二周目 弐
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槇寿朗さんが帰ってきたのは、それからすぐの事だ。
「あっ!おかえりなさい、とうさま!!」
「おかえりなさいませ父上!!
私は足を引き摺りながらだったが、杏寿郎さんとあいも変わらず手合わせに勤しんでいた。
無理だけはしないように瑠火さんから言われていたので、うん……。無理はしてない!多分!!だから瑠火さんはなにも言ってこなかった。
だが、槇寿朗さんは違った。
帰ってきて早々に、こちらにずんずん進んできた。……鬼を前にした般若の形相で。
えっなんかこわい。猗窩座戦の杏寿郎さんの表情が再びなんだけど。だけどその顔してるのは槇寿朗さんという。
みんなマトリョーシカみたいにそっくりなんだから、その顔やめて。トラウマになりそう。
「杏寿郎ぉぉ!!」
だけど、その恐ろしい形相は、私ではなく杏寿郎さんに向いていた。
槇寿朗さんが進んでくる勢いで振りかぶった拳が、杏寿郎さんの頬を捉える。
頬を殴ったと思えないくらい大きな音がする。
「馬鹿者が!朝緋の事を骨が折れるほど叩きのめすとは何事だ!瑠火からの文で読んだ時は我が目を疑ったぞ!!」
「申し訳ありません父上!!でも俺も痛いです!!」
「痛くしたんだから当たり前だろう!朝緋はもっと痛かったはずだ!!……朝緋、大丈夫か?」
あ。やっぱり槇寿朗さんは『娘』にはことさら甘いや。杏寿郎さんにあんなに怒っておいて、私には心配の言葉をかけてくることからもそれがよくわかる。
けど心配ご無用だ!これでも鬼殺隊に入るべく鍛えている身だからね!
「大丈夫です!杏寿郎兄さんが綺麗におってくださいましたので、治りも早いと思います」
「あほか!綺麗に折ったことなんざどうでもいいだろう!稽古は終いだ!」
「えっ」
あほって言われて地味にショックを受けた。
「治るまで修行禁止だからな!いいか!素振りもダメだ!安静にしていろ!!」
しかも、鍛錬も手合わせもそれに関する事柄全て、禁止になってしまった。そんな……。
「うう、血が出るような傷よりマシなのに」
「そうだな!傷に湯が染みると痛いから骨折の方がマシに思えるよな!
朝緋!また打ち合えるように、早く体を治してくれ!」
落胆した私の肩にぽむち!とおかれる杏寿郎さんの手。槇寿朗さんに殴られて痛々しい頬を晒しているが、相変わらず太陽のように眩しい笑顔だ。
「はい、呼吸を使ってはやく治します!」
この笑顔を糧に、私も頑張ろうと思える。
「お前ら……」
それを聞いていた槇寿朗さんから、二人ともに頭の上に拳骨をもらった。……なんで私まで?
瑠火さんと一緒に千寿郎の面倒を見ながら、杏寿郎さんの稽古を眺める。足がすっかり治るまでは家事も学舎に通うのもおやすみで、あまりやれることがなかった。できるのはお裁縫とお琴くらいか。
呼吸で回復を早めるようにしているけれど、やはりどうしてか上手くいかない。あの頃のように簡単に治ってくれなかった。
「ぁねーぇ!」
かわいい千寿郎という癒しがなければ私はストレスで爆発していたかもしれない。
思えば一緒に住んでいるけれど私は学校と鍛錬の事ばかりでここ最近は千寿郎に構ってあげられていなかった。
こんなかわいい天使を放っておくなんて、私ったらなんと罪深い!なのに「ぁねーぇ」なんて!一生懸命に姉上と呼ぼうとして、こちらに手を伸ばしてくれている。いじらしい!
「ぁねーえ、だーぁ!」
「はいはい抱っこかな。よーしよし」
伸ばされた手は、抱っこを御所望だ。突撃された私はその体を掬い上げるように、柔く優しく抱き上げた。とんとん、子守唄を口遊みながらその背をゆっくりと叩く。
「朝緋は千寿郎をあやすのが上手ですね」
「かあさまにそう言ってもらえると嬉しいです!」
目に入れても痛くない!なんて、千寿郎を可愛がっていた杏寿郎さん。その気持ちが今になってよりよくわかる。
私や杏寿郎さんの姿を見るとよたよたしながら、かるがもの子供のようについてくる様子といったら!んんんん愛い!
