四周目 弐
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杏寿郎さんが最終選別に出立して七日が経った。
待っている間のこの落ち着かない不安な気持ちはいつだって変わらず。
勝手に最終選別に行った杏寿郎さんにも、それを止めず行かせた私達にもキレ散らかしていた槇寿朗さんだけど、彼もそわそわして杏寿郎さんの帰りを待っていた。
まあでも今までもそんなに怪我はせずに帰ってきていたし、私くらいはどーーんと構えて待っていないとね。
疲れて帰ってくるからお布団は敷いといて。
それから、七日間で足りてなかった栄養素をたっぷり摂れるご馳走を用意して待っておかないとだから……。炊き込みごはんにお芋の味噌汁、和え物、お煮しめと天ぷらあたりでいいかな?
純和食ぅ〜!お腹空くなぁ。
「あつあつホクホクで美味しい!」
コトコト炊いているお煮しめの里芋を次々にぽこぽこ摘み食いしていた時のこと。
「姉上っ!兄上がかえってきました!!」
「ンぐぅ!?」
喉にあっつい芋が……!涙目ものの炎の呼吸、火傷の型だ……!!
「……姉上、今おっきな口あけておいものつまみぐいしてませんでした?それもたくさん」
「そ、そんなことないよ……」
「どちらでもいいですけどね。それよりはやく!兄上が……!!」
火を止め、千寿郎に手を引かれるまま、通りに出る。
そこには、息も絶え絶えの杏寿郎さんが、棒切れを杖にして塀に体を預けていた。
「兄上っ!大丈夫ですか!!姉上を連れて参りました!!」
「ああ、ありがとう……」
今までと全く違う展開を前に、言葉を失う。
着物も袴もズタボロで、頭には簡易的に布が巻かれ応急処置がなされているが、かなり血が滲んでいる。あっ脇腹と腕にも怪我がある。これにも血が滲んでいて痛々しい。
「姉上っ!」
「はっ!?……ごめん!!」
慌てて駆け寄り、状態を確認する。
「杏寿郎兄さん、随分と酷い怪我をなされて……」
「うむ……不覚をとってしまった!鬼は恐ろしいぞ朝緋!!だが、こうして無事に戻れたし、俺はこれではれて鬼殺隊士だ!!」
肩を貸して手を取り誘導しながら、ゆっくりと歩く。
その歩みはやけに遅い。相当疲れているな……。痛みも酷いのかも。
「ええ、おめでとうございます。それと、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。
やっと、朝緋の顔が見られた。千寿郎の顔が見られた。嬉しいなあ」
血と汗と埃にまみれていても、なんと眩しく美しい笑顔だろう。
私もまた、貴方のお顔が見られて嬉しい。
その時、杏寿郎さんの歩みが躓いたかのように止まった。
「ど、どうしたの!?」
「うっ!肋が折れているみたいなんだ……響いて歩けない……」
「なんですと!?そんな状態でよくぞここまで……!」
脂汗をかいて目を閉じる貴方のなんと痛々しいことか。
藤襲山からここまでの道のりを。骨が折れて痛い中へいこら歩いてきた道すがらを考えてしまい、涙が出そうだった。
「早く治療しなくちゃね。千寿郎も反対から手を貸して〜!」
「はいっ!!」
二人で支えてゆっくりと運ぶ。出来るだけ杏寿郎さんが痛みを感じないようにそっと、そっと……。
「そ、その前に、父上に報告をせねば。怒っていらっしゃるだろうが……」
「まずは寝て!!?治療が先!!もう意識だって朦朧としてる!もうそのまま眠っててよ!!」
運び方はそっとだけど、玄関も部屋もお行儀悪く足で蹴り飛ばし開ける。あっ障子が破けた!あとで和紙で補強して証拠隠滅しよ。
「たしかに父様は無言出立について怒ってらっしゃったけど報告なんてどーでもいい!そんなの後だよ、後!!
