四周目 弐
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「杏寿郎が帰ったようだな」
鎮痛薬には眠剤の成分も多少は入っている。治療も服薬も終わり、やっと杏寿郎さんが眠ってくれた。
ああもちろん、お芋のお菓子は差し上げた。じゃないとうるさいもんね。
深く眠りについてくれた頃、槇寿朗さんが部屋の入口でこちらを覗き込んだ。その声には相変わらず怒気が滲んでいる。いや、怒気というよりいつもの不機嫌な声か。
「父様、杏寿郎兄さんは怪我をしています。そして薬が効き今しがた眠ったばかり。起こしてはなりません。
もちろんお小言程度なら起きた時に言ってもいいですが、そのお手をお出しになったら絶対に許しませんからね。
柱だとか父親だとか関係なく、私は貴方に噛み付きますから」
「ふん、たかが小娘が、俺に噛み付くだと……?」
噛み付くよ。言葉でも、物理的にでも。杏寿郎さんを傷つける者は誰であろうと許しはしない。がるるるるる!!
「あとこの貴方の日輪刀を布団叩きに使っちゃいます」
「ちょ、お前いつそれを!?」
布団脇に置かれた日輪刀は二本。一つはまだ真新しいけれど、血に濡れた杏寿郎さんのもの。もう一つは私が今握った、使い込まれた槇寿朗さんの日輪刀だ。
うーん、布団を叩くのによさそうだね。
「玄関にテキトーに置く父様が悪いんですよ。貴方に渡そうと部屋に来る前に回収しました。日輪刀は隊士の命。もっと大事にしないと。
あらやだ、刃にちっちゃい錆が!ちゃんと磨かないと駄目じゃないのさ」
「危ないから鞘から抜くな!返しなさい!」
「やーだぷー」
日輪刀を取り返そうと向かってきた槇寿朗さんの手をひらりとかわし、縁側から庭に降り立つ。
ああ、そうそう。その際ちゃんと履き物は履いてますよ。
「杏寿郎には手は出さんから!ほら!!朝緋が怪我をする前にそれを渡せ!!」
反対に追ってきた槇寿朗さんは裸足のままだ。お行儀悪いね?
それにしたって炎柱なんだから全力を出せば私を簡単に捕まえられるでしょうに、もしかして抜き身の日輪刀を持っているから私が怪我してはと変な手加減してる?
悪いけど私は全力で逃げるよ。ひらりとね。
「くそ、ちょこまかと!!天狗の子かお前は!!」
「んー?天狗は違う気がする」
「なんて逃げ足の速さだ……!お前はいつからそんな足が速く……っ!!」
私の足が槇寿朗さんの背後をとった。後ろからスッと日輪刀を渡す。
「はいどうぞ。お返しします」
「っ!?あ、ああ……鞘もあるな、よかった……」
ホッとした表情を見せた顔から一変。眉を吊り上げた槇寿朗さんから頭の上に拳を落とされた。
「いたぁい!!」
「抜き身の刃を持って走るなんて危ないだろう!この大馬鹿娘!!」
「修行のつもりだから大丈夫」
「俺はお前に修行などつけん!!そんなものつけずとも勝手に強くなっているし速くなっているではないか!!」
いやー、皆さんそう言ってくれるけど、本当に私って弱いのよ。まだ速さも足りない。
「でもこれで杏寿郎兄さんには手は出さないんですよね?言質取りましたからね」
「……ちっ」
おいおい、お小言だけじゃなくって投げ飛ばしたりぶん殴る気満々だったの?
「それとお酒の飲み過ぎは呼吸にもよくないです。さすがにもう今日はやめてくださいね。没収!杏寿郎兄さんが無事に帰ってきてくれて、お夕飯はご馳走なのですから。
一緒にじゃなくてもいいけど、せっかく家にいる日なんだし、持っていくから父様も食べてよね」
「親に指図するんじゃ……いや、いい。
最終選別ごときで怪我をするような奴は隊士としてやっていけん。隊士にはなるな。とだけ伝えておけ」
「はーい」
んべー。伝えませーん。
言い残して槇寿朗さんは去っていった。ふう、これで杏寿郎さんの安眠は守られた。
部屋に戻ると、大人しく眠っていたはずの杏寿郎さんが魘されていた。額に汗をかいてなんと険しいお顔。
もしかして槇寿朗さんと騒ぎすぎた?追いかけっこする騒音がそのまま杏寿郎さんの夢に悪夢として現れているとか!?
「……、…………うぅ、朝緋……、朝緋……、」
……私の名前を呼んでいる?
指は何かを掴もうとするように、緩やかに伸ばされている。
その指を手に取り握りながら呼びかける。
この悪夢は、起こした方がいいかもと思って。
「杏寿郎兄さん、……私はここよ。隣にいますよ。どうしたの?大丈夫?杏寿郎兄さん、……、ねぇ、起きて!杏寿郎さんっ」
「ーーーッ!!うあぁぁぁぁあっ!!」
杏寿郎さんが起きた!と同時に、視界が回る。
「ぇ」
「頸を……朝緋の為に鬼の頸を斬らなけれ、ば……、朝緋?」
押し倒された挙句、床ドンされるとは誰が思う?
