四周目 弐
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後に残るは、隊士二人と私のみ。
下品な笑みを崩さず、二人が私を囲む。
「まずは有り金全部出してもらおっかな〜」
「随分上等な着物着てるが自分で破いたのかな?もったいないねー?全部脱いで見せてみろよ」
こんな言葉に怯む私ではない。
「下衆が……。
あんたら、一人に寄ってたかってかかって殴りつけて!自分で動かず相手にやらせて!それでも鬼狩りの剣士様!?恥ずかしくないの?恥を知りなさいよ、恥を!!」
怯むどころか、胸ぐらを掴む勢いで食ってかかる私。
「はぁ?恥だと?」
「なんだお前、鬼殺隊の何を知ってるんだ?一般人のくせに偉そうな口を……!」
「見ていればわかるわよ!
手や口を貸してもらう?そんな話よりまずは彼のいう通り一般人の命を救うのが先決!
年功序列も階級も関係ない。強く、そして他者を労い、上手く導ける者が上に立つ!!あんたらにはそれがない!!」
バシン!言った瞬間、平手が飛んできた。
なんだ、大して痛くないな。
「あー、女の子の頬を殴った。それも一般人の。いいんだ?あそこで烏が見てるみたいだけど??あれって鬼狩りさんが使役する伝令役の烏でしょ私知ってる〜!上の人に報告されちゃうね?」
「この……ガキのくせに減らず口を……っ!」
再び平手が飛んできた。けれど、手首を捕まえて地に下ろさせ止める。
「二度は打たせません。
貴方の平手は止まって見える。下手くそで遅い、単調な動き。痛みすら薄い。
お隣の貴方の剣技の型もです。動きが遅い!あんなでは鬼の頸なんて一生取れない!!」
「離せ……っ、く、なんて力だよ!本当に一般人か!?」
「一般人ですよ」
今はまだ、ね。
仕方ないので、離してあげた。
「一般人である私にすら言われて恥ずかしいですねぇ?悔しかったら、まずは剣技を磨いて鬼を狩り、階級をおあげください。でないとあの鬼狩り様にはすぐ抜かされますよ」
言いたいことを全て言い放ち、相手の自尊心をズタズタにする。酷い?ひどくないと思うよ。この程度で潰れるなら、どちらにせよこの先やっていくなんて不可能だから。
それより杏寿郎さんがどうなったのかが心配だ。私も追おう。
もう一人の隊士が杏寿郎さんの邪魔をしていないか、足を引っ張っていないか。……いじめていないか。それが気になるし。
いじめっ子グループの人が相手だと思うと、どうにもこうにも不安だった。
……と、その前に。
「そだそだ、私の下穿き見たでしょ?」
「はぁ?ガキの花柄なんぞ見てねぇわ」
「見たね?自分で記憶を消す、それとも強制的に記憶を消される、どっち?」
拳をヒュンヒュン打ち鳴らし、笑顔で問う。
「じ、自分で消します」
「よろしい」
杏寿郎さんが行った方角には崖があるばかり。鬼は袋の鼠状態で逃げられないはずだから、隊士と杏寿郎さんが上手く協力して頸を取りさえすればどうにでもなる。
けれど、胸騒ぎが止まらなくて。
「……柱の息子だかなんだかしらねぇけど目障りなんだよっ!」
「目障り!?俺が一体君に何をした……!」
言い争う声が聞こえる。
開けた場所に出れば崖の手前、お互い鬼の頸を取ろうとして揉みくちゃになりながら鬼殺に走る隊士二人が見えた。
そして。
「いいから鬼もろとも落ちちまえよ……っ」
「ぐ、何をする……っ」
杏寿郎さんが隊士に突き飛ばされ、鬼と一緒になって崖の下に落ちていった。
なんてこと……っ!
