四周目 弐
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何ヶ月か経ち、私が行く予定の最終選別の時期が差し迫ってきた頃の事だった。
「はあっ、はあ、これで九百!残り百!!」
木刀の素振りを続けていた私の背後から、かれこれ何年ぶりだろう?久しぶりに聞く腰にくるような低くえっちな、それでいて夏の青空のようにどこまでも爽やかな声がした。
「朝緋は俺が手紙にて指示した修行をしっかり続けているのだな!感心感心!」
「ぇっ、きょ、杏寿ろにぃさ……、いや!師範んん!?」
「ああ!俺だ!!」
「こ、声が……声が……っ」
声が!声が変わっているーーッ!!
「そうだな、声変わりした!自分ではよくわからんが少し低くなった気がするよ」
「ウ、ウワァァァァァ!!」
「ど、どうした!?いきなり倒れ込んで具合が悪くなったか!?」
つい、体全体で驚きと幸せとを表現してしまい、後ろにぱたんと倒れてしまった。具合?すこぶる良すぎる。
「あうう、声がヨ過ぎて倒れただけです……破壊力抜群なのでせめて心の準備をさせてほしかった……!」
ただ、いつ聞いても倒れると思う。
「心配して損した。……うん?声が良い?俺の?」
「そうですぅ……」
それに貴方の声は『あの時』以来だもの。
無限列車の任務で私が死ぬ直前に聞いた、貴方の悲痛な叫び……今でも忘れない。
心臓に悪い最高の声から復活し、プルプルしながらもようやく起き上がる私の耳元に、またも攻撃が加えられた。
「ほう……?朝緋は俺のこの声が好きなのか……」
「ひぃん!だから耳元で囁くの禁止!」
今度は倒れずに足を踏ん張っていられた。よし、耐性がついた……!って、杏寿郎さんの声の扱いは、鬼の音波攻撃か何かか?
「囁くのが駄目ならば、久しぶりに朝緋の匂いが嗅ぎたいものだな」
堂々正面から抱きすくめられ、髪の毛を退けて首筋をまさぐられる。しっとりと汗に濡れた肌に杏寿郎さんの鼻先が触れる瞬間になって、その体をべりりと引き剥がした。
「わーー!わーー!?鍛錬後ですよ!今の私汗臭いよ!嗅ぐのも禁止!!」
「全く臭くないぞ。甘くて美味しそうな朝緋のいい匂いがする……匂いが変わったと俺が言ったあの後からそのままなのだな。熟れた桃のような芳しさ……嬉しいな」
「うわー!もう嗅いでたーー!?」
「ふむ。鍛錬後じゃなければ嗅いでもよかったのか?」
引き剥がしてもなお、抱き締めという拘束は解かれず。
胸元やお腹が密着して離れてくれない。恥ずかしい……。さらに汗かいちゃう!
「んなわけないでしょ!近い!近いってば!!くっ、この!」
「わはは、この拘束を解けないようではまだ俺には勝てそうにないな?」
さすが未来の炎柱様。力強すぎィ……!私も力は増した方だけど、ぜんっぜん敵わない。もちろん、どちらにせよこの人にはどんなに修行したところで勝てないってわかってるよ。
ぜいぜいする私を抱えたまま、縁側に座る未来の炎柱様、煉獄杏寿郎。
ぬいぐるみか何かのように抱きしめられたままなので、そのうち私の鼻も大好きな匂いを拾った。
あ、懐かしい杏寿郎さんの匂いがしてきた……あの頃たくさん嗅いだ、大人の男性の匂い……男くさくて、えっちな……。
杏寿郎さん以上に匂いフェチな私の体が芳しい匂いに誘われて、本能のまますりすりとその頬に頬を擦り付ける。
「む、頬擦りなんかしてどうした」
「ん……、はっ!?す、すみません!」
「別にいいが、頬は痛くないか?今日は髭を剃る予定だったのに忘れていてな!」
んー、確かにちょっとちくちくするような。
……え?髭?杏寿郎さんに髭!?えええ、髭!?
「師範、お髭生えるんだ!?」
「生きているんだから当たり前だろう!?朝緋は俺を何だと思っているんだ。
声変わりし出した頃から目立つようになってきてな!十日に一度くらい剃っている!!」
「へ、へえええええ……」
初めて知ったけど、今までもそうだったんだろうな。
いつ触ってもツルツル……というか私は髭という存在を気にしていなかったから、もしかして私と床を共にする時も、抱きしめてくれた時も、私がチクチクしないようこまめにお剃りして……?
