四周目 陸
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おかげさまで疲れた。任務の方が良かったというくらいには疲れた。でも、炎柱邸に共に戻った杏寿郎さんはとても嬉しそうで。
「なかなか楽しい柱合会議だったな!鬼のことではなく、ギスギスした空気もなく、いつもこういう楽しきものならばいいのだが」
「ふふ。そうですね。全く、杏寿郎さんの眼鏡には笑わせられましたよ」
今思い出してもちょっと笑えてしまう。
「眼鏡ならまだあるぞ?かけようか?それとも朝緋がかけるか?」
「かけなくていいですって。私も視力は良いので眼鏡はかけませんよ」
「意外と似合うと思うのだがなあ」
それは眼鏡萌えというやつでは。そんな属性の性癖を杏寿郎さんにつけるわけにはいかない。
渡された眼鏡を文机に置いておく。眼鏡の代わりに、杏寿郎さんの顔が近づいてきて、手が腰と背に回された。
「そういえば、朝緋は冨岡と共に食事に行ったのだったな。俺に内緒にして二人きりで」
耳元に低く囁かれた言葉にぎくりとする。
そのまま後ろにトンと押し倒され、馬乗りされた。
節くれだった熱い指が首筋を這い、襟元をぐいと開ける。
「ぇっ、や、……ぃたっ……!」
首筋に顔を埋めてきたと同時、鋭い痛みが走る。か、噛まれた……!
私を見下ろす杏寿郎さんの表情はまるで鬼のよう。
「きょ、寿朗さ、……痛いんですがっ!?」
ガリッ、ガブッ!!
甘噛みなんて優しいものじゃない。これも仕置きの一環というのか、杏寿郎さんの八重歯が思い切り食い込んで皮膚を突き破る勢い。
「痛くしているのだから当たり前だろう!それに、俺のだというしるしを刻んでおかねば、朝緋はまた勝手な行動をするかもしれん!」
「し、しない!しないよっ」
「どうだかな!
そうだ!見えるところにもしるしをつけておこう!今度は歯型ではなく、紅いしるしだぞ!!」
そうだ!じゃないよね?話を聞いて?それに紅いしるしって……、
ヂュウウウウウウ!!
あ゛あああやっぱりキスマーク!鬱血痕!!
「痛い痛い痛い!そんなこともうしないからやめて!?噛むのも嫌だけど首そんなに吸わないで!!どうせ呼吸のせいですぐ消えちゃ、痛いっ!」
「すぐ消えたら困るからこうして強く強く吸い付いているのだろう!」
離れる瞬間、ちゅぽんっ、良い音がした。蛸の吸盤ですかこの炎柱ぁ……。
続け様、痛みだけで息を切らす私の鬱血痕、噛み跡に、唇を這わされる。
痛みで敏感になった痕達だ。ぬるりと熱い舌が滑るたび、びりびりとした痺れに襲われ、快感に体がビクつく。
「ぁ、やめ、っ、……ううううう〜〜」
「ははは……こんなもので俺の仕置きが終わると思うか?」
続けてするぅり、隊服のスカートの中に入り込んでくる杏寿郎さんの手のひら。
膝に、太ももに熱が這い上がってきて、下着の縁に指がつんつんと当たる。中に入れろと、熱が呼びかけてくる。
腰がきゅんと疼いた。
「っぁ、!……、そ、そういうお仕置きは、また今度、お布団の中でシて……?ね、お願い。
まだ、今夜は任務が来るかも……、しれない……っ、でしょ?」
「…………、はあ……仕方ない。今宵は任務が来そうな気もするしなぁ。
ただし、俺は今の言葉をしっかり覚えておくからな。その時は覚悟しろよ、朝緋」
覚悟したくない。でも覚悟したい。やはり私の体と心は矛盾している。
与えてもらえそうだった熱への欲を耐えきった私は、先ほどとは一変、お茶を飲みつつ縁側から炎柱邸の庭を杏寿郎さんと共に眺めた。
産屋敷邸の庭ほど美しくもなく広くもないけれど、それでも一般のお屋敷よりは大きなお庭。私がお花が好きだからと、手入れして四季折々の花を植えてある綺麗なお庭。
その一角に、さつまいもを貯蔵しておくさつま穴があるのは、ご愛嬌。
空へ、空へとまっすぐに伸びた芍薬の茎。その天辺に、薄淡い紅色の蕾がぷくりと出来ているのが見える。杏寿郎さんも気がついてじっと見つめていた。
「芍薬の花蕾が出来ているな。つい先日は、まだただの茎だったのだが」
「植物の成長は早いですからね。んー、そろそろ咲くかな?」
芍薬の季節。じきに五月に入る。春は終わり、初夏の季節がやってくる。
五月には杏寿郎さんの誕生日もある。杏寿郎さんももう二十か……。
思い出されるのは刻まれた享年二十の文字。
ああ、つまりもうすぐで無限列車の任務も……。
どんなに楽しい思い出も、幸せな思い出も、無限列車の任務の前ではすべて霞んでしまう。
私は私がやれることをするしかない。鍛錬を怠らず、他の呼吸を学ぶことも止めず、空いた時間に炭治郎達の訓練に付き合い、そして出来るなら『無限列車』の鬼を探して仕留めておく。
私にやれることなんて、それくらいしか思いつかなくて……、
「もしも」
杏寿郎さんの話で、現実に戻った。いけない、今はこうして杏寿郎さんと一緒にいる幸せを感じていたいのに。時間は有限。なら、共にいる時間はとてつもなく大事なものなのに。
「もしも朝緋が、俺と気持ちを同じにしていなかったら。他の男の元に行こうとしていたら。芍薬を毎夜一本ずつ、百本になるまで、朝緋の元へ通う道沿いに植えようかと思うくらいだった」
一瞬なんのことなのかわからなかった。けどそれは、平安時代の伝説。大好きな相手に振り向いてもらうため、毎晩一本ずつの芍薬を植えて……百本目の夜に息絶えてしまったという、悲しいお話のものだと気がついた。
「百夜通いですか?やだもう、縁起でもないんだから!