「あんた、今……あの人を突き飛ばしたよね?あんたが落としたのよね?」
「!?お前、さっきの……!!」
「あの人に何かあったら許さない……!!」
今度こそ隊士の胸ぐらを掴み、その場にはっ倒す。不意打ちで攻撃された隊士の体は、いとも簡単に地に伏した。
下を覗き込むと鬼の衣服が転がるばかりで杏寿郎さんがいない。一体どこに……。
でも、鬼の衣服だけということは、つまり頸は斬って滅殺済みということだ。落ちながら斬ったのかもしれない。この状況で自分の体より鬼殺を優先するとは、隊士の鑑だ。
崖の下に行けそうな緩やかな坂状の箇所を見つけ、下へとくだる。
崖下の木々の合間を探せば、杏寿郎さんはすぐに見つかった。
木に体を預けて休んでおられる。
「、……鬼狩り様!」
ここでは師範と呼ぶべきじゃない。私は今、鍛錬を行うような格好はしていないし、杏寿郎さんも隊士達の前で私の名を呼ばなかった。知り合いだとわかれば私までいじめの標的にされかねないと思ったのかも。
ただ、崖の下にまではこないだろうから、どう呼んでも大丈夫そう。
「……、ぅ、朝緋、か……、」
「大丈夫!?うわ、全身打撲まみれじゃないのこれ!?塗るから応急処置用の軟膏貸して!ほら、服脱いで……!」
「打撲まみれですまない……」
湿布なんてない時代、薄荷を使った軟膏を塗った布などを当てる治療が主流で。服を受け取り、打撲痕に彩られた彼の肌に処置を施す。
んーーー!広範囲だなぁ!?
杏寿郎さんの美しい肌になんてことしてくれてんだあの隊士いいいい!!
「ありがとう。けれどどうして朝緋がここに……?何故俺の任務地で鬼に襲われていたんだ?」
「帝都からの帰路でした。あちらを出るのが遅くなってしまって……近道をしようと思ったら鬼と遭遇しました」
「その着物であの道を?危険すぎる!一体何を考えているんだ!朝緋は稀血だろう!」
険しい顔で私の両肩を掴む。
「そんな怖い顔して怒らないでよ。貴方こそこんな崖から落ちちゃってさ!」
「いやあはははは!面目ない!
鬼を追っている最中に鬼によって共に落ちてしまってな!全集中の呼吸が身についていたから死なずに済んだ!!」
カラカラ笑っているその額には、痛みを我慢する汗。無理しちゃってさ!
「……本当に鬼のせいで落ちたの?意地悪されてわざと突き落とされたのではない?」
「あまり隊士を疑わないでくれ!仲間だぞ!!」
「仲間!……仲間、ねえ?
世の中優しい人間ばかりじゃない。鬼でないのに鬼のような考えを持つ人間もいる。
中には疑わざるを得ない人間もいる。裏切る人間もいる。私腹を肥やし、人を傷つける人間もいる。魔が差したと、悪事に手を染める人間だって存在する。
隊士の中にもそういう人間がいてもおかしくはない。だって鬼殺隊士は神でも仏でも、聖人君子でもなく人間ですから」
「鬼の方がマシだ。そう言っているようにも聞こえる」
「そうですね……。単純に『食』にだけ欲の働く鬼の方がマシ。そう思うこともこれから先、多々あるかもしれないね」
そういう意味では鬼の方が純粋で綺麗。禰󠄀豆子ちゃん見ればわかるか。
柱になるまでの道のりの中、杏寿郎さんもきっとさまざまな経験をしてきた。これから先も経験する。
『今まで』そういう話は聞いてこなかったけど、人間の汚いとこも見てきたかも。槇寿朗さんはそういうのにも耐えられなかったこともあり、ああなってしまったのだし。
「今一度聞きます。本当に、突き落とされたわけじゃないんだね?」
「あ、ああ……」
強く聞き、まっすぐ見つめれば目が泳いだ。
「嘘はいけませんよ。庇わなくていい。
貴方、崖の上にいた隊士に突き飛ばされて落ちましたよね。私はあの瞬間を見てました。
貴方がどつかれ、殴られたのもわかっています。……鬼殺隊でいじめが横行しているのですね。
いつからです?」
「……言いたくない」
「はぁ……わかりました。隊服も着られたみたいですし、上に戻りましょう」
杏寿郎さんに肩を貸し、私達は崖の上を目指した。
下品な笑みを崩さず、二人が私を囲む。
「まずは有り金全部出してもらおっかな〜」
「随分上等な着物着てるが自分で破いたのかな?もったいないねー?全部脱いで見せてみろよ」
こんな言葉に怯む私ではない。
「下衆が……。
あんたら、一人に寄ってたかってかかって殴りつけて!自分で動かず相手にやらせて!それでも鬼狩りの剣士様!?恥ずかしくないの?恥を知りなさいよ、恥を!!」
怯むどころか、胸ぐらを掴む勢いで食ってかかる私。
「はぁ?恥だと?」
「なんだお前、鬼殺隊の何を知ってるんだ?一般人のくせに偉そうな口を……!」
「見ていればわかるわよ!
