二周目 壱
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その時、この重い空気を裂くようにスパン!と襖が開け放たれた。
「父上!」
「は、杏寿郎?」
「杏寿郎兄さん……」
いきなりの登場に、目が点になる私と槇寿朗さん。杏寿郎さんが捲し立てるように、いつものでっかでか声量で話し始めた。合わせるように、槇寿朗さんの声も大きくなる。
貴方方、今は夜ですよ。夜。
「朝緋を鬼殺隊に入れたくないからと言って、そこまでくどくど言うのは間違っていると俺は思います!!」
「く、くどくどだとっ!!
杏寿郎!どこから聞いていた!!というか、開けるなら許可を取りなさい!!」
「すみません入ってもよろしいでしょうかっ!!」
「もう入っているだろうっ!!」
「聞いていたのは朝緋は稀血のようだ!というところからですね!!」
「ほぼ全部じゃねぇか!!」
「はいそうです!!
俺は!朝緋が鬼殺隊に入るなら、共に切磋琢磨し、強くなりたい!!」
真っ直ぐキラキラした目で言い放つ杏寿郎さんの心のなんと綺麗な事か。
うう、これが曇りなきまなこ……。私は鬼じゃないけど、この太陽を前に焼かれてしまいそう。
「杏寿郎……お前というやつは……。
はーーー。父として娘には危険な場所ではなく安全な場所にいて欲しいだけだ。普通の家庭を持ち、どこかで幸せに暮らしてほしいと考えている。
朝緋もまた、俺のその気持ちはすでに理解しているぞ」
槇寿朗さんの気持ちは前に聞いた。親心についてはその時にも、そして杏寿郎さんを喪ってから訪れた煉獄家でも嫌というほどわかっている。
だからその言葉にこくりと頷き返す。
「どこかで?鬼殺隊に入らないのであれば、朝緋は俺の嫁になるのでは?」
杏寿郎さんからの爆弾が投下されても、私は頷いたあとのまま固まっていた。口から出たのは小さな「は?」だけだ。
「な、何を戯けたことを言っている杏寿郎!」
「朝緋が言っていました!
俺の笑顔は、食べたいくらい好きなものなのだと!俺の笑顔が好きなら、俺のことも好きで相違ないのでは!
妹というのは建前で、父上もそのつもりで連れてきたのだと思っていました!!」
「………………ぇ」
この杏寿郎さんに、笑顔は好きと言った。告白まがいのようなことも言った。
けれど、無限列車のあの時のように愛は伝えていないし、人の好きと好物の好きが一緒って、今もそう思ってたの!?
いや、杏寿郎さんのことは、私は人の『好き』で合ってるんだけど……。杏寿郎さん側はなんだか毛色がちがうような?
頭痛い。
「杏寿郎兄さん、そもそも妹はお嫁さんになれないよ」
「そうなのか!?」
「あー、まあ。うん……妹なら、なれないが……」
槇寿朗さん、随分と言葉を濁している。
家族として育ててもらってはいるが、まさかと思ったらここも『前』と同じなのだろう。きっと私は養子縁組を結んでいない。ただの居候状態。婚姻は可能だ。
だが杏寿郎さんから妹としての気持ちがある以上は、たとえ気持ちが繋がろうとも婚姻する事などありえない。
それは杏寿郎さんが死の間際に言い放って逝った愛の言葉でも一緒だった。嬉しくとも、共にはならなかったろう。
何より、ここは煉獄家の本家。たかが一分家の私如きが嫁げるわけもなし。
杏寿郎さんのお相手は、すでに良家の娘さんで決まっているだろう。その存在は聞いたことがないし、杏寿郎さんには浮いた話一つないが。
「ふふ。そういった話は、もっと大人になってからですよ、杏寿郎。
朝緋、薬を取りに行ってくれてありがとう。おかげで体が少し楽になりましたよ」
「これくらいお安い御用です。かあさまの為ですから……!」