寝苦しさに動いて肌蹴たのか、寝巻きの浴衣の前が開いている。
既に均整の取れた杏寿郎さんの腹筋が、胸筋が……鎖骨が……!目の前にぃ!!叫ばずにいられた私偉い。
「す、すまないっ!いやしかしどういう状況だこれは!?」
「魘されてたから起こしたら押し倒してきたんじゃんかぁ!どんな夢よ!?」
「朝緋が鬼に食われそうになっているのを助ける夢だった!本当にすまん!」
「謝るよりもお願い退いて……っ」
「退きたいのは山々なのだが、体の痛みで……駄目だ……もう動けん」
「な、なんですと!?」
「悪い、また眠気が……」
その瞬間、迫る杏寿郎さんの体。うわ、布団と杏寿郎さんにサンドイッチされたぁ……!
「ええーー!?このタイミングで!?ちょっと、重いんですけど!!」
「ぅむ、朝緋の体は柔らかくて寝心地が良……ぐー」
寝た!?この人寝たんだけど!!私を解放してから眠ってよ!!?拘束されてる!抜け出せないーーッ!
千寿郎はお使いに出かけたから呼べない。
槇寿朗さんは……やめておこう。この状態を見られたら前言撤回で杏寿郎さんをぼこぼこに殴りそうな気がする。
あっやばい。杏寿郎さん本来の匂いがする。男の人の匂い……!大好きな匂いが脳まで染み込んできて、頭がくらくらしてくる。
変な声まで出てしまいそう。
それに、杏寿郎さんに潰されている私のおっぱいから伝わる、杏寿郎さんの固い胸板。胸筋、そしてその奥の鼓動。
意識せずにはいられない。
ずくん……腰の奥が疼いた気がした。
その晩、お赤飯を炊かなくちゃいけない事態が私の体に起きてしまった。
十にはなったけど『前』などと比べて早い気がする。
杏寿郎さんのことが好きすぎて。彼の雄々しい姿を意識してしまって。目の前の『男』を認識して……体が女になろうとした?
かつて体を暴かれたあの経験が、記憶が、思い出が。未通である私の体の作りを根本から変えた。雄を望む私の胎として。
やだ私ったらまたそんな助平な想像を……なんてはしたない!
鼻からも血が出そうだわ。
鎮痛薬には眠剤の成分も多少は入っている。治療も服薬も終わり、やっと杏寿郎さんが眠ってくれた。
ああもちろん、お芋のお菓子は差し上げた。じゃないとうるさいもんね。
深く眠りについてくれた頃、槇寿朗さんが部屋の入口でこちらを覗き込んだ。その声には相変わらず怒気が滲んでいる。いや、怒気というよりいつもの不機嫌な声か。
「父様、杏寿郎兄さんは怪我をしています。そして薬が効き今しがた眠ったばかり。起こしてはなりません。
もちろんお小言程度なら起きた時に言ってもいいですが、そのお手をお出しになったら絶対に許しませんからね。
柱だとか父親だとか関係なく、私は貴方に噛み付きますから」
「ふん、たかが小娘が、俺に噛み付くだと……?」
噛み付くよ。言葉でも、物理的にでも。杏寿郎さんを傷つける者は誰であろうと許しはしない。がるるるるる!!
「あとこの貴方の日輪刀を布団叩きに使っちゃいます」
「ちょ、お前いつそれを!?」
布団脇に置かれた日輪刀は二本。一つはまだ真新しいけれど、血に濡れた杏寿郎さんのもの。もう一つは私が今握った、使い込まれた槇寿朗さんの日輪刀だ。
うーん、布団を叩くのによさそうだね。
「玄関にテキトーに置く父様が悪いんですよ。貴方に渡そうと部屋に来る前に回収しました。日輪刀は隊士の命。もっと大事にしないと。
あらやだ、刃にちっちゃい錆が!ちゃんと磨かないと駄目じゃないのさ」
「危ないから鞘から抜くな!返しなさい!」
「やーだぷー」
日輪刀を取り返そうと向かってきた槇寿朗さんの手をひらりとかわし、縁側から庭に降り立つ。
ああ、そうそう。その際ちゃんと履き物は履いてますよ。
「杏寿郎には手は出さんから!ほら!!朝緋が怪我をする前にそれを渡せ!!」
反対に追ってきた槇寿朗さんは裸足のままだ。お行儀悪いね?
それにしたって炎柱なんだから全力を出せば私を簡単に捕まえられるでしょうに、もしかして抜き身の日輪刀を持っているから私が怪我してはと変な手加減してる?
