四周目 陸
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後、私は折を見て刀鍛冶の里へと、初めて訪れた。
刃毀れはしていないかもしれないけど、いつやってくるかわからない無限列車の任務に備え、鋼鐵塚さんに日輪刀を研いでもらおうと思ってのことだ。
……同行者は、元柱であり、父親である槇寿朗さん。杏寿郎さんではない。
槇寿朗さんもしばらくの間来ていないらしい。隠によるバケツリレー方式でやってきたんだけど、ここまで来るのに長くって疲れた。
隠の背中に乗っていて疲れたはないって?体重をかけないように。そして気を遣って話しかけたりしていたら疲れちゃったの!それに、ずっと目隠し状態で、御館様のお屋敷以上の距離なんだもの……。
御館様のお屋敷と同じで、この里もかなり厳重に秘匿されている。度が過ぎると思うほどだ。
担当の隠や受け持ちの鎹烏でさえ、定期的に変更される徹底ぶりって、すごいよね。
それだけ日輪刀を鍛えてくれる刀鍛冶は、鬼殺隊にとってとても大事な存在。
常日頃から感謝しなくちゃね。
「ここまで連れてきていただき、感謝する」
「ありがとうございます」
「い、いえ……仕事ですから」
連れてきてくれた隠にも、槇寿朗さんと二人、感謝を述べる。
槇寿朗さん、なんともまぁるくなったもんだ。隠の人も、その変化に驚いている。
前はひどかったもんね。鬼殺隊関係者とわかるや否や、罵声飛び交う煉獄家。お酒臭くて言動のひどい元炎柱……ってね。
鬼殺隊は辞めてしまったものの、その実力は、まだまだ現役に近い強さの槇寿朗さん。だけど何故今更刀鍛冶の里に?と疑問だろう。
辞める前にも、すでにところどころ刃毀れして、錆があったあの日輪刀……。いつ何時必要になるかわからないと思い、研ぎに行きたかったそう。
そのタイミングで、私が研ぎに行きたいと漏らしたものだから、共に来ることになった。
やる気になったのなら、何よりだよね。そのまま、私にたくさん稽古をつけてください。
降り立った里全体には、硫黄の匂いが立ち込め、そこかしこの小屋からは鋼を打つ音がまるで喧騒のように聞こえていた。
中心の道からぐるぅりと見渡してみれば、匂いからも音からもそれが顕著で、ここが一つの集落として、町のように発展してきたのがよくわかる。
いいところだ。少し臭い、温泉独特のその匂いを胸いっぱいに吸い込んでみる。
「すごいね。聞いていたより匂いが強い!まるで湯治場とか観光地に来たみたい!……温泉はどこだろう?」
「朝緋は、初めて来るのだったな。温泉なら、奥の坂を上がった先に露天風呂があるぞ。
確か、いつも泊まりに通される旅館の中にも、内風呂と露天があって、そちらも温泉だったな……」
「へー、詳しいですね」
「柱の日輪刀は消費が激しい。現役の時には何度か世話になったからな」
杏寿郎さんも来たことあるのかな。……温泉、杏寿郎さんと一緒に入って温まりたいな……。
って、私の馬鹿馬鹿、馬鹿!杏寿郎さんのことは考えないって決めたのにもう破ってる!!
でも、杏寿郎さんを中心に回っていた私の人生は。命は。彼のことを考えずになんていられない。
温泉の匂いなんて嗅いでしまえば、杏寿郎さんと温泉旅行に行きたくなる。たまには温泉でその身をしっかり休めてほしいと思ってしまう。
……一緒に、入りたくなる。
「この鍛冶 の里へ来るのに、杏寿郎は誘わなくてよかったのか?柱だから忙しいだろうが、あいつの日輪刀も研ぎに出した方がいいのでは?一番近くで見ている朝緋ならその辺りもわかっているだろうに」
槇寿朗さんからも、杏寿郎さんの話題を振られてしまった。
無言。唇を噛み締め、下を向く私。
「……杏寿郎と何かあったのか。何処かへ行く際、朝緋はいつも一言は連絡を入れていたろう?」
「別に。必ず連絡する必要はないですから」
ぷい、と顔をそらして答える。
だって、何か、で思い出してしまったんだもの。私が杏寿郎さんに怒りと、そしてそれ以上に抱いた悲しみについてを。
「はあ、何かしらあったのだな。
お前達の関係は柱と継子、兄と妹の枠を超え、今や恋仲。他の者が突っ込んだところで解決はしないだろう。詳しくは聞かないでおく」
言いたくなったら言えばいい、と頭を数回ぽむぽむされた。
「何にも言ってませんが?私は純粋に、刀の斬れ味を良くしたいだけです」
「そうかそうか」
素直じゃない今の私は、ムスッと口を尖らせるだけで。そんな娘の姿に槇寿朗さんは苦笑で返した。
長に軽くご挨拶をして、私は鋼鐵塚さんに。槇寿朗さんはご自分の刀鍛冶に日輪刀を預けた。
大して刃毀れはないものの、自分が打った刀 を前に鋼鐵塚さんは大喜びで研ぎ出しに応じてくれた。みたらし団子も献上したし当然か。
ピッカピカにするから数日かかるそうだ。ま、仕方ないね。
というわけで、私は今、旅館の中の露天風呂に入っている。
「あーもう、どうせならここにいる間はとことん温泉で羽根を伸ばしてやる〜!美味しいご飯いっぱい食べて羽目も外してやる〜!!杏寿郎さんなんか知るかっ」