手や口を貸してもらう?そんな話よりまずは彼のいう通り一般人の命を救うのが先決!
年功序列も階級も関係ない。強く、そして他者を労い、上手く導ける者が上に立つ!!あんたらにはそれがない!!」
バシン!言った瞬間、平手が飛んできた。
なんだ、大して痛くないな。
「あー、女の子の頬を殴った。それも一般人の。いいんだ?あそこで烏が見てるみたいだけど??あれって鬼狩りさんが使役する伝令役の烏でしょ私知ってる〜!上の人に報告されちゃうね?」
「この……ガキのくせに減らず口を……っ!」
再び平手が飛んできた。けれど、手首を捕まえて地に下ろさせ止める。
「二度は打たせません。
貴方の平手は止まって見える。下手くそで遅い、単調な動き。痛みすら薄い。
お隣の貴方の剣技の型もです。動きが遅い!あんなでは鬼の頸なんて一生取れない!!」
「離せ……っ、く、なんて力だよ!本当に一般人か!?」
「一般人ですよ」
今はまだ、ね。
仕方ないので、離してあげた。
「一般人である私にすら言われて恥ずかしいですねぇ?悔しかったら、まずは剣技を磨いて鬼を狩り、階級をおあげください。でないとあの鬼狩り様にはすぐ抜かされますよ」
言いたいことを全て言い放ち、相手の自尊心をズタズタにする。酷い?ひどくないと思うよ。この程度で潰れるなら、どちらにせよこの先やっていくなんて不可能だから。
それより杏寿郎さんがどうなったのかが心配だ。私も追おう。
もう一人の隊士が杏寿郎さんの邪魔をしていないか、足を引っ張っていないか。……いじめていないか。それが気になるし。
いじめっ子グループの人が相手だと思うと、どうにもこうにも不安だった。
……と、その前に。
「そだそだ、私の下穿き見たでしょ?」
「はぁ?ガキの花柄なんぞ見てねぇわ」
「見たね?自分で記憶を消す、それとも強制的に記憶を消される、どっち?」
拳をヒュンヒュン打ち鳴らし、笑顔で問う。
「じ、自分で消します」
「よろしい」
杏寿郎さんが行った方角には崖があるばかり。鬼は袋の鼠状態で逃げられないはずだから、隊士と杏寿郎さんが上手く協力して頸を取りさえすればどうにでもなる。
けれど、胸騒ぎが止まらなくて。
「……柱の息子だかなんだかしらねぇけど目障りなんだよっ!」
「目障り!?俺が一体君に何をした……!」
言い争う声が聞こえる。
開けた場所に出れば崖の手前、お互い鬼の頸を取ろうとして揉みくちゃになりながら鬼殺に走る隊士二人が見えた。
そして。
「いいから鬼もろとも落ちちまえよ……っ」
「ぐ、何をする……っ」
杏寿郎さんが隊士に突き飛ばされ、鬼と一緒になって崖の下に落ちていった。
なんてこと……っ!