はぁっ!よっこいしょーー!」
部屋に敷かれた布団に杏寿郎さんを降ろす。部屋に着いてホッとしたからか、降ろし方雑になっちゃった。
「寝かせるならもう少し静かに寝かせてくれ……」
「ごめん!でも父様に報告しに行くなんて馬鹿なこと言ってた人が文句言わないの!!」
寝転がった杏寿郎さんの着物の合わせ目に手をかける。べり、左右に開こうとしたら簡単に破けた。わあボロ雑巾〜。
「お、おい、何をして……」
「何って治療するのに服が邪魔だから脱がせてるんでしょ?脱がせるというか、簡単に破けちゃうけどさ……」
「そういうのは千寿郎に頼んでくれ!!」
あ、そうだよね。私が女で貴方が男という意味での恥ずかしさももちろんあるけれど、杏寿郎さんは七日間を山の中で過ごして碌にお風呂も入れない状態だった。
つまり全身どろどろで汗だくで。匂いだって気になっているはず。
私が杏寿郎さんの立場でも、同じように恥ずかしく感じてしまうわ。それも、好きな相手にパンツまで見られるだなんて……考えたくない。
「だそうなので脱がせるのと体を拭くのは頼んでいい?お湯と手拭いは持ってくるから」
「はい!まかせてください!」
千寿郎に任せること四半刻。傷は相変わらず痛々しくも、身綺麗になった杏寿郎さんを前に千寿郎と交代する。
うん、でも本当痛々しい。包帯足りないね?
「あわわわわ、久しぶりの大きめの怪我の治療ううう……!千寿郎は傷口に巻く包帯の追加を持ってきてもらっていい?それに、水差しと吸飲みと、お薬をお願い」
「わかりました」
駆けていく千寿郎を見送ってから、声を震わせて杏寿郎さんが問う。
「薬とはまさか、父上が怪我の時に母上から飲まされていた……?」
「そーです。あの苦そうな鎮痛薬です」
「あれは嫌だ。匂いからして苦い」
「こんなたくさんの傷こさえてきといて薬くらいで怯えないでよね!こちとらびっくりしすぎて心臓がまろび出るところですよ!」
「だが……口の中が痺れてしまう……!」
「飲んだらあとで甘いお芋のお菓子を作って持ってきますし、お夕食は天ぷらやお芋のお味噌汁などで杏寿郎兄さんを労う予定です」
「芋……!!」
「といっても、お薬程度でビクビクしてるようじゃ今夜はお粥ですかね……?怪我も酷い患者さんのようですし??」
「!!ちゃんと飲むからご馳走を俺に!!」
芋を没収されそうになった杏寿郎さんは涙目で訴えてきてかわいい。でも少し意地悪を言いすぎたかな。ふふ、お芋は用意するよ。
確認してみると折れた肋骨は一本だけのよう。綺麗に折れてるから、固定と包帯巻いておとなしくしていればよさそう。腕の切り傷は消毒して薬を塗布からの包帯。
あと頭か……追加の包帯が来るまでは痛くないように押さえながら消毒だね。いつまでも血が滲んでるってことは、七日間の後半戦。それも本日負ったばかりの怪我って感じかな。
「回復の呼吸はしてる?全集中の呼吸、常中はつねに意識しておかないと駄目だよ」
「わかっている……やっている!」
まあ、そうでなければここまで無事に帰るなんて出来なかったよね。途中で倒れてその見目麗しさに人身売買で海外に売り飛ばされ……んん、嫌な想像しちゃったなあ。
「大体どんな鬼が相手ならこうなるの?やっつけてある?まだ退治してないなら私が参加する時その頸絶対に斬り飛ばしてくる!」
「逃した……いや、俺が逃げた。腕がたくさんある、大きな異形の鬼だった」
ヒュッ!杏寿郎さんの言葉を聞いて、息が漏れた。呼吸が止まり、声が出なかった。
「…………朝緋?」
「あっ…ごめん、異形の鬼だなんて怖そうだなぁって思って」
異形の鬼。『あの』鬼だ。あんな化け物、私に仕留めるなんて無理だ……。
杏寿郎さんには強いと言ってもらってるけれど、私程度の力ではあの頸は斬れない。
「そうだな、あれは危険だ。恐ろしい鬼だ。
初めて対峙する鬼として相応しくない。何故藤襲山にあのような鬼がいるのか……理解に苦しむ。
いいか、探すな。出会うな。もし見つかっても朝緋はすぐ逃げろ」
元より杏寿郎さんがそう仰るのなら、遭遇しても逃げるし、倒す機会に恵まれても深追いはしない。
あの場所は最終選別であって任務じゃない。
無理に鬼を退治しなくてもいい。七日を生き残ればそれでいいのだ。
待っている間のこの落ち着かない不安な気持ちはいつだって変わらず。
勝手に最終選別に行った杏寿郎さんにも、それを止めず行かせた私達にもキレ散らかしていた槇寿朗さんだけど、彼もそわそわして杏寿郎さんの帰りを待っていた。
まあでも今までもそんなに怪我はせずに帰ってきていたし、私くらいはどーーんと構えて待っていないとね。
疲れて帰ってくるからお布団は敷いといて。
それから、七日間で足りてなかった栄養素をたっぷり摂れるご馳走を用意して待っておかないとだから……。炊き込みごはんにお芋の味噌汁、和え物、お煮しめと天ぷらあたりでいいかな?
