四周目 参
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それからしばらく。階級を順調に上げていた私は上弦の弐と相対していた。
「あはは!君は稀血なんだね!そっちのかわいい柱を狙っていたけれど、稀血なら別だ!絶対に食べてあげないとねぇ?」
鉄扇から繰り出される鋭い氷の一振りで、体のあちこちに血が滲む。
致命傷はただの一つもなくじりじりいたぶるようなその攻撃に、相手に遊ばれているだけなのだとわかる。
目の前で笑う、強く恐ろしいこの上弦の弐に。
「凍て曇!!……ふふ、俺が食べて君を救ってあげる……」
「ふっ、ざけんな!喰われてたまりますか……っ!!」
にこりと笑い振るわれる鉄扇。そこから次々に放たれる氷の粉を跳んで避ける。
私の血のひとしずく、爪一枚、毛の一本まで、その全ては私のものでもなく、愛する人のためのもの。稀血であろうがなかろうが、鬼に奪われてはならない。……喰われてはならない。
私だけでなく後ろの麗しい柱、カナエさんの命もまた奪わせるわけにいかない。
私が合流した時、すでに彼女は負傷していた。あの血鬼術を吸ってしまっていた。今もなお、口から血を垂らして息を切らしている。呼吸音がぜいぜいと、苦しそうなものになっている。
どの程度血鬼術を吸っているのかわからないけれど、これ以上前には出させないようにしないと。この鬼を退けて、早く救護班に診せないと……!
「お前の対処法ならわかってる……!その血鬼術、吸わなければいいってね!はああああっ!伍ノ型・炎虎っ!!」
思い切り振り下ろした伍ノ型の剣圧で、氷の粉を吹き飛ばしそのまま鬼を狙う。
私の虎は攻撃力は高くないが、その分動きが速い。上弦の鬼の体を噛み砕いた。だが浅い。これでは一瞬にして治ってしまう。
「ははっよく知ってるね!でも、俺の技の速さについてこれるかな?内臓以前に体が凍ったら動けないよね」
ジリ貧だ。足が凍ってきて速く動けない状態に陥りつつある。吸い込まないように気をつけながら攻撃に転じすぎて、足の動きがまばらになっていたせいだ。此方も速いがあちらはもっと速いというのもある。
ああもう、私の炎の呼吸が実際の炎が出るものだったらよかったのに!そしたらこんな氷なんて溶かせちゃうのに!!
「くっ……!炎の呼吸、肆ノ型・盛炎のうねり!」
尚も放たれる霧のような氷を、燃え盛る炎の渦で巻き込み相殺する。隙をついて勢いよく飛び上がり、そのまま上から頸を狙って日輪刀を斬り下ろす。
「参ノ型・気炎万しょ、……なっ!?」
「蔓蓮華」
ーー速い!私以上の速度で振るわれた鉄扇から、氷の蓮咲く蔓が複数放たれ、私を絡めとろうと迫る。
「君の技はまだまだ未熟みたいだね?俺の蔓から逃げ切れるかな?」
やばいやばいやばい!あれに捕まったら終わりだ……!確実に喰われる!!
最悪の終わりが脳裏をよぎった。
死の危機を前にアドレナリンが全身の毛穴から吹き出すのを感じる。
氷の粉と蔓、どちらも来ない隙間めがけて体をひねり躱す。二度目はない。呼吸を止めて躱しきるにも限界だし、後ろにはカナエさんが……!今動けない彼女を守らなきゃ。守らなきゃ……!
焦る私の後ろから花の風が吹き荒れた。
「花の呼吸、伍ノ型・徒の芍薬!!」
休んでいたはずのカナエさんが素早く動き、連撃の技を放つ。蔓蓮華が次々に砕け散ってゆき、鬼の体を何度も裂いた。
それでも浅く、鬼が後ろに跳んで逃げる。
「カナエさん駄目!血鬼術を吸ってしまう!下がっていて!これ以上は肺が本当に壊死する……っ」
花の呼吸には肺活量が、酸素の量が他の呼吸法よりも必要だ。呼吸を難しくする上弦の弐の血鬼術とは非常に相性が悪い!
