四周目 陸
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不穏な空気が流れる中、御息女より手紙が読まれた。元柱である、鱗滝左近次殿からの手紙だ。
……ん?元柱?元水柱で今は育手の!?水の呼吸、教えてくれないかな……。
手紙によると、禰󠄀豆子ちゃんは二年以上もの間、人を傷つけていない。人を食べていないとのこと。
炭治郎ではなく、信用に足る元柱の話なのだから間違いはないはず。
そしてもし禰󠄀豆子ちゃんが人に手をかけたなら、炭治郎だけでなく鱗滝さん、冨岡さんが腹を切るそうだ。
ああ、『前』に聞いた話そのままだ。
禰󠄀豆子ちゃんの行動に、三人もの命が賭けられている。
炭治郎は泣いていた。
それでも不死川さんは切腹くらいでは許せないようだった。勝手に死ねと、仲間である冨岡さんにも対しても辛辣すぎる。冨岡さんが一部の柱に嫌われているというのは、もしかして本当のことかもしれない。
杏寿郎さんがそれに賛同した。
人を食い殺してからでは取り返しがつかないと。殺された人は戻らないと。
ああ、どうやったらこの人達は、過激な考えを捨ててくれるのだろう。
ここで二人は殺されてしまうのだろうか。そんなの見たくない、見たくないよ……。
御館様の話が続く。
人を襲わないと言う証明ができないように、人を襲うと言うことも証明ができない。
二年以上人を食べていない事実、そして三人の命がかけられている以上、それを否定するには否定する側も同じくらいのものを差し出さねばいけない。
これには不死川さんと杏寿郎さんも黙った。
そして新たな事実が判明する。私もよくは知らなかったその事実。
炭治郎は鬼舞辻無惨と遭遇している。
柱ですら遭遇したことがない。その情報を前に、ざわつく柱達。
全員が全員、炭治郎に詰め寄って情報を聞き出そうとした。
かくいう私も、心中穏やかとはいえない状態だった。ほしい、その情報、もっとほしい。
鬼舞辻無惨……この時代での私の肉親を殺した鬼。
煉獄家に来るまでのほんの少しの間だったけれど、愛情深く大切に育ててくれた、私に色々教えてくれた優しい父と母。
その家族を殺し、兄である明槻を鬼と変えた憎い憎い鬼の頭領。
あの鬼がいるから、全ての悲劇は生まれているのに。
「朝緋……、」
怒りに震える私の手を、杏寿郎さんがそっと握ってくれた。
しー。
騒ぐ柱達が御館様のその仕草だけで静かになった。杏寿郎さんの手も私から離れ、御館様に集中する。
鬼舞辻無惨は炭治郎へと追っ手を放ち、亡き者にしようとしていると。禰󠄀豆子にも鬼舞辻無惨が気にするほどの何かが起きていると、御館様は語る。
まるで、炭治郎達を認めてほしい。殺させやしない。そう言っているようだった。
それでも鬼だけは認められない。禰󠄀豆子ちゃんを滅殺したいようで、不死川さんが怖い顔を向けた。これまでの鬼殺隊の軌跡を思えばこそ当たり前の考え。
彼は何を思ったか、日輪刀を抜き、自分の腕を斬りつける。
「えっ」
血がぼたぼたと落ちて、玉砂利を赤く染めぬく。つい声が出てしまった。
だって、不死川さんは稀血だ。鬼にとってのご馳走だ。
……まさか。
そのまさかが当たった。禰󠄀豆子の箱を横たえ、その上に血を垂らしていく。禰󠄀豆子を刺した際に開けた穴から、その血はどんどんと中へ流れ込んでいるようで。
唸り声が聞こえる。
血に抗おうと食欲を必死で我慢しているような、喉の底から絞り出す声。
ーー頑張って!禰󠄀豆子ちゃん!!
どちらにせよここは陽の光の下で。ならば鬼である禰󠄀豆子ちゃんが外に出てくることはない。
伊黒さんが陰に行くよう指示をした。断りをいれ、返事を待たずして屋敷の中へと入る不死川さん。
あっ!草履脱いでないじゃん!!お行儀が悪い!血も垂らしてそんな汚して!!畳張り替えだね!?
そうして、暗い座敷内でまた禰󠄀豆子ちゃんをブシュッと刺した。
「やめろー!!」
飛び出す炭治郎を、伊黒さんが押さえつけた!あばばばば!それ痛いやつ!呼吸法できなくなるやつ!!『前』に槇寿朗さんからされたけど、めちゃくちゃ苦しくて辛かったやつだ!!
「出てこい鬼ィ!!」
ブシュッ!
