四周目 弐
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瑠火さんが亡くなった。
また……また、何も出来ずに終わってしまった。
瑠火さんが苦しむ姿も、家族が悲しむ姿も見たくなかったのに。
結局、どう足掻いてみたところでこの時代の結核は不治の病に近く。私には何の力もなく。
決して病になんて奪わせてなるものか。そう思って気をつけていたのに全ては無駄に終わった。
……やるせない。心が折れそう。
瑠火さんの死が免れぬものだとする。
ならばこのままでは私か杏寿郎さんが。ううん、誰か一人は必ずあの任務で亡くなってしまうのではないか。
運命が繰り返し、ぐるぐる、ぐるぐる。どこか狂ってしまった時計のように針を回しているだけなのではないか。
そんな恐ろしい考えまで浮かぶ。何をやっても無駄だ。誰かが頭の中で嘲笑う。
原因や理由こそ多少違うけれど、槇寿朗さんが全ては無駄だと言って俯く気持ちがわかった気がする。いや、理由は似ているか。
日の呼吸、痣などだけではなく、瑠火さんの死も槇寿朗さんが刀を置いた理由だもの。
それだけその存在は大きかったから。……愛していたから。
それに、槇寿朗さんが壁にぶち当たって立ち止まってしまった時、励まし叱咤し、発破をかけてくれたのはいつだって瑠火さんなのだもの。
もう、槇寿朗さんが望む言葉をかけてくれる存在はいない。私達じゃ駄目。
だから少しはわかるよ。やる気すらわいてこないその気持ちが……。
瑠火さんの死だけでなく槇寿朗さんの想いを深く考えてしまい、気持ちがリンクして『今まで』以上に涙が溢れて止まらなかった。
場所こそ厨や自分の部屋でだったけれど、私があんまりにも泣くので、『今回』杏寿郎さんは泣くタイミングを失ってしまった。
彼だって泣きたいだろうに、我慢なされた。
悲しむ私を慰めながら、見えにくいところで震える拳を握りしめて耐えている杏寿郎さんの姿が記憶に新しい。
ただ、泣き通しのそんな私でも、まだ死についてあまりわからない部分が多い千寿郎には涙を見せたくなくて。母の姿を探す千寿郎にはどう言ったものかと苦労した。
「姉上。母上はどこですか?つるをおりましたので母上にさし上げたいです!」
「千寿郎……」
幼くとも瑠火さんの具合が悪いのは理解していたようで、私が教えた千代紙遊びで作ったのであろう鶴を手に母の元へと行きたがる千寿郎。
「母様は長期の任務に出られたのよ、千寿郎。ほら、よく父様が長い間出かけられるでしょう?あれと同じなのよ」
と言っても、最近の槇寿朗さんは塞ぎ込みがちというか、任務に出たがらなくなって来ている。もちろん任務放棄はしてないし、御自身に来た任務はきちんとこなしている。まだ、ね。今はまだ……。
千寿郎にそう答えつつ槇寿朗さんの様子について改めて考えていたら、返ってきた言葉によって心にトドメを刺された。
「母上もにんむにお出かけ?姉上、母上はいつかえってくるの?会いたいです……」
あっむり。
澄んだ大きな目にまっすぐ見つめられ、私の涙腺はあっという間に崩壊した。
こぼれる涙を決して見せないように、千寿郎を抱きしめる。
「……姉上?」
ああまずい。今上を向かれたら泣いてるのバレちゃう。鼻水も垂れそうなのに啜れない。
千寿郎があと少し成長して『死』を正しく理解するまで待ってよお願い私の涙。下に落ちないで。
煉獄家は代々鬼狩りの家系で、そのうち嫌でも死には触れ合うのだからそれまではどうか待って。今は駄目、早いよ。今だけは純粋無垢な弟のままでいさせてあげて。
