四周目 参
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千寿郎が出かけた気配を察知し、行動開始。
「父様〜、朝緋です。入りますよぉ〜?」
トントントン、挨拶後に槇寿朗さんの部屋に入らせてもらう。気配はあるけどなんも返事はないし、入っていいはずだ。
「……帰ってきたな朝緋」
怒気強めの声音だ。
うわー怒ってる。怒ってらっしゃる。でも『前』より怒りのレベルがマシだし今の私には心強い味方がついている。
「なぜ瑠火の位牌を手にしている」
「帰還の報告をしていたら、母様が父様に会いたいって言ってる気がしたの」
「……フン」
途端に槇寿朗さんの怒りのゲージが下がる。槇寿朗さんに挨拶するより先に仏間の瑠火さんのところに行っておいて良かった。
「最終選別には行くなと言ったはずだが。鬼殺隊には入るな、鍛錬なぞやめて関わるなと」
「無理です。私はどうしても鬼の頸を取りたい。特にとある強き鬼の頸を。それには鬼殺隊に入るのが一番の近道です」
「強い鬼、それは朝緋の一家を皆殺しにした……?全く、死に急ぎおって」
槇寿朗さんが想像したのは鬼舞辻無惨かもしれない。たしかに大元を叩きさえすれば手っ取り早くていいけれど、私の狙いはそこじゃない。
目の中に参の文字を持つ鬼だ。アレに一撃食らわせなくては、私の怒りは収まらない。
え?金蹴りした奴が何をいうって?回復ができないほど蹴りたかったんですけど。
「そもそもなぜ行くと一言も言わん。お前も杏寿郎と一緒になって俺を馬鹿にしているのか?父親を、そして上官である柱の言うことをなぜ聞かない」
「柱として接するべきは、隊士となった瞬間からだからです。それに父親だというのなら、父として威厳ある行動をして欲しかった」
口を開きかけ、でも槇寿朗さんは閉じた。位牌を前に罵倒できなかったのかもね。
「それでも黙って行ったのはやっぱりよくなかったですね。ごめんなさい」
「謝るくらいなら行かなければよかったものを。そんな怪我までして。着物で上手く隠そうとしているようだが、俺にわからないとでも?」
「お気づきになるとは流石です」
「……傷は残るのか」
「わからないけれど多少は残るかと。私の回復の呼吸はまだまだ未熟ですから」
「そうか。常中の前に、回復の呼吸を完璧にさせておくべきだったな」
瑠火さんの位牌を前にしたからというのも大きいけれど、杏寿郎さんに対するものより娘にとことん甘く感じる槇寿朗さんの態度。
「杏寿郎から帰宅するとの文が来ている」
杏寿郎さんのことを考えたら杏寿郎さんの話題が出た。
槇寿朗さんがチラつかせてきたのは、杏寿郎さんの流れるような美しい、でも力強く大きな文字の書面だった。
「杏寿郎兄さんたらまた無理して帰ってくるの?任務途中じゃ……」
「あいつの任務など知らん。だが杏寿郎は朝緋のことを構いすぎる気があるからな。多少無理してでも任務を終わらせて帰ってくるはずだ」
「……無理しないでいいのに」
「無理をしているのはお前だろう、朝緋」
槇寿朗さんが水薬を差し出してきた。
「痛み止めが入っている薬だ。何か口にしたら飲んでゆっくり休め。
隠から貰った薬だがな」
嬉しかったのに最後に追加された言葉で気分が下降した。隠や蝶屋敷の薬はありえないほどに苦い。
「それとこれも持っていけ」
渡されたのは丁寧に折り畳まれた羽織。
『今まで』もこの身に纏ってきた、美しい羽織だった。
炎柱の羽織に似て非なる熱い熱い、苛烈な青白い炎。私の心や性質をそのまま表現したような青の炎。淡いグラデーションとさりげなく舞い散る桜の花弁は激しく燃え盛る炎の中、女性らしさを醸し出していた。
「その……なんだ、隊士になった祝いだ」
プイとそっぽを向いているが、頬がほんのり赤い。
ふふ、隊士になったの今日だよ?仕立てには一週間はかかるのに。私が隊士になるって信じて待っててくれたんだ。
あの場面で死ななくてよかった。悲しい思いをさせずに済んだ。
「父様、ありがとうございます」
余計な言葉は言わず、ただ礼を述べてその場を後にした。
あとは隊服かあ。まーたあのゲス眼鏡のところに行かないとだ。
家に帰って心底ホッとしたからだろうか、寝初めてしばらく。その日の内に高熱が出た。
やっぱり藤襲山の中じゃ緊張するもんね。帰り道でも倒れるわけにいかないから頑張って歩いちゃうもんね。気が張っていたから痛みもある程度我慢できたし、熱も出さずに強がって強がって……気丈にしていられただけで。
でも高熱とか……。はあ、まだまだ発展途上の回復の呼吸だけじゃ本当に駄目だったのね。ちなみに痛み止めは死ぬほど苦かった。
稲荷寿司の美味さがどこかに飛んで行った……。泣いたわ。
杏寿郎さんは今日の内に帰ってきたのだろうか?任務が終わらなくてやっぱり帰るのを諦めたのだろうか?それとも、来てみれば私が眠っていたからすぐにまた戻った?
