四周目 肆
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任務後の昼間、生家の道場で一人鍛錬をする朝緋を見つけた。甘露寺は……まだ来ていないのか。
木刀からでも吹き出す炎の呼吸が美しく燃えている。
この美しい剣捌き、初めての壱ノ型を他の男に……。そう思うと、腹立たしくて胸に巣食う炎の虎が唸り声をあげる。
今にも朝緋に飛びかかり襲ってしまいそうだった。
俺が見つめていることに朝緋が気がついて此方を向く。キラキラした汗が綺麗だ。
加えてのきょとんとした表情、少し切長気味の目がまぁるく大きくなった時のかわいらしさ。
思わず抱きしめたくなるな!
けれど胸に巣食う怒りの炎は治まりを知らない。もはや可愛さ余って憎さ百倍というやつだ。
「なあ朝緋。少ーーしばかり話があるんだが、いいだろうか?」
「え、今?素振りの予定はあと数十ほど残っていて……」
「相手がいた方がいいだろうから打ち稽古しながらで頼む。俺の打ち込み五百本を全て受け流せ」
普通にやれば刻限的に五百の打ち稽古は日暮れ近くまでかかる。朝緋が頑張れば八つ時には間に合う計算だが、それを俺の伝えたい話混じりでとなれば、相当な時刻になろう。
案の定、朝緋からは拒否の言葉が返ってきた。
「ちょっと待って!五百本とか嫌なんですけど!今からってどれだけ時間がかかると思ってるの?素振りと違うのよ!?
夜の任務に備えてもうちょい軽くして少し仮眠取っておいた方が……。それに私ばっかりじゃなくて今に来るはずの蜜璃に稽古を、「始めるぞ!」えええー!?」
たくさんの理由をつけているが俺が木刀を取ればすぐ構えてくる。打ち稽古は突如として始まった。
「朝緋……君は、最終選別時に結局あの異形の鬼に手を出したそうだなっ」
「げぇっ!?なんで知って……」
ブォン!朝緋の体スレスレを薙ぐ攻撃。それを避けてみせながら、斬り結んでくる。
上手いな、前に稽古をつけた時より格段に上達した。
「出会ったら逃げろと言ったはずだ!君も逃げると約束した!!」
苛烈な怒りが炎の軌跡を生み出し、朝緋に迫る。これもまた、間一髪で受け止められた。
「終わったことだし!別に蒸し返さなくていいじゃない!」
「あんな怪我をして帰ってきておいて、終わった事だと!?」
上段からの連続斬り。朝緋の木刀が揺れ動く。力はまだまだ弱いな。この程度で腕を痺れさせているようでは駄目だ。
「昔の話ですぅーー!!貴方も怪我して帰ってきましたぁーー!!いつもみたいに、この話はこれで終いだな!でいいでしょ?」
「いいやよくない!!」
「怒らないでよ師範!おでこに青筋まで立てちゃって……さっ!」
反撃された。腕を痺れさせながらも俺の攻撃を受け流し逃げ切り、その流れで壱ノ型を仕掛けてくる。
素早い動きだ。重点的に足へと全集中の呼吸を纏わせている。これが朝緋の戦い方だ。
だが同時にそこが朝緋の弱点でもある。
「あの頃の君は回復の呼吸も未熟!傷も残ったはずだ!!」
「知らないっ!……ぎゃんっ」
足を狙って薙げば、朝緋が激しく転倒した。打った足とぶつけたであろう額が赤くなっているな、かわいそうに。
痛そうではあるがそれで攻撃を止める俺ではない。まだまだ打ち込みは続く。
すぐに立て直した朝緋もまた、俺の動きについてきた。
「残り二六四!自分の肌だぞ知らないわけがなかろう!見せてみろ!」
「見せませんよ乙女の柔肌です!
そんなに見たかったら、お風呂の覗きでもなんでもすれば?父様に言い付けるけどね!」
むう。父上に告げ口されては敵わん。
いくら恋仲になったとはいえ、正式な報告はまだ父上にしていない。そういった行為は全て、父上に報告してからでなくては。
何よりここは生家。女子に手を出すなど、ましてや妹に手を出すような狼藉は許されない!
