四周目 陸
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
湯上がりに、お花模様のついたかわいくて着心地いい浴衣に身を包みながら、用意された食事を槇寿朗さんと共にいただく。
炎の呼吸使いは健啖家、という噂はここにも広まっているようで、並んだ食事の量に驚いた。
多い、多過ぎる。私は人よりは食べる量も多いけど、ここまでは多くない。槇寿朗さんに至っては、人と変わらない量しか食べない。
……やっぱり杏寿郎さん、ここに来たことあるのかもね。
あとは炎の呼吸からの派生、恋の呼吸使いの蜜璃の影響も大きそうな気がする。あの子たまにここに来ているらしいし。
「父様、お酒いる〜?頼むよ?」
「酒はやめたから要らん。頼まなくていい」
「へー、やめられたんだね。絶対無理だと思ってた……」
「朝緋は俺をそんな意志の弱い人間と思っていたのか?」
「そりゃあ、ね」
「心外だな」
槇寿朗さんの眉間に皺がよった。杏寿郎さんが機嫌を悪くした時と似てる。ほんと、そっくりな親子!
食事中、しばらくの間は父と娘の温泉旅行、といった風な空気が流れていたけれど、食事内容が果物に取って代わる頃になって、槇寿朗さんの顔がかつての柱のものに変わった。空気が若干張り詰め、緊張する。
「朝緋は二本目の日輪刀を所持しているそうだな」
「何で知ってるんですか」
知られた以上、隠しておくのは難しい。
隠し持っていた二本目を渡して見せながら、聞いてみる。
「担当の刀鍛冶から聞いてな。鋼鐵塚殿が朝緋の二本目を打った、と里で自慢げに話していたようだ」
あんにゃろ、言いふらしおったな……。もうみたらし団子持っていってあげないぞ。
「ふむ、長さの割に少し重い。
それに色が変だな。朝緋が普段使っている日輪刀は、こんなに暗い色合いをした炎だったか?」
少し黒ずんだ炎色の私の二本目。
これは、私が他の呼吸をも使うべく生まれた、特殊な私だけの日輪刀だ。
だからこそ短いのに重く、どの呼吸とも合う可能性を秘めた黒刀系統に色が滲み、染まっているのだ。
「なるほどな。
お前がまさか、炎の呼吸だけに限らず、他の呼吸にも手を広げているとは……」
私の主観による憶測が混じってはいるものの、理由を話せば、槇寿朗さんが顎に手を当てながら刀を返してきた。
「ああ、だが言われてみればそうだな。
朝緋はどの呼吸でも使えるようになる可能性を秘めていた。
俺が炎の呼吸を教え始めた頃。枝分かれした選択肢の分岐点を迎えた際、お前はその片鱗を見せつけてきた」
……それはきっと、全集中の呼吸、常中を覚えようと躍起になった時のことだ。
『今回』幼少期からやり直し始めた時、炎の呼吸というより、全ての呼吸に通ずるやり方で、常中が早く身につくように独自の鍛錬をしていた時期があった。
なるほど、あれはどの系統に行くかの分岐点でもあったのか。
「朝緋のどこか苛烈な性質には風の呼吸も合うかもしれんし、速さなど肉体的には水が合うかもしれん。そもそもが水は基本形であり、使う隊士の数も多、「苛烈!?苛烈ってなんですか父様!」……はぁ」
大人しく聞いていたけど、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。私、そんなに気性が荒い人間じゃないんですが!?