悪いけど私は全力で逃げるよ。ひらりとね。
「くそ、ちょこまかと!!天狗の子かお前は!!」
「んー?天狗は違う気がする」
「なんて逃げ足の速さだ……!お前はいつからそんな足が速く……っ!!」
私の足が槇寿朗さんの背後をとった。後ろからスッと日輪刀を渡す。
「はいどうぞ。お返しします」
「っ!?あ、ああ……鞘もあるな、よかった……」
ホッとした表情を見せた顔から一変。眉を吊り上げた槇寿朗さんから頭の上に拳を落とされた。
「いたぁい!!」
「抜き身の刃を持って走るなんて危ないだろう!この大馬鹿娘!!」
「修行のつもりだから大丈夫」
「俺はお前に修行などつけん!!そんなものつけずとも勝手に強くなっているし速くなっているではないか!!」
いやー、皆さんそう言ってくれるけど、本当に私って弱いのよ。まだ速さも足りない。
「でもこれで杏寿郎兄さんには手は出さないんですよね?言質取りましたからね」
「……ちっ」
おいおい、お小言だけじゃなくって投げ飛ばしたりぶん殴る気満々だったの?
「それとお酒の飲み過ぎは呼吸にもよくないです。さすがにもう今日はやめてくださいね。没収!杏寿郎兄さんが無事に帰ってきてくれて、お夕飯はご馳走なのですから。
一緒にじゃなくてもいいけど、せっかく家にいる日なんだし、持っていくから父様も食べてよね」
「親に指図するんじゃ……いや、いい。
最終選別ごときで怪我をするような奴は隊士としてやっていけん。隊士にはなるな。とだけ伝えておけ」
「はーい」
んべー。伝えませーん。
言い残して槇寿朗さんは去っていった。ふう、これで杏寿郎さんの安眠は守られた。
部屋に戻ると、大人しく眠っていたはずの杏寿郎さんが魘されていた。額に汗をかいてなんと険しいお顔。
もしかして槇寿朗さんと騒ぎすぎた?追いかけっこする騒音がそのまま杏寿郎さんの夢に悪夢として現れているとか!?
「……、…………うぅ、朝緋……、朝緋……、」
……私の名前を呼んでいる?
指は何かを掴もうとするように、緩やかに伸ばされている。
その指を手に取り握りながら呼びかける。
この悪夢は、起こした方がいいかもと思って。
「杏寿郎兄さん、……私はここよ。隣にいますよ。どうしたの?大丈夫?杏寿郎兄さん、……、ねぇ、起きて!杏寿郎さんっ」
「ーーーッ!!うあぁぁぁぁあっ!!」
杏寿郎さんが起きた!と同時に、視界が回る。
「ぇ」
「頸を……朝緋の為に鬼の頸を斬らなけれ、ば……、朝緋?」
押し倒された挙句、床ドンされるとは誰が思う?
寝苦しさに動いて肌蹴たのか、寝巻きの浴衣の前が開いている。
既に均整の取れた杏寿郎さんの腹筋が、胸筋が……鎖骨が……!目の前にぃ!!叫ばずにいられた私偉い。
「す、すまないっ!いやしかしどういう状況だこれは!?」
「魘されてたから起こしたら押し倒してきたんじゃんかぁ!どんな夢よ!?」
「朝緋が鬼に食われそうになっているのを助ける夢だった!本当にすまん!」
「謝るよりもお願い退いて……っ」
「退きたいのは山々なのだが、体の痛みで……駄目だ……もう動けん」
「な、なんですと!?」
「悪い、また眠気が……」
その瞬間、迫る杏寿郎さんの体。うわ、布団と杏寿郎さんにサンドイッチされたぁ……!
「ええーー!?このタイミングで!?ちょっと、重いんですけど!!」
「ぅむ、朝緋の体は柔らかくて寝心地が良……ぐー」
寝た!?この人寝たんだけど!!私を解放してから眠ってよ!!?拘束されてる!抜け出せないーーッ!
千寿郎はお使いに出かけたから呼べない。
槇寿朗さんは……やめておこう。この状態を見られたら前言撤回で杏寿郎さんをぼこぼこに殴りそうな気がする。
あっやばい。杏寿郎さん本来の匂いがする。男の人の匂い……!大好きな匂いが脳まで染み込んできて、頭がくらくらしてくる。
変な声まで出てしまいそう。
それに、杏寿郎さんに潰されている私のおっぱいから伝わる、杏寿郎さんの固い胸板。胸筋、そしてその奥の鼓動。
意識せずにはいられない。
ずくん……腰の奥が疼いた気がした。
その晩、お赤飯を炊かなくちゃいけない事態が私の体に起きてしまった。
十にはなったけど『前』などと比べて早い気がする。
杏寿郎さんのことが好きすぎて。彼の雄々しい姿を意識してしまって。目の前の『男』を認識して……体が女になろうとした?
かつて体を暴かれたあの経験が、記憶が、思い出が。未通である私の体の作りを根本から変えた。雄を望む私の胎として。
やだ私ったらまたそんな助平な想像を……なんてはしたない!
鼻からも血が出そうだわ。