芍薬を植えなくても大丈夫。私はその道の先で、毎晩毎晩杏寿郎さんのことを想って待ってます。雨の日も、風の日も、雪降る夜も、ずっとです」
隣に座る彼の指に、自分の指を絡めてぐいと引き寄せる。
私の太ももの上に倒れてきた杏寿郎さんの顔を、上からじっと見つめた。目と目が合う。太陽のようで、それでいて夏の花の目と。
「それにね。芍薬も華やかで好きだけど、私が好きなお花は、杏寿郎さんそっくりな夏のお花なの。想いを伝えるために植えるのだったら、そのお花の種を一緒に植えてほしい」
「向日葵、だな」
杏寿郎さんの腕によって顔が引き寄せられる。
そのまま唇が重なった。
「んっ、正解」
あたたかい唇。あたたかい口づけ。なんて幸せなのだろう。
だからどうか。
どうか奪わないで。邪魔をしないで。
今だけはこの甘い時間に身を浸していたいの。
その視線を独り占めするように、手のひらで杏寿郎さんの顔を覆って隠して、自分からも口づけを落とした。
「なかなか楽しい柱合会議だったな!鬼のことではなく、ギスギスした空気もなく、いつもこういう楽しきものならばいいのだが」
「ふふ。そうですね。全く、杏寿郎さんの眼鏡には笑わせられましたよ」
今思い出してもちょっと笑えてしまう。
「眼鏡ならまだあるぞ?かけようか?それとも朝緋がかけるか?」
「かけなくていいですって。私も視力は良いので眼鏡はかけませんよ」
「意外と似合うと思うのだがなあ」
それは眼鏡萌えというやつでは。そんな属性の性癖を杏寿郎さんにつけるわけにはいかない。
渡された眼鏡を文机に置いておく。眼鏡の代わりに、杏寿郎さんの顔が近づいてきて、手が腰と背に回された。
「そういえば、朝緋は冨岡と共に食事に行ったのだったな。俺に内緒にして二人きりで」
耳元に低く囁かれた言葉にぎくりとする。
そのまま後ろにトンと押し倒され、馬乗りされた。
節くれだった熱い指が首筋を這い、襟元をぐいと開ける。
「ぇっ、や、……ぃたっ……!」
首筋に顔を埋めてきたと同時、鋭い痛みが走る。か、噛まれた……!
私を見下ろす杏寿郎さんの表情はまるで鬼のよう。
「きょ、寿朗さ、……痛いんですがっ!?」
ガリッ、ガブッ!!
甘噛みなんて優しいものじゃない。これも仕置きの一環というのか、杏寿郎さんの八重歯が思い切り食い込んで皮膚を突き破る勢い。
「痛くしているのだから当たり前だろう!それに、俺のだというしるしを刻んでおかねば、朝緋はまた勝手な行動をするかもしれん!」
「し、しない!しないよっ」
「どうだかな!
そうだ!見えるところにもしるしをつけておこう!今度は歯型ではなく、紅いしるしだぞ!!」
そうだ!じゃないよね?話を聞いて?それに紅いしるしって……、
ヂュウウウウウウ!!
あ゛あああやっぱりキスマーク!鬱血痕!!