「ンンン゛ッ!!」
きゅううううん!
胸のときめきで心臓痛い!!顔あっつい!!
「ど、どうした!?」
「は、離れてください……顔見ないで!!ちょっと席外しますうううう!!」
じたばた暴れたらようやく拘束を解いてもらえた。
やだもう嬉しさと愛でどうにかなりそう!顔でも洗って気持ち切り替えよう!!
「って、なんで追いかけてくるの!?」
「ん?そんなの朝緋が逃げたからだろう?鬼事か!負けないぞ!!」
誰が鬼事なもんか!席外すって聞いてなかったのかこの人!!
嬉々として追ってくるよ!
「やはり朝緋は足が速いな!!うむ!この足の速さを生かした鍛錬や戦いをするのが良かろうな!!」
「そんなの前から取り入れてますぅー!
あーもーやだー!この人、人の話聞かないよー!
千寿郎ーーっ!って、千寿郎は学校だったうわあああ!父様……もお酒買いに出かけてるひぃーーー!」
「はっはっはっ!残念だったな!!そーれ、捕まえた」
「あ、あわわわわ」
足は速かろうとも、杏寿郎さんの回り込みには勝てず。転がされ抱き上げられ、私は熱い太陽のような鬼に捕まってしまった。
「ん?顔を見るなと言っていたが、いつも通りのかわいい顔しかないではないか。変な朝緋だなあ!
さあ、俺と楽しいお稽古の時間だぞ!」
「ひぃいいい!見られたぁぁあうぉぉぉ!!って、お稽古?」
「君が真剣、俺が木刀での打ち稽古だ!!」
「しんけん……?」
きょとーん。話が見えない中、抱えられたまま煉獄家の道場へと移動した。
そこで渡されたのは、とても見覚えのある日輪刀だった。
「これが今回朝緋の使う日輪刀だ。亡くなった炎の呼吸を使う隊士のものをいただいてきた。刃文にも淡い炎の色が見えるだろう?」
「……お約束を覚えててくれたのですか」
「当たり前だろう!
ずっと探していた!!だがなかなか見つからなくてな!!こんなに遅くなってしまいすまなかった!!」
「んーん、嬉しい。ありがとう」
またこの刀。やっぱり持ち主さんは亡くなってるんだ……。
「此方の持ち主は、いつお亡くなりに?」
「いつなのかは知らんが、鬼に食われて亡くなったとのことだ。今は鬼殺隊共同の墓地に眠っている」
「そう……大切に使わせてもらうね」
機会があればお墓参りに行かせてもらおう。改めてのお礼はその時に。
貴方の刃、またお借りします。その無念を晴らし、そして意志を継ぎますので。
その後、杏寿郎さん相手に何度も打ち稽古に励んだわけだけど……。
私が真剣で杏寿郎さんが木刀を使った稽古でもそんなのハンデにはならなかった。
杏寿郎さんによって、私は呆気なくも幾度となく地に伏す羽目になった。
悔しいけれど、この人に勝つのは難しい。差はどんどん開いている。
「強い……強すぎるぅ……!現役隊士すごい……。ねぇ、師範の今の階級ってどこ?」
「丁だな!」
「わーお。強いわけだ」
道場の冷たくて気持ちいい床と仲良くしつつため息を吐く。
「うん?朝緋も相当の強さになったぞ?癸からではなく辛あたりの階級から始めてもいいくらいにはな!!」
「それはさすがに言い過ぎじゃない?」
目を閉じて息を弾ませながら返す。ん、顔の上に影がかかった。
「朝緋」
「なーに?」
私の顔を上から覗き込む杏寿郎さん。わー、視界が全てかっこいい。
「おそらく最終選別前に直接稽古をつけてあげられるのも、これが最後だ。時間が取れん。
俺から言えることは次の言葉だけだ。藤襲山では決して油断するな。それと、俺が前に教えた鬼についてだが……」
「うん。腕がたくさん生えた異形の鬼のことだね。大丈夫、できる限り近づかないようにする」
「そうしてくれ」
しばしの沈黙。一呼吸置いてから。
「死ぬなよ。生きて戻れ」
真なる願いなのか、懇願するような視線で言われた。
「ふふっ!同じことは師範にも言えますよ。任務にはいつでも死が付き纏うのですから」
「確かに、違いないな。
うむ!元気な姿でまた会おう!」
「はいっ!」
差し出された手を取り起き上がる。大きくて温かく優しい大好きな手。
この手をまた掴めるように、今回の最終選別も無事に終わらせなくちゃね。
「はあっ、はあ、これで九百!残り百!!」
木刀の素振りを続けていた私の背後から、かれこれ何年ぶりだろう?久しぶりに聞く腰にくるような低くえっちな、それでいて夏の青空のようにどこまでも爽やかな声がした。
「朝緋は俺が手紙にて指示した修行をしっかり続けているのだな!感心感心!」
「ぇっ、きょ、杏寿ろにぃさ……、いや!師範んん!?」
「ああ!俺だ!!」
「こ、声が……声が……っ」
声が!声が変わっているーーッ!!
