二周目 弐
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日から暫くの間、槇寿朗さんが遠方の任務に向かう。
「炎の呼吸の詳しい型についてはこれからだが、大体の基本の動きは教えた。明日からの稽古では、杏寿郎と朝緋、二人で打ち合え」
二人で打ち合う……。私と杏寿郎さんは目を丸くして、お互いの顔を見つめ合った。
仲の良い兄妹だし鍛錬だが、これは戦いでもある。負けてなるものか、と私たちは僅かながら火花を散らした。
「ああもちろん、朝緋は学舎にも休まず通うのだぞ」
「わ、わかってますよぅ」
その空気を裂くように釘を刺され、杏寿郎さんがぷっと吹き出す。くそう、他人事だと思って……!
最近、尋常小学校をサボりそうな勢いで学問に身が入ってない事は、既に気づかれていたようだ。学業も内内の事もしっかりやるのが、修行を受けるための条件だ。
槇寿朗さんがどういう手法を取ったのかわからないけれど杏寿郎さんは義務教育を途中の四年で修了になったのに対し、私はしっかり六年間の義務教育を受けなければいけない。
しかも、稀血だから鬼から傷を受ける事は許されないため、より強くより速くならなくてはいけないし、そのため修行量は人一倍いや、人の数倍は必要。
経験値稼ぎづらい中でどんどんレベル上げしなくちゃならないのに、敵からは一撃食らっただけでほぼゲームオーバー確定扱いなんでしょ?ハードモードがすぎる……。難易度ルナティックかな?
ため息を吐いていても、私の処遇は変わらない。条件が厳しいのは仕方ない。
だって槇寿朗さんからしてみれば、私はいつまで経ってもかわいい一人娘であって、出来ることなら鬼殺隊に入って欲しくないのだから。
入りたければ、条件をクリアせねば。
槇寿朗さんが帰ってくるまでに、杏寿郎さんからせめて一本とりたい。強くなりたい。
手合わせは通算六十二回目だったが、未だ一本も取れていなかった。
未来の炎柱とはいえ、杏寿郎さん強すぎない?さすがはかつてほとんど自力で柱に上り詰めた男だ。かっこいい、大好き。誇らしい!
でも一本くらい取らせてお願いだから!!
それにしてももう手合わせは五十を越えている。なのに遅い。槇寿朗さんの帰りが遅い。不安になる!
私や杏寿郎さんだけでなく、瑠火さんも千寿郎も心配してるよ!早く帰ってきて!!
「とうさま、まだ任務から帰ってこないですね。お手紙には無事だと書いてあったから、大丈夫だとは思うけど……」
「かなりの遠方だから往復だけで時間がかかっているんだろう。父上は柱だ!鬼には負けないから大丈夫だ。
それより朝緋、余計なことを考える暇があるとは、随分と余裕だな!」
「よ、余裕なんてな、きゃっ!?」
ブォン!木刀の切先が、私の顔スレスレをかすっていった。
乙女の顔を、だぞ。いくら杏寿郎さんでも、やっていいことと悪いことがある!
「顔!顔を狙うのは反則です!」
「鬼殺に反則などないだろう。命の取り合いだ。今から慣らしておかないといざという時困ると思うんだが……」
眉毛をへにょんと下げて困っている杏寿郎さんの意見は至極ごもっとも。
いくら杏寿郎さんが礼儀や礼節を重んずる性質を持っていても、鬼に正攻法は通用しない。こちらが名乗りを上げている間に襲ってくるし、わけのわからない血鬼術やはちゃめちゃな戦法でこちらの命を狙ってくる。
あと下り眉がかわいい。つい、言うこと聞いちゃう。
「わかりましたよ……どんな太刀筋でも受けてたちます」
「うむ!よしその意気だ!お互い加減は無用だな!
ならそろそろ俺から一本取ってみろ!取るまで休憩はなしだぞ!」
「えっうそでしょ」
途端に眉をいつものように吊り上げ、向かってくる杏寿郎さん。すでに炎柱としての闘気のようなものが備わっているように感じるのは私の気のせいか。
あの腹の立つまつ毛バサバサ刺青鬼……猗窩座が、杏寿郎さんについて闘気があーだこーだ言っていたから影響されたのかも。
こんなところでまで邪魔してくるとは、万死に値する。
「嘘は言わない!俺の技を捌いて隙を突いてみろ!それ、右!左!右!左!」
「ぅ、わ……っ」
木刀とはいえ、振り下ろされるそれの鋭いことといったら!槇寿朗さんが加減して打ち合わせてくるものと違い、力任せがすぎる。
一振り一振りが、なんとキツくて重い……!杏寿郎さん、本当に子供の肉体なの?
