四周目 参
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山の動物達、君達のお肉はありがたくいただきます。
仕留めた動物に手をしっかり合わせながら、他の人の戦利品についての声を聞く。
「おい、鹿を仕留めたぞ」
「俺は山の幸ときのこを採りました」
「うんうん。これだけあればなんとか大丈夫ね。戻ろっか!」
獪岳と、ここに来ると言った男性がそれぞれ大きな鹿を。大量の山の幸ときのこを手に入れたみたいだ。きのこも毒のないものだけだし、上出来ぃ〜!
「待ってください朝緋さん、あそこに大物の雉が……」
「ほんとですね!俺も助太刀します」
もういいと思ったけれど欲を出した女性に釣られ、男性が山の幸を置いて手伝いに行ってしまった。
食糧ならこれで足りるんだけど?
「二人とも乱獲はよくないよ。あと二日なんだか、ら…?」
止めようとする私の声を遮るかのように、二人の頭上の高い木々が揺れ……ううん。バキバキと薙ぎ倒されてゆき、そしてーー。
「っ!?」
「……ぇ」
「な、……っ!」
巨大な鬼が現れて、彼らに影を落とした。
「手、手鬼……っ!!」
灰色の肉塊のような全体像は、大量の腕がその体を覆っているから。異形の体を持つその鬼を、手だらけの鬼ということで私は手鬼と呼ぶ。
「鬼!?あれが朝緋が言った異形の……っ」
ニタリ、鬼が笑い、舌舐めずりする。
ベキ!最後の砦ともいうべき、彼らの前の大木が折れた。
「声がすると思ったらやっぱり人間だぁ」
私と獪岳からはまだ遠い。けれど雉を仕留めようとした女性と男性からは近く。
「に……、逃げて!!」
力の限り叫んだと同時に、それぞれが仕留めた戦利品をほっぽり出し散り散りで逃げる。手鬼もまた、追いかけるべく駆け出した。
「何があろうと諦めず足を動かして!逃げて!」
けれどほとんど動かなかった女性はーー。
「あ、あ、あ……うあーーっ!!」
抜いた日輪刀をめちゃくちゃに振り回し、手鬼へと攻撃を仕掛けた。ここまで五日間の戦闘でかなり摩耗した、その刃で。
「!?…駄目っ!その鬼は貴女には斬れな、」
パキリ、刀が折れる音。
「いやぁ!?助けっ……、」
……目を閉じてしまった私が見ていられたのはそこまで。
ぐしゃ。女性が手鬼のその握力で潰され、食われたであろう事が音だけでもわかった。
「狐面じゃないがまあいいかぁ!美味い!美味い!」
美味い美味い、だなんて、杏寿郎さんみたいな言い方をする……!
大事な同期。仲間を食われて悲しくて悔しくて鬼が憎い。けれど、今は私も逃げなくてはいけない状況。
獪岳と共に、まるで速さを競うかのようにして駆け抜ける。
「ひぃっ!あ、ああ、」
その視界の端で、女性の最期をガッツリ見てしまった男性が腰を抜かしたのが見えた。
「足りない、そっちも食べないとぉ……」
鬼の呟く言葉に、次は男性が狙われたと知る。
「!?ーー柱命令っ!早く逃げなさい!立って足を動かせっ!!動けぇー!!」
「は、はいーっ!」
自分達も逃げながらそう呼びかける。
「朝緋は柱じゃねぇだろが!」
「知ってるよ!」
私は柱でも上官でもないけれど、そうやって声を上げれば彼は反射的に動いてくれた。
鬼殺隊について、柱について。その恐ろしさについても皆に教えておいてよかった……。
その間にも木々を薙ぎ倒しながらズドドド追ってくる手鬼。その勢いはどこぞのアニメ映画の神の、真っ黒い成れの果てそのもので。
相変わらず固そうで強そうで、藤襲山にいていいような鬼じゃない。あの様子、人を軽く五十以上食っているだろう。
「あの鬼の腕は日輪刀じゃ斬れないのか?」
「斬れないわけじゃない。でも超々固いし今の私達の力量じゃ倒すのは無理ね」
すっぱり言ったら舌打ちされた。獪岳なら悔しいよね。そうよねえ。
私の場合、継子になってからくらいじゃないとあの鬼に挑んでも勝算が見えない。随分と弱気だよね。私もそう思うけど、私は鬼に対してだと石橋を叩いて渡りたいタイプの人間なのだ。油断禁物。
「今の俺達は逃げるしかないってか。
ん?……あの男遅いぞ!あれじゃ追いつかれちまう」
藤襲山に挑む隊士志望の子達には、まだ常中が身についていない子も多い。全集中の呼吸こそできていても、常中は取得が難しい。私と獪岳が出来ているのが特別凄いのだ。
そして常中取得の有無は足の速さには顕著に出る。
ーー彼はまだ常中が身についていない。まだこれからだ。
「くそ、もう見捨てる他ねぇな」
「え?」