「あんた、今……あの人を突き飛ばしたよね?あんたが落としたのよね?」
「!?お前、さっきの……!!」
「あの人に何かあったら許さない……!!」
今度こそ隊士の胸ぐらを掴み、その場にはっ倒す。不意打ちで攻撃された隊士の体は、いとも簡単に地に伏した。
下を覗き込むと鬼の衣服が転がるばかりで杏寿郎さんがいない。一体どこに……。
でも、鬼の衣服だけということは、つまり頸は斬って滅殺済みということだ。落ちながら斬ったのかもしれない。この状況で自分の体より鬼殺を優先するとは、隊士の鑑だ。
崖の下に行けそうな緩やかな坂状の箇所を見つけ、下へとくだる。
崖下の木々の合間を探せば、杏寿郎さんはすぐに見つかった。
木に体を預けて休んでおられる。
「、……鬼狩り様!」
ここでは師範と呼ぶべきじゃない。私は今、鍛錬を行うような格好はしていないし、杏寿郎さんも隊士達の前で私の名を呼ばなかった。知り合いだとわかれば私までいじめの標的にされかねないと思ったのかも。
ただ、崖の下にまではこないだろうから、どう呼んでも大丈夫そう。
「……、ぅ、朝緋、か……、」
「大丈夫!?うわ、全身打撲まみれじゃないのこれ!?塗るから応急処置用の軟膏貸して!ほら、服脱いで……!」
「打撲まみれですまない……」
湿布なんてない時代、薄荷を使った軟膏を塗った布などを当てる治療が主流で。服を受け取り、打撲痕に彩られた彼の肌に処置を施す。
んーーー!広範囲だなぁ!?
杏寿郎さんの美しい肌になんてことしてくれてんだあの隊士いいいい!!
「ありがとう。けれどどうして朝緋がここに……?何故俺の任務地で鬼に襲われていたんだ?」
「帝都からの帰路でした。あちらを出るのが遅くなってしまって……近道をしようと思ったら鬼と遭遇しました」
「その着物であの道を?危険すぎる!一体何を考えているんだ!朝緋は稀血だろう!」
険しい顔で私の両肩を掴む。
「そんな怖い顔して怒らないでよ。貴方こそこんな崖から落ちちゃってさ!」
「いやあはははは!面目ない!
鬼を追っている最中に鬼によって共に落ちてしまってな!全集中の呼吸が身についていたから死なずに済んだ!!」
カラカラ笑っているその額には、痛みを我慢する汗。無理しちゃってさ!
「……本当に鬼のせいで落ちたの?意地悪されてわざと突き落とされたのではない?」
「あまり隊士を疑わないでくれ!仲間だぞ!!」
「仲間!……仲間、ねえ?
世の中優しい人間ばかりじゃない。鬼でないのに鬼のような考えを持つ人間もいる。
中には疑わざるを得ない人間もいる。裏切る人間もいる。私腹を肥やし、人を傷つける人間もいる。魔が差したと、悪事に手を染める人間だって存在する。
隊士の中にもそういう人間がいてもおかしくはない。だって鬼殺隊士は神でも仏でも、聖人君子でもなく人間ですから」
「鬼の方がマシだ。そう言っているようにも聞こえる」
「そうですね……。単純に『食』にだけ欲の働く鬼の方がマシ。そう思うこともこれから先、多々あるかもしれないね」
そういう意味では鬼の方が純粋で綺麗。禰󠄀豆子ちゃん見ればわかるか。
柱になるまでの道のりの中、杏寿郎さんもきっとさまざまな経験をしてきた。これから先も経験する。
『今まで』そういう話は聞いてこなかったけど、人間の汚いとこも見てきたかも。槇寿朗さんはそういうのにも耐えられなかったこともあり、ああなってしまったのだし。
「今一度聞きます。本当に、突き落とされたわけじゃないんだね?」
「あ、ああ……」
強く聞き、まっすぐ見つめれば目が泳いだ。
「嘘はいけませんよ。庇わなくていい。
貴方、崖の上にいた隊士に突き飛ばされて落ちましたよね。私はあの瞬間を見てました。
貴方がどつかれ、殴られたのもわかっています。……鬼殺隊でいじめが横行しているのですね。
いつからです?」
「……言いたくない」
「はぁ……わかりました。隊服も着られたみたいですし、上に戻りましょう」
杏寿郎さんに肩を貸し、私達は崖の上を目指した。