なんなの、ある意味槇寿朗さんよりスパルタじゃないのさ……。
いや確かに一本取りたいとはいったけど、休憩なしでずっとこんなことしてたらまた倒れちゃう。好きな人の前で白目剥いて倒れるのも、吐くのももういや。
杏寿郎さんの口癖じゃないけど、まじでよもや、という気持ちです。
「ひいいいい!もうやだぁー!無理です、杏寿郎兄さん!私には無理ですー」
「まだまだぁ!まだやれるはずだ!」
「ひーん!」
べそをかいても打ち合いは続き、結局は私が倒れるまで……というか、瑠火さんが終了の言葉をかけるまで手合わせは終わらず。
今夜も風呂場には傷に湯が滲みて激痛に悩まされる私の悲痛な叫びが響いた。
「あああ傷が滲みる……!痛ぁい!」
「その程度で弱音を吐くんじゃない朝緋!」
「杏寿郎兄さんは湯浴みの時の声にまで突っ込まないでくださいっ!!」
そして私はまた、昼間は学校と家事手伝い、お作法、お稽古。そして夕方早くからの鍛錬となかなかのハードスケジュールをこなした……。
そうして血豆が癒えぬうちに刀をふり続けていたら、手合わせ八十回を超える頃には、剣胼胝だらけの皮膚も分厚くかたくなっていった。
もちろん尋常小学校では、女らしくないからと男子に敬遠されるようになった。
フーンだ!モテる必要ないし別にいいけどね!
それら全ての鬱憤すらも、手合わせに込める。
「右、左、右、……むう!朝緋、いつもよりキレがいい!」
「それは、どうも……っ!はああああっ!」
「っ!?」
ブンッ!不規則な動きからの下回し蹴り。作法に則った剣筋は鬼に通用しないからというなら、こちらも作法は捨てる。
バシリ、杏寿郎さんが僅かに怯んだところに、木刀を思い切り叩いて振り払い、その手を下げさせる。その隙に後退し構えを取る。
本気も本気だ。まだ型はろくに身についてないし、体を無理やり動かせば疲労困憊で動けなくなるが、私は渾身の一撃を木刀に込めた。
「炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!」
ビッーー!
「!?」
下段からの素早く重い斬り上げを前に、剣圧で杏寿郎さんの頬が薄く裂かれた。
「ははっ、やっと当たった……!」
嬉しい。炎の揺らぎなんて一つも出てないし、ちゃんとした技にはなっていなかった。けれど、薄くとも杏寿郎さんに一撃を入れられた!
「ほーーーぉ?」
自身の頬を伝う血の感覚に、目を細めてうっそりと笑っている。杏寿郎さんはまだ十を過ぎたばかりの子供なのに、その表情にはやけに色気が見えた。
って……えっ杏寿郎さん瞳孔開いてない?
初めて私から攻撃を受けたことで、めちゃくちゃやる気だしてる?
細めた後の金環が光るその目がギンッと見開かれ、射るような視線となって私にまっすぐ向いた。
「いきなりのこの強さ。朝緋は今の今まで本気ではなかったと、そういうことか」
「そ、そんなことない!私はずっと本気でしたよ!?これはその、ただの火事場の馬鹿力みたいなもので……!」
「よし俺も本気で打ち込むぞ!!」
「杏寿郎兄さん!ねぇちょっと聞いて!」
「うおおおおお!!」
「ビャッ!」
振り上げる速度が変わった!伍ノ型炎虎で見える猛虎の如く、振われる剣筋。
受ければ腕は痺れて感覚が鈍くなるし、流そうとしてもうまくいかずに傷を負う。
なにこれ怖い。なんで猗窩座と相対していた時のような鬼気迫る顔で向かってくるの。
「俺にだってできる!ふんぬぅ!弐ノ型……昇り炎天!!」
そうして繰り出された炎の呼吸の御技。
完璧な物ではないので私と同じくエフェクトのないものだったが、気迫がすごく、その動きは狂いもなく。
その軌跡は吸い込まれるようにして私の体に入った。私の、引っ込みそびれた足に。
ガツッッ!バキッーー!