確かにこのままでは彼は先程の女性のように食われて死んでしまう。腕が迫ってる。
助けに戻れば私も同じく食われるだろう。
でも目の前に救えるかもしれない命があるのに、傍観しているだけなんて。
同じ釜の飯を食べた仲間を見捨てるだなんて、そんなの……。
「私にはできない」
ギリ、日輪刀の鞘に手をかける。
「おい、まさか」
「そのまさか、だよっ!」
踵を返し、男性の元へと向かう。
「無謀だ!異形の鬼に挑むなって言ったのは朝緋……っ」
「あの人はそっちに投げ飛ばすから遠くに連れてって!」
「おいっ!……くそが!!」
過去最大の舌打ちが聞こえた。
……まさか私が杏寿郎さんとの約束を破ることになるなんてね。
自分から危険に飛び込んでいくなんて思わなかったよ。
手鬼には手は出さないと決めたのに。見かけても追わないし離れるし隠れるし逃げると。杏寿郎さんからあんなにも、口を酸っぱくして『逃げろ』と言われていたのに。
ああでも手鬼が杏寿郎さんに傷を……いや、杏寿郎さんは傷は受けたけれど無事だったではないか。
下手に手を出してこっちが死んだりなんかしたらそれこそ私の今生の人生は無意味なものになる。
そうなったら、明槻は私の死にいつ気がつくかな。
また幼少期に戻されるのかな。
今回も頑張ったのに、また最初からかあ……考えるだけで心が折れそうだな。
それでも私の足は、攻撃は、もう止まらないし止められやしない。
「私が相手だ!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!あああああっ!!」
心をも燃やし、炎の呼吸を全身に、足に、腕に、刀にまで伝わるように巡らせる。
龍神、地上に放つは一つの大炎。それが両端へと風のように細長く走り抜けていく。
鬼からすれば死を運んでくる不吉の象徴。人間からすれば命の幸運をもたらす高速の一閃、不知火。
振り抜いたその一撃は強く、男性に迫ってきていた手鬼の腕を勢いよく斬り飛ばした。
次いで男性を獪岳がいる方角へ投げ飛ばす。
「うわぁっ!?」
「獪岳っ頼んだよっ!!」
「ちっ!死ぬなよ朝緋っ!死んだら殺す!」
死ぬ気なんて毛頭ないけど、死んだら殺せなくない?
仕留めた動物に手をしっかり合わせながら、他の人の戦利品についての声を聞く。
「おい、鹿を仕留めたぞ」
「俺は山の幸ときのこを採りました」
「うんうん。これだけあればなんとか大丈夫ね。戻ろっか!」
獪岳と、ここに来ると言った男性がそれぞれ大きな鹿を。大量の山の幸ときのこを手に入れたみたいだ。きのこも毒のないものだけだし、上出来ぃ〜!
「待ってください朝緋さん、あそこに大物の雉が……」
「ほんとですね!俺も助太刀します」
もういいと思ったけれど欲を出した女性に釣られ、男性が山の幸を置いて手伝いに行ってしまった。
食糧ならこれで足りるんだけど?
「二人とも乱獲はよくないよ。あと二日なんだか、ら…?」
止めようとする私の声を遮るかのように、二人の頭上の高い木々が揺れ……ううん。バキバキと薙ぎ倒されてゆき、そしてーー。
「っ!?」
「……ぇ」
「な、……っ!」
巨大な鬼が現れて、彼らに影を落とした。
「手、手鬼……っ!!」
灰色の肉塊のような全体像は、大量の腕がその体を覆っているから。異形の体を持つその鬼を、手だらけの鬼ということで私は手鬼と呼ぶ。
「鬼!?あれが朝緋が言った異形の……っ」
ニタリ、鬼が笑い、舌舐めずりする。
ベキ!最後の砦ともいうべき、彼らの前の大木が折れた。
「声がすると思ったらやっぱり人間だぁ」
私と獪岳からはまだ遠い。けれど雉を仕留めようとした女性と男性からは近く。
「に……、逃げて!!」
力の限り叫んだと同時に、それぞれが仕留めた戦利品をほっぽり出し散り散りで逃げる。手鬼もまた、追いかけるべく駆け出した。
「何があろうと諦めず足を動かして!逃げて!」
けれどほとんど動かなかった女性はーー。
「あ、あ、あ……うあーーっ!!」
抜いた日輪刀をめちゃくちゃに振り回し、手鬼へと攻撃を仕掛けた。ここまで五日間の戦闘でかなり摩耗した、その刃で。
「!?…駄目っ!その鬼は貴女には斬れな、」
パキリ、刀が折れる音。
「いやぁ!?助けっ……、」
……目を閉じてしまった私が見ていられたのはそこまで。
ぐしゃ。女性が手鬼のその握力で潰され、食われたであろう事が音だけでもわかった。
「狐面じゃないがまあいいかぁ!美味い!美味い!」
美味い美味い、だなんて、杏寿郎さんみたいな言い方をする……!
