四周目 陸
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「たんじろうとねずことは、誰の名だ?」
口から自然と出てしまった呟き。
未来の浴室ほど反響しない。それでもここは浴室。五右衛門風呂ではなく、立派な檜風呂が備え付けられている。
そんな昔から炎柱邸があるというわけではないだろうけど、少なくとも鬼殺の合間の休憩などには槇寿朗さんも利用したはずで。
槇寿朗さんか、その前の炎柱が御館様に檜風呂にしてくれと進言したのだろうか?そこまでお風呂好きとは聞いたことないから、もしや柱邸の基本がこれだったりして。そうだったら柱羨ましい。
まあ、そのご相伴に預かれている私的にはどちらでもいい。大きな浴槽、しかも檜!気持ちいいもんね。
ただ、室内なため、呟いた声は相手に届いてしまうのが玉に瑕で。
常人より五感もある程度優れた柱だ。私のその呟きは杏寿郎さんの耳にしっかり届いていた。
「ねずこはおなごの名だな。だがたんじろうとは、男の名だろう。どこのどいつだ」
失敗 った。
これからの柱合会議で議題にあがり、裁判にかけられるはずの二人。その際には必ず名前も柱達に知らされるはずで。
そうなったら、私が既に炭治郎と禰󠄀豆子ちゃんの名前を知っていることもバレてしまう。
でもなんだか、今の杏寿郎さんの聞き方だとただ嫉妬しているように聞こえる。
相変わらず、私に関わることについて狭量なようで。
「なあ、誰だ?」
私の事は全て知っていないと気が済まないのかもしれない。
拘束するかのように後ろから抱きしめてくる杏寿郎さんの喉から、グルルと獣の唸り声のような音が聞こえる。
獣のように交わったあとだからか、なおさらそう感じる。狼か虎に獲物として狙い定められた気分で。
呟きを聞かれた以上、言い逃れはできない。
「鬼を連れているという隊士の名前だよ。隊士の名が竈門炭治郎。連れている鬼の名が妹の竈門禰󠄀豆子で、ひゃわっ!?」
ガッ!
その瞬間、肩を掴まれ正面を向かされた。
嫉妬からくる鋭さではない。柱としての鋭い眼光で射抜かれる。
「ーーなぜ知っている?俺達はたった今、要とあずまからその情報を聞いたばかりのはずだ」
シンと静まり返る浴室内。要やあずまが窓に止まっているけど、杏寿郎さんの低い言葉の前に声は発せず。その他に聞こえたのはお互いの呼吸音、そして天井からぴちょんと落ちる水滴の音だけだった。
「…………、ごめんなさい、言えません。少なくとも、今は」
「言えないだと?
鬼だぞ?相手は鬼を連れているのだぞ?君が憎んでやまぬ鬼だ!何を庇う?何を隠す?」
肩を強く揺さぶられる。
「い、言えません……!」
だって、どうせ信じてはもらえない。
私が何度も過去からやり直していることなんて。そんな夢物語のような話、誰も信じない。杏寿郎さんでさえ、冗談だろうと笑い飛ばすに決まっている。
万が一信じてもらえたところで、他の話はどうやって説明するの?見つけられ次第問答無用で頸を狩られるかもしれないけれど、鬼である明槻の話はできたとしよう。
この世界がかつての私の世界で物語として紡がれたものと言える?作られたものだなんて、本人達に伝えられる?
