四周目 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「炎の呼吸、伍ノ型・炎虎ッッ!!」
その瞬間、暗闇の中で炎の虎が猛り狂った。
赫の虎が牙を剥いて鬼に飛び掛かり爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。虎の噛み跡が燃え爆ぜる。
「ギャアアアアア!!」
漆黒の中でも黄金色と朱に煌めく髪の毛が夜風と剣圧に揺れていた。
「槇寿朗さ、」
拘束してきた触手状の舌も根こそぎ刈り取られ、宙に投げ飛ばされる私。
杏寿郎さんの炎虎とは違う、さらに強大な猛虎の影が焔となって鬼を噛み砕く様子がよく観察できた。
「よくも俺の娘に傷をつけたなぁッ!燃え滓すら残さず消え失せろ!!」
柱の激怒は恐ろしい。
槇寿朗さんの表情こそが虎のそれ。激しい怒りを炎の呼吸に変え、続けて放つ炎虎、炎虎、炎虎。
鬼の体が斬り刻まれ頸が跳ね飛び、炎の虎に喰らわれ焼かれ、槇寿朗さんが望んだように塵も残さず消えてゆく。
鬼が消えたと同時、宙に投げ飛ばされていた私の体もあるべき場所へと収まるように落ちてゆく。そう、槇寿朗さんの腕の中へ。
「大丈夫か、朝緋」
「と、父様……、」
先ほどまでの恐怖とやってきた心の安寧との狭間で気持ちが揺れ、うまく言葉が出てこなくなった。感謝、謝罪……言うべきことはあるはずなのに。
「よく耐えた」
刀を持っていたとは思えないほど優しくぽむ、と頭を撫でられ、涙腺が崩壊してしまいそうだった。耐えた、そう言われたけれどまだ安心できない。まだ耐えなくちゃ。
隊士に任せてしまった妹ちゃんの無事をしっかり確認するまでは。
「足の傷が深いな……傷口は押さえるから呼吸を高めて回復に専念しろ。常中の原理を理解している朝緋にならできるはずだ」
地面に降ろされたあと、槇寿朗さんが鬼の攻撃で貫通した傷に御自身の手拭いで縛って止血してくれた。
私も私で、言われた通り回復の呼吸をしてみる。まだうまく行かないけれどやらないよりやったほうがもちろん良い。少しは回復速度も違うはずだ。
うう、それにしても膝が震える。生まれたての小鹿かな?立っているのがやっとで、槇寿朗さんの炎の羽織を握りしめてしまった。
少し待てば隠部隊、そして最初の隊士が到着した。妹ちゃんのことは無事に送ってくれたそうだ。今は親子共々既に御自宅に帰っているとのこと。
よかった……それだけがとても心配で。
安堵の吐息と共に、上から声が降ってくる。
「朝緋。朝緋、もう大丈夫だ。その緊張は解いていい。泣かずに偉かったな。子供が無事に帰ったとわかるまで我慢したのか」
膝同様に小刻みに震えていた手を温かい掌で包まれた瞬間、今度こそ涙腺が崩壊した。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
あの時頑張れたのは、気を張っていたからなだけで。今も鬼からの恐怖は心に巣食い、残っている。
あーもう、やだ。幼い体に心が引っ張られてる!涙がなかなか止まらないよ。
鬼にはいい加減慣れなくてはならないのに。
抱き上げて背中をポンポンしてもらったら、さらに涙が流れて止まらなくなった。
うう、優しい手のひら、安心する……。
びーびー泣いていたら頃合いを図っていたのだろう、あの隊士が柱である槇寿朗さんに事の報告を始めた。
「御息女は稀血持ちです。その事を彼女自身も知っています」
「なにっ!?」
あ、稀血が槇寿朗さんにバレた。
その他、私の行動についての報告がどんどんなされ、温和な父親の顔がみるみる柱独特の恐ろしい仁王像のような顔になっていく。
「知っていただと……?」
「え、……父様?」
目の前で槇寿朗さんが背負う空気が氷点下まで下がったよう。炎柱なのになんて寒さ。
怖いので下に降ろして欲しい。
背後からゴゴゴゴゴという、擬音まで聞こえてきそうで。隊士は報告後にすぐこの場を後にしてしまった。これから違う任務に行くのかもしれないけれど、恐ろしくなった柱から逃げたのと一緒じゃん!言い逃げひどい!!