「その物言いだ馬鹿者。家長である俺にすら逆らい、言い返してくる苛烈さを顧みろ」
大正の世で男に歯向かう女子が珍しいだけな気がする……。でも、確かに苛烈な部分あるかも。……少しだけ。ほんとにちょーっぴりだけね。
「速さを考慮すれば、雷の呼吸とも共通点は多く、ともすれば雷の呼吸使いになっていた可能性もある。岩の呼吸でさえ、合う部分は探せばあるだろう」
「よく……わかりません……。私は結局、炎の呼吸使いとして、失格ということですか?」
「朝緋が炎の呼吸使いになれたのは、炎の呼吸使いの血統であるところが大きい。それはとても大事なことだ。
だが、それよりももっと大事なことがある。心が熱いことだ。心が燃えていることだ」
心を燃やせ。
杏寿郎さんの口癖が。かつて炭治郎に言っていた言葉が、甦ってくる。
熱い。胸の内が本当に燃えている気がした。
「朝緋の心もまた、炎の呼吸を使う煉獄家の名に恥じぬ熱さを秘めている。しっかりと燃え続けている。
少なくとも俺にはそう見える。失格などでは決してない」
「父様……っ」
感動でじーんと涙脆くなりそうな私に、にこりと笑みを向けられる。笑い返せば、自分の笑みに気がついたか、恥ずかしそうにそっぽを向かれた。
「あー、元より感情が移ろいやすく、激しい質も持つことの多い女性は、どの呼吸でもある程度抵抗なく使える可能性はある。のでは、と」
「女心と秋の空、なんて言葉があるくらい、女性の気持ちはころころ変わりますからね」
「ああ。だからこそ、自分が他の呼吸を使える可能性に目をつけ、有言実行している朝緋はすごい子だ。
俺は、鬼を滅するためにと、一所懸命に頑張る朝緋を誇りに思うよ。
……無理はしてほしくないが」
私は今まで通り、自分の呼吸を使っていていいんだ。新しく、他の呼吸も使っていいんだ。許された気分。
実は、他の呼吸を使うにあたって、なんだか浮気みたいだなって思っていて。槇寿朗さんにそう言われたことで自信がついた。
頑張れ、そう続けられた言葉に、深々と感謝を述べる。
「父様……ありがとうございます」
頭に手が乗った。
「まあ、ここでは日輪刀とお前自身の休暇になったわけだし、たまには鍛錬のことも杏寿郎のことも少し忘れてゆっくり休むといい。
羽目を外しすぎて太らないように、だがな」
「そうですね」
鍛錬は怠らないけど、食後に腹ごなしも兼ねて、二度目の温泉に入ってくることに決めた。
杏寿郎さんが私のためにと、怒りの牙を鋭く尖らせてこの里へと向かっているだなんて、私は知らない。
炎の呼吸使いは健啖家、という噂はここにも広まっているようで、並んだ食事の量に驚いた。
多い、多過ぎる。私は人よりは食べる量も多いけど、ここまでは多くない。槇寿朗さんに至っては、人と変わらない量しか食べない。
……やっぱり杏寿郎さん、ここに来たことあるのかもね。
あとは炎の呼吸からの派生、恋の呼吸使いの蜜璃の影響も大きそうな気がする。あの子たまにここに来ているらしいし。
「父様、お酒いる〜?頼むよ?」
「酒はやめたから要らん。頼まなくていい」
「へー、やめられたんだね。絶対無理だと思ってた……」
「朝緋は俺をそんな意志の弱い人間と思っていたのか?」
「そりゃあ、ね」
「心外だな」
槇寿朗さんの眉間に皺がよった。杏寿郎さんが機嫌を悪くした時と似てる。ほんと、そっくりな親子!