「あっーー!」
「よも……っ!?」
硬い物が折れる音が、その場に響く。
「〜〜〜っ!!」
強烈な痛みが足に走り、足の骨が折れたと理解した。
そこは奇しくも、上弦の参におられた骨と全く同じ場所。そういえば、猗窩座云々の前に、『前』も鍛錬中杏寿郎さんに骨を折られたような……?すんごいデジャヴだった。
……私ってもしかして骨弱いのかな。牛乳を飲んで魚を食べるようにしよう。
痛みで勝手に流れる涙を拭いながら、私はそんなことを考えていた。
「炎の呼吸の詳しい型についてはこれからだが、大体の基本の動きは教えた。明日からの稽古では、杏寿郎と朝緋、二人で打ち合え」
二人で打ち合う……。私と杏寿郎さんは目を丸くして、お互いの顔を見つめ合った。
仲の良い兄妹だし鍛錬だが、これは戦いでもある。負けてなるものか、と私たちは僅かながら火花を散らした。
「ああもちろん、朝緋は学舎にも休まず通うのだぞ」
「わ、わかってますよぅ」
その空気を裂くように釘を刺され、杏寿郎さんがぷっと吹き出す。くそう、他人事だと思って……!
最近、尋常小学校をサボりそうな勢いで学問に身が入ってない事は、既に気づかれていたようだ。学業も内内の事もしっかりやるのが、修行を受けるための条件だ。
槇寿朗さんがどういう手法を取ったのかわからないけれど杏寿郎さんは義務教育を途中の四年で修了になったのに対し、私はしっかり六年間の義務教育を受けなければいけない。
しかも、稀血だから鬼から傷を受ける事は許されないため、より強くより速くならなくてはいけないし、そのため修行量は人一倍いや、人の数倍は必要。
経験値稼ぎづらい中でどんどんレベル上げしなくちゃならないのに、敵からは一撃食らっただけでほぼゲームオーバー確定扱いなんでしょ?ハードモードがすぎる……。難易度ルナティックかな?
ため息を吐いていても、私の処遇は変わらない。条件が厳しいのは仕方ない。
だって槇寿朗さんからしてみれば、私はいつまで経ってもかわいい一人娘であって、出来ることなら鬼殺隊に入って欲しくないのだから。
入りたければ、条件をクリアせねば。
槇寿朗さんが帰ってくるまでに、杏寿郎さんからせめて一本とりたい。強くなりたい。
手合わせは通算六十二回目だったが、未だ一本も取れていなかった。
未来の炎柱とはいえ、杏寿郎さん強すぎない?さすがはかつてほとんど自力で柱に上り詰めた男だ。かっこいい、大好き。誇らしい!
でも一本くらい取らせてお願いだから!!
それにしてももう手合わせは五十を越えている。なのに遅い。槇寿朗さんの帰りが遅い。不安になる!
私や杏寿郎さんだけでなく、瑠火さんも千寿郎も心配してるよ!早く帰ってきて!!
「とうさま、まだ任務から帰ってこないですね。お手紙には無事だと書いてあったから、大丈夫だとは思うけど……」
「かなりの遠方だから往復だけで時間がかかっているんだろう。父上は柱だ!鬼には負けないから大丈夫だ。
それより朝緋、余計なことを考える暇があるとは、随分と余裕だな!」
「よ、余裕なんてな、きゃっ!?」
ブォン!木刀の切先が、私の顔スレスレをかすっていった。
乙女の顔を、だぞ。いくら杏寿郎さんでも、やっていいことと悪いことがある!
「顔!顔を狙うのは反則です!」
「鬼殺に反則などないだろう。命の取り合いだ。今から慣らしておかないといざという時困ると思うんだが……」
眉毛をへにょんと下げて困っている杏寿郎さんの意見は至極ごもっとも。
いくら杏寿郎さんが礼儀や礼節を重んずる性質を持っていても、鬼に正攻法は通用しない。こちらが名乗りを上げている間に襲ってくるし、わけのわからない血鬼術やはちゃめちゃな戦法でこちらの命を狙ってくる。
あと下り眉がかわいい。つい、言うこと聞いちゃう。
「わかりましたよ……どんな太刀筋でも受けてたちます」
「うむ!よしその意気だ!お互い加減は無用だな!
ならそろそろ俺から一本取ってみろ!取るまで休憩はなしだぞ!」
「えっうそでしょ」
途端に眉をいつものように吊り上げ、向かってくる杏寿郎さん。すでに炎柱としての闘気のようなものが備わっているように感じるのは私の気のせいか。
あの腹の立つまつ毛バサバサ刺青鬼……猗窩座が、杏寿郎さんについて闘気があーだこーだ言っていたから影響されたのかも。
こんなところでまで邪魔してくるとは、万死に値する。
「嘘は言わない!俺の技を捌いて隙を突いてみろ!それ、右!左!右!左!」
「ぅ、わ……っ」
木刀とはいえ、振り下ろされるそれの鋭いことといったら!槇寿朗さんが加減して打ち合わせてくるものと違い、力任せがすぎる。
一振り一振りが、なんとキツくて重い……!杏寿郎さん、本当に子供の肉体なの?
