四周目 弐
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「む……、先輩方か……」
「よォ煉獄。ちゃんと鬼の頸は斬れたかよ」
「女に肩を貸してもらってご帰還とは、いいご身分だなおい」
「へへっ下でいい思いしてきたか?」
上に戻れば、隊士達が揃っていた。偉そうに腕を組んでまた下卑た言葉の羅列だなんて……ああ、また怒りが沸いてきた。
けれど私が何か言う前に。行動するその前に、杏寿郎さんが遮った。
「先輩方っ!この子を家に送っていくのでこれで失礼いたします!此度の合同任務は大変勉強になりました!ありがとうございます、お疲れ様でした!!
さあ、家まで送って行こう!来るんだ!!」
「えっ、ちょっ……、」
どこにそんな力を残していたのだろう?杏寿郎さんが私を引っ張り駆けた。
私でなかったら着いていけない速さ。流れる景色。止まったのは隊士が追ってこれぬほど遠くなってから。
「ちょっと!引っ張らないで!?杏寿郎兄さんは怪我人なんだから大人しくして!!」
「かすり傷だ!君の治療で治った!!」
「どこが!?隠そうったって、私の目は誤魔化せませんよっ!骨も折れてるよね!?」
背中をポン!と小さく叩けば。
「ぐぅ゛っ……!?」
呻き声と共にその場に蹲った。
「ほらね?」
「あの場にいつまでも君を留めておけば、隊士達に喧嘩をふっかけるだろう?朝緋は隊士達に怒っている……だから離れたんだ」
痛みにうめく中、笑える話でもないのに杏寿郎さんが笑っている。
何故笑っているのか聞けば、今度はあさっての方向を向いてしまった。
「どこ見てるの。こっち見て話して」
「…………」
「視線を合わせない理由は、小さい時に聞いたから知ってる。視線を合わせずどこを見ているのかわからないお顔の時、貴方は顔に感情を乗せないようにしてるよね。
無理に笑わなくていいし、私の前では素のままでいていい。だからこっち見てよ」
杏寿郎さんの前に垂れた、まだ少し短い横髪を引っ張って顔をこちらに向かせる。
「むっ!強制的に向かせられたんだが!?」
「だって向いてくれないんだもの」
痛かったかな?ごめんね。
「鬼を逃した父様に怒っていた時なんて、感情剥き出しにしてたじゃない。さっきだって、私が鬼に襲われていた時、隊士達にあんなに怒っていた。
杏寿郎兄さんがそうやって怒るのは人が関わる時だけ。それも嬉しいよ?
でもね、自分にされたこと。嫌だったことで怒るのは当然なんだよ。怒っていいと思うよー?」
貴方はすぐに我慢してしまう。だから、私が我慢させないように持っていきたいのだ。
だって、私も我慢はしないのだから。
「それは……そうだが!
そうだ!父上だ!!父上はどうした、日毎に任務放棄が増えていると聞いているが!……うっ!?」
「あまり大声出すと傷に響きます。全く、何回骨を折れば気が済むの……」
「俺の骨などそのうちくっつくだろう!それより任務の放棄など、あってはならない!
そちらの方が大ごとだろう!?」
私の話の中で、槇寿朗さんの話題が出たからか、ぐいぐいと話の流れをそちらに変えようとしてくる。相変わらず強引だなあ。
「もー、話無理やり変えるんだから。
そうだね、そもそもが父様が任務にお酒を持ち込んだり、鬼を取り逃したり、任務を放棄するようになってきたから杏寿郎兄さんがいじめを受ける羽目になってるんだと思う。
父様がきちんとした柱でいれば、誰も貴方に文句はなかったはず」
そりゃあ、多少は嫉妬ややっかみくらいあるよ。それは代々炎柱を輩出してるお家柄的に当然かと。わかりやすく言えばエリートだ。
鬼に大切な人を奪われ、ゼロからのスタートを切らなければならない者と、初めから柱を目指せる要素を持った者では雲泥の差がある。
鬼への憎しみの度合いも違う……。
夜も更けて月明かりだけが照らす中、煉獄家までの道を私の手を引いて歩く杏寿郎さん。
やっと着いた。千寿郎は寝てるかな、夕飯は一人でちゃんと食べただろうか。
「本当に送ってくれなくてもいいのに」
「送っていくと約束した!それに朝緋は鬼に襲われているからな、無事に家まで帰すのは隊士の義務だ。
……何より、俺がもう少し朝緋と一緒にいたか「ありゃ?」話を聞いてくれ朝緋」
引き戸をそっと開けて入ると、三和土に槇寿朗さんの草履が並んでいた。
「父様帰ってるみたい……。遠い任務地と聞いていたから、数日かかると思ってたんだけどなぁ」
今の槇寿朗さんに怪我をした杏寿郎さんを会わせるわけにいかない。