それ以前に果たして父上はお認めになってくださるだろうか。今は見逃されているようだが、その時になったら反対されるのでは?
そして朝緋は父上が釣書で選んだ他の男と……。
ムカムカしてくると同時に、あり得なくもない俺にとって最悪の未来が脳裏をよぎる。
俺の猛攻を少しだけ緩やかする。
素早くではなくゆるりと。しかし重い斬撃。
朝緋との鍔迫り合いが続く。木刀だから鍔がないのに鍔迫り合いとは、いかがなものなのだろう。
「くっ……何より俺が嫌なのは、そのせいで君はまた他の隊士に好かれてしまっている事だ……!」
何処の馬の骨ともわからない男も嫌だが、他の隊士に盗られるのはもっと我慢ならない。
仲間だからこそ、盗られるのは嫌だ!鬼殺隊士の男ども全員の頸を刎ねたくなる!!
「ああ!私にモテ期が来てるっていう例の噂ねっ!告白されてないから知らないけど、好かれる事自体は良いことだと思う!」
「告白を受けていない?良いこと?はっ!朝緋は告白を受けたら承諾する気か!そんなに好かれて……俺以外とも恋仲になるつもりか!?
ん?待て。『また』とはなんだろうか!?」
「知らない!自分で言ったんでしょうよ、全く!
私は!貴方以外と恋仲になるつもりございませーーんっ!!」
ここで初めて押し返された。一瞬のみだが俺が力を抜いたせいだ。
いやそれより俺以外と恋仲になるつもりはない。俺一筋という朝緋の言葉に嬉しくてたまらなくなる。
ああっ!今すぐにこの木刀を投げ捨てて抱きしめたい!!
……む!?
その時、学校から帰宅したのだろう、千寿郎が此方を覗いていることに気がついた。にこりと笑みを返したあと、目線だけで席を外すように伝えれば千寿郎はこくりと頷き母家の方へと帰っていった。弟には俺の嫉妬を見苦しく交えた打ち込みを見せたくないのだ。
目の前の朝緋には見せても平気なのかって?当人達の話だからな。心も体も全て晒さねば意味がない!ふふふ、朝緋にはぜひ、体のそこかしこを晒してほしいものだ。
木刀からでも吹き出す炎の呼吸が美しく燃えている。
この美しい剣捌き、初めての壱ノ型を他の男に……。そう思うと、腹立たしくて胸に巣食う炎の虎が唸り声をあげる。
今にも朝緋に飛びかかり襲ってしまいそうだった。
俺が見つめていることに朝緋が気がついて此方を向く。キラキラした汗が綺麗だ。
加えてのきょとんとした表情、少し切長気味の目がまぁるく大きくなった時のかわいらしさ。
思わず抱きしめたくなるな!
けれど胸に巣食う怒りの炎は治まりを知らない。もはや可愛さ余って憎さ百倍というやつだ。
「なあ朝緋。少ーーしばかり話があるんだが、いいだろうか?」
「え、今?素振りの予定はあと数十ほど残っていて……」
「相手がいた方がいいだろうから打ち稽古しながらで頼む。俺の打ち込み五百本を全て受け流せ」
普通にやれば刻限的に五百の打ち稽古は日暮れ近くまでかかる。朝緋が頑張れば八つ時には間に合う計算だが、それを俺の伝えたい話混じりでとなれば、相当な時刻になろう。
案の定、朝緋からは拒否の言葉が返ってきた。
「ちょっと待って!五百本とか嫌なんですけど!今からってどれだけ時間がかかると思ってるの?素振りと違うのよ!?
