二周目 弐
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槇寿朗さん、そして杏寿郎さんに教わり始めたことで、やっと先が明るくみえてきた気がする。
自身の体を痛めつけるかの如くしていた鍛錬も、指導者がいなくてはさまにならず、思ったように動けず。自己鍛錬だけでは、すでに限界が見えている状態だったため大変助かった。
まず私は、槇寿朗さんも言っていた通りに正式な炎の呼吸をこの身に叩き込むことから始めた。
原理さえ頭に入っていれば、あとは努力あるのみだ。基礎体力がなくては何もならない。一に鍛錬、二にも鍛錬。休むときも眠る時も、いついかなる時も呼吸を身につけるべく、絶えることなく鍛錬し続ける。
それこそが、全集中の呼吸・常中の獲得のために、一番手っ取り早い方法。
呼吸法自体は、この体でもこれまですでにおこなってきていて基礎は身についている。基礎は、だ。
だが、それでも体力はどうだ?度重なる走り込みに、素振り、柔軟、筋トレ、蝶屋敷でもやっていたような訓練。それを繰り返してもなかなかついてくれなかった。呼吸のコツを掴んでいても、何にもならない。
体が幼くて小さすぎる。前はこんなに早い歳から訓練していなかったのもあり、バテるのが早い。
常中が……きつい!!
「ああああ゛!もー、痛いっ!」
息が続かない、苦しすぎる。肺も、何もかもが痛い!
体の全てから鼓動が聞こえる。体の全てが、心臓そのものにでもなったようだった。動くだけで。一息吐くだけで、心臓が飛び出してしまうほどの衝撃に見舞われる。
あちらの方では杏寿郎さんが涼しい顔をして木刀を振っているのに。もう常中がしっかり身についているのに。なのに私はなんだ?握って振るとしても木刀ではなく竹刀のままだし、何より弱すぎる。なんと不甲斐ない肉体だ!成長するにつれて、それが顕著になっていく!
一歩進んでも、相手はもっともっと先に進んでいる。……悔しくて涙が出そうだ。いや、もう涙で視界がぼやけきっている。
『前』よりも強い自分に、もっともっと……と焦りが止まらない。
立ち止まってはいけない。動け。杏寿郎さんに早く追いつくんだ。
「まだまだぁ……がんばれ自分。限界を超えろ……できる。やればできる……。素振り!あと千回!」
水も飲まず休憩もせず、ひたすらに鍛錬を続けていれば視界が違う意味でぼやけ始めた。目が回るのは、なぜだろう。思考がうまくまとまらないや。
あっ倒れるーー。そう思った時には遅く、世界がぐるりと回って、私は嘔吐すると共に昏倒した。ぐええ……。
「朝緋っ!?」
倒れる音が聞こえたのだろう、杏寿郎さんと槇寿朗さんが駆け寄ってくるのが地面の上から見えた。
私は杏寿郎さんの手によって抱き起こされた。吐いてるし汚れたら申し訳ないから、あまり触らないで欲しい……。
「朝緋、やりすぎだ」
瞼を閉じていてもぐるぐると目が回る中、槇寿朗さんの声がため息と共に降ってくる。
「そんなに気負っても仕方がない。朝緋は自分の速度でやるのがよかろう」
「うぐ……ごめんなさい」
「休憩がてら、顔を洗いに行きなさい」
大きな体で影ができたのがわかり目を薄く開ければ、呆れたようなそれでいて安心したような顔がこちらを見ていた。
なおも心配する杏寿郎さんにひと言詫びて離れ、休憩しようととぼとぼと井戸場へ向かう。
井戸の水を汲み、水面に映る自身の姿を見て落ち込んだ。
「はあ……鼻血まで出てて最悪」
自分の吐瀉物にまみれて鼻から血を流すという自分のひどいさまに、なんとみっともない姿だろうと涙を落としそうになる。
『以前』はこんなところを杏寿郎さんに見せたりなんてしていなかったと思う。いや、思うではない。吐いた姿なんて杏寿郎さんに見せなかった!
詫びた時も杏寿郎さんは何も言わなかったけれど、嫌われてしまったかもしれない。運良く杏寿郎さんには付着しなかったからいいけど、吐いた姿など見せて気持ち悪いと思われてしまったかもしれない。
女らしさとはかけ離れた自身の姿に、気が気じゃなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたかった!!