絶対何か言われるよね?だって任務の後だし気が立っているはずだもの。え?いつも気が立っている?それはお酒のせい〜。
「杏寿郎兄さんは、怪我をしてる姿をこれ以上父様に見せない方がよろしいかと」
「??鬼殺隊に所属している以上、怪我は日常茶飯事だと思うが?」
ひそりと会話するその背に、影がかかった。
「日常茶飯事だとしても、そんな怪我を負ってばかりの奴は鬼殺隊に必要ない!!」
いきなり暗がりからの大声はやめてほしい。
「げげっ!父様!?」
「父上……!」
「……ふん、骨折か。弱いな杏寿郎。鬼殺隊などさっさと辞めろ!辞めてしまえ!」
杏寿郎さんの体を上から下までじろりと睨んだ槇寿朗さんがぶっきらぼうに言い放つ。
杏寿郎さんは唇を噛み締めて言葉を耐えた。
「朝緋!お前もだ!お前、こんな時間になるまでどこをほっつき歩いていた!!よもや、鬼の出るような場所に行っていたのではなかろうな!?」
「ひっ」
さすがに柱たるお顔のままぐいぐい詰め寄られると恐ろしい!鬼よりおっかない!
「鬼は俺が退治しました!朝緋は偶然巻き込まれただけです!!」
「ああそのようなものだろうな!千寿郎から観劇に行ったと聞いている!!ここまで遅くなるなど聞いておらんがな!!」
遅くなったからって連絡手段がないんだからしょうがないよね?現代のように携帯電話が普及してるならまだしもさ……。
「も、門限もないしいいでしょ!」
「隊士でもないただの女子が夜遅く出歩くなど門限なくとも言語道断!
奉公人も辞めさせおって!自分達で家事をするというから承諾したというに……!」
「何っ!奉公人はいないのか!?」
お小言が飛んできた瞬間、杏寿郎さんの目が此方を向いた。
「だって、今まで散々親身になって仕えて下さった人達にまで、父様が暴言を吐く姿は見たくなかったんだもの」
だから先手を打って解雇した。
彼女達がしてくれていた仕事を全て請け負って……。
「父様こそ!なんでこんなに帰りが早いのです!?まさかまた……!」
「父上は任務を放棄なされたのですね」
「…………それがどうした」
杏寿郎さんが静かに聞くと、一瞬の沈黙ののち、同じように槇寿朗さんも静かに口を開いた。
「はっ、もしかして依存症……!お酒が足りなくなって満足に刀を振れない……?それとも、父様は任務先で何か嫌なことが……?」
「うるさいっ!!」
「ひゃっ!」
「朝緋……っ!グッ……、」
とうとう拳が飛んできた。
杏寿郎さんが庇ってくれたけど、骨が折れているのに何してるの!?
「杏寿郎兄さん!なんで庇うの!!」」
「俺は朝緋が怪我をする方が嫌だからだ!父上、娘である朝緋にもそれから千寿郎にも手を出すのはおやめください」
「いいえ父様、私に当たるのは結構ですが、杏寿郎兄さんに当たることこそやめて。
父様が見抜いたように、杏寿郎兄さんは骨が折れているのですから」
「朝緋!!」
それにしても、槇寿朗さんは嫌なことがあったのかと聞いた時の反応が違った。
ああ、そっか。救えない命が多かったか。その救えなかった命が、大切な家族と重なって見えたか。
また。……またそういう思いをしてしまったのね。『前』だってそうだったもんね。
槇寿朗さんは心が優しすぎる。なのに言葉は足りない、損な性格をしているから。
「……もういい全員黙れ。お前は出ていけ!杏寿郎!!」
「わかりました。元より、一隊士として鬼に襲われていた『民間人』である朝緋を送り届けにきただけのこと。これで失礼いたします」
「杏寿郎兄さんっ!!父様、酷い……」
玄関から出て行く背中を追いかける。
今一度呼び掛ければ、塀向こうでようやく此方を向いてくれた。
「朝緋。君が俺を思って言ってくれた様々な言葉の数々、とても嬉しかった。
また時間ができたら修行をつけにくる。次は師範として。
ではな!!」
私の頭をぽんぽんと軽く撫でてから、杏寿郎さんは駆けていった。
大きな背中が小さくなって見えなくなるのは早かった。
「杏寿郎、……さん……」
「よォ煉獄。ちゃんと鬼の頸は斬れたかよ」
「女に肩を貸してもらってご帰還とは、いいご身分だなおい」
「へへっ下でいい思いしてきたか?」
上に戻れば、隊士達が揃っていた。偉そうに腕を組んでまた下卑た言葉の羅列だなんて……ああ、また怒りが沸いてきた。
けれど私が何か言う前に。行動するその前に、杏寿郎さんが遮った。
「先輩方っ!この子を家に送っていくのでこれで失礼いたします!此度の合同任務は大変勉強になりました!ありがとうございます、お疲れ様でした!!
