四周目 伍
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しかしこの風邪はしつこく長引いて、治るまでに相当の時間を要した。熱が下がったり上がったり。こんなこと初めてだ。
それは自分が何か不治の病にでも罹ったのかと、思ってしまうほどで。
町の医師だけでは心許ないのでしのぶにも診てもらったけど、結果はただのしつこい風邪。良かったと思う反面、しのぶに貰ってしまった風邪薬が苦すぎて後悔するほどだった。
「けほけほ、ぷぴー、」
風邪の余韻が続き、鼻がピスピスぷぴぷぴ音を立てる。咳もけほけほと止まらなくて常中が続かない。
おかげで隠密行動ができず、杏寿郎さんと共に追っていた鬼に気がつかれてしまった。
頸はとれたからいいものの、迷惑をかけてしまった。
任務後も、帰り道でも、炎柱邸について私の部屋に入ってからでも。杏寿郎さんは深いため息を何度もお吐きになった。
あーあ、早く治るように蜜璃じるしの蜂蜜を持ち歩いて舐めてるのになぁ。蜂蜜は喉に効くからね。しのぶの薬も……嫌だけど飲んでいるのに。
「すみません、まだ風邪が完全に治っていないようで。管理も、鍛錬も足りていませんでした」
「ああ……」
怒っているのか低い低いお返事。
うっ、謝罪のために下向いたけどめちゃくちゃ頭が痛いな。鼻血が出そうなくらいガンガンする。
「頭も痛むのだろう、早く顔をあげなさい」
「……怒っていないの、ですか?」
お言葉に甘えて顔を上げる。あ、頭上げたら結構楽になった〜。
「怒る?何故俺が怒るのだ?誰しも体調が悪い時くらいあるだろう。病の時くらい呼吸も任務もいいから最後まできちんと治してくれ。俺は不安と心配が過ぎてため息すらも止まらんよ」
ああそうか。杏寿郎は瑠火さんのこともあって、病に関してはトラウマを持っているのだものね。杏寿郎さんだけではない、槇寿朗さんも、千寿郎もだ。
槇寿朗さんと千寿郎にも風邪をひいて寝込んでいると、言葉を選びに選んで心痛めないよう考えてお知らせの手紙を出したばかりではないか。まあ、千寿郎の色変わりの儀のための日輪刀がなぜか炎柱邸に届いた話が手紙のメインだけど。
ぴとり、額に杏寿郎さんの手のひらが置かれる。いつも熱いそれが今日はぬるく感じた。
「やはり熱もまたぶり返している!
そんなでは隊士として役にも立たんだろう、任務は禁止!朝緋は非番だ!御館様に言ってそうしてもらおう!俺もそうする!」
「え、柱が非番とるって、結構難しくない?」
柱は大抵出突っ張り。いつ休んでるの?というくらい多忙で。そんな簡単に休めるものではない。
「俺の事は気にするな!いいから寝ろ!!」
あ、またわがまま言う気だ。あとでたくさんの任務言い渡されてでも私のために休みをもぎ取る気だ。
「とりあえずは額を冷やさねば。冷えた手拭いを持ってくる。水差しもな。
朝緋は寝巻きに着替えておきなさい」
「はぁい」
私が着替え終える頃、ひえひえの手拭いと水分を持ってきてくれた。
その後も色々と看病してくださって、甲斐甲斐しいなぁありがたいなぁと思う反面、柱にこんなことさせて申し訳ない思いでいっぱいだった。
でもそんなこと言おうものなら、俺は柱である前に君の恋人だと言われそう。お口チャック。
「んぅ……おはようございます」
朝起きた時にも、杏寿郎さんは枕元にいた。
ちょっと寝坊したのかも?いつもなら私の方が早く起きるものね。
「調子はどうだ?」
「んー、まだ風邪は治ってない。駄目かも。喉がいがらっぽいし、頭も痛いや」
「昨日の今日ではな。これ以上ぶり返すと体力的にもつらかろう。
朝餉代わりに芋を買ってきた」
何やらいい匂いがしてくるとは思っていた。
後ろから取り出されたのは、みなさんご存知の杏寿郎さんの好物、さつまいもだった。
「芋なんだね」
「ああ、芋だ。通りで売っていたから買ってみた。朝緋が焼いたものには劣るが美味い。
これを食べて薬を飲んでまた休め」
風邪の人に焼き芋かぁ……お粥やら何やら作れないからしょうがないけど、杏寿郎さんらしいや。あ、おいしい。
「そこまで風邪ひどくないし鍛錬したいなぁ。せっかくの非番、体動かさないのは勿体無いね。
杏寿郎さんだけでも鍛錬したらどう?そしたら見取り稽古する」
「だが君も体を動かしたいのだろう」
「そりゃまあ」
私は鍛錬を怠るとすぐに弱くなっていく。筋力もすぐに衰える。だから常に高みを目指して自身を鍛えなくてはいけないのだ。
怠れば最大の強みである速さも遅くなる。
「そういえば、人に移すと治りが早いそうだぞ。朝緋の残りの風邪を全部俺にくれないか?」
様子を伺うようにじっと見つめながらそう言われた。冗談なのか本気なのか、よくわからない目だ。
「えっ?……やだなぁ、柱に移すわけにいかないよ」
「俺の中で風邪の菌とやらの頸を悪鬼滅殺してしまえばよかろう」
「んー。確かにお風邪もらっても発症しないで終わりそうだけどさ、でも鬼の頸に例えるのやめない?」
「わかりやすく笑える冗談だと思ったのだがな……」
杏寿郎さんがしょもーんと落ち込んでいる。
鬼殺隊ギャグだったのか。杏寿郎さんもそういうこと言うんだ……ううん、思い返すと意外と冗談を言う人だった気がする。
あっ、じゃあさっきのも冗談か!
