四周目 参
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まだかなり早い時間。藤襲山までの道すがら、私はのんびり野良猫と戯れながら進んでいた。
道端に生える猫じゃらしでこちょこちょすれば、遊んでもらえると思ったのか他のお猫様もいっぱい着いてくる〜。かーわいー。
「にゃごにゃごー、ほれほれこしょこしょこしょー」
……って、こんなことして遊んでて余裕ありすぎでしょ私。
「お猫様達、私にくっついてくると鬼に食べられちゃうよ〜。持ってるご飯はあげられないし住処にお帰り?」
というか猫の軍団なんてぞろぞろ引き連れていたら、藤襲山に行く途中の往来でも、藤襲山でもなんだと思われてしまう……。
猫をひと撫でして帰そうとする私に、遠くから声が飛んできた。
「朝緋ーーっ!!」
「んん!?」
ドドドドド!!
次いで砂煙を立てて駆けてくる愛しくて眩しい姿が……、って。
速い速い!全集中の走りをこんなところで使わないで!?能力の無駄遣い〜!!
「ぎゃっ!?」
ぎゅうむむむむう〜!!
飛びつく勢いの杏寿郎さんに思い切り抱きしめられた。内臓出ちゃう!もはや熊式鯖折りだよ!?
「杏寿郎兄さ、いや師範!ハグが!ハグが、強すぎる!!」
「刃具などという刀の手入れ道具はわからん!朝緋が行ってしまう直前に会えてよかった!!」
「そ、ですか……とにかく離して……っ」
苦しい苦しいと訴えれば、数秒後にようやく放してもらえた。はー、やっと息ができる。
あーあ、帰そうとしてたとはいえ、お猫様達もびっくりして全員逃げちゃったよ。
「師範は任務続きで忙しくて来れないはずじゃ」
「うむ、やはり気になってな!最速で鬼を討伐してその足で見送りに来た!!」
「最速で……。だからちょっとボロボロなんだね」
わはは!と腰に手を当てて笑う杏寿郎さんは大層急いで来たのがわかる。だって、髪がぺしょぺしょに寝てるし、変な方向に跳ねてるもの。櫛を持っていてよかった。乙女の嗜み!
「いつもは綺麗なおぐしが乱れてるよ。……はい、これでよし」
「む、すまんな!……ん?朝緋はなぜお遊び草なんて持っているんだ」
櫛の他に私の手の中にあるエノコログサを不思議そうに見つめる杏寿郎さん。ああきっと、遠くから見ただけだし、私が猫と戯れている姿は目に入らなかったのね。むしろ私のことしか見ていなかったのかも……?なんてね、自意識過剰か。
「まだ早い時間だったから、猫じゃらしで野良猫と遊んでたのよ。師範が来たら逃げちゃったけどね!
えいえいこしょこしょ〜」
随分と大きな猫……ううん、目の前の獅子のようなおっきいお猫様の顎から首筋にかけてへ、くすぐり攻撃をしかける。むずむずしたのか、杏寿郎さんは眉をへにょんと下げて笑い転げた。
「うわ!?何をするやめろ朝緋……、ふ、っは!わはっ、ひっ」
「ふふふー師範の弱点見つけたり〜」
「っこら!やめなさい!!やり返すぞ!?」
「それは勘弁」
青筋まで立てた彼にすぐ没収された。ちえっ!
「朝緋はずいぶん余裕も自信もあるようだが緊張していないのか?」
「あー、同じようなこと千寿郎にも言われたなぁ」
「気の抜けた返事だがそんな事で大丈夫なのか?油断したら鬼にやられるぞ!むう……なんだか行かせるのが心配になってきたな……」
「そんなに心配しないでよ……。
師範は藤襲山にいる鬼よりもよほど強い鬼を普段から相手にしてるんでしょ?私の事より自分の任務に集中してよ。ここに来たいからって、慌てたり油断したら貴方こそ怪我するよ」
藤襲山の鬼も、杏寿郎さんが相手にする鬼も、どの鬼も危険だ。変わりたての鬼でも、上弦の鬼でもそこに差はない。人間よりも強い鬼達が人間を積極的に襲い、食事にする以上は一瞬の油断が命取り。
「すまん。だが、俺は……、」
「異形の鬼に気をつけろって念を入れにきたんでしょ?大丈夫だって言ってるのに」
「それもそうだが違う!俺が朝緋に会いたかったんだっ!!」
しーん……。
しばしの沈黙が続いたけれど、私の頭の中は盛大なお祭り騒ぎとなっていた。
エンダーーイヤー!の曲は流れ、リンゴンリンゴーンと式場の鐘が鳴り、トランペットが吹き鳴らされ、カラフルな紙吹雪が舞い、神輿もないのにわっしょいわっしょいと掛け声が響き渡る。おっとこれでは芋を食べている時の杏寿郎さんだ。
それでも表面上では照れながらのお礼を述べるに留めた。杏寿郎さんも若干照れていた。
「えっと、あの……。ありがとうございます……」
「あ、ああ……、異形の鬼だけでなく、全てに気をつけろ。君が言っていたように天候などにもだ」
「ええ、気をつけます。
もちろん異形の鬼は見かけたら逃げます。隠れます。戦いません。
あ、別れ道だ……。それじゃ、行ってきますね!」
「うむ!行ってらっしゃい!!」
杏寿郎さんとの別れ道にさしかかる。これからまた違う任務らしく、ここまで繋いでいた手を名残惜しくも放す。
遠くから手を振れば、杏寿郎さんもまた、その手を振りかえしてくれた。
……よし!行こう!!