さあ、家まで送って行こう!来るんだ!!」
「えっ、ちょっ……、」
どこにそんな力を残していたのだろう?杏寿郎さんが私を引っ張り駆けた。
私でなかったら着いていけない速さ。流れる景色。止まったのは隊士が追ってこれぬほど遠くなってから。
「ちょっと!引っ張らないで!?杏寿郎兄さんは怪我人なんだから大人しくして!!」
「かすり傷だ!君の治療で治った!!」
「どこが!?隠そうったって、私の目は誤魔化せませんよっ!骨も折れてるよね!?」
背中をポン!と小さく叩けば。
「ぐぅ゛っ……!?」
呻き声と共にその場に蹲った。
「ほらね?」
「あの場にいつまでも君を留めておけば、隊士達に喧嘩をふっかけるだろう?朝緋は隊士達に怒っている……だから離れたんだ」
痛みにうめく中、笑える話でもないのに杏寿郎さんが笑っている。
何故笑っているのか聞けば、今度はあさっての方向を向いてしまった。
「どこ見てるの。こっち見て話して」
「…………」
「視線を合わせない理由は、小さい時に聞いたから知ってる。視線を合わせずどこを見ているのかわからないお顔の時、貴方は顔に感情を乗せないようにしてるよね。
無理に笑わなくていいし、私の前では素のままでいていい。だからこっち見てよ」
杏寿郎さんの前に垂れた、まだ少し短い横髪を引っ張って顔をこちらに向かせる。
「むっ!強制的に向かせられたんだが!?」
「だって向いてくれないんだもの」
痛かったかな?ごめんね。
「鬼を逃した父様に怒っていた時なんて、感情剥き出しにしてたじゃない。さっきだって、私が鬼に襲われていた時、隊士達にあんなに怒っていた。
杏寿郎兄さんがそうやって怒るのは人が関わる時だけ。それも嬉しいよ?
でもね、自分にされたこと。嫌だったことで怒るのは当然なんだよ。怒っていいと思うよー?」
貴方はすぐに我慢してしまう。だから、私が我慢させないように持っていきたいのだ。
だって、私も我慢はしないのだから。
「それは……そうだが!
そうだ!父上だ!!父上はどうした、日毎に任務放棄が増えていると聞いているが!……うっ!?」
「あまり大声出すと傷に響きます。全く、何回骨を折れば気が済むの……」
「俺の骨などそのうちくっつくだろう!それより任務の放棄など、あってはならない!
そちらの方が大ごとだろう!?」
私の話の中で、槇寿朗さんの話題が出たからか、ぐいぐいと話の流れをそちらに変えようとしてくる。相変わらず強引だなあ。
「もー、話無理やり変えるんだから。
そうだね、そもそもが父様が任務にお酒を持ち込んだり、鬼を取り逃したり、任務を放棄するようになってきたから杏寿郎兄さんがいじめを受ける羽目になってるんだと思う。
父様がきちんとした柱でいれば、誰も貴方に文句はなかったはず」
そりゃあ、多少は嫉妬ややっかみくらいあるよ。それは代々炎柱を輩出してるお家柄的に当然かと。わかりやすく言えばエリートだ。
鬼に大切な人を奪われ、ゼロからのスタートを切らなければならない者と、初めから柱を目指せる要素を持った者では雲泥の差がある。
鬼への憎しみの度合いも違う……。
夜も更けて月明かりだけが照らす中、煉獄家までの道を私の手を引いて歩く杏寿郎さん。
やっと着いた。千寿郎は寝てるかな、夕飯は一人でちゃんと食べただろうか。
「本当に送ってくれなくてもいいのに」
「送っていくと約束した!それに朝緋は鬼に襲われているからな、無事に家まで帰すのは隊士の義務だ。
……何より、俺がもう少し朝緋と一緒にいたか「ありゃ?」話を聞いてくれ朝緋」
引き戸をそっと開けて入ると、三和土に槇寿朗さんの草履が並んでいた。
「父様帰ってるみたい……。遠い任務地と聞いていたから、数日かかると思ってたんだけどなぁ」
今の槇寿朗さんに怪我をした杏寿郎さんを会わせるわけにいかない。
絶対何か言われるよね?だって任務の後だし気が立っているはずだもの。え?いつも気が立っている?それはお酒のせい〜。