それでも時間は待ってはくれない。
先へと進む杏寿郎さんに少しでも追いつくべく、私は常中獲得の訓練に加えて見取り稽古に入った。
見取り稽古は、人と人。つまり槇寿朗さんと他の人が打ち稽古している姿を見るものであり、一番楽だと思うだろう。
だが、実際は違う。
「はぁぁぁぁっ!うぁっ!?」
「まだまだ。それ、向かってこい杏寿郎っ」
「はいっ!」
「朝緋も、ちゃんと見て学べよ!俺の動きを覚えなさい!次は朝緋の番だからな!!」
杏寿郎も朝緋も、何度でも転がすぞ。そう続く言葉に、身が引き締まる思いだ。
「は、はいっ!転がされないように頑張りますっ!!」
槇寿朗さんに教えを乞うことができる機会なんて、もしかしたらそうないかもしれない。
『前』と同じ『轍』を踏み始めているとしたなら、槇寿朗さんはまたも何かの機会に落ちぶれてしまうかもしれない。
瑠火さんが病気に負けないでいられるよう気は張っているつもりだけど、何の病気にいつかかるのかすら私はよく知らないし、槇寿朗さんが瑠火さんの事の他に落ちぶれた真の理由だってわからない。
もちろん、変えられる悲しい未来ならばどんどん変えてしまいたいがそれでも、学べる機会は逃すべきじゃない。
動作、技のタイミングと出し方、相手の動きの読み方。緩急の付け方に至るまで、一挙一動たりとも、目は離せない。
実践も大事だ。師の稽古を見て気持ちが昂っているうちにおこなう事で、メンタル面でも強くなれる。そして動きをまねるように振るうことで、型を覚えていく。
だから、見取り稽古なんてそう楽なものではないのだ。
茶を片手に休憩がてらのんびり見ていていいのは、自分が「師」と呼べる存在になるくらい強くなってからのことで。
いや、師となった者ですら慢心しないのが普通か。
「さあ次は朝緋だ」
「はい、よろしくお願いします」
満身創痍の杏寿郎さんはまだ満足していないようだったが、その場を私に譲ってくれた。握る木刀は軋んでおり、今にも折れそうだった。みていたからわかるが、それほどまでに激しい打ち合いだった。
そして私も、今日からは竹刀ではなく木刀を持つ。
今の肉体に戻ってから初めて握る木刀だ。
竹刀よりも重く、これで打たれたら痛みに泣いてしまうだろう。この体はまだ幼く、痛みに耐性もないのだから。それを握る手にも体にも、思わず力が入った。……ああ、肩の力は抜かねば。
「やぁああああっ!」
全身に酸素を行き渡らせ、一呼吸置いてから、私は木刀を振り上げた。
「朝緋は凄いな!一度見ただけだろうに、もう形ができている!だがまだまだ力が足りてないな」
動きは真似できた。『前』の時に覚えていたものとほぼ同じ動きだった事も大きかろう。
でもそれだけだ。
正確に素早く振るうための、体力と力だけがどうしても足りない。
槇寿朗さんが振り払った一撃で、私の体は一瞬にして地に落とされた。
何度やっても同じ。真似れば真似た分だけ、地面と衝突を繰り返す。私が悪戯に放ってみた炎の呼吸もどきも簡単に受け止められ、手酷い打ち込みで跳ね返された。
「げほっ!」
「よろしい、ここまでだ」
「ぁ、りがと……ございま、すぅ……」
またも吐き戻しそうになってようやく、私の番は終わった。息も絶え絶えにしか、返事も返せない。
「朝緋。お前はもっともっと鍛錬し、力をつけろ。杏寿郎に追いつく気概を持ってだ。
次、杏寿郎!思う存分に向かってこい!」
「はいっ!」
鬼殺隊隊士だった記憶があるからこそ、体と心の速度が一致しない。心ではもっと速く動けるイメージがあるのに、体はそこまで速く動けなくて、力も足りなくて。
それがこんなにも心苦しく大変なことだとは思わなかった。
杏寿郎さんは「最初から形ができているとはすごいな!」なんて褒めてくれたけど、私にあるのはたったそれだけのことなのだ。『前』の経験だけが、私の全て。
ああ、悔しい。もどかしい。
涙の膜のせいか、地面から見上げる空は余計に眩しかった。
自身の体を痛めつけるかの如くしていた鍛錬も、指導者がいなくてはさまにならず、思ったように動けず。自己鍛錬だけでは、すでに限界が見えている状態だったため大変助かった。
まず私は、槇寿朗さんも言っていた通りに正式な炎の呼吸をこの身に叩き込むことから始めた。
原理さえ頭に入っていれば、あとは努力あるのみだ。基礎体力がなくては何もならない。一に鍛錬、二にも鍛錬。休むときも眠る時も、いついかなる時も呼吸を身につけるべく、絶えることなく鍛錬し続ける。
それこそが、全集中の呼吸・常中の獲得のために、一番手っ取り早い方法。
呼吸法自体は、この体でもこれまですでにおこなってきていて基礎は身についている。基礎は、だ。
だが、それでも体力はどうだ?度重なる走り込みに、素振り、柔軟、筋トレ、蝶屋敷でもやっていたような訓練。それを繰り返してもなかなかついてくれなかった。呼吸のコツを掴んでいても、何にもならない。
体が幼くて小さすぎる。前はこんなに早い歳から訓練していなかったのもあり、バテるのが早い。
常中が……きつい!!