ああっまた!また刺したぞこの柱!何回刺せば気が済むの!鬼だって痛覚あるんだよ痛いんだよ!?
箱の取っ手を刃の先で開けると、血だらけの禰󠄀豆子ちゃんがフゥフゥ息を切らしながら立ち上がって出てきた。
度重なる出血で、空腹度が一気に増したか、噛んでいる竹の端からよだれがポタポタ垂れている。瞳孔の開いた目は、稀血したたる不死川さんの腕の傷にひたすら注がれていた。
固唾を飲んで見守る柱達。私も何も出来ず、ただただ心の中で禰󠄀豆子ちゃんにエールを送るばかり。
あ、そういえば炭治郎は……?この状況、伊黒さんに押さえつけられていようと大人しくしていられるわけがない。
そちらを見てみれば……炭治郎も押さえつけている側の伊黒さんも、皮膚に血管を浮かせての攻防を続けていた。
強く……、強く抑え過ぎぃぃぃ!!
ちょうどしのぶが双方に注意したけれど、伊黒さんは炭治郎が動くのをやめない限り力を緩めないし、炭治郎は押さえられているのに呼吸を使おうとするしどうしようもない。
……本当に血管が破裂しちゃうよ。全然派手じゃないよ、何破裂しろとか言ってるの宇髄さん!
とうとう炭治郎が縄を引きちぎって動いた。って、え?冨岡さんが炭治郎を助けた……?
そして。
走り寄る炭治郎の前で。柱達が見ている前で。
禰󠄀豆子ちゃんが不死川さんの腕。稀血から顔をプイ、と逸らした。逸らしたあともつらそうだけどでも、彼女なりに人を食べない、人は守るものだと、証明してみせた。
「禰󠄀豆子ちゃん……。よくやったわ、よかった……。あ、すみません」
非難するような目が杏寿郎さんや他の柱から向けられ、小さくなった。今ここで禰󠄀豆子ちゃんに味方するのはまずかったなあ。
でもこのおかげで、禰󠄀豆子ちゃんが人を襲わないと、柱達に知らしめることができた。やった、これで炭治郎達が殺されることはない。
ただ、かっこよく志高く言い切っても、十二鬼月すっとばして鬼舞辻無惨を倒すのは、ちょっと君には早いと思うの。
気持ちは同じだから、他の柱のように笑ったりはしないけどね。ほら、杏寿郎さんも笑わず「良い心がけだ!」と頷いている。
……ん?元柱?元水柱で今は育手の!?水の呼吸、教えてくれないかな……。
手紙によると、禰󠄀豆子ちゃんは二年以上もの間、人を傷つけていない。人を食べていないとのこと。
炭治郎ではなく、信用に足る元柱の話なのだから間違いはないはず。
そしてもし禰󠄀豆子ちゃんが人に手をかけたなら、炭治郎だけでなく鱗滝さん、冨岡さんが腹を切るそうだ。
ああ、『前』に聞いた話そのままだ。
禰󠄀豆子ちゃんの行動に、三人もの命が賭けられている。
炭治郎は泣いていた。
それでも不死川さんは切腹くらいでは許せないようだった。勝手に死ねと、仲間である冨岡さんにも対しても辛辣すぎる。冨岡さんが一部の柱に嫌われているというのは、もしかして本当のことかもしれない。
杏寿郎さんがそれに賛同した。
人を食い殺してからでは取り返しがつかないと。殺された人は戻らないと。
ああ、どうやったらこの人達は、過激な考えを捨ててくれるのだろう。
ここで二人は殺されてしまうのだろうか。そんなの見たくない、見たくないよ……。
御館様の話が続く。
人を襲わないと言う証明ができないように、人を襲うと言うことも証明ができない。
二年以上人を食べていない事実、そして三人の命がかけられている以上、それを否定するには否定する側も同じくらいのものを差し出さねばいけない。
これには不死川さんと杏寿郎さんも黙った。
そして新たな事実が判明する。私もよくは知らなかったその事実。
炭治郎は鬼舞辻無惨と遭遇している。
柱ですら遭遇したことがない。その情報を前に、ざわつく柱達。
全員が全員、炭治郎に詰め寄って情報を聞き出そうとした。
かくいう私も、心中穏やかとはいえない状態だった。ほしい、その情報、もっとほしい。
鬼舞辻無惨……この時代での私の肉親を殺した鬼。
煉獄家に来るまでのほんの少しの間だったけれど、愛情深く大切に育ててくれた、私に色々教えてくれた優しい父と母。
