四周目 陸
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多忙な柱にしては珍しく、杏寿郎さんが先に帰っている。朝方だから当然かな。今日は特に、遅くなってしまったから。
玄関の三和土に綺麗に揃えられた草履。その鼻緒の赤が、日の光でしょぼしょぼした目に眩しいなあ。
「ただい「朝帰りとはいいご身分だな朝緋」……ま?」
一瞬にして現れた杏寿郎さん。え、杏寿郎さん貴方、いつから宇髄さんのような忍びに?
……って近い!至近距離がすぎる!!
杏寿郎さんの体は風呂に入った後のように濡れていて、その上半身は裸。腹筋の割れ目に伝う滴が艶かしくて……。
何より、いつも立っている前髪がしっとりと下りていて、ドキドキが止まらない。
「しは……、杏寿郎さん、水浴びでもされたのですか?髪が濡れて、服も着てない、ですけど……」
ゆらりとその体が私の方へ動き、手が伸ばされる。なんだか少し怖いな、そう思いながら、その手を取ろうとして。
ダァン!!
「い゛っ!?」
風邪をひくからちゃんと拭いて、そう声をかけようとしていた私は、胸ぐらを掴まれ宙に浮き、床に強かに叩きつけられる形で押し倒された。なになに、なんなの!?
それに、よくよく聞いたら朝帰りだなんて言葉。
朝帰りは本当のことだけど。でも、そこにやましいものは一つもないから、いいご身なんかじゃない。心外!
「っ、いきなり何をするんですかっ!
何を勘違いしてらっしゃるのか分かりませんが、私が行っていたのは鬼殺の任務です!杏寿郎さんが思うような朝帰りではありません!」
またも馬乗りだ。
体の上に乗り、見下ろされるその表情のなんと恐ろしいことか。
柱としての顔?いや違う、けれど冷たい表情で静かに怒っているようで、怖くてたまらない。
逃げようと押してみても、その体はびくともしなかった。
「任務は夜半には終わったはずだ」
「!、それって、普通の任務の方で……」
確かに当初の任務は日付が変わる前には終わっていた。でも御館様にしか報告してない。杏寿郎さんは、また私の行動を監視していたの?
信用されていないように感じて、胸の奥がツキンと痛んだ。
「なぜ、このような時間になるまで帰らなかった?」
杏寿郎さんは柱で私はその直属の継子だとはいえ、イレギュラーな鬼討伐についての情報はまだ御館様から回ってきていないのだろう。
あれから時間もそこまで経っていないし。ならどの柱でも知らなくて当然で。
「独自の鬼殺に走っていただけです!御館様に確認してみて!?だからお願い、退いて!!」
「退かない!朝緋が逃げるからな!!」
ぐいと顔を覗き込まれれば、髪や顔を伝って、水滴がぽたぽたと落ちてくる。
激しく髪が下りた、雄みの増したお姿。唇が重なるほど近い距離で言葉を紡いでくる。
「なあ朝緋」
スルスルと、頬を撫で回される。ん……、くすぐったい……。返事の代わりに、吐息が漏れた。
「俺は朝緋に嫌われるようなことをしでかしたか?」
…………?
杏寿郎さんは何を言っているの。なぜそういう考えになったの。どんなに嫌なことをされようとも、天地がひっくり返ろうとも、それだけはないというに。
「杏寿郎さんを嫌う?……ありえない、そんなこと、絶対にありえません」
「ならどうして何も教えてくれない。
朝緋……、君は最近、空いた時間や非番の時に一体何をしているんだ?よもや、今度こそコソコソ俺の目を盗み、どこの誰だかわからぬ輩と会っていたのでは?」
「ああやだ、また嫉妬ですか?あまり嫉妬深いのも困りま「汽車の整備工場で朝緋を見た、という情報が入っている」……っ、」
「呼吸が乱れた、本当のことなのだな。
どういうことだ?男だらけのむさくるしい場所に朝緋という紅一点が一雫。
俺に愛想を尽かし、知らぬ男と懇ろになったわけではあるまいな!?」
「そんなわけな、……んっ、ぁ、は、」
これで確信してしまった。こういうことに関して、私は信用されていない。
性急な口吸いで唇を塞がれる中、寂しさと悲しさが溢れた。
「やめ、てぇ、……」
ぐいぐい体を押せば押すほど、床に押し付けられて圧迫される。怒りに我を忘れたまま口吸いに没頭しているのか、聞こえてくるのは攻撃的な舌先の水音のみで。
「ぁ、っや、やめ……、ン、ふぁ……っ」
私は貴方の未来を勝ち取るがため、ただただ走っていただけ。
でも言えない。そんなこと言えない。信じてもらえないからじゃない。こんなの、知る必要ないから。
知ったら貴方は、より一層その命を燃やすだろうから。だって、貴方は誰よりも勇敢で、ご自分でなく他人を優先する柱だから。
そもそも、今回の私はあの鬼を滅殺すべく奔走していた、それだけなのに。言いたくとも、口から出るのは喘ぎ声だけ。言う暇を与えてくれない。
いつも気持ちいいはずの口づけが、つらくてつらくて。じわりと涙が浮かんできて。
ガリッ!!