「無事で帰ってこい……俺の元へ」
杏寿郎さんが愛おしげに、それはもう愛おしげに私の姿を眺めていたなんて、勇み足で藤襲山へと向かう私は知らなかった。
道端に生える猫じゃらしでこちょこちょすれば、遊んでもらえると思ったのか他のお猫様もいっぱい着いてくる〜。かーわいー。
「にゃごにゃごー、ほれほれこしょこしょこしょー」
……って、こんなことして遊んでて余裕ありすぎでしょ私。
「お猫様達、私にくっついてくると鬼に食べられちゃうよ〜。持ってるご飯はあげられないし住処にお帰り?」
というか猫の軍団なんてぞろぞろ引き連れていたら、藤襲山に行く途中の往来でも、藤襲山でもなんだと思われてしまう……。
猫をひと撫でして帰そうとする私に、遠くから声が飛んできた。
「朝緋ーーっ!!」
「んん!?」
ドドドドド!!
次いで砂煙を立てて駆けてくる愛しくて眩しい姿が……、って。
速い速い!全集中の走りをこんなところで使わないで!?能力の無駄遣い〜!!
「ぎゃっ!?」
ぎゅうむむむむう〜!!
飛びつく勢いの杏寿郎さんに思い切り抱きしめられた。内臓出ちゃう!もはや熊式鯖折りだよ!?
「杏寿郎兄さ、いや師範!ハグが!ハグが、強すぎる!!」
「刃具などという刀の手入れ道具はわからん!朝緋が行ってしまう直前に会えてよかった!!」
「そ、ですか……とにかく離して……っ」
苦しい苦しいと訴えれば、数秒後にようやく放してもらえた。はー、やっと息ができる。
あーあ、帰そうとしてたとはいえ、お猫様達もびっくりして全員逃げちゃったよ。
「師範は任務続きで忙しくて来れないはずじゃ」
「うむ、やはり気になってな!最速で鬼を討伐してその足で見送りに来た!!」
「最速で……。だからちょっとボロボロなんだね」
わはは!と腰に手を当てて笑う杏寿郎さんは大層急いで来たのがわかる。だって、髪がぺしょぺしょに寝てるし、変な方向に跳ねてるもの。櫛を持っていてよかった。乙女の嗜み!
「いつもは綺麗なおぐしが乱れてるよ。……はい、これでよし」
「む、すまんな!……ん?朝緋はなぜお遊び草なんて持っているんだ」
櫛の他に私の手の中にあるエノコログサを不思議そうに見つめる杏寿郎さん。ああきっと、遠くから見ただけだし、私が猫と戯れている姿は目に入らなかったのね。むしろ私のことしか見ていなかったのかも……?なんてね、自意識過剰か。
「まだ早い時間だったから、猫じゃらしで野良猫と遊んでたのよ。師範が来たら逃げちゃったけどね!
えいえいこしょこしょ〜」
随分と大きな猫……ううん、目の前の獅子のようなおっきいお猫様の顎から首筋にかけてへ、くすぐり攻撃をしかける。むずむずしたのか、杏寿郎さんは眉をへにょんと下げて笑い転げた。
「うわ!?何をするやめろ朝緋……、ふ、っは!わはっ、ひっ」
「ふふふー師範の弱点見つけたり〜」
「っこら!やめなさい!!やり返すぞ!?」
「それは勘弁」
青筋まで立てた彼にすぐ没収された。ちえっ!
「朝緋はずいぶん余裕も自信もあるようだが緊張していないのか?」
「あー、同じようなこと千寿郎にも言われたなぁ」
「気の抜けた返事だがそんな事で大丈夫なのか?油断したら鬼にやられるぞ!むう……なんだか行かせるのが心配になってきたな……」
「そんなに心配しないでよ……。
師範は藤襲山にいる鬼よりもよほど強い鬼を普段から相手にしてるんでしょ?私の事より自分の任務に集中してよ。ここに来たいからって、慌てたり油断したら貴方こそ怪我するよ」
藤襲山の鬼も、杏寿郎さんが相手にする鬼も、どの鬼も危険だ。変わりたての鬼でも、上弦の鬼でもそこに差はない。人間よりも強い鬼達が人間を積極的に襲い、食事にする以上は一瞬の油断が命取り。
「すまん。だが、俺は……、」
「異形の鬼に気をつけろって念を入れにきたんでしょ?大丈夫だって言ってるのに」
「それもそうだが違う!俺が朝緋に会いたかったんだっ!!」
しーん……。
しばしの沈黙が続いたけれど、私の頭の中は盛大なお祭り騒ぎとなっていた。
エンダーーイヤー!の曲は流れ、リンゴンリンゴーンと式場の鐘が鳴り、トランペットが吹き鳴らされ、カラフルな紙吹雪が舞い、神輿もないのにわっしょいわっしょいと掛け声が響き渡る。おっとこれでは芋を食べている時の杏寿郎さんだ。
それでも表面上では照れながらのお礼を述べるに留めた。杏寿郎さんも若干照れていた。
「えっと、あの……。ありがとうございます……」
「あ、ああ……、異形の鬼だけでなく、全てに気をつけろ。君が言っていたように天候などにもだ」
「ええ、気をつけます。
もちろん異形の鬼は見かけたら逃げます。隠れます。戦いません。
あ、別れ道だ……。それじゃ、行ってきますね!」
「うむ!行ってらっしゃい!!」
杏寿郎さんとの別れ道にさしかかる。これからまた違う任務らしく、ここまで繋いでいた手を名残惜しくも放す。
遠くから手を振れば、杏寿郎さんもまた、その手を振りかえしてくれた。
……よし!行こう!!
「無事で帰ってこい……俺の元へ」
杏寿郎さんが愛おしげに、それはもう愛おしげに私の姿を眺めていたなんて、勇み足で藤襲山へと向かう私は知らなかった。