四周目 伍
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暗くなる視界から一転。気がついたら地上で。
「ん、んむ〜〜〜っ!?」
杏寿郎さんから口づけを受けている最中だった。顔が!いい!!って、そこじゃない。
バチン!反射的に平手打ちを打ちかました。
「人のこと押し倒して勝手に何してるんですか!?」
「何って、呼吸が止まっていたから空気を移していたに決まっておろう!押し倒してはいない!!寝かせていただけだ!!
叩くとは酷いな君は!?」
「……え、ぁ、……そ、そっかあ……ごめんなさい」
私を水中から引っ張り上げてくれた上に、人工呼吸をしてくれたということか。それにしてはネチネチしつこい口づけに感じたけれどそれは私の勘違いに違いない。うん。
張ってしまった頬を労わるように優しくすりすり撫でる。大して痛くないからいい、そう言いながらも杏寿郎さんは大人しく私の手のひらに甘えていた。
「それより無事に鬼を仕留めたようで何よりだな!お疲れ様だ」
「ええなんとか。ありがとうございま、」
そこで気がついた。改めてまじまじと見つめた杏寿郎さんは、全身ずぶ濡れだ。私よりは濡れていないといっても、いつもピンと立っているおぐしもぐっしょり額に下がっていた。髪をおろした杏寿郎さんかっこよすぎる……いや、そうじゃなくて。
「師範も体濡れてる!風邪ひくよ!?」
「そりゃあ、君を引っ張り上げるなら水中に行かねばならんからな。俺が濡れたのは一瞬だから大丈夫だ!君こそ長い時間水に浸かっていただろう。体が酷く震えているぞ!」
そう言って私をご自分の大切な羽織で包んでくる。
「濡れてはいるが、炎柱の羽織は君のものより分厚い。しばらく包まっていなさい」
『前』もこうしてもらったっけなぁ。包まれていろ、というより正面から抱きしめられて杏寿郎さんしか見えない。
お断りしようとも多分、やんわりと拒否されるだろう。なら、大人しく受け入れてしまった方が角も立たない。
でもお姫様抱っこするのは違うと思う。
「ありが、えっ歩けるから別に抱えなくても……へくちっ!!……ずび。せめておんぶでよくない?」
「却下だ!」
「言っておくけどおんぶにしても背中に鼻水はつけないよ?」
「違う!顔が見たい!俺は朝緋の顔をずっと見ていたいだけだ!」
抱き上げられたまま至近距離で言われ、言葉通りにじっと見つめられる。熱視線で火傷しそう。
「……ねえ杏寿郎さん、貴方私のこと好きすぎない?」
くすくす笑って聞いてみれば。
「ああ、好きだとも。愛しているからな。君もだろう?」
うっそりと目を細めてそう言われた。
「……そうですね」
真っ直ぐに愛を伝えられて、逆に自分が恥ずかしくなった。
藤の家でしばし休憩してから帰ったんだけど、炎柱邸に戻って次の日に熱が出た。
あーあ、やっぱり風邪ひいた。
安心したからかな……。藤の家紋の家とはいえ、人様のおうちって緊張するもんね。
今日は杏寿郎さん、一人で任務行っちゃったし自分で乗り切るしかない。
杏寿郎さんが任務に行ってから熱が出たので、彼は私がこういう状況だとは知らない。知っていたら任務放棄していたかも。それほどまでに愛が深くて重い、杏寿郎さん。
愛が深いのも重いのも構わないよ?でも任務放棄とかそれどこの槇寿朗さん?そんなの私が許しません。
ただちょっと寂しい。
病気になると人恋しくなってしまう。
そして体調が悪い時は悪夢を見ることが多い。
その日熱に浮かされながら見たのは、『初めて』の時の無限列車任務の夢だった。
舞う土埃。貫かれる体。おびただしい量の血液。
最期の言葉と抱擁。冷たくなっていく貴方の体。
枯れるほど流し続けた涙。
何で今更こんな悪夢を見せるの?私は『これ以来』何度も悪夢の中に身を投じてきたのに、また最初の記憶を見せるの?
