四周目 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『以前』と同じように家族で出かけた。柱である槇寿朗さんにとっては、久方振りの大事な非番だ。
といっても今回は歌舞伎でも相撲でもない。
観に行ったのは、槇寿朗さんと瑠火さんの思い出の能楽である羽衣という演目だ。私は『前回』観たけどいい演目だったなあ。
まあ、修行やら学業、お稽古ごとの隙間時間に瑠火さんや私と一緒に歌舞伎や相撲は見に行っているので杏寿郎さんのご趣味は歌舞伎、能楽、相撲観戦と確定している。感銘を受けたと、嬉々として話していた。
わかる、見始めると面白いもんね。明槻との御刀さま観覧巡りもなんだかんだ楽しかったっけ……。
槇寿朗さん、貴方が鬼と戦って働いてるのに遊んでごめんなさい。でもそんなこと言ったら子供が気にするなと言われそうだね。
それにしても手のひらが熱い。
熱い体温をもつ手のひらに、しっかりと握られているからだ。
「手を繋ぐのは好きだから嬉しいですけど、杏寿郎兄さん…往来ではさすがに離してほしいな?
お布団の中でだって、ぎゅうぎゅうでいつも苦しいのに」
布団の中でのぎゅうぎゅうについて?今いくつだと思ってるの?まだ私十になってないよ。
それに恥じらいなんて当の昔にどこかへと消えたよ……。だって布団の中でプロレス技かけられてるんだもの。
「君は稀血だからな。俺は絶対にこの手を離しはしない。
こうして手を繋いでおかねば、朝緋はまた勝手にどこかへ行って傷をこさえてくるかもしれない!もっと悪ければ鬼に食べられて死ぬかもしれない!!
俺はそれが不安でたまらない……」
この前私が鬼と遭遇した時に、自身が一緒にいなかった。守れなかったことをひどく悔やんでいる。
あれは私が勝手に行動した結果なのだし、気に病むことなんかないのに。
「今は昼間だから鬼なんかでないし大丈夫だよ。それに柱である父様も、母様だって一緒でしょ?」
見上げれば隣で微笑む槇寿朗さんと瑠火さん。煉獄一家が親子で並んで歩いている状態は、なかなか圧巻だ。
「朝緋はこんなにかわいいのだから捕まえておかねば鬼でなくとも横から掻っ攫われてしまうやもしれん!!」
「ないない、絶対ない」
かわいいかどうかもよくわからないけれど、呼吸は既に着々と身についていて、腕っ節だけなら一般人に負けたりしない。攫われるなんて考えがひとつも思い浮かばないや。
「そんなことありえませんよねー、ね、父様母様!」
「うーむ。少しばかりお転婆なところが落ち着けば、攫われてしまうこともあるかもしれんな」
「何よそれ!!父様ったら失礼しちゃう!」
「ふふ、確かにもう少しお淑やかにしないとお嫁の貰い手がないかもしれませんね」
「母様まで!?うわーん千寿郎!父様と母様が酷い〜!」
「あねうえ、ぼくにいわれてもよくわかりましぇん」
「オゥ……ごめんよ……」
舌ったらずな千寿郎が今日もかわいい!思わず空いた方の手で高速ナデナデを発揮することになろうとは。かわいいっっっ!
でもまさか力や見た目じゃなくって、性格に難ありと言われてしまうとは!心外である。
「……君は俺のお嫁さんになる子なのに」
隣からぼそりと呟かれる言葉はなんだったか。
「杏寿郎兄さん、今なんか言った?」
「何でもないな!!」
「ふーん?