「稀血!朝緋は稀血っ!!しかもそれを既に知っていた!?
なのに朝緋は一人で立ち向かっただと!?
なぜあの隊士に任せなかった?お前は隊士か!?日輪刀を持っていたか!?違うだろう!対抗手段を持たぬただの子供だ!!」
もっともな話だ。私が槇寿朗さんでも怒る。
でも私の口から出たのは、火に油を注いだようなものだった。
だってあまりにもおっかなかったんだもの。
「ぼ、木刀ならここに!!」
「そんなもの鬼の前では役に立たんわ!」
「アッハイ」
涙も引っ込む。
「でも……だって……言っちゃ悪いけど階級がまだ低そうな彼には任せられない、そういう強さの鬼に感じたんだもの……!」
「それは稀血を啜っていたから余計だろう!お前が鬼に力を与えた!!あと少し俺が遅ければ、お前は喰われ鬼は柱ですら対処が難しくなるほどに強化されていた!!」
「元から強かった!それに血を飲まれたのだってほんのちょっとだよ!?」
「馬鹿者!ひとなめだろうがほんの少しだろうが鬼は強くなる!稀血のことを知っているなら、そんなこと当に知っているのだろう!鬼の強くなる瞬間だって見たはずだ!」
「うっ……ごめんなさい」
たしかに私の稀血のひとなめで鬼が進化ともいうべき変化を展開した。もし丸ごと食べられていたら……考えてゾッとした。
「いいか!お前が隊士の強さを語るな!階級低い隊士にも遠く及ばぬ弱さのお前が!!」
強く手を掴まれる。折れるまでいかないけれどわざと痛みを与えているようなそれ。
「朝緋の手を掴む俺のこの手。その内の指一本すら外せんだろう。そんなでは駄目だ。
……悔しければ早く強くなれ。一番は入隊を諦めることだが稀血ながら鬼殺隊士を目指す気持ちに変わりないなら、決して鬼に血を、肉を、髪の毛一本ですら取られるな」
「はい……気をつけます」
柱の恐ろしさを『今回』初めて垣間見た気がする。
いや、恐ろしさというか、炭治郎に対し我を忘れるほど日の呼吸に関してキレていた時の槇寿朗さんの苛烈さを思い出した。アレって随分と『前』のことなんだけどなぁ。
「まあ、少々怒りすぎてしまったが、朝緋が嫌いだから言っているわけではない。大切だからだ。愛しいからだ」
「うん……」
槇寿朗さんの気持ちは痛いほど理解している。この人は家族が大切でたまらないんだ。優しすぎる柱なんだもの。
「ったく。心配かけおって……この馬鹿娘が」
「……ごめんなさい」
今度は今までにないほど優しく頭をぽんぽんと撫でられ、抱きしめられた。
「帰ろう。
だが、屋敷に帰ったら、瑠火や杏寿郎に叱られるのは覚悟しておけよ。怒った瑠火は怖い。ああ、もしかしたら察した千寿郎にすら便乗して怒られるかもしれんな」
「ソウデスネ……」
「特に杏寿郎……あいつは朝緋を離さないだろう」
怒られるのはわかってる。瑠火さんなんて行ってはいけませんって止めていたのにこっそり抜け出してきちゃったんだもの。けれど杏寿郎さんが?離さない?
なんで??