とうとう、反撃してしまった。
口の中を暴れ回る杏寿郎さんの舌に、思い切り噛み付く。
「……っ」
「はぁっ、はあ、は……、」
口の中に血の味が広がる。バッと離れた杏寿郎さんの口から、ツツツと血が流れているのが見えた。
「きょ、じゅろさっ……、!やめてって、言ってるでしょ……っ!そんなこと、してないしするわけな、……ヒッ」
鬼を睨む時そのままのゾッとするような目が送られ、反射的に今度は手が出た。
バチン!!
杏寿郎さんの頬に、赤い手形がつく。
「…………ぁ、ご、ごめんなさ……、」
ーーブチッ
杏寿郎さんから血管の切れる音。
「やっ、いやっ!!」
杏寿郎さんの手が私の隊服にかかった。
この前と同じだ。でも、スカートの中にゆっくりと手を這わすようなものではない。
急くような激しいそれを前に、鬼の攻撃にも強く、雨風や暑さ寒さに強いはずの隊服の布が引き千切れ、釦も飛んだ。
勢いで下のサラシまでビリビリに破かれる。
獣そのもののギラギラした目だ。
下りた前髪をグイとかきあげ、鋭い視線で射抜いてくるその仕草に、体の奥だけはきゅんと疼き。
だけど、もう、嫌……。
嫌だと感じる私の思いを無視して、重ねられた厚い胸板。熱い体。
熱い……、すべてが燃えるように熱い。
虚空に伸ばした指はからめられて床に縫い止められ。体のあちらこちらを歯を立てて食まれ。
このまま溶けてしまいそう。どろどろに溶けて、杏寿郎さんにすべて飲み干されてしまった。
熱い舌先、熱い手のひら、杏寿郎さんの熱が、体を通して伝わってくる。
私に全部全部、熱が移ってくる。……注ぎ込まれる。
淫靡な動きに翻弄され、快楽の底に堕とされてもなお、行為は終わらなかった。
気持ちいい。でも痛くて。
体じゃなく、心が痛くて。
それを機に、私は杏寿郎さんと少しだけ距離を置いた。
玄関の三和土に綺麗に揃えられた草履。その鼻緒の赤が、日の光でしょぼしょぼした目に眩しいなあ。
「ただい「朝帰りとはいいご身分だな朝緋」……ま?」
一瞬にして現れた杏寿郎さん。え、杏寿郎さん貴方、いつから宇髄さんのような忍びに?
……って近い!至近距離がすぎる!!
杏寿郎さんの体は風呂に入った後のように濡れていて、その上半身は裸。腹筋の割れ目に伝う滴が艶かしくて……。
何より、いつも立っている前髪がしっとりと下りていて、ドキドキが止まらない。
「しは……、杏寿郎さん、水浴びでもされたのですか?髪が濡れて、服も着てない、ですけど……」
ゆらりとその体が私の方へ動き、手が伸ばされる。なんだか少し怖いな、そう思いながら、その手を取ろうとして。
ダァン!!
「い゛っ!?」
風邪をひくからちゃんと拭いて、そう声をかけようとしていた私は、胸ぐらを掴まれ宙に浮き、床に強かに叩きつけられる形で押し倒された。なになに、なんなの!?
それに、よくよく聞いたら朝帰りだなんて言葉。
朝帰りは本当のことだけど。でも、そこにやましいものは一つもないから、いいご身なんかじゃない。心外!
「っ、いきなり何をするんですかっ!
何を勘違いしてらっしゃるのか分かりませんが、私が行っていたのは鬼殺の任務です!杏寿郎さんが思うような朝帰りではありません!」
またも馬乗りだ。
体の上に乗り、見下ろされるその表情のなんと恐ろしいことか。
柱としての顔?いや違う、けれど冷たい表情で静かに怒っているようで、怖くてたまらない。
逃げようと押してみても、その体はびくともしなかった。
「任務は夜半には終わったはずだ」
「!、それって、普通の任務の方で……」
確かに当初の任務は日付が変わる前には終わっていた。でも御館様にしか報告してない。杏寿郎さんは、また私の行動を監視していたの?