帰ってくるとの話だったから会えなくてちょっと残念。今はまた任務に行ってるのかな。無茶してないといいな。
朦朧とする意識で杏寿郎さんを想う。
まどろみの薄暗闇の中で目を開けた瞬間、おっきな瞳と目があった。
「やあおはよう朝緋!いやおそようだな!」
「わあ!?杏じゅろ兄さ、師範!?」
起きた瞬間杏寿郎さんの顔が目の前にあるとか誰が想像する?さすがにびっくりしたわ。頭上からぬっと覗かないでほしい。お化けみたいじゃん!
「うむ俺だ。体調はどうだ?」
ぴとり、額の温度を確かめられ、冷えた手拭いを置かれた。
もしかして看病していてくれた……?熱が粗方下がっているような気がする。まだ気怠さはあるけれどこれって痛みからの熱だし。
「大丈夫、です。
いつ頃からこうして……。ううん、いつお戻りに?」
「ついさっきだな!」
今の時刻と杏寿郎さんの顔を見てわかった。ああ、嘘だな。もっと早くから杏寿郎さんは私のためにとすっ飛んで帰ってきたはずだ。それからずっと看病してくださっていたに違いない。
起きあがろうとしたらすぐに腰に手を添えてくれたことからもわかる。
「何かしてもらいたい事はあるか?欲しいものは?汗はかいているだろう?拭いてやるぞ」
「してほしい事もない、欲しいものもない。そういうのも大丈夫です」
「そうかぁ……」
なんでそんなに残念そうな顔するの。
というか着物がちょっと乱れてる。寝相では乱れない形にだ。絶対これ、杏寿郎さんが勝手に捲って汗かいてるとこ拭いたでしょ。
甲斐甲斐しくお世話してくれるのはいいけど、私も年頃で不安なのでせめて起きてる時にして欲しい。千寿郎もその辺りちゃんと注意してよ……。
「今夜は俺がずっとここについていてやる」
「えっ別にいいですよそんなの……今起きちゃったけど私ももう一回寝ますので、自分のお部屋に戻ってしっかりお休みください」
「なんだなんだ。少し前までは俺と眠っていたではないか」
「いつの話ですか、いつの!大体ここじゃ疲れが取れませんよ?任務だって忙しい中来てるんでしょうし。ちゃんと布団に入っ……て、私の布団じゃなくて自分の!!」
私の体を布団の中にすうるりと戻した挙句、自分の体も滑り込ませてきた。狭い!そろそろ大人用にしないと駄目だわ。
「今の刻限を考えろ。大声を出すな」
抱きしめたりはせず、けれど狭い布団の中しっかり身を寄せてくる。杏寿郎さんの体温がじんわり伝わってきてドキドキが止まらない。また熱が出たらどうする!