ましてや既に肺が傷ついた体だ。これ以上動くなんて無茶すぎる!
「朝緋ちゃんこそ下がりなさ……ごほっ!?」
さすがは柱、蔓蓮華は全て破壊された。
けれど、その粉がカナエさんを直撃した。体に、肺に血鬼術が吸い込まれていく。カナエさんが激しく咳き込み、ビシャリと血を吐いて倒れた。
「カナエさん!!」
「あーあ、稀血ちゃんの言う通り休んでいればよかったのに。痛いよね、かわいそう……。早く救ってあげなくちゃね。
稀血ちゃん、その柱の子と一緒に早くこっちに来てくれない?」
「絶対にいや。彼女も、私も渡しません」
「ならこっちから行くよー!」
「近づかないで!頸を斬るわよ!!」
「吠えてる姿がかわいいねぇ」
カナエさんの体を抱き抱えてどんどん後退する。足がまだ凍って痺れている今、相手からすれば私なんて威嚇してる子猫みたいなものだろう。
日輪刀を握る手が震えている。
「朝緋……ちゃ、私を置いて逃げ、……ぁなた、は稀血……かはっ、」
「もう喋っちゃ駄目!」
じりじり後退する私達に、ゆっくりとした足取りで近づいてくる上弦の弐。私達を獲物として得られると勝利を確信しているのか鉄扇を閉じている。
けれど、そう簡単に勝ちを確信しないほうがいい。私は諦めていない。だから後退を続けているのだから。
「君達の仲間を思いやる心には感動したよ!自分の命を投げ打ってでも相手を助け、思いやる心!
でも大丈夫だからね!もうすぐ太陽は昇るけれど、その前に俺が骨も残さず全部ぜーんぶ食べて救ってあげるか、……ら?」
ジュッッ!!
「ぎゃああああっ!!」
陽の光が鬼の顔に一点集中で降り注ぎ、みるも無残に焼いた。
「太陽!?まだここは影で……っ!なっ、か、鏡っ!!」
何もなしに勝ち目のない戦いに合流するわけがない。太陽が一番早く昇るであろう場所に一枚目を。一枚目からの日を受けられる場所に二枚目を。と、何枚か設置した鏡で陽の光を誘導し、最後の一押しと自分が後ろ手に構えた鏡で太陽光線を直接当てたのだ。
ジュウジュウと焼肉のような音を立てて鬼が顔を、体を焼かれている隙に、カナエさんを抱えて本格的に走る。
もう表の何箇所かでは陽の光が昇り始めた今、明るいところへ逃げてしまえば鬼は私達を諦めるしかない。
「あっ!逃げた!?
……あーあ、救ってあげられなくて残念。またね、稀血の君!」
それ以上太陽に当たらないよう自分も逃げる鬼。その時には既に、私が当てた光の分の傷は塞がっていた。回復速度が上弦の参を超えている。こんなところで弐と参の力の差を目の当たりにするとは……。
それよりカナエさんだ!
