四周目 肆
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杏寿郎さんの柱就任の儀が終わった。日輪刀への『悪鬼滅殺』の文字の刻み込みもだ。つまり私がこの家を出る日もやってくるわけで。
荷物をまとめ終えた私は、挨拶にと槇寿朗さんの部屋を訪れた。
ちなみに千寿郎は快く送り出してくれた。どちらにせよちょくちょく帰ってくる予定だと話しておいたものね。だから寂しくはないらしく、とにかく任務で怪我をしないよう気をつけてと言われた。
「父様失礼しま、ああっ!父様またお酒……!」
「うわ朝緋!?俺が入っていいと返事をしてから入れ!抜き打ちはするな!!」
障子戸を開けて入れば、昼間からこそこそと酒瓶を傾ける姿が。目が据わる私。
「すぐ入ったことは謝ります。でも隠そうとしたのは見過ごせないですねえ?」
「……少しは見逃してくれてもいいではないか」
「これ以上臓腑を痛めたら大変ですから、それは没収です。昼間からお酒なんて……寝酒や夕食時の食前酒でもあるまいし、依存症になりますよ?代わりに甘酒でも飲んでください」
お酒の代わりに甘酒を勧める。甘酒は同じく酒屋さんに売っているのだから、簡単に買えるだろう。
「甘酒……甘いだけの酒ではないやつか」
「夏の日の撹乱時にもいいし、総合健康食だし飲む点滴ですよー?」
「言っている意味がわからん」
諦めたのか、大人しく酒瓶を渡してくれながら続ける。
「準備できたのか?」
「ええ、荷物はまとめました。だからこうしてご挨拶をと」
「そうか……」
下を向いて呟く槇寿朗さん。お互いの間にはしんみりした空気が流れた。
「朝緋」
「はい」
「やはり杏寿郎の元に行かせるのが心配だ。炎柱邸が嫌なのではない。あの狭い屋敷に杏寿郎と二人だけ、というのが心配だ」
「父様……」
「聞いたがあちらで雇っていた奉公人も、朝緋と入れ替わりで辞めていただくそうではないか」
「私が家のことや炊きを担当しますからね」
そんなの別に全然苦でもないし。やってることは今までと変わらない。
「はあ……嫁に出す気分だ。それも、親ならば決して望まぬであろう男の元へと」
「私は望んでいる殿方の元へ自ら行くのですが?父様はまだ反対されているのですね」
「そりゃあな。
ああ、こういう時こそ瑠火にいてほしいものだ。彼女ならきっと杏寿郎を一声で黙らせたろう。叱りつけて諦めさせたろうに」
……それはどうだろう。瑠火さんは意外と私達が夫婦になることを許可しちゃうかもしれない。恋バナも好きだったし。
「杏寿郎に何か嫌なことをされたらすぐ帰ってこい。ここは実家だ」
どれだけ心配性なんだろう。いやまあ、この前の杏寿郎さんの怒り様を、執着っぷりを見たら槇寿朗さんでも心配になるか。
「父様、ありがとうございます。でも大丈夫です。杏寿郎兄さんは私が真に嫌がることはしてきませんので。
それにたまに帰ってきますよ。千寿郎や父様に会いたいし……」
頭に手が置かれた。ゆるり、ゆるりと撫でてくる優しい父親の手。
「俺も娘に会いたいからな、そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。
でもな?やはり親としては心配でな。朝緋は杏寿郎相手だと、一般的に嫌なことに分類されることをされようと我慢してしまうからな。そう思うはずの脳がボンクラになる」
「ボンクラって……。
別に我慢しませんよ。嫌だったら嫌と言いますし、逃げ出したい何かがあれば逃げます」
「そうか……ならいいが」
ただし逃げられるかは別。
「逆に私がわがまま放題して杏寿郎さんを困らせてしまうかもしれませんよ」
「わがままはたくさん言ってやれ」
「ふふ、ちょっとはね?