とりあえず杏寿郎兄さんが過保護なのはすっごくよくわかった。けど杏寿郎兄さんに引けを取らないくらい強くなってきてるし、往来で手を握ったりなんてしなくても本当に大丈夫ですよー?」
「何を言う!まだ俺から一本もとれてないだろう!?」
「ぶっぶー!昨日はあとちょっとでしたー」
べー、と舌を出して言えば杏寿郎さんがムッとしていた。けれど、手は決して離しはしない。頑固というか強情というか……。
どちらにせよこのままいけば、『前』よりも早く、杏寿郎さんから勝ち星を奪えるのだ。頑張ろう。
「ほう、あと少しで一本取れるようにか。強くなってきているようだな。さすが朝緋だ」
「えへへー」
「くっ、負けてたまるか!」
私だって負けない。鍛錬に次ぐ鍛錬、努力に次ぐ努力。繰り返し覚えた常中の基礎と型の動き、磨き抜いたこの速さ。
そうやってお互い切磋琢磨して高め合ってきたせいか、私だけでなく杏寿郎さんも『前』よりも強くなるのが、常中が身につくのが早い気がする。
競い合う子供たちの姿を、親であり師範である槇寿朗さんと瑠火さんが眩しいものでも見るように、目を細めて眺めた。
ちなみに羽衣の演目を見に行くにあたっては、極力槇寿朗さん瑠火さんお二人の邪魔をしないようにしつつ、でも子供らしくはしゃいだり美味しいものを分け合って食べたりと杏寿郎さんと千寿郎と仲良く過ごした。だって、二人にとっての思い出の演目で、そして久しぶりのデートなんでしょ?たまにはいちゃいちゃしないと。
……こんなこと考える幼い娘なんておせっかい、いや、下世話が過ぎるかな?
***
「杏寿郎兄さん、お覚悟っ!はぁぁぁぁっ!!」
「ぬぁっ!……よもやっ!?」
そんなこんなで修行の際の得物が竹刀から木刀へと代わってしばらく。
激しい手合わせ稽古の連続の末、私は杏寿郎さんに勝つことができた。
「やった!杏寿郎兄さんから一本……!
とったどーーー!!」
勝利の雄叫びとガッツポーーーズ!千寿郎からの盛大な拍手に出迎えられて、気分は最骨頂!盛り上がってまいりました!!
杏寿郎さんが勝った時も千寿郎は拍手してるけどそれはそれ!これはこれ!
「おめでとうございます!つうさん、ごじゅうさんかいめでのしょうりですよ、あねうえ!!」
「いつも数えててくれてありがとーん!千寿郎好き好き〜!!」
「わっ!?」
腕の中に抱きしめてぐりぐり頬擦り。ふにふにほっぺ気持ちいい〜!癒される……。
それにしても五十三回かぁ……『前』より一本取れるまでの回数がだいぶ短くなった気がする。確か、六十回くらいだったような。
強くなるまでの期間が短くなった。
独学とはいえ他の呼吸についても鍛錬できたこと、それから杏寿郎さんの負けず嫌い精神を刺激したことでより早く強くなれたのが大きいのかも。
杏寿郎さんなんて、もうすぐ日輪刀の色変わりの儀があるのにもう参ノ型まで使えるのよ?私はまだまだ壱ノ型出せるまでに至ってないのになぁ。んー、あと少し速さが出せる身長に成長したら打てそう。
「イェーイ!千寿郎、ハイターッチ!!」
ハイタッチの意味がわからない千寿郎にやり方を教え、手と手を叩き合う。パァン!良い音したな〜。
対戦相手たる杏寿郎さんはというと。
「くっ!!何故あそこで俺は朝緋の攻撃を捌ききれなかったのだ……!!」
『女性は弱い者、守らねばならない者』だという偏見やら女卑に近い思考はない杏寿郎さんだけど、それでもまだ十になっていない私に負けたのは相当悔しいようで。
私が千寿郎ばかり構っているといつも邪魔してくるのに、今回は地べたで唸っている。
まぁ『前』は少なくとも齢が十を超えていたからね……。
でもあと少しで私も十歳になるからそんなに変わらない気がする。
「兄さん。杏寿郎兄さん……!」
「ん、なんだ。朝緋……」
「ふはは!杏寿郎兄さんが負けたのは杏寿郎兄さんが弱いからではない!私が強かっただけだ!!」
ドヤ顔をしながら目の前で言い放つ。
「その言い方は腹が立つな!?」
「えー、腹が立つじゃなくて、お腹が空いただけじゃありませんか?」
「違う!腹が鳴るとは言っていないではないか!」
「あっそぉ。じゃあ八つ時に飴芋作ろうと思ったけど、私の好物にしちゃおっかなー」
「飴芋がいい!!!!」
私の勝ち星記念日なのに、結局杏寿郎さんの好物でお祝いすることになった。
大量にこさえた飴芋……つまり今でいう大学芋の甘さレベルに、杏寿郎さんにはとことん甘い私である。
といっても今回は歌舞伎でも相撲でもない。
観に行ったのは、槇寿朗さんと瑠火さんの思い出の能楽である羽衣という演目だ。私は『前回』観たけどいい演目だったなあ。
まあ、修行やら学業、お稽古ごとの隙間時間に瑠火さんや私と一緒に歌舞伎や相撲は見に行っているので杏寿郎さんのご趣味は歌舞伎、能楽、相撲観戦と確定している。感銘を受けたと、嬉々として話していた。
わかる、見始めると面白いもんね。明槻との御刀さま観覧巡りもなんだかんだ楽しかったっけ……。
槇寿朗さん、貴方が鬼と戦って働いてるのに遊んでごめんなさい。でもそんなこと言ったら子供が気にするなと言われそうだね。
それにしても手のひらが熱い。
熱い体温をもつ手のひらに、しっかりと握られているからだ。
「手を繋ぐのは好きだから嬉しいですけど、杏寿郎兄さん…往来ではさすがに離してほしいな?