食事中、しばらくの間は父と娘の温泉旅行、といった風な空気が流れていたけれど、食事内容が果物に取って代わる頃になって、槇寿朗さんの顔がかつての柱のものに変わった。空気が若干張り詰め、緊張する。
「朝緋は二本目の日輪刀を所持しているそうだな」
「何で知ってるんですか」
知られた以上、隠しておくのは難しい。
隠し持っていた二本目を渡して見せながら、聞いてみる。
「担当の刀鍛冶から聞いてな。鋼鐵塚殿が朝緋の二本目を打った、と里で自慢げに話していたようだ」
あんにゃろ、言いふらしおったな……。もうみたらし団子持っていってあげないぞ。
「ふむ、長さの割に少し重い。
それに色が変だな。朝緋が普段使っている日輪刀は、こんなに暗い色合いをした炎だったか?」
少し黒ずんだ炎色の私の二本目。
これは、私が他の呼吸をも使うべく生まれた、特殊な私だけの日輪刀だ。
だからこそ短いのに重く、どの呼吸とも合う可能性を秘めた黒刀系統に色が滲み、染まっているのだ。
「なるほどな。
お前がまさか、炎の呼吸だけに限らず、他の呼吸にも手を広げているとは……」
私の主観による憶測が混じってはいるものの、理由を話せば、槇寿朗さんが顎に手を当てながら刀を返してきた。
「ああ、だが言われてみればそうだな。
朝緋はどの呼吸でも使えるようになる可能性を秘めていた。
俺が炎の呼吸を教え始めた頃。枝分かれした選択肢の分岐点を迎えた際、お前はその片鱗を見せつけてきた」
……それはきっと、全集中の呼吸、常中を覚えようと躍起になった時のことだ。
『今回』幼少期からやり直し始めた時、炎の呼吸というより、全ての呼吸に通ずるやり方で、常中が早く身につくように独自の鍛錬をしていた時期があった。
なるほど、あれはどの系統に行くかの分岐点でもあったのか。
「朝緋のどこか苛烈な性質には風の呼吸も合うかもしれんし、速さなど肉体的には水が合うかもしれん。そもそもが水は基本形であり、使う隊士の数も多、「苛烈!?苛烈ってなんですか父様!」……はぁ」
大人しく聞いていたけど、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。私、そんなに気性が荒い人間じゃないんですが!?
「その物言いだ馬鹿者。家長である俺にすら逆らい、言い返してくる苛烈さを顧みろ」
大正の世で男に歯向かう女子が珍しいだけな気がする……。でも、確かに苛烈な部分あるかも。……少しだけ。ほんとにちょーっぴりだけね。
「速さを考慮すれば、雷の呼吸とも共通点は多く、ともすれば雷の呼吸使いになっていた可能性もある。岩の呼吸でさえ、合う部分は探せばあるだろう」
「よく……わかりません……。私は結局、炎の呼吸使いとして、失格ということですか?」
「朝緋が炎の呼吸使いになれたのは、炎の呼吸使いの血統であるところが大きい。それはとても大事なことだ。
だが、それよりももっと大事なことがある。心が熱いことだ。心が燃えていることだ」
心を燃やせ。
杏寿郎さんの口癖が。かつて炭治郎に言っていた言葉が、甦ってくる。
熱い。胸の内が本当に燃えている気がした。
「朝緋の心もまた、炎の呼吸を使う煉獄家の名に恥じぬ熱さを秘めている。しっかりと燃え続けている。
少なくとも俺にはそう見える。失格などでは決してない」
「父様……っ」
感動でじーんと涙脆くなりそうな私に、にこりと笑みを向けられる。笑い返せば、自分の笑みに気がついたか、恥ずかしそうにそっぽを向かれた。
「あー、元より感情が移ろいやすく、激しい質も持つことの多い女性は、どの呼吸でもある程度抵抗なく使える可能性はある。のでは、と」
「女心と秋の空、なんて言葉があるくらい、女性の気持ちはころころ変わりますからね」
「ああ。だからこそ、自分が他の呼吸を使える可能性に目をつけ、有言実行している朝緋はすごい子だ。
俺は、鬼を滅するためにと、一所懸命に頑張る朝緋を誇りに思うよ。
……無理はしてほしくないが」
私は今まで通り、自分の呼吸を使っていていいんだ。新しく、他の呼吸も使っていいんだ。許された気分。
実は、他の呼吸を使うにあたって、なんだか浮気みたいだなって思っていて。槇寿朗さんにそう言われたことで自信がついた。
頑張れ、そう続けられた言葉に、深々と感謝を述べる。
「父様……ありがとうございます」
頭に手が乗った。
「まあ、ここでは日輪刀とお前自身の休暇になったわけだし、たまには鍛錬のことも杏寿郎のことも少し忘れてゆっくり休むといい。
羽目を外しすぎて太らないように、だがな」
「そうですね」
鍛錬は怠らないけど、食後に腹ごなしも兼ねて、二度目の温泉に入ってくることに決めた。
杏寿郎さんが私のためにと、怒りの牙を鋭く尖らせてこの里へと向かっているだなんて、私は知らない。