けれどそれは違った。
「だが移されたいのは本当のことだ」
一気に距離を縮められ、唇を重ねられた。
衝撃で布団の上に倒れ込む私。上からのしかかる杏寿郎さん。
噛み付くような性急なキスを前に、呼吸が止まる。鼻もちょっと詰まってるから苦しいのに……!
「やっ、ん……私、風邪ひいてるから無理できない……ちゅー、しないで……っ」
「無理するところなど皆無だろう。朝緋はただ布団に横になったまま俺の口づけを、愛を受け入れていればいいのだから」
「違う!息が……っ、はぅ、息ができなくなって気を遣っちゃうの!」
「そのまま眠れていいではないか。
ほら、辛そうだから布団に早く入れ」
抱き起こした私を布団の中に寝かせてきた。そのまま杏寿郎さんも一緒に入ってくる。
「風邪が悪化するといけないから、俺が温めてあげよう」
「ううん……まあ、添い寝なら嬉し……ぎゃっ!なんで布団に入りながら脱ぐの!?」
でもあろうことか、布団の中に侵入しながら杏寿郎さんはその衣服を脱ぎ出した。
目の前にいきなり素敵な胸板が現れて、恥ずかしくて顔を逸らす。
「全部は脱いでいない!上だけだ!
素肌で温め合う方がより熱を移せると聞いた!さあ、何もしないから朝緋も脱ごうか!!」
「!?」
私にまで服を脱ぐことを強要してきた!!何もしないっていうのも絶対嘘だよね!?前言撤回するんでしょ知ってる!!
「それはさすがに駄目!アウト!!」
「合う戸?そこの障子戸なら、きちんと閉まっているぞ?誰も君の裸を覗いたりはしない!まっ!俺は見るがな!!」
「見るんかいっ!わっ!?わぁーー!!着物を脱がさないでよやめてー!!」
抵抗むなしく私の寝巻きは杏寿郎さんと同じ、上半身を脱がされてサラシを纏うだけの状態にされた。
ごめん裸じゃないんだ。そんな悲しそうな顔しないで……?
でも巻きっぱなしにしといてよかったー!いつもなら苦しいからと外しちゃうのに、苦しさよりめんどくささが勝ってそのままだったのよね。面倒くさがった私、グッジョブ!