信用されていないように感じて、胸の奥がツキンと痛んだ。
「なぜ、このような時間になるまで帰らなかった?」
杏寿郎さんは柱で私はその直属の継子だとはいえ、イレギュラーな鬼討伐についての情報はまだ御館様から回ってきていないのだろう。
あれから時間もそこまで経っていないし。ならどの柱でも知らなくて当然で。
「独自の鬼殺に走っていただけです!御館様に確認してみて!?だからお願い、退いて!!」
「退かない!朝緋が逃げるからな!!」
ぐいと顔を覗き込まれれば、髪や顔を伝って、水滴がぽたぽたと落ちてくる。
激しく髪が下りた、雄みの増したお姿。唇が重なるほど近い距離で言葉を紡いでくる。
「なあ朝緋」
スルスルと、頬を撫で回される。ん……、くすぐったい……。返事の代わりに、吐息が漏れた。
「俺は朝緋に嫌われるようなことをしでかしたか?」
…………?
杏寿郎さんは何を言っているの。なぜそういう考えになったの。どんなに嫌なことをされようとも、天地がひっくり返ろうとも、それだけはないというに。
「杏寿郎さんを嫌う?……ありえない、そんなこと、絶対にありえません」
「ならどうして何も教えてくれない。
朝緋……、君は最近、空いた時間や非番の時に一体何をしているんだ?よもや、今度こそコソコソ俺の目を盗み、どこの誰だかわからぬ輩と会っていたのでは?」
「ああやだ、また嫉妬ですか?あまり嫉妬深いのも困りま「汽車の整備工場で朝緋を見た、という情報が入っている」……っ、」
「呼吸が乱れた、本当のことなのだな。
どういうことだ?男だらけのむさくるしい場所に朝緋という紅一点が一雫。
俺に愛想を尽かし、知らぬ男と懇ろになったわけではあるまいな!?」
「そんなわけな、……んっ、ぁ、は、」
これで確信してしまった。こういうことに関して、私は信用されていない。
性急な口吸いで唇を塞がれる中、寂しさと悲しさが溢れた。
「やめ、てぇ、……」
ぐいぐい体を押せば押すほど、床に押し付けられて圧迫される。怒りに我を忘れたまま口吸いに没頭しているのか、聞こえてくるのは攻撃的な舌先の水音のみで。
「ぁ、っや、やめ……、ン、ふぁ……っ」
私は貴方の未来を勝ち取るがため、ただただ走っていただけ。
でも言えない。そんなこと言えない。信じてもらえないからじゃない。こんなの、知る必要ないから。
知ったら貴方は、より一層その命を燃やすだろうから。だって、貴方は誰よりも勇敢で、ご自分でなく他人を優先する柱だから。
そもそも、今回の私はあの鬼を滅殺すべく奔走していた、それだけなのに。言いたくとも、口から出るのは喘ぎ声だけ。言う暇を与えてくれない。
いつも気持ちいいはずの口づけが、つらくてつらくて。じわりと涙が浮かんできて。
ガリッ!!
とうとう、反撃してしまった。
口の中を暴れ回る杏寿郎さんの舌に、思い切り噛み付く。
「……っ」
「はぁっ、はあ、は……、」
口の中に血の味が広がる。バッと離れた杏寿郎さんの口から、ツツツと血が流れているのが見えた。
「きょ、じゅろさっ……、!やめてって、言ってるでしょ……っ!そんなこと、してないしするわけな、……ヒッ」
鬼を睨む時そのままのゾッとするような目が送られ、反射的に今度は手が出た。
バチン!!
杏寿郎さんの頬に、赤い手形がつく。
「…………ぁ、ご、ごめんなさ……、」
ーーブチッ
杏寿郎さんから血管の切れる音。
「やっ、いやっ!!」
杏寿郎さんの手が私の隊服にかかった。
この前と同じだ。でも、スカートの中にゆっくりと手を這わすようなものではない。
急くような激しいそれを前に、鬼の攻撃にも強く、雨風や暑さ寒さに強いはずの隊服の布が引き千切れ、釦も飛んだ。
勢いで下のサラシまでビリビリに破かれる。
獣そのもののギラギラした目だ。
下りた前髪をグイとかきあげ、鋭い視線で射抜いてくるその仕草に、体の奥だけはきゅんと疼き。
だけど、もう、嫌……。
嫌だと感じる私の思いを無視して、重ねられた厚い胸板。熱い体。
熱い……、すべてが燃えるように熱い。
虚空に伸ばした指はからめられて床に縫い止められ。体のあちらこちらを歯を立てて食まれ。
このまま溶けてしまいそう。どろどろに溶けて、杏寿郎さんにすべて飲み干されてしまった。
熱い舌先、熱い手のひら、杏寿郎さんの熱が、体を通して伝わってくる。
私に全部全部、熱が移ってくる。……注ぎ込まれる。
淫靡な動きに翻弄され、快楽の底に堕とされてもなお、行為は終わらなかった。
気持ちいい。でも痛くて。
体じゃなく、心が痛くて。
それを機に、私は杏寿郎さんと少しだけ距離を置いた。