……無理だ。
だってみんな、みんな生きているんだもの。私もそう。この世界で生きている。
私達にとってはこの世界こそ現実で。痛みも苦しみも悲しみも、残酷なほど偽りなどではなく真実で。
「鬼殺隊を。御館様や俺を裏切るようなことにはならないのだろうな」
「ありえません。絶対……絶対に」
探るような目。
言われたことについては、嘘偽りないと信じてもらえるように、その目をまっすぐ見つめ返して答える。
「はあ……ならいい。もしも裏切るのなら、いくら朝緋だとしても俺は斬首……、…………ああ無理だ……。朝緋を斬首するなど俺には無理だ……っ!」
正面から抱きつかれた。けれど、優しい抱擁などではなくて。内臓が飛び出しそうなほど。背骨が折れるほどに強く、ミシミシいうほど力を込められる。
口から空気が全部抜けた。
「んきゅっ……!痛い痛い痛い!骨が折れちゃう!」
バシバシ叩いて力を緩ませる。時間をたっぷり空けてから、ようやく解放してもらえて。……死ぬかと思った。
「だーかーらー!そんなことは!神様にも仏様にもお天道様にも、杏寿郎さんにも誓って、ありえないんだってば!!」
「なぬ!俺にも誓うのか!神や仏と同等の位置に俺を置くとは、君もよほど俺が好きと見える!君に対する俺の気持ちなら、君にも負けんぞ!!」
「勝ち負けじゃないと思う」
「……ただ、柱合会議で実際にその者達の名を聞かぬまでは、いくら朝緋の言葉だとしても信じ切ることはできん。すまない」
今度は探るようなものでなく、どこか不安げに揺れる瞳で見つめられた。
「だがよもや、朝緋には産屋敷家のような先見の力があるのか?そうでなくば、鬼を連れた隊士のことなど事前に知るなんてできないはず。
先見の力があるなどと御館様に知られれば、きっと君はここを出て産屋敷邸へと迎えられてしまう。御館様の元であろうと、俺は君を手放したくないのだ。
それくらいは教えてくれても良いだろう」
杏寿郎さんはそんなことが心配なのね。私が他に取られると。自分の元から去ってほしくないと。そう考えて不安になっていたのね。
絶対である御館様の命であろうと、聞けないほどに。
「そんな力は全くありません。それから……、」
今度は私からその体を抱きしめる。素肌同士でぴったりと触れ合うのは、毎回恥ずかしくてたまらない。けれど、自分の想いが杏寿郎さんにしっかりと伝わるように、伝わるようにと、願いながらスルリとその背に手を回す。
「杏寿郎さんから離れたりしないよ。言ったでしょ?離れられないんだって」
その体が一瞬ぴくりと一度震え、そして私の背に腕が回ってくる。今ここにいる私の存在を確かめるようにしばし抱きしめてから、杏寿郎さんは短い息を吐いた。
「そう、だったな。
……いやしかし、他の男の元に行くのかと。心移りしたのかと思ってヒヤリとしてしまったではないか」
「やだなあ、それこそ絶対ありえないよ?」
私が炭治郎の元に?千寿郎と同じ、弟のような炭治郎を相手に懸想するなんてありえない。
あ、でも杏寿郎さんと同じで、炭治郎の長男力は高いよね。年下相手に何甘えているの?と思うけど、つい兄のように甘えたくなる頼もしさも彼にはあったっけ。
……炭治郎……大丈夫かな。
「ところで杏寿郎さん、このあと柱合会議なのでしょう?」
「ああそうだ。始まるまでにかなり時間があるから、朝緋との時間ならまだ取れるぞ?」
耳をちゅくりと舐られ、食まれた。それだけでぞわりと肌がまた粟立ってきて、甘い吐息が漏れそうだった。
何でもない風に装い、快感を我慢して続ける。
「普通、一般の隊士は呼ばれぬ限り参加はできないですよね。だけど私も行きたいです。鬼を連れた隊士に会いたいです。
会議そのものには出ません。一般隊士には聞かせられない話もあるでしょうから、その際は聞こえないよう遠くにいますので……」
「なるほどな。君が望むのなら柱合会議自体は参加できるだろうと思う。朝緋の言う通り、聞かせられぬ話ならば席を外せばいいだけ。
しかしだな、朝緋がどこまで知っているのかは知らんが、相手は敵か味方かわからんような隊士が自ら連れ使役するような鬼だ。危険度がわからぬのに柱でもなく稀血である一般隊士の君をそんな隊士や鬼の前に連れて行くのは、」
「周りに柱が勢揃いしてるなら大丈夫なはず。それに、杏寿郎さんも着いててくれるんじゃないの?」
「それはそうだが…………うぅむ……わかった!だが、隊士と鬼には近づかないことが条件だぞ!