『二度目』は気がつけば貴方は亡くなっていてその死に目にも会えなかった。
『三度目』は私が死んで。後を追って貴方も死んだ。
なのに私に何度もそれを追体験させるのはどうして?私にとって、『一度目』ほどトラウマなものはないのよ?
そう思うのに、夢の中ではそれが現実で。夢の中を奔走する私はいつでも必死で。
「いやああああああ!!」
脳裏に鮮やかに焼き付いた貴方の血の色を最後に、私は叫びながら起きた。
「朝緋!朝緋、大丈夫か!?」
はあはあと息を切らしながら見た隣には、貴方が。杏寿郎さんがいた。
その服が、胸が、血に濡れている。
「きょ、じゅろさ、あ゛あああああっ!やだ、嫌だ!死なないで!やだぁ!!」
その時の私は夢と現実の区別がついていなくて。杏寿郎さんの姿をこの地にとどめるように。天に連れていかれないようにと思い切りしがみついてしまった。
「朝緋!?落ち着け!この血ならば鬼の返り血だ!!俺は怪我をしていない!死んでいない!!」
「うそ!だって杏寿郎さん、私の目の前で血だらけで冷たくなって……!」
「それは夢だ!俺が帰った時、君は熱を出してうなされていた。ほら、安静にしていなくては!」
しがみつく腕をやんわり離され、じっと目を見つめられた。
「ぇ、あ……ゆ、夢……?」
「そうだ、夢だ」
曖昧な夢と現実。混乱する視界のピントをゆっくりと合わせる。
外じゃない、天井の見える室内。杏寿郎さんの鬼殺後の爽やかな汗の匂いはするけれど独特の土埃の匂いがしない。血はついていても傷がない。怪我をしていない元気な杏寿郎さんの姿。
すうっ、呼吸を整える。
落ち着け。落ち着け私。状況を整理しろ。
そうだ、思い出した。私は風邪をひいて寝込んでいて。多分任務から帰った杏寿郎さんがうなされる私を揺り動かして起こしてくれたのだ。
「……ごめんなさい。取り乱しました」
「いやいい、相当に怖い夢をみたのだろう?
俺も小さかった頃、風邪をひいた時に悪夢を見たっけなぁ」
「杏寿郎さんも風邪ひいたことあるんだね」
「当たり前だろう!君は人を何だと思ってるんだ!?」
幼な子をあやす様に気持ちよく撫でてくれていたけど、心外だったかその動きがぴたりと止まる。
「あー……正直に言うと人間やめてる人間だと思ってる。柱ってみんなそうじゃない?」
無言で睨まれた。あ、まずい、失言すぎた。
夢でよかった。そう思うものの、無限列車のことは私の中に『また』影を落とし始めた。
例えこの先幾度となく繰り返したとしても。あの無限列車の任務だけは私達に回ってくるのだ。逃げても無駄。誰かにそう言われているかのようで。
ただあの下弦の壱……名前は知らないけど、あの鬼さえ先に仕留められれば任務自体はなくなる。上弦の参とまみえることもなくなる。
そう考えては駄目なのだろうか。
まだ先かもしれない。でも探したい。探せるかなあ……?すでに下弦の壱なのかなぁ。
その内壱に上がる鬼だとしても、今現在からそこそこの強さだとは思う。一般の鬼ではないだろう。
鬼殺隊と同じく階級制度のようなものが鬼側にも存在するなら、今は下弦の参か肆くらいにはなっているのではないだろうか?