「痛い痛い痛い!そんなこともうしないからやめて!?噛むのも嫌だけど首そんなに吸わないで!!どうせ呼吸のせいですぐ消えちゃ、痛いっ!」
「すぐ消えたら困るからこうして強く強く吸い付いているのだろう!」
離れる瞬間、ちゅぽんっ、良い音がした。蛸の吸盤ですかこの炎柱ぁ……。
続け様、痛みだけで息を切らす私の鬱血痕、噛み跡に、唇を這わされる。
痛みで敏感になった痕達だ。ぬるりと熱い舌が滑るたび、びりびりとした痺れに襲われ、快感に体がビクつく。
「ぁ、やめ、っ、……ううううう〜〜」
「ははは……こんなもので俺の仕置きが終わると思うか?」
続けてするぅり、隊服のスカートの中に入り込んでくる杏寿郎さんの手のひら。
膝に、太ももに熱が這い上がってきて、下着の縁に指がつんつんと当たる。中に入れろと、熱が呼びかけてくる。
腰がきゅんと疼いた。
「っぁ、!……、そ、そういうお仕置きは、また今度、お布団の中でシて……?ね、お願い。
まだ、今夜は任務が来るかも……、しれない……っ、でしょ?」
「…………、はあ……仕方ない。今宵は任務が来そうな気もするしなぁ。
ただし、俺は今の言葉をしっかり覚えておくからな。その時は覚悟しろよ、朝緋」
覚悟したくない。でも覚悟したい。やはり私の体と心は矛盾している。
与えてもらえそうだった熱への欲を耐えきった私は、先ほどとは一変、お茶を飲みつつ縁側から炎柱邸の庭を杏寿郎さんと共に眺めた。
産屋敷邸の庭ほど美しくもなく広くもないけれど、それでも一般のお屋敷よりは大きなお庭。私がお花が好きだからと、手入れして四季折々の花を植えてある綺麗なお庭。
その一角に、さつまいもを貯蔵しておくさつま穴があるのは、ご愛嬌。
空へ、空へとまっすぐに伸びた芍薬の茎。その天辺に、薄淡い紅色の蕾がぷくりと出来ているのが見える。杏寿郎さんも気がついてじっと見つめていた。
「芍薬の花蕾が出来ているな。つい先日は、まだただの茎だったのだが」
「植物の成長は早いですからね。んー、そろそろ咲くかな?」
芍薬の季節。じきに五月に入る。春は終わり、初夏の季節がやってくる。
五月には杏寿郎さんの誕生日もある。杏寿郎さんももう二十か……。
思い出されるのは刻まれた享年二十の文字。
ああ、つまりもうすぐで無限列車の任務も……。
どんなに楽しい思い出も、幸せな思い出も、無限列車の任務の前ではすべて霞んでしまう。
私は私がやれることをするしかない。鍛錬を怠らず、他の呼吸を学ぶことも止めず、空いた時間に炭治郎達の訓練に付き合い、そして出来るなら『無限列車』の鬼を探して仕留めておく。
私にやれることなんて、それくらいしか思いつかなくて……、
「もしも」
杏寿郎さんの話で、現実に戻った。いけない、今はこうして杏寿郎さんと一緒にいる幸せを感じていたいのに。時間は有限。なら、共にいる時間はとてつもなく大事なものなのに。
「もしも朝緋が、俺と気持ちを同じにしていなかったら。他の男の元に行こうとしていたら。芍薬を毎夜一本ずつ、百本になるまで、朝緋の元へ通う道沿いに植えようかと思うくらいだった」
一瞬なんのことなのかわからなかった。けどそれは、平安時代の伝説。大好きな相手に振り向いてもらうため、毎晩一本ずつの芍薬を植えて……百本目の夜に息絶えてしまったという、悲しいお話のものだと気がついた。
「百夜通いですか?やだもう、縁起でもないんだから!
芍薬を植えなくても大丈夫。私はその道の先で、毎晩毎晩杏寿郎さんのことを想って待ってます。雨の日も、風の日も、雪降る夜も、ずっとです」
隣に座る彼の指に、自分の指を絡めてぐいと引き寄せる。
私の太ももの上に倒れてきた杏寿郎さんの顔を、上からじっと見つめた。目と目が合う。太陽のようで、それでいて夏の花の目と。
「それにね。芍薬も華やかで好きだけど、私が好きなお花は、杏寿郎さんそっくりな夏のお花なの。想いを伝えるために植えるのだったら、そのお花の種を一緒に植えてほしい」
「向日葵、だな」
杏寿郎さんの腕によって顔が引き寄せられる。
そのまま唇が重なった。
「んっ、正解」
あたたかい唇。あたたかい口づけ。なんて幸せなのだろう。
だからどうか。
どうか奪わないで。邪魔をしないで。
今だけはこの甘い時間に身を浸していたいの。
その視線を独り占めするように、手のひらで杏寿郎さんの顔を覆って隠して、自分からも口づけを落とした。