ではお館様に至急取り次ぎ、許可をいただこう!要、あずま。頼めるだろうか!」
窓に止まる鎹烏達がコクコクと頷き返事する。うむ!と一つ頷き返し、でも杏寿郎さんは彼らを鋭く睨んだ。
「それと……君達はそうやっていつまで俺達のまぐわいを覗くつもりだ。朝緋が恥ずかしがる。早く行ってはくれまいか?」
その瞬間、慌てて飛んでった。言葉を話せる鴉達だし普通の動物に見られるより視線は気になる。でも彼らはその辺り口は堅いし、あずまはずっと共に過ごしてきた家族……というより女友達のような存在。なんならお互いの恋バナしちゃうくらいで。
だからあまり咎めなくてもいいのにな。
「杏寿郎さんたら。たしかにちょっぴり恥ずかしい気持ちはあるけど、もうお風呂から上がるし別に……、」
「何を言っているんだ?まだ続けるぞ」
「え゛っ!だって私達夜通ししてるよね?朝ご飯だってまだで……、」
さも当然のように言い、そのまますぅるりと杏寿郎さんの熱い手のひらが体をまさぐってきて、私を後ろを向かせ、手を浴槽につかせる。
また。また後ろから獣のように……?
口では嫌だと訴えようとも、その反応で私の体が真に望むものがなんなのか、杏寿郎さんには隠せない。
与えられるであろう刺激に期待し、歓喜に震える女の体が答えだ。
湯船の中の水が動く音と共に、ぺろりと舌舐めずりする音が背後から聞こえる。
「まだ満足していない。会議までもまだあると言ったろう?朝食をゆっくり食べる余裕すらある。
それに朝緋とて、まだ俺とできる体力も存分にあろう?俺の継子、だものなぁ?
だから今は……」
「ん、ぅ……、」
後ろからうなじへと強く吸い付かれ、ちくりと小さい痛みが来ると共に、走る快感。
「俺に集中してもらわねば」
口から自然と出てしまった呟き。
未来の浴室ほど反響しない。それでもここは浴室。五右衛門風呂ではなく、立派な檜風呂が備え付けられている。
そんな昔から炎柱邸があるというわけではないだろうけど、少なくとも鬼殺の合間の休憩などには槇寿朗さんも利用したはずで。
槇寿朗さんか、その前の炎柱が御館様に檜風呂にしてくれと進言したのだろうか?そこまでお風呂好きとは聞いたことないから、もしや柱邸の基本がこれだったりして。そうだったら柱羨ましい。
まあ、そのご相伴に預かれている私的にはどちらでもいい。大きな浴槽、しかも檜!気持ちいいもんね。
ただ、室内なため、呟いた声は相手に届いてしまうのが玉に瑕で。
常人より五感もある程度優れた柱だ。私のその呟きは杏寿郎さんの耳にしっかり届いていた。
「ねずこはおなごの名だな。だがたんじろうとは、男の名だろう。どこのどいつだ」
これからの柱合会議で議題にあがり、裁判にかけられるはずの二人。その際には必ず名前も柱達に知らされるはずで。
そうなったら、私が既に炭治郎と禰󠄀豆子ちゃんの名前を知っていることもバレてしまう。
でもなんだか、今の杏寿郎さんの聞き方だとただ嫉妬しているように聞こえる。
相変わらず、私に関わることについて狭量なようで。
「なあ、誰だ?」
私の事は全て知っていないと気が済まないのかもしれない。
拘束するかのように後ろから抱きしめてくる杏寿郎さんの喉から、グルルと獣の唸り声のような音が聞こえる。
獣のように交わったあとだからか、なおさらそう感じる。狼か虎に獲物として狙い定められた気分で。
呟きを聞かれた以上、言い逃れはできない。
「鬼を連れているという隊士の名前だよ。隊士の名が竈門炭治郎。連れている鬼の名が妹の竈門禰󠄀豆子で、ひゃわっ!?」
ガッ!