鬼は自身の場所にこだわる。列車に細工し、融合するような鬼なら、列車自体に固執しているはずで。人だった時にも列車に愛着があった、そんな男のはずで。
……あの沿線上を張るしかない。
非番の時はこまめに見て回ろう。杏寿郎さんの担当する地区でもあるから、つまり継子である私の担当地区でもあることだし。
でも今はまず風邪を治そうね私。
「ん、んむ〜〜〜っ!?」
杏寿郎さんから口づけを受けている最中だった。顔が!いい!!って、そこじゃない。
バチン!反射的に平手打ちを打ちかました。
「人のこと押し倒して勝手に何してるんですか!?」
「何って、呼吸が止まっていたから空気を移していたに決まっておろう!押し倒してはいない!!寝かせていただけだ!!
叩くとは酷いな君は!?」
「……え、ぁ、……そ、そっかあ……ごめんなさい」
私を水中から引っ張り上げてくれた上に、人工呼吸をしてくれたということか。それにしてはネチネチしつこい口づけに感じたけれどそれは私の勘違いに違いない。うん。
張ってしまった頬を労わるように優しくすりすり撫でる。大して痛くないからいい、そう言いながらも杏寿郎さんは大人しく私の手のひらに甘えていた。
「それより無事に鬼を仕留めたようで何よりだな!お疲れ様だ」
「ええなんとか。ありがとうございま、」
そこで気がついた。改めてまじまじと見つめた杏寿郎さんは、全身ずぶ濡れだ。私よりは濡れていないといっても、いつもピンと立っているおぐしもぐっしょり額に下がっていた。髪をおろした杏寿郎さんかっこよすぎる……いや、そうじゃなくて。
「師範も体濡れてる!風邪ひくよ!?」
「そりゃあ、君を引っ張り上げるなら水中に行かねばならんからな。俺が濡れたのは一瞬だから大丈夫だ!君こそ長い時間水に浸かっていただろう。体が酷く震えているぞ!」
そう言って私をご自分の大切な羽織で包んでくる。
「濡れてはいるが、炎柱の羽織は君のものより分厚い。しばらく包まっていなさい」
『前』もこうしてもらったっけなぁ。包まれていろ、というより正面から抱きしめられて杏寿郎さんしか見えない。
お断りしようとも多分、やんわりと拒否されるだろう。なら、大人しく受け入れてしまった方が角も立たない。
でもお姫様抱っこするのは違うと思う。
「ありが、えっ歩けるから別に抱えなくても……へくちっ!!……ずび。せめておんぶでよくない?」
「却下だ!」
「言っておくけどおんぶにしても背中に鼻水はつけないよ?」
「違う!顔が見たい!俺は朝緋の顔をずっと見ていたいだけだ!」
抱き上げられたまま至近距離で言われ、言葉通りにじっと見つめられる。熱視線で火傷しそう。
「……ねえ杏寿郎さん、貴方私のこと好きすぎない?」
くすくす笑って聞いてみれば。
「ああ、好きだとも。愛しているからな。君もだろう?」
うっそりと目を細めてそう言われた。
「……そうですね」
真っ直ぐに愛を伝えられて、逆に自分が恥ずかしくなった。
藤の家でしばし休憩してから帰ったんだけど、炎柱邸に戻って次の日に熱が出た。
あーあ、やっぱり風邪ひいた。
安心したからかな……。藤の家紋の家とはいえ、人様のおうちって緊張するもんね。
今日は杏寿郎さん、一人で任務行っちゃったし自分で乗り切るしかない。
杏寿郎さんが任務に行ってから熱が出たので、彼は私がこういう状況だとは知らない。知っていたら任務放棄していたかも。それほどまでに愛が深くて重い、杏寿郎さん。
愛が深いのも重いのも構わないよ?でも任務放棄とかそれどこの槇寿朗さん?そんなの私が許しません。
ただちょっと寂しい。
病気になると人恋しくなってしまう。
そして体調が悪い時は悪夢を見ることが多い。
その日熱に浮かされながら見たのは、『初めて』の時の無限列車任務の夢だった。
舞う土埃。貫かれる体。おびただしい量の血液。
最期の言葉と抱擁。冷たくなっていく貴方の体。
枯れるほど流し続けた涙。
何で今更こんな悪夢を見せるの?私は『これ以来』何度も悪夢の中に身を投じてきたのに、また最初の記憶を見せるの?