なんなの、ある意味槇寿朗さんよりスパルタじゃないのさ……。
いや確かに一本取りたいとはいったけど、休憩なしでずっとこんなことしてたらまた倒れちゃう。好きな人の前で白目剥いて倒れるのも、吐くのももういや。
杏寿郎さんの口癖じゃないけど、まじでよもや、という気持ちです。
「ひいいいい!もうやだぁー!無理です、杏寿郎兄さん!私には無理ですー」
「まだまだぁ!まだやれるはずだ!」
「ひーん!」
べそをかいても打ち合いは続き、結局は私が倒れるまで……というか、瑠火さんが終了の言葉をかけるまで手合わせは終わらず。
今夜も風呂場には傷に湯が滲みて激痛に悩まされる私の悲痛な叫びが響いた。
「あああ傷が滲みる……!痛ぁい!」
「その程度で弱音を吐くんじゃない朝緋!」
「杏寿郎兄さんは湯浴みの時の声にまで突っ込まないでくださいっ!!」
そして私はまた、昼間は学校と家事手伝い、お作法、お稽古。そして夕方早くからの鍛錬となかなかのハードスケジュールをこなした……。
そうして血豆が癒えぬうちに刀をふり続けていたら、手合わせ八十回を超える頃には、剣胼胝だらけの皮膚も分厚くかたくなっていった。
もちろん尋常小学校では、女らしくないからと男子に敬遠されるようになった。
フーンだ!モテる必要ないし別にいいけどね!
それら全ての鬱憤すらも、手合わせに込める。
「右、左、右、……むう!朝緋、いつもよりキレがいい!」
「それは、どうも……っ!はああああっ!」
「っ!?」
ブンッ!不規則な動きからの下回し蹴り。作法に則った剣筋は鬼に通用しないからというなら、こちらも作法は捨てる。
バシリ、杏寿郎さんが僅かに怯んだところに、木刀を思い切り叩いて振り払い、その手を下げさせる。その隙に後退し構えを取る。
本気も本気だ。まだ型はろくに身についてないし、体を無理やり動かせば疲労困憊で動けなくなるが、私は渾身の一撃を木刀に込めた。
「炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!」
ビッーー!
「!?」
下段からの素早く重い斬り上げを前に、剣圧で杏寿郎さんの頬が薄く裂かれた。
「ははっ、やっと当たった……!」
嬉しい。炎の揺らぎなんて一つも出てないし、ちゃんとした技にはなっていなかった。けれど、薄くとも杏寿郎さんに一撃を入れられた!
「ほーーーぉ?」
自身の頬を伝う血の感覚に、目を細めてうっそりと笑っている。杏寿郎さんはまだ十を過ぎたばかりの子供なのに、その表情にはやけに色気が見えた。
って……えっ杏寿郎さん瞳孔開いてない?
初めて私から攻撃を受けたことで、めちゃくちゃやる気だしてる?
細めた後の金環が光るその目がギンッと見開かれ、射るような視線となって私にまっすぐ向いた。
「いきなりのこの強さ。朝緋は今の今まで本気ではなかったと、そういうことか」
「そ、そんなことない!私はずっと本気でしたよ!?これはその、ただの火事場の馬鹿力みたいなもので……!」
「よし俺も本気で打ち込むぞ!!」
「杏寿郎兄さん!ねぇちょっと聞いて!」
「うおおおおお!!」
「ビャッ!」
振り上げる速度が変わった!伍ノ型炎虎で見える猛虎の如く、振われる剣筋。
受ければ腕は痺れて感覚が鈍くなるし、流そうとしてもうまくいかずに傷を負う。
なにこれ怖い。なんで猗窩座と相対していた時のような鬼気迫る顔で向かってくるの。
「俺にだってできる!ふんぬぅ!弐ノ型……昇り炎天!!」
そうして繰り出された炎の呼吸の御技。
完璧な物ではないので私と同じくエフェクトのないものだったが、気迫がすごく、その動きは狂いもなく。
その軌跡は吸い込まれるようにして私の体に入った。私の、引っ込みそびれた足に。
ガツッッ!バキッーー!
「あっーー!」
「よも……っ!?」
硬い物が折れる音が、その場に響く。
「〜〜〜っ!!」
強烈な痛みが足に走り、足の骨が折れたと理解した。
そこは奇しくも、上弦の参におられた骨と全く同じ場所。そういえば、猗窩座云々の前に、『前』も鍛錬中杏寿郎さんに骨を折られたような……?すんごいデジャヴだった。
……私ってもしかして骨弱いのかな。牛乳を飲んで魚を食べるようにしよう。
痛みで勝手に流れる涙を拭いながら、私はそんなことを考えていた。