「杏寿郎兄さんは、怪我をしてる姿をこれ以上父様に見せない方がよろしいかと」
「??鬼殺隊に所属している以上、怪我は日常茶飯事だと思うが?」
ひそりと会話するその背に、影がかかった。
「日常茶飯事だとしても、そんな怪我を負ってばかりの奴は鬼殺隊に必要ない!!」
いきなり暗がりからの大声はやめてほしい。
「げげっ!父様!?」
「父上……!」
「……ふん、骨折か。弱いな杏寿郎。鬼殺隊などさっさと辞めろ!辞めてしまえ!」
杏寿郎さんの体を上から下までじろりと睨んだ槇寿朗さんがぶっきらぼうに言い放つ。
杏寿郎さんは唇を噛み締めて言葉を耐えた。
「朝緋!お前もだ!お前、こんな時間になるまでどこをほっつき歩いていた!!よもや、鬼の出るような場所に行っていたのではなかろうな!?」
「ひっ」
さすがに柱たるお顔のままぐいぐい詰め寄られると恐ろしい!鬼よりおっかない!
「鬼は俺が退治しました!朝緋は偶然巻き込まれただけです!!」
「ああそのようなものだろうな!千寿郎から観劇に行ったと聞いている!!ここまで遅くなるなど聞いておらんがな!!」
遅くなったからって連絡手段がないんだからしょうがないよね?現代のように携帯電話が普及してるならまだしもさ……。
「も、門限もないしいいでしょ!」
「隊士でもないただの女子が夜遅く出歩くなど門限なくとも言語道断!
奉公人も辞めさせおって!自分達で家事をするというから承諾したというに……!」
「何っ!奉公人はいないのか!?」
お小言が飛んできた瞬間、杏寿郎さんの目が此方を向いた。
「だって、今まで散々親身になって仕えて下さった人達にまで、父様が暴言を吐く姿は見たくなかったんだもの」
だから先手を打って解雇した。
彼女達がしてくれていた仕事を全て請け負って……。
「父様こそ!なんでこんなに帰りが早いのです!?まさかまた……!」
「父上は任務を放棄なされたのですね」
「…………それがどうした」
杏寿郎さんが静かに聞くと、一瞬の沈黙ののち、同じように槇寿朗さんも静かに口を開いた。
「はっ、もしかして依存症……!お酒が足りなくなって満足に刀を振れない……?それとも、父様は任務先で何か嫌なことが……?」
「うるさいっ!!」
「ひゃっ!」
「朝緋……っ!グッ……、」
とうとう拳が飛んできた。
杏寿郎さんが庇ってくれたけど、骨が折れているのに何してるの!?
「杏寿郎兄さん!なんで庇うの!!」」
「俺は朝緋が怪我をする方が嫌だからだ!父上、娘である朝緋にもそれから千寿郎にも手を出すのはおやめください」
「いいえ父様、私に当たるのは結構ですが、杏寿郎兄さんに当たることこそやめて。
父様が見抜いたように、杏寿郎兄さんは骨が折れているのですから」
「朝緋!!」
それにしても、槇寿朗さんは嫌なことがあったのかと聞いた時の反応が違った。
ああ、そっか。救えない命が多かったか。その救えなかった命が、大切な家族と重なって見えたか。
また。……またそういう思いをしてしまったのね。『前』だってそうだったもんね。
槇寿朗さんは心が優しすぎる。なのに言葉は足りない、損な性格をしているから。
「……もういい全員黙れ。お前は出ていけ!杏寿郎!!」
「わかりました。元より、一隊士として鬼に襲われていた『民間人』である朝緋を送り届けにきただけのこと。これで失礼いたします」
「杏寿郎兄さんっ!!父様、酷い……」
玄関から出て行く背中を追いかける。
今一度呼び掛ければ、塀向こうでようやく此方を向いてくれた。
「朝緋。君が俺を思って言ってくれた様々な言葉の数々、とても嬉しかった。
また時間ができたら修行をつけにくる。次は師範として。
ではな!!」
私の頭をぽんぽんと軽く撫でてから、杏寿郎さんは駆けていった。
大きな背中が小さくなって見えなくなるのは早かった。
「杏寿郎、……さん……」