だからこそ、鍛錬はまだ早かろうと思って今の千寿郎には見えないような位置でしていた。鍛錬についてきては危険だものね。
「ほんとかわいい。かわいくてなんでもしてあげたくなっちゃうなぁ」
抱っこされて寝てしまった千寿郎。そのふにふにの頬をつんつんすれば、ふにゃっと笑みを浮かべてかわいい寝顔を見せてくれた。いい夢見てるのかな?見てるといいな。
そばでその様子を見守ってくれている瑠火さんも、千寿郎の笑顔の寝顔を見て柔らかく微笑む。なんて美しい微笑みだ。
たまに咳き込む姿はすでに見られるが、このまま元気に過ごしていてほしい。頼むからこの優しい人を、病いに冒さないでほしい。
せめて不安にさせぬよう、悲しませないよう、心労をかけないようにするので手一杯。いや、今回は骨折してしまったけれど。
ああ守りたい、この笑顔たち。
これから先、千寿郎を泣かせないためにも、かあさまも不安にさせないためにも、私は強くならねばならない。
……なのにどうしてか。足が治った後もどんなに修行しても血の滲むような鍛錬をしても、私の強さは杏寿郎さんには届かなかった。
あなたのようになるには、まだまだ時間も力も何もかもが足りない。
そんな中、杏寿郎さんは私のそれよりも早く、炎の呼吸の動きをマスターした。
槇寿朗さんの動きを正確になぞって刀を振るう。まだ壱ノ型も満足に出しきれていないけれど、なんと美しい所作だろうか。
刀を納めた後の、柄頭をそっと撫でる動きすらおんなじで。
ならばきっと他の技を覚えるのも早かろう。特徴的な炎のエフェクトが花火のように咲く日も近い。
未来の炎柱を前に鼻が高い思いと、私の方が『前』の経験分は勝っていたのにという悔しさが胸を支配した。
「あっ!おかえりなさい、とうさま!!」
「おかえりなさいませ父上!!
私は足を引き摺りながらだったが、杏寿郎さんとあいも変わらず手合わせに勤しんでいた。
無理だけはしないように瑠火さんから言われていたので、うん……。無理はしてない!多分!!だから瑠火さんはなにも言ってこなかった。
だが、槇寿朗さんは違った。
帰ってきて早々に、こちらにずんずん進んできた。……鬼を前にした般若の形相で。
えっなんかこわい。猗窩座戦の杏寿郎さんの表情が再びなんだけど。だけどその顔してるのは槇寿朗さんという。
みんなマトリョーシカみたいにそっくりなんだから、その顔やめて。トラウマになりそう。
「杏寿郎ぉぉ!!」
だけど、その恐ろしい形相は、私ではなく杏寿郎さんに向いていた。
槇寿朗さんが進んでくる勢いで振りかぶった拳が、杏寿郎さんの頬を捉える。
頬を殴ったと思えないくらい大きな音がする。
「馬鹿者が!朝緋の事を骨が折れるほど叩きのめすとは何事だ!瑠火からの文で読んだ時は我が目を疑ったぞ!!」
「申し訳ありません父上!!でも俺も痛いです!!」
「痛くしたんだから当たり前だろう!朝緋はもっと痛かったはずだ!!……朝緋、大丈夫か?」
あ。やっぱり槇寿朗さんは『娘』にはことさら甘いや。杏寿郎さんにあんなに怒っておいて、私には心配の言葉をかけてくることからもそれがよくわかる。
けど心配ご無用だ!これでも鬼殺隊に入るべく鍛えている身だからね!
「大丈夫です!杏寿郎兄さんが綺麗におってくださいましたので、治りも早いと思います」
「あほか!綺麗に折ったことなんざどうでもいいだろう!稽古は終いだ!」
「えっ」
あほって言われて地味にショックを受けた。
「治るまで修行禁止だからな!いいか!素振りもダメだ!安静にしていろ!!」
しかも、鍛錬も手合わせもそれに関する事柄全て、禁止になってしまった。そんな……。
「うう、血が出るような傷よりマシなのに」
「そうだな!傷に湯が染みると痛いから骨折の方がマシに思えるよな!