「そうだな、声変わりした!自分ではよくわからんが少し低くなった気がするよ」
「ウ、ウワァァァァァ!!」
「ど、どうした!?いきなり倒れ込んで具合が悪くなったか!?」
つい、体全体で驚きと幸せとを表現してしまい、後ろにぱたんと倒れてしまった。具合?すこぶる良すぎる。
「あうう、声がヨ過ぎて倒れただけです……破壊力抜群なのでせめて心の準備をさせてほしかった……!」
ただ、いつ聞いても倒れると思う。
「心配して損した。……うん?声が良い?俺の?」
「そうですぅ……」
それに貴方の声は『あの時』以来だもの。
無限列車の任務で私が死ぬ直前に聞いた、貴方の悲痛な叫び……今でも忘れない。
心臓に悪い最高の声から復活し、プルプルしながらもようやく起き上がる私の耳元に、またも攻撃が加えられた。
「ほう……?朝緋は俺のこの声が好きなのか……」
「ひぃん!だから耳元で囁くの禁止!」
今度は倒れずに足を踏ん張っていられた。よし、耐性がついた……!って、杏寿郎さんの声の扱いは、鬼の音波攻撃か何かか?
「囁くのが駄目ならば、久しぶりに朝緋の匂いが嗅ぎたいものだな」
堂々正面から抱きすくめられ、髪の毛を退けて首筋をまさぐられる。しっとりと汗に濡れた肌に杏寿郎さんの鼻先が触れる瞬間になって、その体をべりりと引き剥がした。
「わーー!わーー!?鍛錬後ですよ!今の私汗臭いよ!嗅ぐのも禁止!!」
「全く臭くないぞ。甘くて美味しそうな朝緋のいい匂いがする……匂いが変わったと俺が言ったあの後からそのままなのだな。熟れた桃のような芳しさ……嬉しいな」
「うわー!もう嗅いでたーー!?」
「ふむ。鍛錬後じゃなければ嗅いでもよかったのか?」
引き剥がしてもなお、抱き締めという拘束は解かれず。
胸元やお腹が密着して離れてくれない。恥ずかしい……。さらに汗かいちゃう!
「んなわけないでしょ!近い!近いってば!!くっ、この!」
「わはは、この拘束を解けないようではまだ俺には勝てそうにないな?」
さすが未来の炎柱様。力強すぎィ……!私も力は増した方だけど、ぜんっぜん敵わない。もちろん、どちらにせよこの人にはどんなに修行したところで勝てないってわかってるよ。
ぜいぜいする私を抱えたまま、縁側に座る未来の炎柱様、煉獄杏寿郎。
ぬいぐるみか何かのように抱きしめられたままなので、そのうち私の鼻も大好きな匂いを拾った。
あ、懐かしい杏寿郎さんの匂いがしてきた……あの頃たくさん嗅いだ、大人の男性の匂い……男くさくて、えっちな……。
杏寿郎さん以上に匂いフェチな私の体が芳しい匂いに誘われて、本能のまますりすりとその頬に頬を擦り付ける。
「む、頬擦りなんかしてどうした」
「ん……、はっ!?す、すみません!」
「別にいいが、頬は痛くないか?今日は髭を剃る予定だったのに忘れていてな!」
んー、確かにちょっとちくちくするような。
……え?髭?杏寿郎さんに髭!?えええ、髭!?
「師範、お髭生えるんだ!?」
「生きているんだから当たり前だろう!?朝緋は俺を何だと思っているんだ。
声変わりし出した頃から目立つようになってきてな!十日に一度くらい剃っている!!」
「へ、へえええええ……」
初めて知ったけど、今までもそうだったんだろうな。
いつ触ってもツルツル……というか私は髭という存在を気にしていなかったから、もしかして私と床を共にする時も、抱きしめてくれた時も、私がチクチクしないようこまめにお剃りして……?
「ンンン゛ッ!!」
きゅううううん!