だけど槇寿朗さんのいう通りだった。
そこには色っぽいなにやらはひとつもないけれど、布団の中でプロレス技をかけられるが如く杏寿郎さんに拘束されて眠る羽目になった。
……ほぼ毎日。
その瞬間、暗闇の中で炎の虎が猛り狂った。
赫の虎が牙を剥いて鬼に飛び掛かり爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。虎の噛み跡が燃え爆ぜる。
「ギャアアアアア!!」
漆黒の中でも黄金色と朱に煌めく髪の毛が夜風と剣圧に揺れていた。
「槇寿朗さ、」
拘束してきた触手状の舌も根こそぎ刈り取られ、宙に投げ飛ばされる私。
杏寿郎さんの炎虎とは違う、さらに強大な猛虎の影が焔となって鬼を噛み砕く様子がよく観察できた。
「よくも俺の娘に傷をつけたなぁッ!燃え滓すら残さず消え失せろ!!」
柱の激怒は恐ろしい。
槇寿朗さんの表情こそが虎のそれ。激しい怒りを炎の呼吸に変え、続けて放つ炎虎、炎虎、炎虎。
鬼の体が斬り刻まれ頸が跳ね飛び、炎の虎に喰らわれ焼かれ、槇寿朗さんが望んだように塵も残さず消えてゆく。
鬼が消えたと同時、宙に投げ飛ばされていた私の体もあるべき場所へと収まるように落ちてゆく。そう、槇寿朗さんの腕の中へ。
「大丈夫か、朝緋」
「と、父様……、」
先ほどまでの恐怖とやってきた心の安寧との狭間で気持ちが揺れ、うまく言葉が出てこなくなった。感謝、謝罪……言うべきことはあるはずなのに。
「よく耐えた」
刀を持っていたとは思えないほど優しくぽむ、と頭を撫でられ、涙腺が崩壊してしまいそうだった。耐えた、そう言われたけれどまだ安心できない。まだ耐えなくちゃ。
隊士に任せてしまった妹ちゃんの無事をしっかり確認するまでは。
「足の傷が深いな……傷口は押さえるから呼吸を高めて回復に専念しろ。常中の原理を理解している朝緋にならできるはずだ」
地面に降ろされたあと、槇寿朗さんが鬼の攻撃で貫通した傷に御自身の手拭いで縛って止血してくれた。
私も私で、言われた通り回復の呼吸をしてみる。まだうまく行かないけれどやらないよりやったほうがもちろん良い。少しは回復速度も違うはずだ。
うう、それにしても膝が震える。生まれたての小鹿かな?立っているのがやっとで、槇寿朗さんの炎の羽織を握りしめてしまった。
少し待てば隠部隊、そして最初の隊士が到着した。妹ちゃんのことは無事に送ってくれたそうだ。今は親子共々既に御自宅に帰っているとのこと。
よかった……それだけがとても心配で。
安堵の吐息と共に、上から声が降ってくる。
「朝緋。朝緋、もう大丈夫だ。その緊張は解いていい。泣かずに偉かったな。子供が無事に帰ったとわかるまで我慢したのか」
膝同様に小刻みに震えていた手を温かい掌で包まれた瞬間、今度こそ涙腺が崩壊した。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
あの時頑張れたのは、気を張っていたからなだけで。今も鬼からの恐怖は心に巣食い、残っている。
あーもう、やだ。幼い体に心が引っ張られてる!涙がなかなか止まらないよ。
鬼にはいい加減慣れなくてはならないのに。
抱き上げて背中をポンポンしてもらったら、さらに涙が流れて止まらなくなった。
うう、優しい手のひら、安心する……。
びーびー泣いていたら頃合いを図っていたのだろう、あの隊士が柱である槇寿朗さんに事の報告を始めた。
「御息女は稀血持ちです。その事を彼女自身も知っています」
「なにっ!?」
あ、稀血が槇寿朗さんにバレた。
その他、私の行動についての報告がどんどんなされ、温和な父親の顔がみるみる柱独特の恐ろしい仁王像のような顔になっていく。
「知っていただと……?」
「え、……父様?」
目の前で槇寿朗さんが背負う空気が氷点下まで下がったよう。炎柱なのになんて寒さ。
怖いので下に降ろして欲しい。
背後からゴゴゴゴゴという、擬音まで聞こえてきそうで。隊士は報告後にすぐこの場を後にしてしまった。これから違う任務に行くのかもしれないけれど、恐ろしくなった柱から逃げたのと一緒じゃん!言い逃げひどい!!