その家族を殺し、兄である明槻を鬼と変えた憎い憎い鬼の頭領。
あの鬼がいるから、全ての悲劇は生まれているのに。
「朝緋……、」
怒りに震える私の手を、杏寿郎さんがそっと握ってくれた。
しー。
騒ぐ柱達が御館様のその仕草だけで静かになった。杏寿郎さんの手も私から離れ、御館様に集中する。
鬼舞辻無惨は炭治郎へと追っ手を放ち、亡き者にしようとしていると。禰󠄀豆子にも鬼舞辻無惨が気にするほどの何かが起きていると、御館様は語る。
まるで、炭治郎達を認めてほしい。殺させやしない。そう言っているようだった。
それでも鬼だけは認められない。禰󠄀豆子ちゃんを滅殺したいようで、不死川さんが怖い顔を向けた。これまでの鬼殺隊の軌跡を思えばこそ当たり前の考え。
彼は何を思ったか、日輪刀を抜き、自分の腕を斬りつける。
「えっ」
血がぼたぼたと落ちて、玉砂利を赤く染めぬく。つい声が出てしまった。
だって、不死川さんは稀血だ。鬼にとってのご馳走だ。
……まさか。
そのまさかが当たった。禰󠄀豆子の箱を横たえ、その上に血を垂らしていく。禰󠄀豆子を刺した際に開けた穴から、その血はどんどんと中へ流れ込んでいるようで。
唸り声が聞こえる。
血に抗おうと食欲を必死で我慢しているような、喉の底から絞り出す声。
ーー頑張って!禰󠄀豆子ちゃん!!
どちらにせよここは陽の光の下で。ならば鬼である禰󠄀豆子ちゃんが外に出てくることはない。
伊黒さんが陰に行くよう指示をした。断りをいれ、返事を待たずして屋敷の中へと入る不死川さん。
あっ!草履脱いでないじゃん!!お行儀が悪い!血も垂らしてそんな汚して!!畳張り替えだね!?
そうして、暗い座敷内でまた禰󠄀豆子ちゃんをブシュッと刺した。
「やめろー!!」
飛び出す炭治郎を、伊黒さんが押さえつけた!あばばばば!それ痛いやつ!呼吸法できなくなるやつ!!『前』に槇寿朗さんからされたけど、めちゃくちゃ苦しくて辛かったやつだ!!
「出てこい鬼ィ!!」
ブシュッ!
ああっまた!また刺したぞこの柱!何回刺せば気が済むの!鬼だって痛覚あるんだよ痛いんだよ!?
箱の取っ手を刃の先で開けると、血だらけの禰󠄀豆子ちゃんがフゥフゥ息を切らしながら立ち上がって出てきた。
度重なる出血で、空腹度が一気に増したか、噛んでいる竹の端からよだれがポタポタ垂れている。瞳孔の開いた目は、稀血したたる不死川さんの腕の傷にひたすら注がれていた。
固唾を飲んで見守る柱達。私も何も出来ず、ただただ心の中で禰󠄀豆子ちゃんにエールを送るばかり。
あ、そういえば炭治郎は……?この状況、伊黒さんに押さえつけられていようと大人しくしていられるわけがない。
そちらを見てみれば……炭治郎も押さえつけている側の伊黒さんも、皮膚に血管を浮かせての攻防を続けていた。
強く……、強く抑え過ぎぃぃぃ!!
ちょうどしのぶが双方に注意したけれど、伊黒さんは炭治郎が動くのをやめない限り力を緩めないし、炭治郎は押さえられているのに呼吸を使おうとするしどうしようもない。
……本当に血管が破裂しちゃうよ。全然派手じゃないよ、何破裂しろとか言ってるの宇髄さん!
とうとう炭治郎が縄を引きちぎって動いた。って、え?冨岡さんが炭治郎を助けた……?
そして。
走り寄る炭治郎の前で。柱達が見ている前で。
禰󠄀豆子ちゃんが不死川さんの腕。稀血から顔をプイ、と逸らした。逸らしたあともつらそうだけどでも、彼女なりに人を食べない、人は守るものだと、証明してみせた。
「禰󠄀豆子ちゃん……。よくやったわ、よかった……。あ、すみません」
非難するような目が杏寿郎さんや他の柱から向けられ、小さくなった。今ここで禰󠄀豆子ちゃんに味方するのはまずかったなあ。
でもこのおかげで、禰󠄀豆子ちゃんが人を襲わないと、柱達に知らしめることができた。やった、これで炭治郎達が殺されることはない。
ただ、かっこよく志高く言い切っても、十二鬼月すっとばして鬼舞辻無惨を倒すのは、ちょっと君には早いと思うの。
気持ちは同じだから、他の柱のように笑ったりはしないけどね。ほら、杏寿郎さんも笑わず「良い心がけだ!」と頷いている。