四周目 肆
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杏寿郎さんがまた職権濫用した。まだ柱でもない一般隊士だからただ単に御館様に直談判してわがままを言った、ともいう。
まだ杏寿郎さんの正式な継子でもないのに、杏寿郎さんとの任務が増えたのだ。できる限り一緒の任務にしてほしいと、そうわがままを言ったらしい。
私も恋路にはわがままに生きると決めたから何も言えないけど、常に一緒にいたいから任務まで一緒って……さすがにやりすぎな気がするよ杏寿郎さん。
あ、でも御館様は杏寿郎さんが柱になる前からすでに私を継子として認識していたとの話だから、結局のところあまり変化はないのかな……?
それにしては合同任務が格段に増えた気がする。
嫌なわけではないし、喜んでおこう。
「師範!待ちました?」
「いいや、今しがた来たばかりだな!」
待ち合わせ先は任務地になる山の入り口。この先の山街道の途中に鬼が出るとの噂だ。
向こう側の町に行くにもこの道を通らないといけない。早く鬼を退治せねば、困るのは市井の人々だ。
鬼の情報や任務について今一度口頭で確認し合いながら、警戒だけは怠らずゆるりと進む。
時間帯は夜だけどこうやってお外で待ち合わせして行く感じ、まるでデートみたいだ。うきうき心が弾んできてスキップの一つでもしたくなる。
って、いけないいけない。任務なんだから気を引き締めてかからないと。ここは鬼の出る山の街道真っ只中よ。
……でもこれが任務じゃなくて。
「普通に二人で出かける用事ならいいのだがなあ」
!?
「ふふっ……師範もそう思うんだ?」
「ああ。さすればその呼び名とて、師範ではなくなるからな。隊服ではなく俺が贈った着物で着飾った朝緋の姿を見られるかもと思うと、任務以外での外出を望みたくもなる」
「じゃあ早くそういう日がくるように、鬼退治に励みますか」
「そうだな」
木々が揺れる。森がおどろおどろしく哭く。
その瞬間、鬼が森の奥から人の肉欲しさに飛び出してきた。
けど残念だったね。私達はただの人間じゃない。鬼を狩る側の人間……鬼の天敵の鬼殺隊だ。
「俺は下から追い込むから朝緋は上から頼む!」
「わかりました!!」
私達が日輪刀を持つ鬼殺隊だと気がついた鬼が、あわてて方向転換する。山街道を逃げる鬼に向かって、私は木々の上からその頸を付け狙った。
杏寿郎さんは走り追いかけ、地上から鬼の頸を狙い定める。
呼吸を合わせての攻撃。
二本の炎揺らめく日輪刀が夜を煌々と光に染め上げる。
「炎の呼吸、参ノ型・気炎万象!」
「炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!」
炎の獣がそのあぎとで噛み砕くが如く、上からの気炎万象と下からの昇り炎天で鬼を捕らえる。
二人の炎によって鬼の頸が勢いよく跳び、燃え尽きるように消えていった。
火の粉飛ぶ中、並んで降り立ち日輪刀を鞘に収める。
「鬼との逢引は味気ない物になりましたね。もう終わっちゃった」
「こらこら朝緋、戻って報告書を上げ終えるまで油断は禁物だぞ?それに、これから朝までは俺との逢引の時間だ……」
「報告書を上げるっていう逢引?」
「……むぅ」
色気のない報告書を書くという逢引を提示してみたら、歩くスピードがかなり落ちた。
これはお借りしている藤の家紋の家までの道で、夜のおさんぽデートかな?
鬼が出るような夜の時間帯だから町のどのお店も開いてはいないけれど、道端に広がり群生した濃い桃色の百日紅が夜の闇にも立派に咲いている。
それらで花狩りを楽しみながら並んで歩く。
「もうすぐ秋が来ますねぇ……秋になったら紅葉狩りに行きたいです」
「紅葉狩りか!いいな!だが食べ物が美味しい季節でもある。今年はさつまいもをたくさん食べたいなぁ」
「今年は、じゃなくて今年も、でしょ。大丈夫、今年もうちのお芋は多分豊作ですよー。全く、師範ってば花より団子なんだから」
「……朝緋、まだ任務中の一端ではあるが、鬼は狩り終えたぞ。呼び名は?」
「そうでしたね、杏寿郎さん」
呼び名を直して私から指を絡めて手を繋いでみれば強く握り返され、とろりと細められた杏寿郎さんの目とかち合った。
どちらからともなく、唇を重ねる。小鳥が啄むような小さな小さな口付けを。
私達は任務後、安全なものに変わった静かな夜に、こうしてゆっくりとデートをすることが多かった。
その頃、胡蝶しのぶが蟲柱に就任した。
お祝いの言葉を伝えに訪れた時、私は偶然にも杏寿郎さんと一緒だった。
あまり周囲に言わないようにしているけど、本当は周りに私のことを触れ回りたくてたまらない杏寿郎さんが、しのぶにだけは恋仲になったことを嬉々として報告していた。
ああもう、柱になったことのお祝いに来ただけで、そんなプライベート話をしに来たわけじゃないのに。なんで今報告するかな……。
出来れば、ゆっくりお茶でもしながら私から報告したかったのに。そうすれば角も立たない。今回の主役はしのぶなのよ?