「こら、大声を出すともっと喉を痛めるぞ?ああ確かこういう時、朝緋は蜂蜜を舐めていたな。……うむ、この瓶か」
今度は違う御乱行に走られた。枕元に置いておいたのが仇となったか、蜂蜜瓶を手に取り……。
「がぼ!?」
とろりと掬いとった蜂蜜を、口の中に指ごと突っ込まれた。
「たっぷり付けたからな。よく舐めとるといい」
「ン、んむ、んんぅ……!」
甘い。怖い。つらい。おいしい。苦しい。気持ちいい。息ができない。やめてほしい。でもやめないでほしい。
口の端からよだれが垂れる。恥ずかしいよぉ……。涙目になりながら、いやいやと杏寿郎さんの体を押す。
それが逆に火に油を注いだ。
いつだって燃え盛る、私への情欲の炎がさらに熱く燃え上がる。
「んんっ!変な気分になってくるな……その朝緋の表情、ゾクゾクする。たまらない……っ!」
獲物を目の前にして瞳孔を見開く男がそこにいた。
それは自分が何か不治の病にでも罹ったのかと、思ってしまうほどで。
町の医師だけでは心許ないのでしのぶにも診てもらったけど、結果はただのしつこい風邪。良かったと思う反面、しのぶに貰ってしまった風邪薬が苦すぎて後悔するほどだった。
「けほけほ、ぷぴー、」
風邪の余韻が続き、鼻がピスピスぷぴぷぴ音を立てる。咳もけほけほと止まらなくて常中が続かない。
おかげで隠密行動ができず、杏寿郎さんと共に追っていた鬼に気がつかれてしまった。
頸はとれたからいいものの、迷惑をかけてしまった。
任務後も、帰り道でも、炎柱邸について私の部屋に入ってからでも。杏寿郎さんは深いため息を何度もお吐きになった。
あーあ、早く治るように蜜璃じるしの蜂蜜を持ち歩いて舐めてるのになぁ。蜂蜜は喉に効くからね。しのぶの薬も……嫌だけど飲んでいるのに。
「すみません、まだ風邪が完全に治っていないようで。管理も、鍛錬も足りていませんでした」
「ああ……」
怒っているのか低い低いお返事。
うっ、謝罪のために下向いたけどめちゃくちゃ頭が痛いな。鼻血が出そうなくらいガンガンする。
「頭も痛むのだろう、早く顔をあげなさい」
「……怒っていないの、ですか?」
お言葉に甘えて顔を上げる。あ、頭上げたら結構楽になった〜。
「怒る?何故俺が怒るのだ?誰しも体調が悪い時くらいあるだろう。病の時くらい呼吸も任務もいいから最後まできちんと治してくれ。俺は不安と心配が過ぎてため息すらも止まらんよ」
ああそうか。杏寿郎は瑠火さんのこともあって、病に関してはトラウマを持っているのだものね。杏寿郎さんだけではない、槇寿朗さんも、千寿郎もだ。
槇寿朗さんと千寿郎にも風邪をひいて寝込んでいると、言葉を選びに選んで心痛めないよう考えてお知らせの手紙を出したばかりではないか。まあ、千寿郎の色変わりの儀のための日輪刀がなぜか炎柱邸に届いた話が手紙のメインだけど。
ぴとり、額に杏寿郎さんの手のひらが置かれる。いつも熱いそれが今日はぬるく感じた。
「やはり熱もまたぶり返している!
そんなでは隊士として役にも立たんだろう、任務は禁止!朝緋は非番だ!御館様に言ってそうしてもらおう!俺もそうする!」
「え、柱が非番とるって、結構難しくない?」
柱は大抵出突っ張り。いつ休んでるの?というくらい多忙で。そんな簡単に休めるものではない。
「俺の事は気にするな!いいから寝ろ!!」
あ、またわがまま言う気だ。あとでたくさんの任務言い渡されてでも私のために休みをもぎ取る気だ。
「とりあえずは額を冷やさねば。冷えた手拭いを持ってくる。水差しもな。
朝緋は寝巻きに着替えておきなさい」
「はぁい」
私が着替え終える頃、ひえひえの手拭いと水分を持ってきてくれた。
その後も色々と看病してくださって、甲斐甲斐しいなぁありがたいなぁと思う反面、柱にこんなことさせて申し訳ない思いでいっぱいだった。
でもそんなこと言おうものなら、俺は柱である前に君の恋人だと言われそう。お口チャック。
「んぅ……おはようございます」
朝起きた時にも、杏寿郎さんは枕元にいた。
ちょっと寝坊したのかも?いつもなら私の方が早く起きるものね。
「調子はどうだ?」
「んー、まだ風邪は治ってない。駄目かも。喉がいがらっぽいし、頭も痛いや」
「昨日の今日ではな。これ以上ぶり返すと体力的にもつらかろう。
朝餉代わりに芋を買ってきた」
何やらいい匂いがしてくるとは思っていた。
後ろから取り出されたのは、みなさんご存知の杏寿郎さんの好物、さつまいもだった。
「芋なんだね」
「ああ、芋だ。通りで売っていたから買ってみた。朝緋が焼いたものには劣るが美味い。
これを食べて薬を飲んでまた休め」
風邪の人に焼き芋かぁ……お粥やら何やら作れないからしょうがないけど、杏寿郎さんらしいや。あ、おいしい。
「そこまで風邪ひどくないし鍛錬したいなぁ。せっかくの非番、体動かさないのは勿体無いね。
杏寿郎さんだけでも鍛錬したらどう?そしたら見取り稽古する」
「だが君も体を動かしたいのだろう」
「そりゃまあ」
私は鍛錬を怠るとすぐに弱くなっていく。筋力もすぐに衰える。だから常に高みを目指して自身を鍛えなくてはいけないのだ。
怠れば最大の強みである速さも遅くなる。
「そういえば、人に移すと治りが早いそうだぞ。朝緋の残りの風邪を全部俺にくれないか?」
様子を伺うようにじっと見つめながらそう言われた。冗談なのか本気なのか、よくわからない目だ。
「えっ?……やだなぁ、柱に移すわけにいかないよ」
「俺の中で風邪の菌とやらの頸を悪鬼滅殺してしまえばよかろう」
「んー。確かにお風邪もらっても発症しないで終わりそうだけどさ、でも鬼の頸に例えるのやめない?」
「わかりやすく笑える冗談だと思ったのだがな……」
杏寿郎さんがしょもーんと落ち込んでいる。
鬼殺隊ギャグだったのか。杏寿郎さんもそういうこと言うんだ……ううん、思い返すと意外と冗談を言う人だった気がする。
あっ、じゃあさっきのも冗談か!