「それと隊服を取りに行くと聞いた。その際は俺も同席する。もちろん、朝緋の日輪刀が届く時も同席するからその予定でいてくれ」
「日輪刀はともかく、隊服はもういいですって」
「ーーもういいとは?まあいい。
ほら、ぽーんぽん。熱も下がりかけ。まだ本調子ではないのだ。いいからゆっくり休め」
温かな手が一定のリズムで私のお腹を叩き、そして耳に子守唄にも似た響きの杏寿郎さんの落ち着く声が届く。
ああ〜上瞼と下瞼が仲良くなっちゃう〜。目がとろとろしてきて開いていられない。思考も溶ける。
「あぅ……子供扱いしてぇ……。杏寿郎さん、直ったら久しぶりに稽古つけてくださ、ぐー」
「ああ、稽古もだが逢引もしような。その際もまた、今のように杏寿郎さんと呼んでくれ」
頭を撫でられたのだけ感じ、そして落ちた。
「父様〜、朝緋です。入りますよぉ〜?」
トントントン、挨拶後に槇寿朗さんの部屋に入らせてもらう。気配はあるけどなんも返事はないし、入っていいはずだ。
「……帰ってきたな朝緋」
怒気強めの声音だ。
うわー怒ってる。怒ってらっしゃる。でも『前』より怒りのレベルがマシだし今の私には心強い味方がついている。
「なぜ瑠火の位牌を手にしている」
「帰還の報告をしていたら、母様が父様に会いたいって言ってる気がしたの」
「……フン」
途端に槇寿朗さんの怒りのゲージが下がる。槇寿朗さんに挨拶するより先に仏間の瑠火さんのところに行っておいて良かった。
「最終選別には行くなと言ったはずだが。鬼殺隊には入るな、鍛錬なぞやめて関わるなと」
「無理です。私はどうしても鬼の頸を取りたい。特にとある強き鬼の頸を。それには鬼殺隊に入るのが一番の近道です」
「強い鬼、それは朝緋の一家を皆殺しにした……?全く、死に急ぎおって」
槇寿朗さんが想像したのは鬼舞辻無惨かもしれない。たしかに大元を叩きさえすれば手っ取り早くていいけれど、私の狙いはそこじゃない。
目の中に参の文字を持つ鬼だ。アレに一撃食らわせなくては、私の怒りは収まらない。
え?金蹴りした奴が何をいうって?回復ができないほど蹴りたかったんですけど。
「そもそもなぜ行くと一言も言わん。お前も杏寿郎と一緒になって俺を馬鹿にしているのか?父親を、そして上官である柱の言うことをなぜ聞かない」
「柱として接するべきは、隊士となった瞬間からだからです。それに父親だというのなら、父として威厳ある行動をして欲しかった」
口を開きかけ、でも槇寿朗さんは閉じた。位牌を前に罵倒できなかったのかもね。
「それでも黙って行ったのはやっぱりよくなかったですね。ごめんなさい」
「謝るくらいなら行かなければよかったものを。そんな怪我までして。着物で上手く隠そうとしているようだが、俺にわからないとでも?」
「お気づきになるとは流石です」
「……傷は残るのか」
「わからないけれど多少は残るかと。私の回復の呼吸はまだまだ未熟ですから」
「そうか。常中の前に、回復の呼吸を完璧にさせておくべきだったな」
瑠火さんの位牌を前にしたからというのも大きいけれど、杏寿郎さんに対するものより娘にとことん甘く感じる槇寿朗さんの態度。
「杏寿郎から帰宅するとの文が来ている」
杏寿郎さんのことを考えたら杏寿郎さんの話題が出た。
槇寿朗さんがチラつかせてきたのは、杏寿郎さんの流れるような美しい、でも力強く大きな文字の書面だった。
「杏寿郎兄さんたらまた無理して帰ってくるの?任務途中じゃ……」
「あいつの任務など知らん。だが杏寿郎は朝緋のことを構いすぎる気があるからな。多少無理してでも任務を終わらせて帰ってくるはずだ」
「……無理しないでいいのに」
「無理をしているのはお前だろう、朝緋」
槇寿朗さんが水薬を差し出してきた。
「痛み止めが入っている薬だ。何か口にしたら飲んでゆっくり休め。
隠から貰った薬だがな」
嬉しかったのに最後に追加された言葉で気分が下降した。隠や蝶屋敷の薬はありえないほどに苦い。
「それとこれも持っていけ」
渡されたのは丁寧に折り畳まれた羽織。
『今まで』もこの身に纏ってきた、美しい羽織だった。
炎柱の羽織に似て非なる熱い熱い、苛烈な青白い炎。私の心や性質をそのまま表現したような青の炎。淡いグラデーションとさりげなく舞い散る桜の花弁は激しく燃え盛る炎の中、女性らしさを醸し出していた。
「その……なんだ、隊士になった祝いだ」
プイとそっぽを向いているが、頬がほんのり赤い。
ふふ、隊士になったの今日だよ?仕立てには一週間はかかるのに。私が隊士になるって信じて待っててくれたんだ。
あの場面で死ななくてよかった。悲しい思いをさせずに済んだ。
「父様、ありがとうございます」
余計な言葉は言わず、ただ礼を述べてその場を後にした。
あとは隊服かあ。まーたあのゲス眼鏡のところに行かないとだ。
家に帰って心底ホッとしたからだろうか、寝初めてしばらく。その日の内に高熱が出た。
やっぱり藤襲山の中じゃ緊張するもんね。帰り道でも倒れるわけにいかないから頑張って歩いちゃうもんね。気が張っていたから痛みもある程度我慢できたし、熱も出さずに強がって強がって……気丈にしていられただけで。
でも高熱とか……。はあ、まだまだ発展途上の回復の呼吸だけじゃ本当に駄目だったのね。ちなみに痛み止めは死ぬほど苦かった。
稲荷寿司の美味さがどこかに飛んで行った……。泣いたわ。
杏寿郎さんは今日の内に帰ってきたのだろうか?任務が終わらなくてやっぱり帰るのを諦めたのだろうか?それとも、来てみれば私が眠っていたからすぐにまた戻った?