純和食ぅ〜!お腹空くなぁ。
「あつあつホクホクで美味しい!」
コトコト炊いているお煮しめの里芋を次々にぽこぽこ摘み食いしていた時のこと。
「姉上っ!兄上がかえってきました!!」
「ンぐぅ!?」
喉にあっつい芋が……!涙目ものの炎の呼吸、火傷の型だ……!!
「……姉上、今おっきな口あけておいものつまみぐいしてませんでした?それもたくさん」
「そ、そんなことないよ……」
「どちらでもいいですけどね。それよりはやく!兄上が……!!」
火を止め、千寿郎に手を引かれるまま、通りに出る。
そこには、息も絶え絶えの杏寿郎さんが、棒切れを杖にして塀に体を預けていた。
「兄上っ!大丈夫ですか!!姉上を連れて参りました!!」
「ああ、ありがとう……」
今までと全く違う展開を前に、言葉を失う。
着物も袴もズタボロで、頭には簡易的に布が巻かれ応急処置がなされているが、かなり血が滲んでいる。あっ脇腹と腕にも怪我がある。これにも血が滲んでいて痛々しい。
「姉上っ!」
「はっ!?……ごめん!!」
慌てて駆け寄り、状態を確認する。
「杏寿郎兄さん、随分と酷い怪我をなされて……」
「うむ……不覚をとってしまった!鬼は恐ろしいぞ朝緋!!だが、こうして無事に戻れたし、俺はこれではれて鬼殺隊士だ!!」
肩を貸して手を取り誘導しながら、ゆっくりと歩く。
その歩みはやけに遅い。相当疲れているな……。痛みも酷いのかも。
「ええ、おめでとうございます。それと、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。
やっと、朝緋の顔が見られた。千寿郎の顔が見られた。嬉しいなあ」
血と汗と埃にまみれていても、なんと眩しく美しい笑顔だろう。
私もまた、貴方のお顔が見られて嬉しい。
その時、杏寿郎さんの歩みが躓いたかのように止まった。
「ど、どうしたの!?」
「うっ!肋が折れているみたいなんだ……響いて歩けない……」
「なんですと!?そんな状態でよくぞここまで……!」
脂汗をかいて目を閉じる貴方のなんと痛々しいことか。
藤襲山からここまでの道のりを。骨が折れて痛い中へいこら歩いてきた道すがらを考えてしまい、涙が出そうだった。
「早く治療しなくちゃね。千寿郎も反対から手を貸して〜!」
「はいっ!!」
二人で支えてゆっくりと運ぶ。出来るだけ杏寿郎さんが痛みを感じないようにそっと、そっと……。
「そ、その前に、父上に報告をせねば。怒っていらっしゃるだろうが……」
「まずは寝て!!?治療が先!!もう意識だって朦朧としてる!もうそのまま眠っててよ!!」
運び方はそっとだけど、玄関も部屋もお行儀悪く足で蹴り飛ばし開ける。あっ障子が破けた!あとで和紙で補強して証拠隠滅しよ。
「たしかに父様は無言出立について怒ってらっしゃったけど報告なんてどーでもいい!そんなの後だよ、後!!