「稀血!朝緋は稀血っ!!しかもそれを既に知っていた!?
なのに朝緋は一人で立ち向かっただと!?
なぜあの隊士に任せなかった?お前は隊士か!?日輪刀を持っていたか!?違うだろう!対抗手段を持たぬただの子供だ!!」
もっともな話だ。私が槇寿朗さんでも怒る。
でも私の口から出たのは、火に油を注いだようなものだった。
だってあまりにもおっかなかったんだもの。
「ぼ、木刀ならここに!!」
「そんなもの鬼の前では役に立たんわ!」
「アッハイ」
涙も引っ込む。
「でも……だって……言っちゃ悪いけど階級がまだ低そうな彼には任せられない、そういう強さの鬼に感じたんだもの……!」
「それは稀血を啜っていたから余計だろう!お前が鬼に力を与えた!!あと少し俺が遅ければ、お前は喰われ鬼は柱ですら対処が難しくなるほどに強化されていた!!」
「元から強かった!それに血を飲まれたのだってほんのちょっとだよ!?」
「馬鹿者!ひとなめだろうがほんの少しだろうが鬼は強くなる!稀血のことを知っているなら、そんなこと当に知っているのだろう!鬼の強くなる瞬間だって見たはずだ!」
「うっ……ごめんなさい」
たしかに私の稀血のひとなめで鬼が進化ともいうべき変化を展開した。もし丸ごと食べられていたら……考えてゾッとした。
「いいか!お前が隊士の強さを語るな!階級低い隊士にも遠く及ばぬ弱さのお前が!!」
強く手を掴まれる。折れるまでいかないけれどわざと痛みを与えているようなそれ。
「朝緋の手を掴む俺のこの手。その内の指一本すら外せんだろう。そんなでは駄目だ。
……悔しければ早く強くなれ。一番は入隊を諦めることだが稀血ながら鬼殺隊士を目指す気持ちに変わりないなら、決して鬼に血を、肉を、髪の毛一本ですら取られるな」
「はい……気をつけます」
柱の恐ろしさを『今回』初めて垣間見た気がする。
いや、恐ろしさというか、炭治郎に対し我を忘れるほど日の呼吸に関してキレていた時の槇寿朗さんの苛烈さを思い出した。アレって随分と『前』のことなんだけどなぁ。
「まあ、少々怒りすぎてしまったが、朝緋が嫌いだから言っているわけではない。大切だからだ。愛しいからだ」
「うん……」
槇寿朗さんの気持ちは痛いほど理解している。この人は家族が大切でたまらないんだ。優しすぎる柱なんだもの。
「ったく。心配かけおって……この馬鹿娘が」
「……ごめんなさい」
今度は今までにないほど優しく頭をぽんぽんと撫でられ、抱きしめられた。
「帰ろう。
だが、屋敷に帰ったら、瑠火や杏寿郎に叱られるのは覚悟しておけよ。怒った瑠火は怖い。ああ、もしかしたら察した千寿郎にすら便乗して怒られるかもしれんな」
「ソウデスネ……」
「特に杏寿郎……あいつは朝緋を離さないだろう」
怒られるのはわかってる。瑠火さんなんて行ってはいけませんって止めていたのにこっそり抜け出してきちゃったんだもの。けれど杏寿郎さんが?離さない?
なんで??
だけど槇寿朗さんのいう通りだった。
そこには色っぽいなにやらはひとつもないけれど、布団の中でプロレス技をかけられるが如く杏寿郎さんに拘束されて眠る羽目になった。
……ほぼ毎日。