しのぶはカナエさんの死以来、前よりも感情を殺しカナエさんを模した声色をつかうようになってしまったけれど、その根本は変わらない。
私の肩を抱いてデレデレ状態の杏寿郎さんにただ一言。
「煉獄さん爆発しやがれ、ですよ」
にっこりと笑いながら毒混じりに返した。
うわ懐かしい言葉!その言葉、こんな昔からあったっけ?
時を同じくして、私に妹弟子が出来た。
杏寿郎さんが鬼殺隊士にとスカウトしてきた甘露寺蜜璃だ。
私も住む煉獄家生家を主な拠点として修行をしているので、『前』と同じで仲良くなるのも早く、私も任務と稽古にはやり甲斐がより出るようになった。
もちろん、料理の作り甲斐もより一層感じるようになった。だって、蜜璃はたくさん食べるし、それも全て美味しそうに食べるんだもの。それこそ、杏寿郎さん以上に美味しそうにだ。たくさん作りたくもなる!
いっぱい食べる君が好きだよ、蜜璃。
そんな蜜璃は、杏寿郎さんが稽古をつけに生家に帰る度、私と杏寿郎さんが揃う瞬間や会話する瞬間全てにきゅんきゅんしているようだった。
まだ恋仲なことを言っていなかったのにな。なんと聡い!さすがは炎の呼吸を恋の呼吸として昇華するだけはある。
それからすぐに恋仲であることを伝えたら、余計にきゅんきゅんして私達の姿をハードウォッチングか何かのように影ながら眺めるようになった……。変なことしてるわけじゃないよ?でも見られるのはなんだか恥ずかしい。
まだ杏寿郎さんの正式な継子でもないのに、杏寿郎さんとの任務が増えたのだ。できる限り一緒の任務にしてほしいと、そうわがままを言ったらしい。
私も恋路にはわがままに生きると決めたから何も言えないけど、常に一緒にいたいから任務まで一緒って……さすがにやりすぎな気がするよ杏寿郎さん。
あ、でも御館様は杏寿郎さんが柱になる前からすでに私を継子として認識していたとの話だから、結局のところあまり変化はないのかな……?
それにしては合同任務が格段に増えた気がする。
嫌なわけではないし、喜んでおこう。
「師範!待ちました?」
「いいや、今しがた来たばかりだな!」
待ち合わせ先は任務地になる山の入り口。この先の山街道の途中に鬼が出るとの噂だ。
向こう側の町に行くにもこの道を通らないといけない。早く鬼を退治せねば、困るのは市井の人々だ。
鬼の情報や任務について今一度口頭で確認し合いながら、警戒だけは怠らずゆるりと進む。
時間帯は夜だけどこうやってお外で待ち合わせして行く感じ、まるでデートみたいだ。うきうき心が弾んできてスキップの一つでもしたくなる。
って、いけないいけない。任務なんだから気を引き締めてかからないと。ここは鬼の出る山の街道真っ只中よ。
……でもこれが任務じゃなくて。
「普通に二人で出かける用事ならいいのだがなあ」
!?