はぁっ!よっこいしょーー!」
部屋に敷かれた布団に杏寿郎さんを降ろす。部屋に着いてホッとしたからか、降ろし方雑になっちゃった。
「寝かせるならもう少し静かに寝かせてくれ……」
「ごめん!でも父様に報告しに行くなんて馬鹿なこと言ってた人が文句言わないの!!」
寝転がった杏寿郎さんの着物の合わせ目に手をかける。べり、左右に開こうとしたら簡単に破けた。わあボロ雑巾〜。
「お、おい、何をして……」
「何って治療するのに服が邪魔だから脱がせてるんでしょ?脱がせるというか、簡単に破けちゃうけどさ……」
「そういうのは千寿郎に頼んでくれ!!」
あ、そうだよね。私が女で貴方が男という意味での恥ずかしさももちろんあるけれど、杏寿郎さんは七日間を山の中で過ごして碌にお風呂も入れない状態だった。
つまり全身どろどろで汗だくで。匂いだって気になっているはず。
私が杏寿郎さんの立場でも、同じように恥ずかしく感じてしまうわ。それも、好きな相手にパンツまで見られるだなんて……考えたくない。
「だそうなので脱がせるのと体を拭くのは頼んでいい?お湯と手拭いは持ってくるから」
「はい!まかせてください!」
千寿郎に任せること四半刻。傷は相変わらず痛々しくも、身綺麗になった杏寿郎さんを前に千寿郎と交代する。
うん、でも本当痛々しい。包帯足りないね?
「あわわわわ、久しぶりの大きめの怪我の治療ううう……!千寿郎は傷口に巻く包帯の追加を持ってきてもらっていい?それに、水差しと吸飲みと、お薬をお願い」
「わかりました」
駆けていく千寿郎を見送ってから、声を震わせて杏寿郎さんが問う。
「薬とはまさか、父上が怪我の時に母上から飲まされていた……?」
「そーです。あの苦そうな鎮痛薬です」
「あれは嫌だ。匂いからして苦い」
「こんなたくさんの傷こさえてきといて薬くらいで怯えないでよね!こちとらびっくりしすぎて心臓がまろび出るところですよ!」
「だが……口の中が痺れてしまう……!」
「飲んだらあとで甘いお芋のお菓子を作って持ってきますし、お夕食は天ぷらやお芋のお味噌汁などで杏寿郎兄さんを労う予定です」
「芋……!!」
「といっても、お薬程度でビクビクしてるようじゃ今夜はお粥ですかね……?怪我も酷い患者さんのようですし??」
「!!ちゃんと飲むからご馳走を俺に!!」
芋を没収されそうになった杏寿郎さんは涙目で訴えてきてかわいい。でも少し意地悪を言いすぎたかな。ふふ、お芋は用意するよ。
確認してみると折れた肋骨は一本だけのよう。綺麗に折れてるから、固定と包帯巻いておとなしくしていればよさそう。腕の切り傷は消毒して薬を塗布からの包帯。
あと頭か……追加の包帯が来るまでは痛くないように押さえながら消毒だね。いつまでも血が滲んでるってことは、七日間の後半戦。それも本日負ったばかりの怪我って感じかな。
「回復の呼吸はしてる?全集中の呼吸、常中はつねに意識しておかないと駄目だよ」
「わかっている……やっている!」
まあ、そうでなければここまで無事に帰るなんて出来なかったよね。途中で倒れてその見目麗しさに人身売買で海外に売り飛ばされ……んん、嫌な想像しちゃったなあ。
「大体どんな鬼が相手ならこうなるの?やっつけてある?まだ退治してないなら私が参加する時その頸絶対に斬り飛ばしてくる!」
「逃した……いや、俺が逃げた。腕がたくさんある、大きな異形の鬼だった」
ヒュッ!杏寿郎さんの言葉を聞いて、息が漏れた。呼吸が止まり、声が出なかった。
「…………朝緋?」
「あっ…ごめん、異形の鬼だなんて怖そうだなぁって思って」
異形の鬼。『あの』鬼だ。あんな化け物、私に仕留めるなんて無理だ……。
杏寿郎さんには強いと言ってもらってるけれど、私程度の力ではあの頸は斬れない。
「そうだな、あれは危険だ。恐ろしい鬼だ。
初めて対峙する鬼として相応しくない。何故藤襲山にあのような鬼がいるのか……理解に苦しむ。
いいか、探すな。出会うな。もし見つかっても朝緋はすぐ逃げろ」
元より杏寿郎さんがそう仰るのなら、遭遇しても逃げるし、倒す機会に恵まれても深追いはしない。
あの場所は最終選別であって任務じゃない。
無理に鬼を退治しなくてもいい。七日を生き残ればそれでいいのだ。