頓服薬を飲んだのだろうか、体調が少し良さそうな瑠火さんまでもがそこに凛とした佇まいで立っていた。
槇寿朗さんが座布団を勧め、甲斐甲斐しく手を取り座らせている。
瑠火さんの腕の中にいた千寿郎は、槇寿朗さんの腕に移動した。よく寝てるなあ。
「大人になっても貴方が変わらずに朝緋と一緒にいたい。杏寿郎がそう思っていたら、改めて父上に申しなさい」
「はいっ!そうしますっ」
ほとんど口が出せずにいたが、瑠火さんの登場で勇気づけられた。
瑠火さんは槇寿朗さんや、杏寿郎さん、千寿郎……そして私にとっての炎だ。
その存在はいつだって背を押してくれる。
「とうさま。
どちらにせよ、どのような言葉をいただこうとも私は鬼殺隊に入ります。私のように大切な人を亡くす人を減らしたいのです。
鬼殺隊に身を置くための覚悟ならば、とうにできています」
深々と頭を下げてそう言えば、槇寿朗さんは瑠火さんの顔色を伺いながらも考えあぐねていた。
「槇寿朗さん、朝緋は言いつけを守り煉獄家の女として恥ずかしくない行動に努めてきました。その上でのこの言葉。女の覚悟は強いですよ。
そろそろ朝緋の気持ちを汲んであげては?」
「む……そうだな。
わかった。覚悟か……覚悟があるのならば、いいだろう。気は進まないがな」
どこまでも渋る槇寿朗さんに、笑顔の瑠火さんの肘鉄がヒットしたのを見てしまった。壱ノ型不知火も吃驚な速度!
「っ、……まずは呼吸をしっかりと身につける訓練だ。杏寿郎に追いつく勢いでやれ。
本格的な修行はそれからだぞ」
やはり母は強いなあ。
「よかったな!!」
「はいっ!」
自分のことのように喜んでくれる杏寿郎さんと手を取り合う。その手のひらは既に剣胼胝が出来て潰れた跡があり、その皮膚はだいぶ分厚く固くなっていた。
この手と距離を縮められるのはいつになるだろう。
早く、速くならねば。力をつけねば。……追いつかねば。
「父上!」
「は、杏寿郎?」
「杏寿郎兄さん……」
いきなりの登場に、目が点になる私と槇寿朗さん。杏寿郎さんが捲し立てるように、いつものでっかでか声量で話し始めた。合わせるように、槇寿朗さんの声も大きくなる。
貴方方、今は夜ですよ。夜。
「朝緋を鬼殺隊に入れたくないからと言って、そこまでくどくど言うのは間違っていると俺は思います!!」
「く、くどくどだとっ!!
杏寿郎!どこから聞いていた!!というか、開けるなら許可を取りなさい!!」
「すみません入ってもよろしいでしょうかっ!!」
「もう入っているだろうっ!!」
「聞いていたのは朝緋は稀血のようだ!というところからですね!!」
「ほぼ全部じゃねぇか!!」
「はいそうです!!
俺は!朝緋が鬼殺隊に入るなら、共に切磋琢磨し、強くなりたい!!」
真っ直ぐキラキラした目で言い放つ杏寿郎さんの心のなんと綺麗な事か。
うう、これが曇りなきまなこ……。私は鬼じゃないけど、この太陽を前に焼かれてしまいそう。
「杏寿郎……お前というやつは……。
はーーー。父として娘には危険な場所ではなく安全な場所にいて欲しいだけだ。普通の家庭を持ち、どこかで幸せに暮らしてほしいと考えている。
朝緋もまた、俺のその気持ちはすでに理解しているぞ」
槇寿朗さんの気持ちは前に聞いた。親心についてはその時にも、そして杏寿郎さんを喪ってから訪れた煉獄家でも嫌というほどわかっている。
だからその言葉にこくりと頷き返す。
「どこかで?鬼殺隊に入らないのであれば、朝緋は俺の嫁になるのでは?」
杏寿郎さんからの爆弾が投下されても、私は頷いたあとのまま固まっていた。口から出たのは小さな「は?」だけだ。
「な、何を戯けたことを言っている杏寿郎!」
「朝緋が言っていました!
