四周目 伍
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ヒュオオオオオオ……季節は寒風吹き荒ぶ冬。
「寒いね」
「寒いな」
なんなら粉雪の吹雪がぴゅうぴゅう肌に吹き付いてきて、凍りそうなくらい。
呼吸で体温を上げると言ったって、限度もある。ムートンのもこもこ手袋なんて存在しないから素手でいなくてはならなくて。
いや、あったところで刀を握る手では手袋は使えない。
手を擦り合わせ、ハーっ、と息を吹きかける。全然意味がないなぁ。
「こうすると少しは温かいのではないだろうか?」
すると後ろから覆いかぶさられ、炎柱の羽織ごと体を包みこまれた。温かい杏寿郎さんという炎の熱が、じんわりと体に移り込んでくる。わあ、ぬくいぬくい。
と思ったら懐炉はそれだけじゃなくて。ほっぺたを食まれ、そのまま移動してきた唇が私のそれに重なる。
すぐに侵入を果たす舌先。最近手が早いよ杏寿郎さん。手じゃなくて口?そっかぁ。
「んっ、師範たら……任務中ですよ」
「構いやしないだろう。烏達はこの寒さで任務が無事終わるまでは藤の家だ。見ているものなどいない。
それに、こうした方がもっともっと温かい」
くちゅ、ぴちゃ。歯列をなぞり。吸われて絡まって。吐息を甘く変えられて。
息が上がりそう。
「柱なんだから公私混同しちゃ駄目です……、ん、ふ……まだ鬼も斬れてないのに」
「柱としてしっかり鬼は探している。が、柱である前に君の前では俺はただの男……こうして、ン、美味しそうな唇が寂しそうに、寒そうにわなないているのを……、はぁ、見過ごせるわけなかろう?」
「んっ、〜〜ーーっぁ、ン、」
激しい口吸いを前に、また気を遣りそうで。今は任務中だと自分に言い聞かせて必死に耐える。
「それにほら、口づけする毎にどんどんと温かくなっていく。俺の熱が朝緋に移っていくのがわかる。それがこんなにも嬉しいとはなぁ」
やっと唇が、舌先が解放される。
最後にじゅる、と吸い付かれて離れていく杏寿郎さんと私の間にツツツ、と伝う唾液の糸。息も絶え絶えな私の頬を愛おしげに撫で摩りーー。
ーーぱしゃ、ぴちゃん。
「「!?」」
バッ!!二人同時に音がした方へ振り向いた。
「不自然な水の音がしたね」
「ああ、したな。……川の中か?」
緩やかな流れの川。薄く凍ったその下を覗くと、何かいるのがわかる。魚?いいや違う。たぶん私達が探している鬼だ。
『前』にも私が退治した、人魚のような姿のその鬼。
今回は稀血を利用しないので誘い込まれることはなく。ただ、水の中を泳いでいることだけがわかる。
杏寿郎さんはまだ相手が鬼だと気がついていない。毎回、風邪をひいてしまう任務ではあるけれど、私が風邪をひく方が柱である杏寿郎さんが風邪を召されるよりマシ。
「行きます」
キスで途切れていた呼吸を整え、日輪刀を抜いて凍る川の中へと飛び込む。
「……は?朝緋ちょっと待……!?」
ごめんね。
杏寿郎さんが止めるが気にしない。私の体はもう止まらない。
パリンッーードボンッッ!
「っ!」
体の外も中も凍りつきそうなほど冷たかった。『以前』に経験したことを思い出せてよかった。この冷たさを知っているのといないのとでは身構え方が全然違う。
少しでも炎の呼吸で温めようと肺の中の空気に力を入れ、日輪刀を強く握る。
果たして、そこにはスイスイと泳ぎ続ける人魚姿の鬼がいた。
「あらあら、誰が落ちたのかと見にきてみれば、鬼狩りのお嬢ちゃんなのね?その刀は怖いけれどでもここは水の中。私の独壇場。
いくら鬼狩りだとしても貴女はただの獲物!」
獲物たる私を前にして、気持ちの悪い人面魚に形相を変える鬼。ああ、ほんと綺麗な顔が勿体無いなぁ。
手を上げて水掻きの目立つ手のひらから、水流を放つ。私が落ちてきた場所が再び氷で覆われ、修復された。……なるほど、こうやって獲物を水中に閉じ込めていたわけか。
杏寿郎さんが氷を割ろうとしている。
けれどそれを下からサムズアップして止める。この鬼は私が仕留めるから見ていてくれ、と。
前は杏寿郎さんと協力して頸を刎ねたけど、今回は一人で。私の強さがどれほどなのか知りたい。
それには一人で挑まねば。かつて苦心した鬼の頸を一人で刎ねねば。
危険?そんなこと知っている。鬼殺にはいつだって危険は伴うから今更だ。
柱の力を借りずとも、やり切ってみせる。
「ふふふ、女の肉は美味しいのよね……逃さないわよ」
長い舌先を伸ばして舌舐めずりした鬼が、水を掻く。巻き起こる水流が鋭い牙を持つ小型魚に変わった。えっ……ピラニアか何か?
