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四周目 陸

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夢主の名前は?

そういえば、その杏寿郎さんが見当たらない。どこへ?
と思ったその時、勢いよく目の前の襖が開いた。

「師は、……ブフッ!」

自信たっぷりに入ってきた杏寿郎さんの頭の上に。……頭の上に!
見たことない眼鏡が乗っている!!
予想できる展開を前に、先に吹き出してしまった。私はこの手の笑いに弱い。

「冨岡よ!俺の眼鏡を知らないか!!」

ほらやっぱりー!!んぶふぅうううう!!
箸が転がっても笑えてしまうお年頃、というわけではないものの、目が悪いわけでもない杏寿郎さんの渾身のギャグを前に、笑いが止まらず後ろを向いた。

そこに拍車をかけるが如く、小さな声で頭の上にあること。そして、

「……煉獄は目だけでなく頭も悪くなったのか」

という、真っ直ぐな回答がなされる。
これ絶対、気の毒そうな顔して杏寿郎さん見てるでしょ冨岡さん!その顔も想像して、また笑えてしまった。

「はひっ、ひぃ〜〜ウケるぅ〜〜んふっ!」
「おい朝緋、お前大丈夫か」

宇髄さんが心配するほどだった。
他の柱が次の手を考える中、戻ってきた杏寿郎さんに声をかけられる。まあ、一部は冨岡さんを笑わせることについて全く考えていなさそうだが。

朝緋!駄目だった!俺には冨岡を笑わせることは不可能だったぞ!」
「ええ師範、残念でし……た、……ンブフッ!」

せっかく笑いのツボが落ち着きつつあったのに、杏寿郎さんの眼鏡はまだそこにあって。しかもそれを両手でクイクイと上げ下げして見せてくるものだから……!また吹き出してしまった。
全集中の呼吸がおかしくなるやめて〜!

「わはは!朝緋が笑ってくれるなら何よりだ!!今後は朝緋のためにたまに眼鏡をかけるとしようか!
まっ!俺は三十間先まではっきりくっきり見えるがな!!」

見えるなら要らないよ!腹筋痛い!私の呼吸返せ!!
涙出そうなくらい笑わせられてから、悲鳴嶼さんに声をかけられた。

「煉獄のところの継子は、冨岡を笑わせられないのか?」

んんん?まじかー、私にまで役が回ってくるとは。まさか御館様、これが私も呼んだ理由の一つ?

「えっと、私にはとてもとても……、」
朝緋!やる前から諦めるなんて、炎の呼吸使いとしてあってはならない!やってみなさい!!」
「えーー!」
「えー、じゃない!」
「ふぇい。……やってみまーす」

無茶振りしおってからに〜。ぷぅぷぅ文句垂れつつ、冨岡さんの前へ出る。

「ほいじゃ失礼して……、水柱様」
「水柱じゃない、冨岡だ」
「はいはいそうでしたね。冨岡さん、とりあえず笑いましょっか。
はい、スマイル〜」

むにむに、にぃ。
両頬を拝借してつまみ、口角を無理やりあげさせてもらう。これで見た目だけは笑顔である。

「これじゃ駄目です?」

悲鳴嶼さんや他の柱、杏寿郎さんにその状態を見せる。

「却下だ」
「……煉獄朝緋。俺にはお前が何がしたいのかわからない」

残念、駄目だそうだ。杏寿郎さんも柱達も、微妙そうな顔。冨岡さん本人も、何がしたいのかわからないと困惑していた。

「ならしょうがないですね。これならどでしょ?」
「……何だ、その変な顔は」

冨岡さんにのみ見える位置から、とっておきの変顔をしてみせる。……わっ!柱最速の宇髄さんが後ろに回って見てきたぁ!?