『二度目』は気がつけば貴方は亡くなっていてその死に目にも会えなかった。
『三度目』は私が死んで。後を追って貴方も死んだ。
なのに私に何度もそれを追体験させるのはどうして?私にとって、『一度目』ほどトラウマなものはないのよ?
そう思うのに、夢の中ではそれが現実で。夢の中を奔走する私はいつでも必死で。
「いやああああああ!!」
脳裏に鮮やかに焼き付いた貴方の血の色を最後に、私は叫びながら起きた。
「朝緋!朝緋、大丈夫か!?」
はあはあと息を切らしながら見た隣には、貴方が。杏寿郎さんがいた。
その服が、胸が、血に濡れている。
「きょ、じゅろさ、あ゛あああああっ!やだ、嫌だ!死なないで!やだぁ!!」
その時の私は夢と現実の区別がついていなくて。杏寿郎さんの姿をこの地にとどめるように。天に連れていかれないようにと思い切りしがみついてしまった。
「朝緋!?落ち着け!この血ならば鬼の返り血だ!!俺は怪我をしていない!死んでいない!!」
「うそ!だって杏寿郎さん、私の目の前で血だらけで冷たくなって……!」
「それは夢だ!俺が帰った時、君は熱を出してうなされていた。ほら、安静にしていなくては!」
しがみつく腕をやんわり離され、じっと目を見つめられた。
「ぇ、あ……ゆ、夢……?」
「そうだ、夢だ」
曖昧な夢と現実。混乱する視界のピントをゆっくりと合わせる。
外じゃない、天井の見える室内。杏寿郎さんの鬼殺後の爽やかな汗の匂いはするけれど独特の土埃の匂いがしない。血はついていても傷がない。怪我をしていない元気な杏寿郎さんの姿。
すうっ、呼吸を整える。
落ち着け。落ち着け私。状況を整理しろ。
そうだ、思い出した。私は風邪をひいて寝込んでいて。多分任務から帰った杏寿郎さんがうなされる私を揺り動かして起こしてくれたのだ。
「……ごめんなさい。取り乱しました」
「いやいい、相当に怖い夢をみたのだろう?
俺も小さかった頃、風邪をひいた時に悪夢を見たっけなぁ」
「杏寿郎さんも風邪ひいたことあるんだね」
「当たり前だろう!君は人を何だと思ってるんだ!?」
幼な子をあやす様に気持ちよく撫でてくれていたけど、心外だったかその動きがぴたりと止まる。
「あー……正直に言うと人間やめてる人間だと思ってる。柱ってみんなそうじゃない?」
無言で睨まれた。あ、まずい、失言すぎた。
夢でよかった。そう思うものの、無限列車のことは私の中に『また』影を落とし始めた。
例えこの先幾度となく繰り返したとしても。あの無限列車の任務だけは私達に回ってくるのだ。逃げても無駄。誰かにそう言われているかのようで。
ただあの下弦の壱……名前は知らないけど、あの鬼さえ先に仕留められれば任務自体はなくなる。上弦の参とまみえることもなくなる。
そう考えては駄目なのだろうか。
まだ先かもしれない。でも探したい。探せるかなあ……?すでに下弦の壱なのかなぁ。
その内壱に上がる鬼だとしても、今現在からそこそこの強さだとは思う。一般の鬼ではないだろう。
鬼殺隊と同じく階級制度のようなものが鬼側にも存在するなら、今は下弦の参か肆くらいにはなっているのではないだろうか?
鬼は自身の場所にこだわる。列車に細工し、融合するような鬼なら、列車自体に固執しているはずで。人だった時にも列車に愛着があった、そんな男のはずで。
……あの沿線上を張るしかない。
非番の時はこまめに見て回ろう。杏寿郎さんの担当する地区でもあるから、つまり継子である私の担当地区でもあることだし。
でも今はまず風邪を治そうね私。