これは『前』には使ってこなかった技だ。へぇ、こんな血鬼術を隠し持っていたのか。
「ごぼぼっ!(炎の呼吸、伍ノ型・炎虎改、乱咬み!)」
けれどこんなの大した技じゃない。杏寿郎さんが猗窩座の空式とやらを相殺した時のように、私の小虎達が魚を一匹残らず咬み殺す。
……そういえば猗窩座の空式、あれは私が受けるとしたならどうすればいいだろう。
私があの位置に立ったならどう対処するのが正解?駄目だ、全て避ける以外に思いつかない。
今目の前にいる鬼とは違う。あいつは上弦の鬼という、強者なのだから。
ただ、ここでは素早く動けない。悔しいけど人魚のようなこの鬼の言ったとおり、水の中では水かきやヒレのついた体でもない限り速さは相手に分がある。
でも私は落ち着いていた。近づいてくるのを待つのみで。
下手に動くと冷たい水で体力も体温も奪われるし、酸素も無駄に使ってしまう。短期決戦で挑むには……。
目を閉じる。
「諦めたの?その潔さに免じて、一瞬で息の根を止めてあげる!!」
かかった。爪を伸ばして向かってきた鬼。
翻す日輪刀の刃。
「ーーっ!!(炎の呼吸、肆・壱ノ型ーー盛炎うねりし不知火!!)」
鬼の体を日輪刀の刃で絡め取りながら斬り裂く。続け様に足に呼吸を纏わせて推進力を上げ、相手が向かってくる力をも利用しすれ違いざま頸へと素早く横一閃。
スパン!!呆気なくも飛ぶ頸。
「ギャァァァァ!!わ、私の頸が、ァァァッ!!」
水の中で斬り落とされ、その水流で揺蕩い始める頸が、体が、徐々に消えていく。
やった、杏寿郎さんの力を借りずとも水の中で鬼を倒せた……!
……うっ。残った呼吸を攻撃や足に使いすぎた……肺活量もっと鍛えるべきかな。
ああさすがに息が続かな、い……。
「寒いね」
「寒いな」
なんなら粉雪の吹雪がぴゅうぴゅう肌に吹き付いてきて、凍りそうなくらい。
呼吸で体温を上げると言ったって、限度もある。ムートンのもこもこ手袋なんて存在しないから素手でいなくてはならなくて。
いや、あったところで刀を握る手では手袋は使えない。
手を擦り合わせ、ハーっ、と息を吹きかける。全然意味がないなぁ。
「こうすると少しは温かいのではないだろうか?」
すると後ろから覆いかぶさられ、炎柱の羽織ごと体を包みこまれた。温かい杏寿郎さんという炎の熱が、じんわりと体に移り込んでくる。わあ、ぬくいぬくい。
と思ったら懐炉はそれだけじゃなくて。ほっぺたを食まれ、そのまま移動してきた唇が私のそれに重なる。
すぐに侵入を果たす舌先。最近手が早いよ杏寿郎さん。手じゃなくて口?そっかぁ。
「んっ、師範たら……任務中ですよ」
「構いやしないだろう。烏達はこの寒さで任務が無事終わるまでは藤の家だ。見ているものなどいない。
それに、こうした方がもっともっと温かい」
くちゅ、ぴちゃ。歯列をなぞり。吸われて絡まって。吐息を甘く変えられて。
息が上がりそう。
「柱なんだから公私混同しちゃ駄目です……、ん、ふ……まだ鬼も斬れてないのに」
「柱としてしっかり鬼は探している。が、柱である前に君の前では俺はただの男……こうして、ン、美味しそうな唇が寂しそうに、寒そうにわなないているのを……、はぁ、見過ごせるわけなかろう?」
「んっ、〜〜ーーっぁ、ン、」
激しい口吸いを前に、また気を遣りそうで。今は任務中だと自分に言い聞かせて必死に耐える。
「それにほら、口づけする毎にどんどんと温かくなっていく。俺の熱が朝緋に移っていくのがわかる。それがこんなにも嬉しいとはなぁ」
やっと唇が、舌先が解放される。
最後にじゅる、と吸い付かれて離れていく杏寿郎さんと私の間にツツツ、と伝う唾液の糸。息も絶え絶えな私の頬を愛おしげに撫で摩りーー。
ーーぱしゃ、ぴちゃん。
「「!?」」
バッ!!二人同時に音がした方へ振り向いた。
「不自然な水の音がしたね」
「ああ、したな。……川の中か?」
緩やかな流れの川。薄く凍ったその下を覗くと、何かいるのがわかる。魚?いいや違う。たぶん私達が探している鬼だ。
『前』にも私が退治した、人魚のような姿のその鬼。
今回は稀血を利用しないので誘い込まれることはなく。ただ、水の中を泳いでいることだけがわかる。
杏寿郎さんはまだ相手が鬼だと気がついていない。毎回、風邪をひいてしまう任務ではあるけれど、私が風邪をひく方が柱である杏寿郎さんが風邪を召されるよりマシ。
「行きます」
キスで途切れていた呼吸を整え、日輪刀を抜いて凍る川の中へと飛び込む。
「……は?朝緋ちょっと待……!?」
ごめんね。
杏寿郎さんが止めるが気にしない。私の体はもう止まらない。
パリンッーードボンッッ!