「ぅん?どれど、……ブッ!!
煉獄よ、お前の継子……っ、朝緋、面白いな!何だあの顔!!百年の恋もいっぺんで冷めちまうぜ!」
「!?何?どんな顔なんだ朝緋!俺にも見せてくれ!!」
「見せません!
……宇髄さぁん?今の顔はすぐ忘れてね?言いふらしたりしたら頸ちょんぱ!ですよ」
「はいはい、わかってるよ」
「そこまでか!?むう、朝緋は一体どんな顔をしたのやら……」
「乙女の秘密です」

口元に指を当てて言う。
変顔の時とはうって変わり、可愛い感じに決められたと思う。でもこれが通用するのは杏寿郎さんくらいだ。

「煉獄に引き続き、お前は頭だけでなく顔も変になったとはな」
「!?」

この水柱……失礼すぎる。もう絶対やらない!協力しない!!
これで私もことごとく失敗。他の柱はやる気なしだ。となると、最後の手段を使う他ないのでは。
乗りかかった船なので、協力しないと言いつつ、全力で笑顔を引き出す方法を考える。しのぶが反応した。

「ああもう、あとはアレを。冨岡さんの好物のアレを利用するしか……」
朝緋さんはもしかして、冨岡さんの食事の時の顔を見たことがあるんです?」
「うん。一度、任務後に一緒に寄った定食屋で鮭大根を食べる姿を見た事があって、」
「何!?朝緋は冨岡と食事をした事があるのか!!よもや二人きりでではあるまいな……?」

出たな杏寿郎さんめ!こういう話するとすぐ現れるんだからもぉ〜!

「まっさかぁ〜」
「声がいつもより少しだけ上擦って聞こえる!二人きりで行ったろう?大体、朝緋が冨岡と任務だった時など、ひぃふぅみぃ、今までに三度しかない!それも、全てが二人きりでの任務だ!!」
「何で私ですら覚えてない任務のこと覚えてるの怖い」
「嫉妬もここまで来るといっそ清々しいですねぇ」
「清々しいじゃないよ怖いでしょ」

でもそれすら嫌じゃない私がいる。お仕置きは今でも慣れないけれどね。体は期待して、心は未だに逃げようとして。体と心が合っていない時が多い。

「まあ、どちらでもいいですけどね。それより鮭大根ですよ。言うのは不死川さんが適任かと」
「え、なんで?」

むすりとしてイライラ再骨頂の不死川さんに目を向ける。怒ってる彼に提案しに行くだけでも怖いよね。
普段は優しいの知ってるけど、冨岡さんが関わってくる話だからなの?機嫌悪そうで近寄り難い。

「だって、不死川さんが一番転がしやす……ごほん!御館様からのお言葉に飢えていますから」
「御館様に絶対の信頼を向けてるのも、言葉に飢えているのも本当だろうけど今なんて?転がしやすいって言おうとしたよね?」
「気のせいでは?……気のせいでは?」
「はい……」

二度言ったぞこの蟲柱。


御館様という魔法の言葉がなかったら絶対この役はやってくれなかったろう。
相当冨岡さんを嫌いなのか、不死川さんは怒りに体をぶるぶる震わせたままに、冨岡さんに声をかけてくれた。引き攣ったような、笑顔……?ともいえなくもない表情すら浮かべて。

「今から鮭大根を喰いに行かねぇかァ?」
「行かない」

そ、即答……っ!?
えええどうして!!貴方鮭大根大好きだったでしょうが!!不死川さんが決死の思いで声かけたのよ!
これに乗らずしてどうする!水の呼吸の参ノ型・流流舞のように、不死川さんの波に乗ってあげてよ!!

「鮭大根ならさっき食べた」

我慢の限界か、不死川さんがブチギレた。

そのまま、不死川さんは冨岡さんとの接近禁止令が出てしまい。誰一人として冨岡さんを笑わせることはできないまま、この一件は幕を閉じた。

他の柱と仲良く交流するなら、冨岡さんはもう少し多くの言葉を話した方がいい。
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