お布団の中でだって、ぎゅうぎゅうでいつも苦しいのに」
布団の中でのぎゅうぎゅうについて?今いくつだと思ってるの?まだ私十になってないよ。
それに恥じらいなんて当の昔にどこかへと消えたよ……。だって布団の中でプロレス技かけられてるんだもの。
「君は稀血だからな。俺は絶対にこの手を離しはしない。
こうして手を繋いでおかねば、朝緋はまた勝手にどこかへ行って傷をこさえてくるかもしれない!もっと悪ければ鬼に食べられて死ぬかもしれない!!
俺はそれが不安でたまらない……」
この前私が鬼と遭遇した時に、自身が一緒にいなかった。守れなかったことをひどく悔やんでいる。
あれは私が勝手に行動した結果なのだし、気に病むことなんかないのに。
「今は昼間だから鬼なんかでないし大丈夫だよ。それに柱である父様も、母様だって一緒でしょ?」
見上げれば隣で微笑む槇寿朗さんと瑠火さん。煉獄一家が親子で並んで歩いている状態は、なかなか圧巻だ。
「朝緋はこんなにかわいいのだから捕まえておかねば鬼でなくとも横から掻っ攫われてしまうやもしれん!!」
「ないない、絶対ない」
かわいいかどうかもよくわからないけれど、呼吸は既に着々と身についていて、腕っ節だけなら一般人に負けたりしない。攫われるなんて考えがひとつも思い浮かばないや。
「そんなことありえませんよねー、ね、父様母様!」
「うーむ。少しばかりお転婆なところが落ち着けば、攫われてしまうこともあるかもしれんな」
「何よそれ!!父様ったら失礼しちゃう!」
「ふふ、確かにもう少しお淑やかにしないとお嫁の貰い手がないかもしれませんね」
「母様まで!?うわーん千寿郎!父様と母様が酷い〜!」
「あねうえ、ぼくにいわれてもよくわかりましぇん」
「オゥ……ごめんよ……」
舌ったらずな千寿郎が今日もかわいい!思わず空いた方の手で高速ナデナデを発揮することになろうとは。かわいいっっっ!
でもまさか力や見た目じゃなくって、性格に難ありと言われてしまうとは!心外である。
「……君は俺のお嫁さんになる子なのに」
隣からぼそりと呟かれる言葉はなんだったか。
「杏寿郎兄さん、今なんか言った?」
「何でもないな!!」
「ふーん?