大事な同期。仲間を食われて悲しくて悔しくて鬼が憎い。けれど、今は私も逃げなくてはいけない状況。
獪岳と共に、まるで速さを競うかのようにして駆け抜ける。
「ひぃっ!あ、ああ、」
その視界の端で、女性の最期をガッツリ見てしまった男性が腰を抜かしたのが見えた。
「足りない、そっちも食べないとぉ……」
鬼の呟く言葉に、次は男性が狙われたと知る。
「!?ーー柱命令っ!早く逃げなさい!立って足を動かせっ!!動けぇー!!」
「は、はいーっ!」
自分達も逃げながらそう呼びかける。
「朝緋は柱じゃねぇだろが!」
「知ってるよ!」
私は柱でも上官でもないけれど、そうやって声を上げれば彼は反射的に動いてくれた。
鬼殺隊について、柱について。その恐ろしさについても皆に教えておいてよかった……。
その間にも木々を薙ぎ倒しながらズドドド追ってくる手鬼。その勢いはどこぞのアニメ映画の神の、真っ黒い成れの果てそのもので。
相変わらず固そうで強そうで、藤襲山にいていいような鬼じゃない。あの様子、人を軽く五十以上食っているだろう。
「あの鬼の腕は日輪刀じゃ斬れないのか?」
「斬れないわけじゃない。でも超々固いし今の私達の力量じゃ倒すのは無理ね」
すっぱり言ったら舌打ちされた。獪岳なら悔しいよね。そうよねえ。
私の場合、継子になってからくらいじゃないとあの鬼に挑んでも勝算が見えない。随分と弱気だよね。私もそう思うけど、私は鬼に対してだと石橋を叩いて渡りたいタイプの人間なのだ。油断禁物。
「今の俺達は逃げるしかないってか。
ん?……あの男遅いぞ!あれじゃ追いつかれちまう」
藤襲山に挑む隊士志望の子達には、まだ常中が身についていない子も多い。全集中の呼吸こそできていても、常中は取得が難しい。私と獪岳が出来ているのが特別凄いのだ。
そして常中取得の有無は足の速さには顕著に出る。
ーー彼はまだ常中が身についていない。まだこれからだ。
「くそ、もう見捨てる他ねぇな」
「え?」
確かにこのままでは彼は先程の女性のように食われて死んでしまう。腕が迫ってる。
助けに戻れば私も同じく食われるだろう。
でも目の前に救えるかもしれない命があるのに、傍観しているだけなんて。
同じ釜の飯を食べた仲間を見捨てるだなんて、そんなの……。
「私にはできない」
ギリ、日輪刀の鞘に手をかける。
「おい、まさか」
「そのまさか、だよっ!」
踵を返し、男性の元へと向かう。
「無謀だ!異形の鬼に挑むなって言ったのは朝緋……っ」
「あの人はそっちに投げ飛ばすから遠くに連れてって!」
「おいっ!……くそが!!」
過去最大の舌打ちが聞こえた。
……まさか私が杏寿郎さんとの約束を破ることになるなんてね。
自分から危険に飛び込んでいくなんて思わなかったよ。
手鬼には手は出さないと決めたのに。見かけても追わないし離れるし隠れるし逃げると。杏寿郎さんからあんなにも、口を酸っぱくして『逃げろ』と言われていたのに。
ああでも手鬼が杏寿郎さんに傷を……いや、杏寿郎さんは傷は受けたけれど無事だったではないか。
下手に手を出してこっちが死んだりなんかしたらそれこそ私の今生の人生は無意味なものになる。
そうなったら、明槻は私の死にいつ気がつくかな。
また幼少期に戻されるのかな。
今回も頑張ったのに、また最初からかあ……考えるだけで心が折れそうだな。
それでも私の足は、攻撃は、もう止まらないし止められやしない。
「私が相手だ!炎の呼吸、壱ノ型・不知火!!あああああっ!!」
心をも燃やし、炎の呼吸を全身に、足に、腕に、刀にまで伝わるように巡らせる。
龍神、地上に放つは一つの大炎。それが両端へと風のように細長く走り抜けていく。
鬼からすれば死を運んでくる不吉の象徴。人間からすれば命の幸運をもたらす高速の一閃、不知火。
振り抜いたその一撃は強く、男性に迫ってきていた手鬼の腕を勢いよく斬り飛ばした。
次いで男性を獪岳がいる方角へ投げ飛ばす。
「うわぁっ!?」
「獪岳っ頼んだよっ!!」
「ちっ!死ぬなよ朝緋っ!死んだら殺す!」
死ぬ気なんて毛頭ないけど、死んだら殺せなくない?