その瞬間、肩を掴まれ正面を向かされた。
嫉妬からくる鋭さではない。柱としての鋭い眼光で射抜かれる。
「ーーなぜ知っている?俺達はたった今、要とあずまからその情報を聞いたばかりのはずだ」
シンと静まり返る浴室内。要やあずまが窓に止まっているけど、杏寿郎さんの低い言葉の前に声は発せず。その他に聞こえたのはお互いの呼吸音、そして天井からぴちょんと落ちる水滴の音だけだった。
「…………、ごめんなさい、言えません。少なくとも、今は」
「言えないだと?
鬼だぞ?相手は鬼を連れているのだぞ?君が憎んでやまぬ鬼だ!何を庇う?何を隠す?」
肩を強く揺さぶられる。
「い、言えません……!」
だって、どうせ信じてはもらえない。
私が何度も過去からやり直していることなんて。そんな夢物語のような話、誰も信じない。杏寿郎さんでさえ、冗談だろうと笑い飛ばすに決まっている。
万が一信じてもらえたところで、他の話はどうやって説明するの?見つけられ次第問答無用で頸を狩られるかもしれないけれど、鬼である明槻の話はできたとしよう。
この世界がかつての私の世界で物語として紡がれたものと言える?作られたものだなんて、本人達に伝えられる?
……無理だ。
だってみんな、みんな生きているんだもの。私もそう。この世界で生きている。
私達にとってはこの世界こそ現実で。痛みも苦しみも悲しみも、残酷なほど偽りなどではなく真実で。
「鬼殺隊を。御館様や俺を裏切るようなことにはならないのだろうな」
「ありえません。絶対……絶対に」
探るような目。
言われたことについては、嘘偽りないと信じてもらえるように、その目をまっすぐ見つめ返して答える。
「はあ……ならいい。もしも裏切るのなら、いくら朝緋だとしても俺は斬首……、…………ああ無理だ……。朝緋を斬首するなど俺には無理だ……っ!」
正面から抱きつかれた。けれど、優しい抱擁などではなくて。内臓が飛び出しそうなほど。背骨が折れるほどに強く、ミシミシいうほど力を込められる。
口から空気が全部抜けた。
「んきゅっ……!痛い痛い痛い!骨が折れちゃう!」
バシバシ叩いて力を緩ませる。時間をたっぷり空けてから、ようやく解放してもらえて。……死ぬかと思った。
「だーかーらー!そんなことは!神様にも仏様にもお天道様にも、杏寿郎さんにも誓って、ありえないんだってば!!」
「なぬ!俺にも誓うのか!神や仏と同等の位置に俺を置くとは、君もよほど俺が好きと見える!君に対する俺の気持ちなら、君にも負けんぞ!!」
「勝ち負けじゃないと思う」
「……ただ、柱合会議で実際にその者達の名を聞かぬまでは、いくら朝緋の言葉だとしても信じ切ることはできん。すまない」
今度は探るようなものでなく、どこか不安げに揺れる瞳で見つめられた。
「だがよもや、朝緋には産屋敷家のような先見の力があるのか?そうでなくば、鬼を連れた隊士のことなど事前に知るなんてできないはず。
先見の力があるなどと御館様に知られれば、きっと君はここを出て産屋敷邸へと迎えられてしまう。御館様の元であろうと、俺は君を手放したくないのだ。
それくらいは教えてくれても良いだろう」
杏寿郎さんはそんなことが心配なのね。私が他に取られると。自分の元から去ってほしくないと。そう考えて不安になっていたのね。
絶対である御館様の命であろうと、聞けないほどに。
「そんな力は全くありません。それから……、」
今度は私からその体を抱きしめる。素肌同士でぴったりと触れ合うのは、毎回恥ずかしくてたまらない。けれど、自分の想いが杏寿郎さんにしっかりと伝わるように、伝わるようにと、願いながらスルリとその背に手を回す。
「杏寿郎さんから離れたりしないよ。言ったでしょ?離れられないんだって」
