで生きてきた分の鬱憤が。朝緋に対する怒りが、ぐつぐつ煮込まれて凝縮して、腹の底で爆発しそうになっている。
「やだじゃない。……君とは少々『オハナシ』が必要なようだな。布団に入り温まりながらゆっくりじっくり時間をかけて話をしようではないか……?」
「やっ!杏寿郎さんとなんて寝ない!えっちしない!!部屋から出てってください!」
話し合いが必要なのも本当のこと。だが朝緋が言う、それ以外の思惑がないといえば嘘になる。仕方なかろう?目の前に好いたおなごがほぼ裸に近い状態で、俺という獣を前に震えているのだから。
それでも、その言い方には余計腹が立った。
ピキッ、血管の切れる音が聞こえる。
「朝緋が言うえっちとはまぐわいのことだな!俺としないというなら誰とする気だ!?」
「しない!しないしない!もう誰ともしな、離して、触らないでっ!!」
腕を掴む。パシ、と振り払われる。体ごと朝緋を包み込むよう近づき直せば、
「ぎゃあ!?こっち来んな!!」
「こっちに来るな、だと!?口が悪すぎるのではないかっ!君には躾が必要なようだな!?」
「来るなって……言いましたよっ!!」
炎の呼吸仕込みの朝緋の渾身の蹴りが、俺の側頭部目掛けて飛んできた。
「足技とは行儀も悪いぞ、朝緋っ」
朝緋め、本気でやったな……。
防いだ腕が痺れている。防げたからよいものの、当たっていたら軽く脳震盪を引き起こしていたであろう威力。常人ならば、脳震盪どころではない。確実に死んでいた。
そのまま朝緋の足を掴み、ずるずると引っ張る。俺に引っ張り倒され、朝緋の頭が逆に床に打ちつけられた。
「きゃっ!」
「大人しくしろ。どんなに君が強くなろうとも、柱である俺に敵うものか!……ふんっ!!」
ぐい……、ブンッッ!!
朝緋の体を振り回し、投げ飛ばす。ガシャン!障子戸が吹っ飛び、朝緋が庭先まで飛んでいった。
「い、いったぁい!!」
よもや、痛いで済むとは。俺もかなりの勢いで投げたのだが……さすがは俺の継子。俺の朝緋。
「くっ……、敵わないだなんて、そんなことないっ!柱のすぐ下の階級、甲の実力を。炎柱直属の継子として貴方に鍛えられた私の力を侮らないでくださいねっ!!」
「わはは!双方素っ裸に近い状態での組手か!よろしい、来い!受けて立つ!!」
立ち上がった朝緋が臨戦体勢を取る。
下着同然の姿の俺、裸に着物を羽織っただけの朝緋。夜の営み前のような、どこかそそられる格好のままで相手に拳を、蹴りを繰り出し、投げ飛ばし合う。
朝緋も強くなったものだ。
拳も、俺が教えた投げ技も大して痛くはないが、蹴りが腹に入った時は少し痛いと感じるほどで。
柱同士とまではいかんが俺のような柱と、その直属の継子であり階級が高い隊士との喧嘩だ。被害は相当なもの。
部屋の中の惨状は、嵐が過ぎ去った後のようだった。