とりあえず杏寿郎兄さんが過保護なのはすっごくよくわかった。けど杏寿郎兄さんに引けを取らないくらい強くなってきてるし、往来で手を握ったりなんてしなくても本当に大丈夫ですよー?」
「何を言う!まだ俺から一本もとれてないだろう!?」
「ぶっぶー!昨日はあとちょっとでしたー」
べー、と舌を出して言えば杏寿郎さんがムッとしていた。けれど、手は決して離しはしない。頑固というか強情というか……。
どちらにせよこのままいけば、『前』よりも早く、杏寿郎さんから勝ち星を奪えるのだ。頑張ろう。
「ほう、あと少しで一本取れるようにか。強くなってきているようだな。さすが朝緋だ」
「えへへー」
「くっ、負けてたまるか!」
私だって負けない。鍛錬に次ぐ鍛錬、努力に次ぐ努力。繰り返し覚えた常中の基礎と型の動き、磨き抜いたこの速さ。
そうやってお互い切磋琢磨して高め合ってきたせいか、私だけでなく杏寿郎さんも『前』よりも強くなるのが、常中が身につくのが早い気がする。
競い合う子供たちの姿を、親であり師範である槇寿朗さんと瑠火さんが眩しいものでも見るように、目を細めて眺めた。
ちなみに羽衣の演目を見に行くにあたっては、極力槇寿朗さん瑠火さんお二人の邪魔をしないようにしつつ、でも子供らしくはしゃいだり美味しいものを分け合って食べたりと杏寿郎さんと千寿郎と仲良く過ごした。だって、二人にとっての思い出の演目で、そして久しぶりのデートなんでしょ?たまにはいちゃいちゃしないと。
……こんなこと考える幼い娘なんておせっかい、いや、下世話が過ぎるかな?
***
「杏寿郎兄さん、お覚悟っ!はぁぁぁぁっ!!」
「ぬぁっ!……よもやっ!?」
そんなこんなで修行の際の得物が竹刀から木刀へと代わってしばらく。
激しい手合わせ稽古の連続の末、私は杏寿郎さんに勝つことができた。
「やった!杏寿郎兄さんから一本……!
とったどーーー!!」
勝利の雄叫びとガッツポーーーズ!千寿郎からの盛大な拍手に出迎えられて、気分は最骨頂!盛り上がってまいりました!!
杏寿郎さんが勝った時も千寿郎は拍手してるけどそれはそれ!これはこれ!
「おめでとうございます!つうさん、ごじゅうさんかいめでのしょうりですよ、あねうえ!!」
「いつも数えててくれてありがとーん!千寿郎好き好き〜!!」
「わっ!?」
腕の中に抱きしめてぐりぐり頬擦り。ふにふにほっぺ気持ちいい〜!癒される……。
それにしても五十三回かぁ……『前』より一本取れるまでの回数がだいぶ短くなった気がする。確か、六十回くらいだったような。
強くなるまでの期間が短くなった。
独学とはいえ他の呼吸についても鍛錬できたこと、それから杏寿郎さんの負けず嫌い精神を刺激したことでより早く強くなれたのが大きいのかも。
杏寿郎さんなんて、もうすぐ日輪刀の色変わりの儀があるのにもう参ノ型まで使えるのよ?私はまだまだ壱ノ型出せるまでに至ってないのになぁ。んー、あと少し速さが出せる身長に成長したら打てそう。
「イェーイ!千寿郎、ハイターッチ!!」
ハイタッチの意味がわからない千寿郎にやり方を教え、手と手を叩き合う。パァン!良い音したな〜。
対戦相手たる杏寿郎さんはというと。
「くっ!!何故あそこで俺は朝緋の攻撃を捌ききれなかったのだ……!!」
『女性は弱い者、守らねばならない者』だという偏見やら女卑に近い思考はない杏寿郎さんだけど、それでもまだ十になっていない私に負けたのは相当悔しいようで。
私が千寿郎ばかり構っているといつも邪魔してくるのに、今回は地べたで唸っている。
まぁ『前』は少なくとも齢が十を超えていたからね……。
でもあと少しで私も十歳になるからそんなに変わらない気がする。
「兄さん。杏寿郎兄さん……!」
「ん、なんだ。朝緋……」
「ふはは!杏寿郎兄さんが負けたのは杏寿郎兄さんが弱いからではない!私が強かっただけだ!!」
ドヤ顔をしながら目の前で言い放つ。
「その言い方は腹が立つな!?」
「えー、腹が立つじゃなくて、お腹が空いただけじゃありませんか?」
「違う!腹が鳴るとは言っていないではないか!」
「あっそぉ。じゃあ八つ時に飴芋作ろうと思ったけど、私の好物にしちゃおっかなー」
「飴芋がいい!!!!」
私の勝ち星記念日なのに、結局杏寿郎さんの好物でお祝いすることになった。
大量にこさえた飴芋……つまり今でいう大学芋の甘さレベルに、杏寿郎さんにはとことん甘い私である。