「ふふっ……師範もそう思うんだ?」
「ああ。さすればその呼び名とて、師範ではなくなるからな。隊服ではなく俺が贈った着物で着飾った朝緋の姿を見られるかもと思うと、任務以外での外出を望みたくもなる」
「じゃあ早くそういう日がくるように、鬼退治に励みますか」
「そうだな」
木々が揺れる。森がおどろおどろしく哭く。
その瞬間、鬼が森の奥から人の肉欲しさに飛び出してきた。
けど残念だったね。私達はただの人間じゃない。鬼を狩る側の人間……鬼の天敵の鬼殺隊だ。
「俺は下から追い込むから朝緋は上から頼む!」
「わかりました!!」
私達が日輪刀を持つ鬼殺隊だと気がついた鬼が、あわてて方向転換する。山街道を逃げる鬼に向かって、私は木々の上からその頸を付け狙った。
杏寿郎さんは走り追いかけ、地上から鬼の頸を狙い定める。
呼吸を合わせての攻撃。
二本の炎揺らめく日輪刀が夜を煌々と光に染め上げる。
「炎の呼吸、参ノ型・気炎万象!」
「炎の呼吸、弐ノ型・昇り炎天!」
炎の獣がそのあぎとで噛み砕くが如く、上からの気炎万象と下からの昇り炎天で鬼を捕らえる。
二人の炎によって鬼の頸が勢いよく跳び、燃え尽きるように消えていった。
火の粉飛ぶ中、並んで降り立ち日輪刀を鞘に収める。
「鬼との逢引は味気ない物になりましたね。もう終わっちゃった」
「こらこら朝緋、戻って報告書を上げ終えるまで油断は禁物だぞ?それに、これから朝までは俺との逢引の時間だ……」
「報告書を上げるっていう逢引?」
「……むぅ」
色気のない報告書を書くという逢引を提示してみたら、歩くスピードがかなり落ちた。
これはお借りしている藤の家紋の家までの道で、夜のおさんぽデートかな?
鬼が出るような夜の時間帯だから町のどのお店も開いてはいないけれど、道端に広がり群生した濃い桃色の百日紅が夜の闇にも立派に咲いている。
それらで花狩りを楽しみながら並んで歩く。
「もうすぐ秋が来ますねぇ……秋になったら紅葉狩りに行きたいです」
「紅葉狩りか!いいな!だが食べ物が美味しい季節でもある。今年はさつまいもをたくさん食べたいなぁ」
「今年は、じゃなくて今年も、でしょ。大丈夫、今年もうちのお芋は多分豊作ですよー。全く、師範ってば花より団子なんだから」
「……朝緋、まだ任務中の一端ではあるが、鬼は狩り終えたぞ。呼び名は?」
「そうでしたね、杏寿郎さん」
呼び名を直して私から指を絡めて手を繋いでみれば強く握り返され、とろりと細められた杏寿郎さんの目とかち合った。
どちらからともなく、唇を重ねる。小鳥が啄むような小さな小さな口付けを。
私達は任務後、安全なものに変わった静かな夜に、こうしてゆっくりとデートをすることが多かった。
その頃、胡蝶しのぶが蟲柱に就任した。
お祝いの言葉を伝えに訪れた時、私は偶然にも杏寿郎さんと一緒だった。
あまり周囲に言わないようにしているけど、本当は周りに私のことを触れ回りたくてたまらない杏寿郎さんが、しのぶにだけは恋仲になったことを嬉々として報告していた。
ああもう、柱になったことのお祝いに来ただけで、そんなプライベート話をしに来たわけじゃないのに。なんで今報告するかな……。
出来れば、ゆっくりお茶でもしながら私から報告したかったのに。そうすれば角も立たない。今回の主役はしのぶなのよ?
しのぶはカナエさんの死以来、前よりも感情を殺しカナエさんを模した声色をつかうようになってしまったけれど、その根本は変わらない。
私の肩を抱いてデレデレ状態の杏寿郎さんにただ一言。
「煉獄さん爆発しやがれ、ですよ」
にっこりと笑いながら毒混じりに返した。
うわ懐かしい言葉!その言葉、こんな昔からあったっけ?
時を同じくして、私に妹弟子が出来た。
杏寿郎さんが鬼殺隊士にとスカウトしてきた甘露寺蜜璃だ。
私も住む煉獄家生家を主な拠点として修行をしているので、『前』と同じで仲良くなるのも早く、私も任務と稽古にはやり甲斐がより出るようになった。
もちろん、料理の作り甲斐もより一層感じるようになった。だって、蜜璃はたくさん食べるし、それも全て美味しそうに食べるんだもの。それこそ、杏寿郎さん以上に美味しそうにだ。たくさん作りたくもなる!
いっぱい食べる君が好きだよ、蜜璃。
そんな蜜璃は、杏寿郎さんが稽古をつけに生家に帰る度、私と杏寿郎さんが揃う瞬間や会話する瞬間全てにきゅんきゅんしているようだった。
まだ恋仲なことを言っていなかったのにな。なんと聡い!さすがは炎の呼吸を恋の呼吸として昇華するだけはある。
それからすぐに恋仲であることを伝えたら、余計にきゅんきゅんして私達の姿をハードウォッチングか何かのように影ながら眺めるようになった……。変なことしてるわけじゃないよ?でも見られるのはなんだか恥ずかしい。