「っ!」
体の外も中も凍りつきそうなほど冷たかった。『以前』に経験したことを思い出せてよかった。この冷たさを知っているのといないのとでは身構え方が全然違う。
少しでも炎の呼吸で温めようと肺の中の空気に力を入れ、日輪刀を強く握る。
果たして、そこにはスイスイと泳ぎ続ける人魚姿の鬼がいた。
「あらあら、誰が落ちたのかと見にきてみれば、鬼狩りのお嬢ちゃんなのね?その刀は怖いけれどでもここは水の中。私の独壇場。
いくら鬼狩りだとしても貴女はただの獲物!」
獲物たる私を前にして、気持ちの悪い人面魚に形相を変える鬼。ああ、ほんと綺麗な顔が勿体無いなぁ。
手を上げて水掻きの目立つ手のひらから、水流を放つ。私が落ちてきた場所が再び氷で覆われ、修復された。……なるほど、こうやって獲物を水中に閉じ込めていたわけか。
杏寿郎さんが氷を割ろうとしている。
けれどそれを下からサムズアップして止める。この鬼は私が仕留めるから見ていてくれ、と。
前は杏寿郎さんと協力して頸を刎ねたけど、今回は一人で。私の強さがどれほどなのか知りたい。
それには一人で挑まねば。かつて苦心した鬼の頸を一人で刎ねねば。
危険?そんなこと知っている。鬼殺にはいつだって危険は伴うから今更だ。
柱の力を借りずとも、やり切ってみせる。
「ふふふ、女の肉は美味しいのよね……逃さないわよ」
長い舌先を伸ばして舌舐めずりした鬼が、水を掻く。巻き起こる水流が鋭い牙を持つ小型魚に変わった。えっ……ピラニアか何か?
これは『前』には使ってこなかった技だ。へぇ、こんな血鬼術を隠し持っていたのか。
「ごぼぼっ!(炎の呼吸、伍ノ型・炎虎改、乱咬み!)」
けれどこんなの大した技じゃない。杏寿郎さんが猗窩座の空式とやらを相殺した時のように、私の小虎達が魚を一匹残らず咬み殺す。
……そういえば猗窩座の空式、あれは私が受けるとしたならどうすればいいだろう。
私があの位置に立ったならどう対処するのが正解?駄目だ、全て避ける以外に思いつかない。
今目の前にいる鬼とは違う。あいつは上弦の鬼という、強者なのだから。
ただ、ここでは素早く動けない。悔しいけど人魚のようなこの鬼の言ったとおり、水の中では水かきやヒレのついた体でもない限り速さは相手に分がある。
でも私は落ち着いていた。近づいてくるのを待つのみで。
下手に動くと冷たい水で体力も体温も奪われるし、酸素も無駄に使ってしまう。短期決戦で挑むには……。
目を閉じる。
「諦めたの?その潔さに免じて、一瞬で息の根を止めてあげる!!」
かかった。爪を伸ばして向かってきた鬼。
翻す日輪刀の刃。
「ーーっ!!(炎の呼吸、肆・壱ノ型ーー盛炎うねりし不知火!!)」
鬼の体を日輪刀の刃で絡め取りながら斬り裂く。続け様に足に呼吸を纏わせて推進力を上げ、相手が向かってくる力をも利用しすれ違いざま頸へと素早く横一閃。
スパン!!呆気なくも飛ぶ頸。
「ギャァァァァ!!わ、私の頸が、ァァァッ!!」
水の中で斬り落とされ、その水流で揺蕩い始める頸が、体が、徐々に消えていく。
やった、杏寿郎さんの力を借りずとも水の中で鬼を倒せた……!
……うっ。残った呼吸を攻撃や足に使いすぎた……肺活量もっと鍛えるべきかな。
ああさすがに息が続かな、い……。