その時、すぐそばの部屋の中から杏寿郎さんの腕が伸びて来て、千寿郎を回収していった。
「あれっ?兄上?」
ようやく見上げた先が私から杏寿郎さんに替わり、きょとんとしている。
こちらを向こうとしたその視線すら、杏寿郎さんによって遮られた。
「やぁこれはこれは千寿郎!母上のために鶴を折ったのか!上手に出来ている!!」
「えへへ、こんしんの出来です!」
「うーむ。こんな細かく折るなんて俺には出来ん!千寿郎は凄いなぁ!!」
話の主導権も握り、私への興味をも逸らしてくれた。助かった……おかげで涙を見られなくて済む。
「朝緋は他に用事があるのだろう?行くといい」
千寿郎と会話しながらも合間でそう私を促す。その横顔に口の動きだけでありがとうと返した。
……なんて凛々しい横顔。
例によって杏寿郎さんは最期に責務について瑠火さんと会話したようで、周りに見せる顔つきがどんどん変わっていった。
私に見せる表情すら日毎に強き男に変わりゆく。
人々を守るという責務を背負う、成長過程のその背中。徐々に広く大きくなっていく背中。
硬い鎧装に包まれた蛹が羽化して飛び立つように、杏寿郎さんは強くて逞しい一人の殿方になろうとしていた。
そんな貴方をどんな時も支えたい。
貴方がどんな道を歩もうとも、着いて行きたい。ううん、私はどこまでも貴方に着いていきますとも。
ただ、今はまだ明るい気持ちにはなれなくて。貴方の太陽に照らされていても、この気持ちは晴れてくれない。
駄目……。私は杏寿郎さんと違って悲しみを乗り越えられない。我慢できない。
瑠火さんの死が、私の中に影を落とし続ける。その死ももちろん辛いけれど、やはり一番危惧するのは杏寿郎さんの死についてで。
ずっと堂々巡りの思いを抱いていて。くよくよし続けていて。なんとみっともないことか。
剣は鈍り判断力も低下する……無心で得物を振るってみても、雑念は消えてくれなかった。
また……また、何も出来ずに終わってしまった。
瑠火さんが苦しむ姿も、家族が悲しむ姿も見たくなかったのに。
結局、どう足掻いてみたところでこの時代の結核は不治の病に近く。私には何の力もなく。
決して病になんて奪わせてなるものか。そう思って気をつけていたのに全ては無駄に終わった。
……やるせない。心が折れそう。
瑠火さんの死が免れぬものだとする。
ならばこのままでは私か杏寿郎さんが。ううん、誰か一人は必ずあの任務で亡くなってしまうのではないか。
運命が繰り返し、ぐるぐる、ぐるぐる。どこか狂ってしまった時計のように針を回しているだけなのではないか。
そんな恐ろしい考えまで浮かぶ。何をやっても無駄だ。誰かが頭の中で嘲笑う。
原因や理由こそ多少違うけれど、槇寿朗さんが全ては無駄だと言って俯く気持ちがわかった気がする。いや、理由は似ているか。
日の呼吸、痣などだけではなく、瑠火さんの死も槇寿朗さんが刀を置いた理由だもの。
それだけその存在は大きかったから。……愛していたから。
それに、槇寿朗さんが壁にぶち当たって立ち止まってしまった時、励まし叱咤し、発破をかけてくれたのはいつだって瑠火さんなのだもの。
もう、槇寿朗さんが望む言葉をかけてくれる存在はいない。私達じゃ駄目。
だから少しはわかるよ。やる気すらわいてこないその気持ちが……。
瑠火さんの死だけでなく槇寿朗さんの想いを深く考えてしまい、気持ちがリンクして『今まで』以上に涙が溢れて止まらなかった。
場所こそ厨や自分の部屋でだったけれど、私があんまりにも泣くので、『今回』杏寿郎さんは泣くタイミングを失ってしまった。
彼だって泣きたいだろうに、我慢なされた。