「ああああ゛!もー、痛いっ!」
息が続かない、苦しすぎる。肺も、何もかもが痛い!
体の全てから鼓動が聞こえる。体の全てが、心臓そのものにでもなったようだった。動くだけで。一息吐くだけで、心臓が飛び出してしまうほどの衝撃に見舞われる。
あちらの方では杏寿郎さんが涼しい顔をして木刀を振っているのに。もう常中がしっかり身についているのに。なのに私はなんだ?握って振るとしても木刀ではなく竹刀のままだし、何より弱すぎる。なんと不甲斐ない肉体だ!成長するにつれて、それが顕著になっていく!
一歩進んでも、相手はもっともっと先に進んでいる。……悔しくて涙が出そうだ。いや、もう涙で視界がぼやけきっている。
『前』よりも強い自分に、もっともっと……と焦りが止まらない。
立ち止まってはいけない。動け。杏寿郎さんに早く追いつくんだ。
「まだまだぁ……がんばれ自分。限界を超えろ……できる。やればできる……。素振り!あと千回!」
水も飲まず休憩もせず、ひたすらに鍛錬を続けていれば視界が違う意味でぼやけ始めた。目が回るのは、なぜだろう。思考がうまくまとまらないや。
あっ倒れるーー。そう思った時には遅く、世界がぐるりと回って、私は嘔吐すると共に昏倒した。ぐええ……。
「朝緋っ!?」
倒れる音が聞こえたのだろう、杏寿郎さんと槇寿朗さんが駆け寄ってくるのが地面の上から見えた。
私は杏寿郎さんの手によって抱き起こされた。吐いてるし汚れたら申し訳ないから、あまり触らないで欲しい……。
「朝緋、やりすぎだ」
瞼を閉じていてもぐるぐると目が回る中、槇寿朗さんの声がため息と共に降ってくる。
「そんなに気負っても仕方がない。朝緋は自分の速度でやるのがよかろう」
「うぐ……ごめんなさい」
「休憩がてら、顔を洗いに行きなさい」
大きな体で影ができたのがわかり目を薄く開ければ、呆れたようなそれでいて安心したような顔がこちらを見ていた。
なおも心配する杏寿郎さんにひと言詫びて離れ、休憩しようととぼとぼと井戸場へ向かう。
井戸の水を汲み、水面に映る自身の姿を見て落ち込んだ。
「はあ……鼻血まで出てて最悪」
自分の吐瀉物にまみれて鼻から血を流すという自分のひどいさまに、なんとみっともない姿だろうと涙を落としそうになる。
『以前』はこんなところを杏寿郎さんに見せたりなんてしていなかったと思う。いや、思うではない。吐いた姿なんて杏寿郎さんに見せなかった!
詫びた時も杏寿郎さんは何も言わなかったけれど、嫌われてしまったかもしれない。運良く杏寿郎さんには付着しなかったからいいけど、吐いた姿など見せて気持ち悪いと思われてしまったかもしれない。
女らしさとはかけ離れた自身の姿に、気が気じゃなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたかった!!
