四周目 陸
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炭治郎達の機能回復訓練は進んでいるようで、今は瓢箪を破ろうとしているところ……なのかな?
瓢箪を割るのは簡単だ。でも、毎回あのサイズを割るのはかなり勿体無いと思う。
未来なんかじゃ、あの大きさの瓢箪を買えばそれはもう高い。瓢箪を作る人も減っていたのが大きいと思うけど……。
そして結局、私が炭治郎達に教えられることなんて何もないに等しくて。蝶屋敷に寄った際に少しだけ打ち稽古するくらいで。
結果、何にもなっていない気がする。
そんな私でもやれることはあるわけで。
任務の前、任務の後、非番の日。杏寿郎さんと過ごす以外のほぼ全ての時間を費やし、あの沿線上。そして無限列車の調査に赴いていた。
夜間に走ることがほとんどの、この無限列車。
乗客としても何度か乗ってみたものの、どこも変わりはないようで。鬼の情報も皆無だ。
終着駅まで乗ってしまえばかなり遠くに到着してしまい、いくら鬼殺隊士の速い足だろうと帰ることが難しくなるため、毎回途中下車だ。
もったいないとは思うものの、こればかりは致し方なし。
大丈夫。切符を切られる前にいなくなれば、顔も覚えられない。ここに私が乗っていたなど誰にもわからないだろう。
トイレに立つふりして、列車から飛び降りてしまえばいいだけ。
……でも。
杏寿郎さんと二人で小旅行として乗ることができたら、どんなに嬉しいか。
そう思いながら、任務後に列車の調査なんてして、疲れに疲れた体を闇の中に踊らせる。
駅や整備工場にも何度も訪れたけれど、結局何も情報は得られず。
無駄にお弁当やら近くの商店でおやつを買って食べてしまったり、整備工場の方々と仲良くなって会話するだけで終わった。
整備工場では、最初、出て行くように怒られてしまったっけ……。見学したいと何度も頼み込んで初めて、作業光景を見せてもらった。
もちろん、そこに鬼の気配はない。
まだなくとも、いずれその時は来てしまう。鬼の存在を知られてしまう。怪我人が出てしまう。
この人達が切り裂き魔の鬼に襲われないようにしなくちゃ。
ここにも、どこにも鬼を向かわせはしない。
ちなみについ毎回買いしめる勢いになってしまうのは、好物のお稲荷さん。こっくり濃いめの味付けがたまらない。
お土産で買って帰るとどこに行っていたのか追求されるので、買った分はほぼこの胃袋の中だ。
美味しいからって食べすぎちゃったかも?太ったらやだなぁ。でもまだ食べる。夜はお腹が空くのよね。
最終的に私が調査へと戻るのは、列車の中で。それも、見回りの車掌さん以外は乗らない、廻送列車ばかりで。
下弦の壱はともかくとして、切り裂き魔の鬼の被害が最初に出たのは、廻送列車の中。
本家切り裂きジャックのように、夜道だと思っていたから『前回』の情報を思い出した時に改めて驚いたっけ。
月が綺麗ですね、なんて呟きたくなる夜。任務後の草臥れた体を座席へ預けながら、一人でまた廻送列車に乗り込む。
旅のオトモはもちろん、お稲荷さんだ。
「ぁぁー身に沁み渡る甘い味付け……」
もぐもぐもぐもぐも、……ぐ!?
花より団子。食事に没頭していると、鬼の気配を感じた。……鬼は食事時でも待ってはくれない。
「ムキィ!なんでこのタイミングでっ!」
血の匂いはしないけれど、誰か騒いでいるようだ。鬼の声、いや、見回りの車掌が襲われて叫んでいる?
腰の日輪刀を確認し、現場へ急行する。
車掌の首を掴み傷つけんとするその鬼は、体中に刺青の走る、けれど同じく刺青のある上弦の参とは違う『切り裂き魔』の鬼だった。
鬼の気配も薄かったから、数字持ちではない……下弦の壱ではないとわかっていた。
でも、こいつかぁ〜!という気分。
「まさか、お前が現れるとはね」
「お、鬼狩りっ!?
……って、くっっせぇな!こんなところで飯食ってんじゃねぇぞ!きンもち悪い匂いだな!!」
深いため息を吐いて敵を見据えていれば、鬼の目が私の持つお稲荷さんに向いた。
そういえば鬼って、人の食べ物の匂いが気持ち悪く感じるんだっけ?