帰ってくるとの話だったから会えなくてちょっと残念。今はまた任務に行ってるのかな。無茶してないといいな。
朦朧とする意識で杏寿郎さんを想う。
まどろみの薄暗闇の中で目を開けた瞬間、おっきな瞳と目があった。
「やあおはよう朝緋!いやおそようだな!」
「わあ!?杏じゅろ兄さ、師範!?」
起きた瞬間杏寿郎さんの顔が目の前にあるとか誰が想像する?さすがにびっくりしたわ。頭上からぬっと覗かないでほしい。お化けみたいじゃん!
「うむ俺だ。体調はどうだ?」
ぴとり、額の温度を確かめられ、冷えた手拭いを置かれた。
もしかして看病していてくれた……?熱が粗方下がっているような気がする。まだ気怠さはあるけれどこれって痛みからの熱だし。
「大丈夫、です。
いつ頃からこうして……。ううん、いつお戻りに?」
「ついさっきだな!」
今の時刻と杏寿郎さんの顔を見てわかった。ああ、嘘だな。もっと早くから杏寿郎さんは私のためにとすっ飛んで帰ってきたはずだ。それからずっと看病してくださっていたに違いない。
起きあがろうとしたらすぐに腰に手を添えてくれたことからもわかる。
「何かしてもらいたい事はあるか?欲しいものは?汗はかいているだろう?拭いてやるぞ」
「してほしい事もない、欲しいものもない。そういうのも大丈夫です」
「そうかぁ……」
なんでそんなに残念そうな顔するの。
というか着物がちょっと乱れてる。寝相では乱れない形にだ。絶対これ、杏寿郎さんが勝手に捲って汗かいてるとこ拭いたでしょ。
甲斐甲斐しくお世話してくれるのはいいけど、私も年頃で不安なのでせめて起きてる時にして欲しい。千寿郎もその辺りちゃんと注意してよ……。
「今夜は俺がずっとここについていてやる」
「えっ別にいいですよそんなの……今起きちゃったけど私ももう一回寝ますので、自分のお部屋に戻ってしっかりお休みください」
「なんだなんだ。少し前までは俺と眠っていたではないか」
「いつの話ですか、いつの!大体ここじゃ疲れが取れませんよ?任務だって忙しい中来てるんでしょうし。ちゃんと布団に入っ……て、私の布団じゃなくて自分の!!」
私の体を布団の中にすうるりと戻した挙句、自分の体も滑り込ませてきた。狭い!そろそろ大人用にしないと駄目だわ。
「今の刻限を考えろ。大声を出すな」
抱きしめたりはせず、けれど狭い布団の中しっかり身を寄せてくる。杏寿郎さんの体温がじんわり伝わってきてドキドキが止まらない。また熱が出たらどうする!
「それと隊服を取りに行くと聞いた。その際は俺も同席する。もちろん、朝緋の日輪刀が届く時も同席するからその予定でいてくれ」
「日輪刀はともかく、隊服はもういいですって」
「ーーもういいとは?まあいい。
ほら、ぽーんぽん。熱も下がりかけ。まだ本調子ではないのだ。いいからゆっくり休め」
温かな手が一定のリズムで私のお腹を叩き、そして耳に子守唄にも似た響きの杏寿郎さんの落ち着く声が届く。
ああ〜上瞼と下瞼が仲良くなっちゃう〜。目がとろとろしてきて開いていられない。思考も溶ける。
「あぅ……子供扱いしてぇ……。杏寿郎さん、直ったら久しぶりに稽古つけてくださ、ぐー」
「ああ、稽古もだが逢引もしような。その際もまた、今のように杏寿郎さんと呼んでくれ」
頭を撫でられたのだけ感じ、そして落ちた。