夜の任務に備えてもうちょい軽くして少し仮眠取っておいた方が……。それに私ばっかりじゃなくて今に来るはずの蜜璃に稽古を、「始めるぞ!」えええー!?」
たくさんの理由をつけているが俺が木刀を取ればすぐ構えてくる。打ち稽古は突如として始まった。
「朝緋……君は、最終選別時に結局あの異形の鬼に手を出したそうだなっ」
「げぇっ!?なんで知って……」
ブォン!朝緋の体スレスレを薙ぐ攻撃。それを避けてみせながら、斬り結んでくる。
上手いな、前に稽古をつけた時より格段に上達した。
「出会ったら逃げろと言ったはずだ!君も逃げると約束した!!」
苛烈な怒りが炎の軌跡を生み出し、朝緋に迫る。これもまた、間一髪で受け止められた。
「終わったことだし!別に蒸し返さなくていいじゃない!」
「あんな怪我をして帰ってきておいて、終わった事だと!?」
上段からの連続斬り。朝緋の木刀が揺れ動く。力はまだまだ弱いな。この程度で腕を痺れさせているようでは駄目だ。
「昔の話ですぅーー!!貴方も怪我して帰ってきましたぁーー!!いつもみたいに、この話はこれで終いだな!でいいでしょ?」
「いいやよくない!!」
「怒らないでよ師範!おでこに青筋まで立てちゃって……さっ!」
反撃された。腕を痺れさせながらも俺の攻撃を受け流し逃げ切り、その流れで壱ノ型を仕掛けてくる。
素早い動きだ。重点的に足へと全集中の呼吸を纏わせている。これが朝緋の戦い方だ。
だが同時にそこが朝緋の弱点でもある。
「あの頃の君は回復の呼吸も未熟!傷も残ったはずだ!!」
「知らないっ!……ぎゃんっ」
足を狙って薙げば、朝緋が激しく転倒した。打った足とぶつけたであろう額が赤くなっているな、かわいそうに。
痛そうではあるがそれで攻撃を止める俺ではない。まだまだ打ち込みは続く。
すぐに立て直した朝緋もまた、俺の動きについてきた。
「残り二六四!自分の肌だぞ知らないわけがなかろう!見せてみろ!」
「見せませんよ乙女の柔肌です!
そんなに見たかったら、お風呂の覗きでもなんでもすれば?父様に言い付けるけどね!」
むう。父上に告げ口されては敵わん。
いくら恋仲になったとはいえ、正式な報告はまだ父上にしていない。そういった行為は全て、父上に報告してからでなくては。
何よりここは生家。女子に手を出すなど、ましてや妹に手を出すような狼藉は許されない!
それ以前に果たして父上はお認めになってくださるだろうか。今は見逃されているようだが、その時になったら反対されるのでは?
そして朝緋は父上が釣書で選んだ他の男と……。
ムカムカしてくると同時に、あり得なくもない俺にとって最悪の未来が脳裏をよぎる。
俺の猛攻を少しだけ緩やかする。
素早くではなくゆるりと。しかし重い斬撃。
朝緋との鍔迫り合いが続く。木刀だから鍔がないのに鍔迫り合いとは、いかがなものなのだろう。
「くっ……何より俺が嫌なのは、そのせいで君はまた他の隊士に好かれてしまっている事だ……!」
何処の馬の骨ともわからない男も嫌だが、他の隊士に盗られるのはもっと我慢ならない。
仲間だからこそ、盗られるのは嫌だ!鬼殺隊士の男ども全員の頸を刎ねたくなる!!
「ああ!私にモテ期が来てるっていう例の噂ねっ!告白されてないから知らないけど、好かれる事自体は良いことだと思う!」
「告白を受けていない?良いこと?はっ!朝緋は告白を受けたら承諾する気か!そんなに好かれて……俺以外とも恋仲になるつもりか!?
ん?待て。『また』とはなんだろうか!?」
「知らない!自分で言ったんでしょうよ、全く!
私は!貴方以外と恋仲になるつもりございませーーんっ!!」
ここで初めて押し返された。一瞬のみだが俺が力を抜いたせいだ。
いやそれより俺以外と恋仲になるつもりはない。俺一筋という朝緋の言葉に嬉しくてたまらなくなる。
ああっ!今すぐにこの木刀を投げ捨てて抱きしめたい!!
……む!?
その時、学校から帰宅したのだろう、千寿郎が此方を覗いていることに気がついた。にこりと笑みを返したあと、目線だけで席を外すように伝えれば千寿郎はこくりと頷き母家の方へと帰っていった。弟には俺の嫉妬を見苦しく交えた打ち込みを見せたくないのだ。
目の前の朝緋には見せても平気なのかって?当人達の話だからな。心も体も全て晒さねば意味がない!ふふふ、朝緋にはぜひ、体のそこかしこを晒してほしいものだ。