俺の笑顔は、食べたいくらい好きなものなのだと!俺の笑顔が好きなら、俺のことも好きで相違ないのでは!
妹というのは建前で、父上もそのつもりで連れてきたのだと思っていました!!」
「………………ぇ」
この杏寿郎さんに、笑顔は好きと言った。告白まがいのようなことも言った。
けれど、無限列車のあの時のように愛は伝えていないし、人の好きと好物の好きが一緒って、今もそう思ってたの!?
いや、杏寿郎さんのことは、私は人の『好き』で合ってるんだけど……。杏寿郎さん側はなんだか毛色がちがうような?
頭痛い。
「杏寿郎兄さん、そもそも妹はお嫁さんになれないよ」
「そうなのか!?」
「あー、まあ。うん……妹なら、なれないが……」
槇寿朗さん、随分と言葉を濁している。
家族として育ててもらってはいるが、まさかと思ったらここも『前』と同じなのだろう。きっと私は養子縁組を結んでいない。ただの居候状態。婚姻は可能だ。
だが杏寿郎さんから妹としての気持ちがある以上は、たとえ気持ちが繋がろうとも婚姻する事などありえない。
それは杏寿郎さんが死の間際に言い放って逝った愛の言葉でも一緒だった。嬉しくとも、共にはならなかったろう。
何より、ここは煉獄家の本家。たかが一分家の私如きが嫁げるわけもなし。
杏寿郎さんのお相手は、すでに良家の娘さんで決まっているだろう。その存在は聞いたことがないし、杏寿郎さんには浮いた話一つないが。
「ふふ。そういった話は、もっと大人になってからですよ、杏寿郎。
朝緋、薬を取りに行ってくれてありがとう。おかげで体が少し楽になりましたよ」
「これくらいお安い御用です。かあさまの為ですから……!」
頓服薬を飲んだのだろうか、体調が少し良さそうな瑠火さんまでもがそこに凛とした佇まいで立っていた。
槇寿朗さんが座布団を勧め、甲斐甲斐しく手を取り座らせている。
瑠火さんの腕の中にいた千寿郎は、槇寿朗さんの腕に移動した。よく寝てるなあ。
「大人になっても貴方が変わらずに朝緋と一緒にいたい。杏寿郎がそう思っていたら、改めて父上に申しなさい」
「はいっ!そうしますっ」
ほとんど口が出せずにいたが、瑠火さんの登場で勇気づけられた。
瑠火さんは槇寿朗さんや、杏寿郎さん、千寿郎……そして私にとっての炎だ。
その存在はいつだって背を押してくれる。
「とうさま。
どちらにせよ、どのような言葉をいただこうとも私は鬼殺隊に入ります。私のように大切な人を亡くす人を減らしたいのです。
鬼殺隊に身を置くための覚悟ならば、とうにできています」
深々と頭を下げてそう言えば、槇寿朗さんは瑠火さんの顔色を伺いながらも考えあぐねていた。
「槇寿朗さん、朝緋は言いつけを守り煉獄家の女として恥ずかしくない行動に努めてきました。その上でのこの言葉。女の覚悟は強いですよ。
そろそろ朝緋の気持ちを汲んであげては?」
「む……そうだな。
わかった。覚悟か……覚悟があるのならば、いいだろう。気は進まないがな」
どこまでも渋る槇寿朗さんに、笑顔の瑠火さんの肘鉄がヒットしたのを見てしまった。壱ノ型不知火も吃驚な速度!
「っ、……まずは呼吸をしっかりと身につける訓練だ。杏寿郎に追いつく勢いでやれ。
本格的な修行はそれからだぞ」
やはり母は強いなあ。
「よかったな!!」
「はいっ!」
自分のことのように喜んでくれる杏寿郎さんと手を取り合う。その手のひらは既に剣胼胝が出来て潰れた跡があり、その皮膚はだいぶ分厚く固くなっていた。
この手と距離を縮められるのはいつになるだろう。
早く、速くならねば。力をつけねば。……追いつかねば。