朝緋!また打ち合えるように、早く体を治してくれ!」
落胆した私の肩にぽむち!とおかれる杏寿郎さんの手。槇寿朗さんに殴られて痛々しい頬を晒しているが、相変わらず太陽のように眩しい笑顔だ。
「はい、呼吸を使ってはやく治します!」
この笑顔を糧に、私も頑張ろうと思える。
「お前ら……」
それを聞いていた槇寿朗さんから、二人ともに頭の上に拳骨をもらった。……なんで私まで?
瑠火さんと一緒に千寿郎の面倒を見ながら、杏寿郎さんの稽古を眺める。足がすっかり治るまでは家事も学舎に通うのもおやすみで、あまりやれることがなかった。できるのはお裁縫とお琴くらいか。
呼吸で回復を早めるようにしているけれど、やはりどうしてか上手くいかない。あの頃のように簡単に治ってくれなかった。
「ぁねーぇ!」
かわいい千寿郎という癒しがなければ私はストレスで爆発していたかもしれない。
思えば一緒に住んでいるけれど私は学校と鍛錬の事ばかりでここ最近は千寿郎に構ってあげられていなかった。
こんなかわいい天使を放っておくなんて、私ったらなんと罪深い!なのに「ぁねーぇ」なんて!一生懸命に姉上と呼ぼうとして、こちらに手を伸ばしてくれている。いじらしい!
「ぁねーえ、だーぁ!」
「はいはい抱っこかな。よーしよし」
伸ばされた手は、抱っこを御所望だ。突撃された私はその体を掬い上げるように、柔く優しく抱き上げた。とんとん、子守唄を口遊みながらその背をゆっくりと叩く。
「朝緋は千寿郎をあやすのが上手ですね」
「かあさまにそう言ってもらえると嬉しいです!」
目に入れても痛くない!なんて、千寿郎を可愛がっていた杏寿郎さん。その気持ちが今になってよりよくわかる。
私や杏寿郎さんの姿を見るとよたよたしながら、かるがもの子供のようについてくる様子といったら!んんんん愛い!
だからこそ、鍛錬はまだ早かろうと思って今の千寿郎には見えないような位置でしていた。鍛錬についてきては危険だものね。
「ほんとかわいい。かわいくてなんでもしてあげたくなっちゃうなぁ」
抱っこされて寝てしまった千寿郎。そのふにふにの頬をつんつんすれば、ふにゃっと笑みを浮かべてかわいい寝顔を見せてくれた。いい夢見てるのかな?見てるといいな。
そばでその様子を見守ってくれている瑠火さんも、千寿郎の笑顔の寝顔を見て柔らかく微笑む。なんて美しい微笑みだ。
たまに咳き込む姿はすでに見られるが、このまま元気に過ごしていてほしい。頼むからこの優しい人を、病いに冒さないでほしい。
せめて不安にさせぬよう、悲しませないよう、心労をかけないようにするので手一杯。いや、今回は骨折してしまったけれど。
ああ守りたい、この笑顔たち。
これから先、千寿郎を泣かせないためにも、かあさまも不安にさせないためにも、私は強くならねばならない。
……なのにどうしてか。足が治った後もどんなに修行しても血の滲むような鍛錬をしても、私の強さは杏寿郎さんには届かなかった。
あなたのようになるには、まだまだ時間も力も何もかもが足りない。
そんな中、杏寿郎さんは私のそれよりも早く、炎の呼吸の動きをマスターした。
槇寿朗さんの動きを正確になぞって刀を振るう。まだ壱ノ型も満足に出しきれていないけれど、なんと美しい所作だろうか。
刀を納めた後の、柄頭をそっと撫でる動きすらおんなじで。
ならばきっと他の技を覚えるのも早かろう。特徴的な炎のエフェクトが花火のように咲く日も近い。
未来の炎柱を前に鼻が高い思いと、私の方が『前』の経験分は勝っていたのにという悔しさが胸を支配した。