上弦の弐の奴、柱の君、とは付け足さなかった。それはつまり。
「カナエさん!?起きて!死んじゃ駄目……っ!」
今にも息絶えそうな状態で、小さな呼吸音を繰り返すばかりのカナエさん。その音だって、何か悪いものが肺に絡んでいるような異物感のあるもので。
「そうだ太陽!血鬼術だから太陽に当てれば少しは……!」
血鬼術なら太陽に当たり続ければ元に戻ることが多い。でもカナエさんのこれは太陽の光の届かぬ体内。日光浴をしたところで通常のスピードで治ることはないだろう。その間に弱り、死んでしまう。
その時、彼女の妹。しのぶが駆けつけた。
「しのぶちゃん!?カナエさんが……!」
「わかってる!姉さん!!姉さん、しっかりして!?」
「しの、ぶ……、」
愛する妹の声に意識は戻った。
けれど上弦の弐の情報を、遺言を言い遺して、カナエさんの目は永遠に閉じた。
慟哭が響き渡る中、しのぶを置いて私はその場を離れる。
自分の怪我なんてどうでもいい。
救護班の静止も聞かず、血が流れるのもそのままに逃げるように離れる。
しのぶの顔を真正面から見られない。
だって、カナエさんは私のせいでーー。
「あはは!君は稀血なんだね!そっちのかわいい柱を狙っていたけれど、稀血なら別だ!絶対に食べてあげないとねぇ?」
鉄扇から繰り出される鋭い氷の一振りで、体のあちこちに血が滲む。
致命傷はただの一つもなくじりじりいたぶるようなその攻撃に、相手に遊ばれているだけなのだとわかる。
目の前で笑う、強く恐ろしいこの上弦の弐に。
「凍て曇!!……ふふ、俺が食べて君を救ってあげる……」
「ふっ、ざけんな!喰われてたまりますか……っ!!」
にこりと笑い振るわれる鉄扇。そこから次々に放たれる氷の粉を跳んで避ける。
私の血のひとしずく、爪一枚、毛の一本まで、その全ては私のものでもなく、愛する人のためのもの。稀血であろうがなかろうが、鬼に奪われてはならない。……喰われてはならない。
私だけでなく後ろの麗しい柱、カナエさんの命もまた奪わせるわけにいかない。
私が合流した時、すでに彼女は負傷していた。あの血鬼術を吸ってしまっていた。今もなお、口から血を垂らして息を切らしている。呼吸音がぜいぜいと、苦しそうなものになっている。
どの程度血鬼術を吸っているのかわからないけれど、これ以上前には出させないようにしないと。この鬼を退けて、早く救護班に診せないと……!
「お前の対処法ならわかってる……!その血鬼術、吸わなければいいってね!はああああっ!伍ノ型・炎虎っ!!」
思い切り振り下ろした伍ノ型の剣圧で、氷の粉を吹き飛ばしそのまま鬼を狙う。
私の虎は攻撃力は高くないが、その分動きが速い。上弦の鬼の体を噛み砕いた。だが浅い。これでは一瞬にして治ってしまう。
「ははっよく知ってるね!でも、俺の技の速さについてこれるかな?内臓以前に体が凍ったら動けないよね」
ジリ貧だ。足が凍ってきて速く動けない状態に陥りつつある。吸い込まないように気をつけながら攻撃に転じすぎて、足の動きがまばらになっていたせいだ。此方も速いがあちらはもっと速いというのもある。
ああもう、私の炎の呼吸が実際の炎が出るものだったらよかったのに!そしたらこんな氷なんて溶かせちゃうのに!!
「くっ……!炎の呼吸、肆ノ型・盛炎のうねり!」
尚も放たれる霧のような氷を、燃え盛る炎の渦で巻き込み相殺する。隙をついて勢いよく飛び上がり、そのまま上から頸を狙って日輪刀を斬り下ろす。
「参ノ型・気炎万しょ、……なっ!?」
「蔓蓮華」
ーー速い!私以上の速度で振るわれた鉄扇から、氷の蓮咲く蔓が複数放たれ、私を絡めとろうと迫る。
「君の技はまだまだ未熟みたいだね?俺の蔓から逃げ切れるかな?」
やばいやばいやばい!あれに捕まったら終わりだ……!確実に喰われる!!
最悪の終わりが脳裏をよぎった。
死の危機を前にアドレナリンが全身の毛穴から吹き出すのを感じる。
氷の粉と蔓、どちらも来ない隙間めがけて体をひねり躱す。二度目はない。呼吸を止めて躱しきるにも限界だし、後ろにはカナエさんが……!今動けない彼女を守らなきゃ。守らなきゃ……!
焦る私の後ろから花の風が吹き荒れた。
「花の呼吸、伍ノ型・徒の芍薬!!」
休んでいたはずのカナエさんが素早く動き、連撃の技を放つ。蔓蓮華が次々に砕け散ってゆき、鬼の体を何度も裂いた。
それでも浅く、鬼が後ろに跳んで逃げる。
「カナエさん駄目!血鬼術を吸ってしまう!下がっていて!これ以上は肺が本当に壊死する……っ」
花の呼吸には肺活量が、酸素の量が他の呼吸法よりも必要だ。呼吸を難しくする上弦の弐の血鬼術とは非常に相性が悪い!
ましてや既に肺が傷ついた体だ。これ以上動くなんて無茶すぎる!