「気持ち悪い匂いって失礼すぎ!人が食べてるものにケチつけないでよねっ!いい!?すぐ食べ終わるから待ってなさい!」
「ふん。待つか、よ!!」
「……はあ、これだから鬼ってやつは」
ビシと指を差すも、鬼が腕を振り上げた。人質をその鋭い爪で傷つけようったって、そうはいかない。
はぐっ!残っていた好物を一息で食べる。
ゆっくり味わって食べられなかった好物の恨みは、マリアナ海溝より深し、ということを教えてあげる。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火!」
「な、ぎゃあぁぁっ!?」
素早く抜いた日輪刀で、鬼の両手片足がスパーンと薙ぎ払われた。捕まっていた車掌の体を受け止め、おろす。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……って、お、女の子!?」
「ええ、女ですとも。
車掌さん、体が何ともないならもう行ってください。あとは私がなんとかします」
「でも……君は女の子で、僕の娘くらいの年で……!」
若い女が剣を振るうのはそんなにおかしいだろうか。や、どっちにしろ廃刀令が出て久しい今、刀を持っていること自体、非難されてしかるべきか。
「私は非公認組織所属の者。目の前のこういう『バケモノ』を狩ることを生業としています。どうかご内密に。
列車はそのまま定刻通り車庫へ収めてどうぞ。問題は起こしません。すぐに解決してみせましょう!」
「わ、わかりました!!」
チャキと日輪刀を構えれば、理解した車掌は運転席方面へ逃げ、目の前の鬼は手と足を失い這いつくばったまま、私と私が握る刃を睨めつけた。
「くっ……、」
切り裂き魔の情報が周りに広まっていないからそうだとは思った。『前』とは違い、まだあまり人を食べていないようだ。
だって、治りが極端に遅い。
「あ、ごみは持ち帰らないとだったわ〜」
動けず歯軋りする鬼を横目に、いそいそとお稲荷さんのごみをお片付けしていれば、片足だけで向かってきた。腕も碌に回復していないというに、よくやるわ。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り!!」
呼吸を変え、もう一本の日輪刀で斬りつける。水飛沫のエフェクトこそかなり薄いけど、回復中の鬼の腕が再び吹き飛ぶほどの強さ!
「おおおおお!斬れたーー!!
実験台になってくれてありがとう、試しに鬼を斬ってみないとと思ってたの!!」
「な、に……っ!?俺の体で、試し斬り、だとっ!?」
私に対して、トチ狂ってやがる。そうこぼして青い顔をさらに青ざめさせて後退する鬼を見下ろす。
「列車の中を張っていてよかったよ。新聞に載っていた、最初の犠牲者も出さずにすみそう……」
くるくるり、手の中で回転させた短い二本目を腰に仕舞い込み、普段の日輪刀へと変える。ああー、これこれ。なんだかんだ言って、この日輪刀 が手に馴染む。
鬼を殺す刃物を手に、うっそり笑う私に恐怖したのだろう、足を回復させた鬼が逃げ出した。
瓢箪を割るのは簡単だ。でも、毎回あのサイズを割るのはかなり勿体無いと思う。
未来なんかじゃ、あの大きさの瓢箪を買えばそれはもう高い。瓢箪を作る人も減っていたのが大きいと思うけど……。
そして結局、私が炭治郎達に教えられることなんて何もないに等しくて。蝶屋敷に寄った際に少しだけ打ち稽古するくらいで。
結果、何にもなっていない気がする。
そんな私でもやれることはあるわけで。
任務の前、任務の後、非番の日。杏寿郎さんと過ごす以外のほぼ全ての時間を費やし、あの沿線上。そして無限列車の調査に赴いていた。
夜間に走ることがほとんどの、この無限列車。
乗客としても何度か乗ってみたものの、どこも変わりはないようで。鬼の情報も皆無だ。
終着駅まで乗ってしまえばかなり遠くに到着してしまい、いくら鬼殺隊士の速い足だろうと帰ることが難しくなるため、毎回途中下車だ。
もったいないとは思うものの、こればかりは致し方なし。
大丈夫。切符を切られる前にいなくなれば、顔も覚えられない。ここに私が乗っていたなど誰にもわからないだろう。
トイレに立つふりして、列車から飛び降りてしまえばいいだけ。
……でも。
杏寿郎さんと二人で小旅行として乗ることができたら、どんなに嬉しいか。
そう思いながら、任務後に列車の調査なんてして、疲れに疲れた体を闇の中に踊らせる。
駅や整備工場にも何度も訪れたけれど、結局何も情報は得られず。
無駄にお弁当やら近くの商店でおやつを買って食べてしまったり、整備工場の方々と仲良くなって会話するだけで終わった。
整備工場では、最初、出て行くように怒られてしまったっけ……。見学したいと何度も頼み込んで初めて、作業光景を見せてもらった。
もちろん、そこに鬼の気配はない。
まだなくとも、いずれその時は来てしまう。鬼の存在を知られてしまう。怪我人が出てしまう。
この人達が切り裂き魔の鬼に襲われないようにしなくちゃ。
ここにも、どこにも鬼を向かわせはしない。
ちなみについ毎回買いしめる勢いになってしまうのは、好物のお稲荷さん。こっくり濃いめの味付けがたまらない。
お土産で買って帰るとどこに行っていたのか追求されるので、買った分はほぼこの胃袋の中だ。
美味しいからって食べすぎちゃったかも?太ったらやだなぁ。でもまだ食べる。夜はお腹が空くのよね。
最終的に私が調査へと戻るのは、列車の中で。それも、見回りの車掌さん以外は乗らない、廻送列車ばかりで。
下弦の壱はともかくとして、切り裂き魔の鬼の被害が最初に出たのは、廻送列車の中。
本家切り裂きジャックのように、夜道だと思っていたから『前回』の情報を思い出した時に改めて驚いたっけ。
月が綺麗ですね、なんて呟きたくなる夜。任務後の草臥れた体を座席へ預けながら、一人でまた廻送列車に乗り込む。
旅のオトモはもちろん、お稲荷さんだ。
「ぁぁー身に沁み渡る甘い味付け……」
もぐもぐもぐもぐも、……ぐ!?