誰も見ていない、聞いていないのをいいことに、湯の中から足を虚空にあげて、大の字だ。お行儀が悪いことこの上ない。
「羽目を外しすぎて太らないように」
「ゲッ!父様そっちにいたの!?」
衝立を挟んで隣は男湯。同じく入っていたらしい槇寿朗さんに聞かれてしまった。
刃毀れはしていないかもしれないけど、いつやってくるかわからない無限列車の任務に備え、鋼鐵塚さんに日輪刀を研いでもらおうと思ってのことだ。
……同行者は、元柱であり、父親である槇寿朗さん。杏寿郎さんではない。
槇寿朗さんもしばらくの間来ていないらしい。隠によるバケツリレー方式でやってきたんだけど、ここまで来るのに長くって疲れた。
隠の背中に乗っていて疲れたはないって?体重をかけないように。そして気を遣って話しかけたりしていたら疲れちゃったの!それに、ずっと目隠し状態で、御館様のお屋敷以上の距離なんだもの……。
御館様のお屋敷と同じで、この里もかなり厳重に秘匿されている。度が過ぎると思うほどだ。
担当の隠や受け持ちの鎹烏でさえ、定期的に変更される徹底ぶりって、すごいよね。
それだけ日輪刀を鍛えてくれる刀鍛冶は、鬼殺隊にとってとても大事な存在。
常日頃から感謝しなくちゃね。
「ここまで連れてきていただき、感謝する」
「ありがとうございます」
「い、いえ……仕事ですから」
連れてきてくれた隠にも、槇寿朗さんと二人、感謝を述べる。
槇寿朗さん、なんともまぁるくなったもんだ。隠の人も、その変化に驚いている。
前はひどかったもんね。鬼殺隊関係者とわかるや否や、罵声飛び交う煉獄家。お酒臭くて言動のひどい元炎柱……ってね。
鬼殺隊は辞めてしまったものの、その実力は、まだまだ現役に近い強さの槇寿朗さん。だけど何故今更刀鍛冶の里に?と疑問だろう。
辞める前にも、すでにところどころ刃毀れして、錆があったあの日輪刀……。いつ何時必要になるかわからないと思い、研ぎに行きたかったそう。
そのタイミングで、私が研ぎに行きたいと漏らしたものだから、共に来ることになった。
やる気になったのなら、何よりだよね。そのまま、私にたくさん稽古をつけてください。
降り立った里全体には、硫黄の匂いが立ち込め、そこかしこの小屋からは鋼を打つ音がまるで喧騒のように聞こえていた。
中心の道からぐるぅりと見渡してみれば、匂いからも音からもそれが顕著で、ここが一つの集落として、町のように発展してきたのがよくわかる。
いいところだ。少し臭い、温泉独特のその匂いを胸いっぱいに吸い込んでみる。
「すごいね。聞いていたより匂いが強い!まるで湯治場とか観光地に来たみたい!……温泉はどこだろう?」
「朝緋は、初めて来るのだったな。温泉なら、奥の坂を上がった先に露天風呂があるぞ。
確か、いつも泊まりに通される旅館の中にも、内風呂と露天があって、そちらも温泉だったな……」
「へー、詳しいですね」
「柱の日輪刀は消費が激しい。現役の時には何度か世話になったからな」
杏寿郎さんも来たことあるのかな。……温泉、杏寿郎さんと一緒に入って温まりたいな……。
って、私の馬鹿馬鹿、馬鹿!杏寿郎さんのことは考えないって決めたのにもう破ってる!!
でも、杏寿郎さんを中心に回っていた私の人生は。命は。彼のことを考えずになんていられない。
温泉の匂いなんて嗅いでしまえば、杏寿郎さんと温泉旅行に行きたくなる。たまには温泉でその身をしっかり休めてほしいと思ってしまう。
……一緒に、入りたくなる。
「この
槇寿朗さんからも、杏寿郎さんの話題を振られてしまった。
無言。唇を噛み締め、下を向く私。
「……杏寿郎と何かあったのか。何処かへ行く際、朝緋はいつも一言は連絡を入れていたろう?」
「別に。必ず連絡する必要はないですから」
ぷい、と顔をそらして答える。
だって、何か、で思い出してしまったんだもの。私が杏寿郎さんに怒りと、そしてそれ以上に抱いた悲しみについてを。
「はあ、何かしらあったのだな。
お前達の関係は柱と継子、兄と妹の枠を超え、今や恋仲。他の者が突っ込んだところで解決はしないだろう。詳しくは聞かないでおく」
言いたくなったら言えばいい、と頭を数回ぽむぽむされた。
「何にも言ってませんが?私は純粋に、刀の斬れ味を良くしたいだけです」
「そうかそうか」
素直じゃない今の私は、ムスッと口を尖らせるだけで。そんな娘の姿に槇寿朗さんは苦笑で返した。
長に軽くご挨拶をして、私は鋼鐵塚さんに。槇寿朗さんはご自分の刀鍛冶に日輪刀を預けた。
大して刃毀れはないものの、自分が打った
ピッカピカにするから数日かかるそうだ。ま、仕方ないね。
というわけで、私は今、旅館の中の露天風呂に入っている。
「あーもう、どうせならここにいる間はとことん温泉で羽根を伸ばしてやる〜!美味しいご飯いっぱい食べて羽目も外してやる〜!!杏寿郎さんなんか知るかっ」
誰も見ていない、聞いていないのをいいことに、湯の中から足を虚空にあげて、大の字だ。お行儀が悪いことこの上ない。
「羽目を外しすぎて太らないように」
「ゲッ!父様そっちにいたの!?」
衝立を挟んで隣は男湯。同じく入っていたらしい槇寿朗さんに聞かれてしまった。