「朝緋ちゃんこそ下がりなさ……ごほっ!?」
さすがは柱、蔓蓮華は全て破壊された。
けれど、その粉がカナエさんを直撃した。体に、肺に血鬼術が吸い込まれていく。カナエさんが激しく咳き込み、ビシャリと血を吐いて倒れた。
「カナエさん!!」
「あーあ、稀血ちゃんの言う通り休んでいればよかったのに。痛いよね、かわいそう……。早く救ってあげなくちゃね。
稀血ちゃん、その柱の子と一緒に早くこっちに来てくれない?」
「絶対にいや。彼女も、私も渡しません」
「ならこっちから行くよー!」
「近づかないで!頸を斬るわよ!!」
「吠えてる姿がかわいいねぇ」
カナエさんの体を抱き抱えてどんどん後退する。足がまだ凍って痺れている今、相手からすれば私なんて威嚇してる子猫みたいなものだろう。
日輪刀を握る手が震えている。
「朝緋……ちゃ、私を置いて逃げ、……ぁなた、は稀血……かはっ、」
「もう喋っちゃ駄目!」
じりじり後退する私達に、ゆっくりとした足取りで近づいてくる上弦の弐。私達を獲物として得られると勝利を確信しているのか鉄扇を閉じている。
けれど、そう簡単に勝ちを確信しないほうがいい。私は諦めていない。だから後退を続けているのだから。
「君達の仲間を思いやる心には感動したよ!自分の命を投げ打ってでも相手を助け、思いやる心!
でも大丈夫だからね!もうすぐ太陽は昇るけれど、その前に俺が骨も残さず全部ぜーんぶ食べて救ってあげるか、……ら?」
ジュッッ!!
「ぎゃああああっ!!」
陽の光が鬼の顔に一点集中で降り注ぎ、みるも無残に焼いた。
「太陽!?まだここは影で……っ!なっ、か、鏡っ!!」
何もなしに勝ち目のない戦いに合流するわけがない。太陽が一番早く昇るであろう場所に一枚目を。一枚目からの日を受けられる場所に二枚目を。と、何枚か設置した鏡で陽の光を誘導し、最後の一押しと自分が後ろ手に構えた鏡で太陽光線を直接当てたのだ。
ジュウジュウと焼肉のような音を立てて鬼が顔を、体を焼かれている隙に、カナエさんを抱えて本格的に走る。
もう表の何箇所かでは陽の光が昇り始めた今、明るいところへ逃げてしまえば鬼は私達を諦めるしかない。
「あっ!逃げた!?
……あーあ、救ってあげられなくて残念。またね、稀血の君!」
それ以上太陽に当たらないよう自分も逃げる鬼。その時には既に、私が当てた光の分の傷は塞がっていた。回復速度が上弦の参を超えている。こんなところで弐と参の力の差を目の当たりにするとは……。
それよりカナエさんだ!
上弦の弐の奴、柱の君、とは付け足さなかった。それはつまり。
「カナエさん!?起きて!死んじゃ駄目……っ!」
今にも息絶えそうな状態で、小さな呼吸音を繰り返すばかりのカナエさん。その音だって、何か悪いものが肺に絡んでいるような異物感のあるもので。
「そうだ太陽!血鬼術だから太陽に当てれば少しは……!」
血鬼術なら太陽に当たり続ければ元に戻ることが多い。でもカナエさんのこれは太陽の光の届かぬ体内。日光浴をしたところで通常のスピードで治ることはないだろう。その間に弱り、死んでしまう。
その時、彼女の妹。しのぶが駆けつけた。
「しのぶちゃん!?カナエさんが……!」
「わかってる!姉さん!!姉さん、しっかりして!?」
「しの、ぶ……、」
愛する妹の声に意識は戻った。
けれど上弦の弐の情報を、遺言を言い遺して、カナエさんの目は永遠に閉じた。
慟哭が響き渡る中、しのぶを置いて私はその場を離れる。
自分の怪我なんてどうでもいい。
救護班の静止も聞かず、血が流れるのもそのままに逃げるように離れる。
しのぶの顔を真正面から見られない。
だって、カナエさんは私のせいでーー。