花より団子。食事に没頭していると、鬼の気配を感じた。……鬼は食事時でも待ってはくれない。
「ムキィ!なんでこのタイミングでっ!」
血の匂いはしないけれど、誰か騒いでいるようだ。鬼の声、いや、見回りの車掌が襲われて叫んでいる?
腰の日輪刀を確認し、現場へ急行する。
車掌の首を掴み傷つけんとするその鬼は、体中に刺青の走る、けれど同じく刺青のある上弦の参とは違う『切り裂き魔』の鬼だった。
鬼の気配も薄かったから、数字持ちではない……下弦の壱ではないとわかっていた。
でも、こいつかぁ〜!という気分。
「まさか、お前が現れるとはね」
「お、鬼狩りっ!?
……って、くっっせぇな!こんなところで飯食ってんじゃねぇぞ!きンもち悪い匂いだな!!」
深いため息を吐いて敵を見据えていれば、鬼の目が私の持つお稲荷さんに向いた。
そういえば鬼って、人の食べ物の匂いが気持ち悪く感じるんだっけ?
「気持ち悪い匂いって失礼すぎ!人が食べてるものにケチつけないでよねっ!いい!?すぐ食べ終わるから待ってなさい!」
「ふん。待つか、よ!!」
「……はあ、これだから鬼ってやつは」
ビシと指を差すも、鬼が腕を振り上げた。人質をその鋭い爪で傷つけようったって、そうはいかない。
はぐっ!残っていた好物を一息で食べる。
ゆっくり味わって食べられなかった好物の恨みは、マリアナ海溝より深し、ということを教えてあげる。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火!」
「な、ぎゃあぁぁっ!?」
素早く抜いた日輪刀で、鬼の両手片足がスパーンと薙ぎ払われた。捕まっていた車掌の体を受け止め、おろす。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……って、お、女の子!?」
「ええ、女ですとも。
車掌さん、体が何ともないならもう行ってください。あとは私がなんとかします」
「でも……君は女の子で、僕の娘くらいの年で……!」
若い女が剣を振るうのはそんなにおかしいだろうか。や、どっちにしろ廃刀令が出て久しい今、刀を持っていること自体、非難されてしかるべきか。
「私は非公認組織所属の者。目の前のこういう『バケモノ』を狩ることを生業としています。どうかご内密に。
列車はそのまま定刻通り車庫へ収めてどうぞ。問題は起こしません。すぐに解決してみせましょう!」
「わ、わかりました!!」
チャキと日輪刀を構えれば、理解した車掌は運転席方面へ逃げ、目の前の鬼は手と足を失い這いつくばったまま、私と私が握る刃を睨めつけた。
「くっ……、」
切り裂き魔の情報が周りに広まっていないからそうだとは思った。『前』とは違い、まだあまり人を食べていないようだ。
だって、治りが極端に遅い。
「あ、ごみは持ち帰らないとだったわ〜」
動けず歯軋りする鬼を横目に、いそいそとお稲荷さんのごみをお片付けしていれば、片足だけで向かってきた。腕も碌に回復していないというに、よくやるわ。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り!!」
呼吸を変え、もう一本の日輪刀で斬りつける。水飛沫のエフェクトこそかなり薄いけど、回復中の鬼の腕が再び吹き飛ぶほどの強さ!
「おおおおお!斬れたーー!!
実験台になってくれてありがとう、試しに鬼を斬ってみないとと思ってたの!!」
「な、に……っ!?俺の体で、試し斬り、だとっ!?」
私に対して、トチ狂ってやがる。そうこぼして青い顔をさらに青ざめさせて後退する鬼を見下ろす。
「列車の中を張っていてよかったよ。新聞に載っていた、最初の犠牲者も出さずにすみそう……」
くるくるり、手の中で回転させた短い二本目を腰に仕舞い込み、普段の日輪刀へと変える。ああー、これこれ。なんだかんだ言って、この
鬼を殺す刃物を手に、うっそり笑う私に恐怖したのだろう、足を回復させた鬼が逃げ出した。