胸のときめきで心臓痛い!!顔あっつい!!
「ど、どうした!?」
「は、離れてください……顔見ないで!!ちょっと席外しますうううう!!」
じたばた暴れたらようやく拘束を解いてもらえた。
やだもう嬉しさと愛でどうにかなりそう!顔でも洗って気持ち切り替えよう!!
「って、なんで追いかけてくるの!?」
「ん?そんなの朝緋が逃げたからだろう?鬼事か!負けないぞ!!」
誰が鬼事なもんか!席外すって聞いてなかったのかこの人!!
嬉々として追ってくるよ!
「やはり朝緋は足が速いな!!うむ!この足の速さを生かした鍛錬や戦いをするのが良かろうな!!」
「そんなの前から取り入れてますぅー!
あーもーやだー!この人、人の話聞かないよー!
千寿郎ーーっ!って、千寿郎は学校だったうわあああ!父様……もお酒買いに出かけてるひぃーーー!」
「はっはっはっ!残念だったな!!そーれ、捕まえた」
「あ、あわわわわ」
足は速かろうとも、杏寿郎さんの回り込みには勝てず。転がされ抱き上げられ、私は熱い太陽のような鬼に捕まってしまった。
「ん?顔を見るなと言っていたが、いつも通りのかわいい顔しかないではないか。変な朝緋だなあ!
さあ、俺と楽しいお稽古の時間だぞ!」
「ひぃいいい!見られたぁぁあうぉぉぉ!!って、お稽古?」
「君が真剣、俺が木刀での打ち稽古だ!!」
「しんけん……?」
きょとーん。話が見えない中、抱えられたまま煉獄家の道場へと移動した。
そこで渡されたのは、とても見覚えのある日輪刀だった。
「これが今回朝緋の使う日輪刀だ。亡くなった炎の呼吸を使う隊士のものをいただいてきた。刃文にも淡い炎の色が見えるだろう?」
「……お約束を覚えててくれたのですか」
「当たり前だろう!
ずっと探していた!!だがなかなか見つからなくてな!!こんなに遅くなってしまいすまなかった!!」
「んーん、嬉しい。ありがとう」
またこの刀。やっぱり持ち主さんは亡くなってるんだ……。
「此方の持ち主は、いつお亡くなりに?」
「いつなのかは知らんが、鬼に食われて亡くなったとのことだ。今は鬼殺隊共同の墓地に眠っている」
「そう……大切に使わせてもらうね」
機会があればお墓参りに行かせてもらおう。改めてのお礼はその時に。
貴方の刃、またお借りします。その無念を晴らし、そして意志を継ぎますので。
その後、杏寿郎さん相手に何度も打ち稽古に励んだわけだけど……。
私が真剣で杏寿郎さんが木刀を使った稽古でもそんなのハンデにはならなかった。
杏寿郎さんによって、私は呆気なくも幾度となく地に伏す羽目になった。
悔しいけれど、この人に勝つのは難しい。差はどんどん開いている。
「強い……強すぎるぅ……!現役隊士すごい……。ねぇ、師範の今の階級ってどこ?」
「丁だな!」
「わーお。強いわけだ」
道場の冷たくて気持ちいい床と仲良くしつつため息を吐く。
「うん?朝緋も相当の強さになったぞ?癸からではなく辛あたりの階級から始めてもいいくらいにはな!!」
「それはさすがに言い過ぎじゃない?」
目を閉じて息を弾ませながら返す。ん、顔の上に影がかかった。
「朝緋」
「なーに?」
私の顔を上から覗き込む杏寿郎さん。わー、視界が全てかっこいい。
「おそらく最終選別前に直接稽古をつけてあげられるのも、これが最後だ。時間が取れん。
俺から言えることは次の言葉だけだ。藤襲山では決して油断するな。それと、俺が前に教えた鬼についてだが……」
「うん。腕がたくさん生えた異形の鬼のことだね。大丈夫、できる限り近づかないようにする」
「そうしてくれ」
しばしの沈黙。一呼吸置いてから。
「死ぬなよ。生きて戻れ」
真なる願いなのか、懇願するような視線で言われた。
「ふふっ!同じことは師範にも言えますよ。任務にはいつでも死が付き纏うのですから」
「確かに、違いないな。
うむ!元気な姿でまた会おう!」
「はいっ!」
差し出された手を取り起き上がる。大きくて温かく優しい大好きな手。
この手をまた掴めるように、今回の最終選別も無事に終わらせなくちゃね。