けれどそれは違った。
「だが移されたいのは本当のことだ」
一気に距離を縮められ、唇を重ねられた。
衝撃で布団の上に倒れ込む私。上からのしかかる杏寿郎さん。
噛み付くような性急なキスを前に、呼吸が止まる。鼻もちょっと詰まってるから苦しいのに……!
「やっ、ん……私、風邪ひいてるから無理できない……ちゅー、しないで……っ」
「無理するところなど皆無だろう。朝緋はただ布団に横になったまま俺の口づけを、愛を受け入れていればいいのだから」
「違う!息が……っ、はぅ、息ができなくなって気を遣っちゃうの!」
「そのまま眠れていいではないか。
ほら、辛そうだから布団に早く入れ」
抱き起こした私を布団の中に寝かせてきた。そのまま杏寿郎さんも一緒に入ってくる。
「風邪が悪化するといけないから、俺が温めてあげよう」
「ううん……まあ、添い寝なら嬉し……ぎゃっ!なんで布団に入りながら脱ぐの!?」
でもあろうことか、布団の中に侵入しながら杏寿郎さんはその衣服を脱ぎ出した。
目の前にいきなり素敵な胸板が現れて、恥ずかしくて顔を逸らす。
「全部は脱いでいない!上だけだ!
素肌で温め合う方がより熱を移せると聞いた!さあ、何もしないから朝緋も脱ごうか!!」
「!?」
私にまで服を脱ぐことを強要してきた!!何もしないっていうのも絶対嘘だよね!?前言撤回するんでしょ知ってる!!
「それはさすがに駄目!アウト!!」
「合う戸?そこの障子戸なら、きちんと閉まっているぞ?誰も君の裸を覗いたりはしない!まっ!俺は見るがな!!」
「見るんかいっ!わっ!?わぁーー!!着物を脱がさないでよやめてー!!」
抵抗むなしく私の寝巻きは杏寿郎さんと同じ、上半身を脱がされてサラシを纏うだけの状態にされた。
ごめん裸じゃないんだ。そんな悲しそうな顔しないで……?
でも巻きっぱなしにしといてよかったー!いつもなら苦しいからと外しちゃうのに、苦しさよりめんどくささが勝ってそのままだったのよね。面倒くさがった私、グッジョブ!
「こら、大声を出すともっと喉を痛めるぞ?ああ確かこういう時、朝緋は蜂蜜を舐めていたな。……うむ、この瓶か」
今度は違う御乱行に走られた。枕元に置いておいたのが仇となったか、蜂蜜瓶を手に取り……。
「がぼ!?」
とろりと掬いとった蜂蜜を、口の中に指ごと突っ込まれた。
「たっぷり付けたからな。よく舐めとるといい」
「ン、んむ、んんぅ……!」
甘い。怖い。つらい。おいしい。苦しい。気持ちいい。息ができない。やめてほしい。でもやめないでほしい。
口の端からよだれが垂れる。恥ずかしいよぉ……。涙目になりながら、いやいやと杏寿郎さんの体を押す。
それが逆に火に油を注いだ。
いつだって燃え盛る、私への情欲の炎がさらに熱く燃え上がる。
「んんっ!変な気分になってくるな……その朝緋の表情、ゾクゾクする。たまらない……っ!」
獲物を目の前にして瞳孔を見開く男がそこにいた。