それでも時間は待ってはくれない。
先へと進む杏寿郎さんに少しでも追いつくべく、私は常中獲得の訓練に加えて見取り稽古に入った。
見取り稽古は、人と人。つまり槇寿朗さんと他の人が打ち稽古している姿を見るものであり、一番楽だと思うだろう。
だが、実際は違う。
「はぁぁぁぁっ!うぁっ!?」
「まだまだ。それ、向かってこい杏寿郎っ」
「はいっ!」
「朝緋も、ちゃんと見て学べよ!俺の動きを覚えなさい!次は朝緋の番だからな!!」
杏寿郎も朝緋も、何度でも転がすぞ。そう続く言葉に、身が引き締まる思いだ。
「は、はいっ!転がされないように頑張りますっ!!」
槇寿朗さんに教えを乞うことができる機会なんて、もしかしたらそうないかもしれない。
『前』と同じ『轍』を踏み始めているとしたなら、槇寿朗さんはまたも何かの機会に落ちぶれてしまうかもしれない。
瑠火さんが病気に負けないでいられるよう気は張っているつもりだけど、何の病気にいつかかるのかすら私はよく知らないし、槇寿朗さんが瑠火さんの事の他に落ちぶれた真の理由だってわからない。
もちろん、変えられる悲しい未来ならばどんどん変えてしまいたいがそれでも、学べる機会は逃すべきじゃない。
動作、技のタイミングと出し方、相手の動きの読み方。緩急の付け方に至るまで、一挙一動たりとも、目は離せない。
実践も大事だ。師の稽古を見て気持ちが昂っているうちにおこなう事で、メンタル面でも強くなれる。そして動きをまねるように振るうことで、型を覚えていく。
だから、見取り稽古なんてそう楽なものではないのだ。
茶を片手に休憩がてらのんびり見ていていいのは、自分が「師」と呼べる存在になるくらい強くなってからのことで。
いや、師となった者ですら慢心しないのが普通か。
「さあ次は朝緋だ」
「はい、よろしくお願いします」
満身創痍の杏寿郎さんはまだ満足していないようだったが、その場を私に譲ってくれた。握る木刀は軋んでおり、今にも折れそうだった。みていたからわかるが、それほどまでに激しい打ち合いだった。
そして私も、今日からは竹刀ではなく木刀を持つ。
今の肉体に戻ってから初めて握る木刀だ。
竹刀よりも重く、これで打たれたら痛みに泣いてしまうだろう。この体はまだ幼く、痛みに耐性もないのだから。それを握る手にも体にも、思わず力が入った。……ああ、肩の力は抜かねば。
「やぁああああっ!」
全身に酸素を行き渡らせ、一呼吸置いてから、私は木刀を振り上げた。
「朝緋は凄いな!一度見ただけだろうに、もう形ができている!だがまだまだ力が足りてないな」
動きは真似できた。『前』の時に覚えていたものとほぼ同じ動きだった事も大きかろう。
でもそれだけだ。
正確に素早く振るうための、体力と力だけがどうしても足りない。
槇寿朗さんが振り払った一撃で、私の体は一瞬にして地に落とされた。
何度やっても同じ。真似れば真似た分だけ、地面と衝突を繰り返す。私が悪戯に放ってみた炎の呼吸もどきも簡単に受け止められ、手酷い打ち込みで跳ね返された。
「げほっ!」
「よろしい、ここまでだ」
「ぁ、りがと……ございま、すぅ……」
またも吐き戻しそうになってようやく、私の番は終わった。息も絶え絶えにしか、返事も返せない。
「朝緋。お前はもっともっと鍛錬し、力をつけろ。杏寿郎に追いつく気概を持ってだ。
次、杏寿郎!思う存分に向かってこい!」
「はいっ!」
鬼殺隊隊士だった記憶があるからこそ、体と心の速度が一致しない。心ではもっと速く動けるイメージがあるのに、体はそこまで速く動けなくて、力も足りなくて。
それがこんなにも心苦しく大変なことだとは思わなかった。
杏寿郎さんは「最初から形ができているとはすごいな!」なんて褒めてくれたけど、私にあるのはたったそれだけのことなのだ。『前』の経験だけが、私の全て。
ああ、悔しい。もどかしい。
涙の膜のせいか、地面から見上げる空は余計に眩しかった。