その体が一瞬ぴくりと一度震え、そして私の背に腕が回ってくる。今ここにいる私の存在を確かめるようにしばし抱きしめてから、杏寿郎さんは短い息を吐いた。
「そう、だったな。
……いやしかし、他の男の元に行くのかと。心移りしたのかと思ってヒヤリとしてしまったではないか」
「やだなあ、それこそ絶対ありえないよ?」
私が炭治郎の元に?千寿郎と同じ、弟のような炭治郎を相手に懸想するなんてありえない。
あ、でも杏寿郎さんと同じで、炭治郎の長男力は高いよね。年下相手に何甘えているの?と思うけど、つい兄のように甘えたくなる頼もしさも彼にはあったっけ。
……炭治郎……大丈夫かな。
「ところで杏寿郎さん、このあと柱合会議なのでしょう?」
「ああそうだ。始まるまでにかなり時間があるから、朝緋との時間ならまだ取れるぞ?」
耳をちゅくりと舐られ、食まれた。それだけでぞわりと肌がまた粟立ってきて、甘い吐息が漏れそうだった。
何でもない風に装い、快感を我慢して続ける。
「普通、一般の隊士は呼ばれぬ限り参加はできないですよね。だけど私も行きたいです。鬼を連れた隊士に会いたいです。
会議そのものには出ません。一般隊士には聞かせられない話もあるでしょうから、その際は聞こえないよう遠くにいますので……」
「なるほどな。君が望むのなら柱合会議自体は参加できるだろうと思う。朝緋の言う通り、聞かせられぬ話ならば席を外せばいいだけ。
しかしだな、朝緋がどこまで知っているのかは知らんが、相手は敵か味方かわからんような隊士が自ら連れ使役するような鬼だ。危険度がわからぬのに柱でもなく稀血である一般隊士の君をそんな隊士や鬼の前に連れて行くのは、」
「周りに柱が勢揃いしてるなら大丈夫なはず。それに、杏寿郎さんも着いててくれるんじゃないの?」
「それはそうだが…………うぅむ……わかった!だが、隊士と鬼には近づかないことが条件だぞ!
ではお館様に至急取り次ぎ、許可をいただこう!要、あずま。頼めるだろうか!」
窓に止まる鎹烏達がコクコクと頷き返事する。うむ!と一つ頷き返し、でも杏寿郎さんは彼らを鋭く睨んだ。
「それと……君達はそうやっていつまで俺達のまぐわいを覗くつもりだ。朝緋が恥ずかしがる。早く行ってはくれまいか?」
その瞬間、慌てて飛んでった。言葉を話せる鴉達だし普通の動物に見られるより視線は気になる。でも彼らはその辺り口は堅いし、あずまはずっと共に過ごしてきた家族……というより女友達のような存在。なんならお互いの恋バナしちゃうくらいで。
だからあまり咎めなくてもいいのにな。
「杏寿郎さんたら。たしかにちょっぴり恥ずかしい気持ちはあるけど、もうお風呂から上がるし別に……、」
「何を言っているんだ?まだ続けるぞ」
「え゛っ!だって私達夜通ししてるよね?朝ご飯だってまだで……、」
さも当然のように言い、そのまますぅるりと杏寿郎さんの熱い手のひらが体をまさぐってきて、私を後ろを向かせ、手を浴槽につかせる。
また。また後ろから獣のように……?
口では嫌だと訴えようとも、その反応で私の体が真に望むものがなんなのか、杏寿郎さんには隠せない。
与えられるであろう刺激に期待し、歓喜に震える女の体が答えだ。
湯船の中の水が動く音と共に、ぺろりと舌舐めずりする音が背後から聞こえる。
「まだ満足していない。会議までもまだあると言ったろう?朝食をゆっくり食べる余裕すらある。
それに朝緋とて、まだ俺とできる体力も存分にあろう?俺の継子、だものなぁ?
だから今は……」
「ん、ぅ……、」
後ろからうなじへと強く吸い付かれ、ちくりと小さい痛みが来ると共に、走る快感。
「俺に集中してもらわねば」