それより私は父様こそ心配だなあ。こうして隠れてお酒飲むんだものね?千寿郎に目を光らせてもらうよう、よーく言っておかなくちゃ」
「……お手柔らかに頼む」
ああ、この様子じゃそこまで依存はしていなかろうとも、お酒はしばらく辞められないんだろうなぁ。時間ができた時は見にくるようにしよう。
「父様、どうか体を大事にしてください。貴方の健康と平穏を願う。その思いはどんな時も、この先何があろうとも、私と杏寿郎兄さんの総意です。願いです」
「どんな時も?何があろうとも?」
「そこはお気になさらずに」
無限列車の任務の後、杏寿郎さんが最期の言葉で残す言葉だ。その言葉を言わせる事態には絶対にしない。
だから私の口からだけど先に言っておいた。
もちろん、槇寿朗さんの体も心配で言っている言葉だ。
けどそれは、大切な人の命を失わせぬために。
私を呼ぶ声と足音が聞こえる。杏寿郎さんが迎えに来た。
これまでお世話になった礼を。挨拶を槇寿朗さんに丁寧に丁寧に述べる。
改めて頭を撫でられた。
杏寿郎さんに強引に連れて行かれるようにも見えるけど、実際は私の希望だって入っている。
今回は私自身も望んで杏寿郎さんのところに行く。
ドナドナ。市場に売られる仔牛気分はもう一つもない。
荷物をまとめ終えた私は、挨拶にと槇寿朗さんの部屋を訪れた。
ちなみに千寿郎は快く送り出してくれた。どちらにせよちょくちょく帰ってくる予定だと話しておいたものね。だから寂しくはないらしく、とにかく任務で怪我をしないよう気をつけてと言われた。
「父様失礼しま、ああっ!父様またお酒……!」
「うわ朝緋!?俺が入っていいと返事をしてから入れ!抜き打ちはするな!!」
障子戸を開けて入れば、昼間からこそこそと酒瓶を傾ける姿が。目が据わる私。
「すぐ入ったことは謝ります。でも隠そうとしたのは見過ごせないですねえ?」
「……少しは見逃してくれてもいいではないか」
「これ以上臓腑を痛めたら大変ですから、それは没収です。昼間からお酒なんて……寝酒や夕食時の食前酒でもあるまいし、依存症になりますよ?代わりに甘酒でも飲んでください」
お酒の代わりに甘酒を勧める。甘酒は同じく酒屋さんに売っているのだから、簡単に買えるだろう。
「甘酒……甘いだけの酒ではないやつか」
「夏の日の撹乱時にもいいし、総合健康食だし飲む点滴ですよー?」
「言っている意味がわからん」
諦めたのか、大人しく酒瓶を渡してくれながら続ける。
「準備できたのか?」
「ええ、荷物はまとめました。だからこうしてご挨拶をと」
「そうか……」
下を向いて呟く槇寿朗さん。お互いの間にはしんみりした空気が流れた。
「朝緋」
「はい」
「やはり杏寿郎の元に行かせるのが心配だ。炎柱邸が嫌なのではない。あの狭い屋敷に杏寿郎と二人だけ、というのが心配だ」
「父様……」
「聞いたがあちらで雇っていた奉公人も、朝緋と入れ替わりで辞めていただくそうではないか」
「私が家のことや炊きを担当しますからね」
そんなの別に全然苦でもないし。やってることは今までと変わらない。
「はあ……嫁に出す気分だ。それも、親ならば決して望まぬであろう男の元へと」
「私は望んでいる殿方の元へ自ら行くのですが?父様はまだ反対されているのですね」
「そりゃあな。
ああ、こういう時こそ瑠火にいてほしいものだ。彼女ならきっと杏寿郎を一声で黙らせたろう。叱りつけて諦めさせたろうに」
……それはどうだろう。瑠火さんは意外と私達が夫婦になることを許可しちゃうかもしれない。恋バナも好きだったし。
「杏寿郎に何か嫌なことをされたらすぐ帰ってこい。ここは実家だ」
どれだけ心配性なんだろう。いやまあ、この前の杏寿郎さんの怒り様を、執着っぷりを見たら槇寿朗さんでも心配になるか。
「父様、ありがとうございます。でも大丈夫です。杏寿郎兄さんは私が真に嫌がることはしてきませんので。
それにたまに帰ってきますよ。千寿郎や父様に会いたいし……」
頭に手が置かれた。ゆるり、ゆるりと撫でてくる優しい父親の手。
「俺も娘に会いたいからな、そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。
でもな?やはり親としては心配でな。朝緋は杏寿郎相手だと、一般的に嫌なことに分類されることをされようと我慢してしまうからな。そう思うはずの脳がボンクラになる」
「ボンクラって……。
別に我慢しませんよ。嫌だったら嫌と言いますし、逃げ出したい何かがあれば逃げます」
「そうか……ならいいが」
ただし逃げられるかは別。
「逆に私がわがまま放題して杏寿郎さんを困らせてしまうかもしれませんよ」
「わがままはたくさん言ってやれ」
「ふふ、ちょっとはね?
それより私は父様こそ心配だなあ。こうして隠れてお酒飲むんだものね?千寿郎に目を光らせてもらうよう、よーく言っておかなくちゃ」
「……お手柔らかに頼む」
ああ、この様子じゃそこまで依存はしていなかろうとも、お酒はしばらく辞められないんだろうなぁ。時間ができた時は見にくるようにしよう。
「父様、どうか体を大事にしてください。貴方の健康と平穏を願う。その思いはどんな時も、この先何があろうとも、私と杏寿郎兄さんの総意です。願いです」
「どんな時も?何があろうとも?」
「そこはお気になさらずに」
無限列車の任務の後、杏寿郎さんが最期の言葉で残す言葉だ。その言葉を言わせる事態には絶対にしない。
だから私の口からだけど先に言っておいた。
もちろん、槇寿朗さんの体も心配で言っている言葉だ。
けどそれは、大切な人の命を失わせぬために。
私を呼ぶ声と足音が聞こえる。杏寿郎さんが迎えに来た。
これまでお世話になった礼を。挨拶を槇寿朗さんに丁寧に丁寧に述べる。
改めて頭を撫でられた。
杏寿郎さんに強引に連れて行かれるようにも見えるけど、実際は私の希望だって入っている。
今回は私自身も望んで杏寿郎さんのところに行く。
ドナドナ。市場に売られる仔牛気分はもう一つもない。