悲しむ私を慰めながら、見えにくいところで震える拳を握りしめて耐えている杏寿郎さんの姿が記憶に新しい。
ただ、泣き通しのそんな私でも、まだ死についてあまりわからない部分が多い千寿郎には涙を見せたくなくて。母の姿を探す千寿郎にはどう言ったものかと苦労した。
「姉上。母上はどこですか?つるをおりましたので母上にさし上げたいです!」
「千寿郎……」
幼くとも瑠火さんの具合が悪いのは理解していたようで、私が教えた千代紙遊びで作ったのであろう鶴を手に母の元へと行きたがる千寿郎。
「母様は長期の任務に出られたのよ、千寿郎。ほら、よく父様が長い間出かけられるでしょう?あれと同じなのよ」
と言っても、最近の槇寿朗さんは塞ぎ込みがちというか、任務に出たがらなくなって来ている。もちろん任務放棄はしてないし、御自身に来た任務はきちんとこなしている。まだ、ね。今はまだ……。
千寿郎にそう答えつつ槇寿朗さんの様子について改めて考えていたら、返ってきた言葉によって心にトドメを刺された。
「母上もにんむにお出かけ?姉上、母上はいつかえってくるの?会いたいです……」
あっむり。
澄んだ大きな目にまっすぐ見つめられ、私の涙腺はあっという間に崩壊した。
こぼれる涙を決して見せないように、千寿郎を抱きしめる。
「……姉上?」
ああまずい。今上を向かれたら泣いてるのバレちゃう。鼻水も垂れそうなのに啜れない。
千寿郎があと少し成長して『死』を正しく理解するまで待ってよお願い私の涙。下に落ちないで。
煉獄家は代々鬼狩りの家系で、そのうち嫌でも死には触れ合うのだからそれまではどうか待って。今は駄目、早いよ。今だけは純粋無垢な弟のままでいさせてあげて。
その時、すぐそばの部屋の中から杏寿郎さんの腕が伸びて来て、千寿郎を回収していった。
「あれっ?兄上?」
ようやく見上げた先が私から杏寿郎さんに替わり、きょとんとしている。
こちらを向こうとしたその視線すら、杏寿郎さんによって遮られた。
「やぁこれはこれは千寿郎!母上のために鶴を折ったのか!上手に出来ている!!」
「えへへ、こんしんの出来です!」
「うーむ。こんな細かく折るなんて俺には出来ん!千寿郎は凄いなぁ!!」
話の主導権も握り、私への興味をも逸らしてくれた。助かった……おかげで涙を見られなくて済む。
「朝緋は他に用事があるのだろう?行くといい」
千寿郎と会話しながらも合間でそう私を促す。その横顔に口の動きだけでありがとうと返した。
……なんて凛々しい横顔。
例によって杏寿郎さんは最期に責務について瑠火さんと会話したようで、周りに見せる顔つきがどんどん変わっていった。
私に見せる表情すら日毎に強き男に変わりゆく。
人々を守るという責務を背負う、成長過程のその背中。徐々に広く大きくなっていく背中。
硬い鎧装に包まれた蛹が羽化して飛び立つように、杏寿郎さんは強くて逞しい一人の殿方になろうとしていた。
そんな貴方をどんな時も支えたい。
貴方がどんな道を歩もうとも、着いて行きたい。ううん、私はどこまでも貴方に着いていきますとも。
ただ、今はまだ明るい気持ちにはなれなくて。貴方の太陽に照らされていても、この気持ちは晴れてくれない。
駄目……。私は杏寿郎さんと違って悲しみを乗り越えられない。我慢できない。
瑠火さんの死が、私の中に影を落とし続ける。その死ももちろん辛いけれど、やはり一番危惧するのは杏寿郎さんの死についてで。
ずっと堂々巡りの思いを抱いていて。くよくよし続けていて。なんとみっともないことか。
剣は鈍り判断力も低下する……無心で得物を振るってみても、雑念は消えてくれなかった。