二周目 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
また家族になれたあの日からは数日。私の不満は募りに募り、そしてポンッと軽やかに破裂した。
「なぜ杏寿郎兄さんは私と目を合わせてくださらないのですか。とうさまかあさまとは目を合わせて話してるのに!」
無視されているわけではなく会話はする。でも目を合わせようとすると、さすがは未来の炎柱の反応速度!と絶賛したくなるくらいのスピードで顔を逸らされ続けていた。偶然かもしれない。わざとではないかもしれない。そう思いたかったが、逸らされた顔側に私が移動すれば反対側に顔が向く。
流石に気がついた。
今日もまた逸らされたので、私はぐいと顔を掴み、強制的にこっちを向かせる事に成功した。
「むぅん……」
向日葵のような目を何度も宙に泳がせてからぎゅっと瞑る。そのまま呟かれた「むぅん」は、大人の杏寿郎さんの「むう」とは違い、子供らしくてかわいかった。でもそれで話を脱線させる私ではない。
「『人と話す時は目を見て話しましょう』。杏寿郎兄さんが使っている修身の書にありました」
修身とは、現代で言う道徳の授業にあたる。社会ルールや、心のあり方、日頃の心得など一般的なことを学ぶもの。今となっては当たり前で言わなくてもわかっている、目を見て話す。というのもそこに書いてあった。
「尋常小学校のあれを読んだ……?朝緋は国語を習ったわけでもないのに、字の読み書きができるのか?」
「独学ですお気になさらず!」
うわあそこに気が付かれたッ!さすがは未来の炎柱。聡い、超聡い!
私はまだ学校に通っていない歳なのに、字が書ける読めるになるといよいよおかしい。天才でもない私が独学っていうのも中々に無理のある話だけど、なんとか誤魔化す。
「うむ!なるほどわかった!!
……話は目を合わせてする。それが礼儀というものなのは俺も知っているのだ。
けど本当に怖くないのか、と不安に思った。
朝緋は怖くないと言ってくれたが、同じ年頃の子には……学舎では、獲物として見られているように感じて俺の目は怖い、と時折言われる!!どこを見ているかわからず怖いともな!!
だからなるべく、目を合わせないようにしていた!すまん!」
なんということか!
鬼殺隊のあの頃ならまだわかる。この歳からそんなことを言われていたとは、心外ッ!ぱっちりしたくりくりなこの目のどこが怖いんだよ杏寿郎さんの学舎のお子様たち!
それは一種のいじめと変わらないぞ。杏寿郎さんがひねくれたり、自己肯定欲が未発達になったらどう責任とってくれる?
ひとりひとりに問いただしたい。
「杏寿郎兄さんは人よりも少しだけ目がおっきいだけです。
眼力 が強くて、凛々しくて。太陽や向日葵みたいで暖かくて……。何度も言うけど、私はいいと思う。とっても素敵です。
だからどうか、とうさまかあさまと同じように、私のこともまっすぐその目で見てください。目を合わせてください。仲間はずれみたいでなんだか悲しい……」
「ああ、悪かった!ちゃんと目を見て話すと誓う!」
私は怖がる人たちとは違う。真っ直ぐに見ていてほしい。きらきらしたその瞳が見たい。
泣く一歩手前のように俯いて言えば、両手を握られ、力強い目で見つめられた。
「これからは真っ直ぐに朝緋を見る!毎日穴が開くほどずっと見る!!」
「え、いや……穴が開くほどは困るよ」
「なんとっ!?」
ガーン!という効果音が聞こえてきそうな大きな声に、くすくすと笑みが溢れる。
「でも、貴方の笑顔が私にも向くのは、とっても嬉しい。杏寿郎兄さんの笑顔が大好きだから」
「だ、『だいすき』……?」
今まで聞いたことのない言葉であるかと言うようにゆっくりと復唱する杏寿郎さんは、頬をみるみる赤く染めながら、さらなる大声を出した。
「お、俺の笑顔は食べ物じゃないぞっ!他に朝緋が好きな食べ物はないのか?俺はさつまいもが大好きだ!食べると頭の中で神輿を担ぐほどに好きでなっ!!」
「ふはっ!好きって、好物の話じゃないのにぃっ!私はですね、稲荷寿司やあいすくりんが特に好きなんですよ」
「そうかそうか。
むー。さつまいもの話をしたら食べたくなったな……」
ぐー。杏寿郎さんのお腹から、大きな音が鳴る。本人同様元気なお腹の虫だなあ。
でもまたなのか。見間違いじゃなければ、昨日も食べてたと思うんだけど……。
その内、杏寿郎さんからは芋の匂いがするようになりそうだ。列車の中で炭治郎は焦げだとか焼けるような匂いがどうこう言ってたけど、あれはもしかして焼き芋の匂いだった……?
「買ってこないと予備の芋はないのでは……?」
「よもやぁ……」
「うーん、そんなに好きならもう家で育てた方がよさそう」
「なるほどそれだ!!!!」
「えっ」
好物のことだからだろうか、杏寿郎さんの行動は早かった。
私の手を引き、物凄いスピードで槇寿朗さんと瑠火さんがいる部屋に突撃する。
今日は完全な非番らしいから、夫婦二人でゆっくりお茶しばいてるんだなあ……ってはっや!足、はっや!!私の足浮いてるよ!
まだ鬼殺隊じゃないよね杏寿郎さんんん!?
「父上!お庭の一部を借りたい!朝緋がさつまいも畑を作る!!」
騒々しいと注意を受けながら、部屋に滑り込んで矢継ぎ早に宣う。
「……ぱーどぅん?」
つい英語が出た。通じないのでスルーされたからよかったけども。
えっ私が作るの?どういうこと?と思ったが、杏寿郎さん曰く言い出しっぺがやることだと、ドーン!と効果音がつきそうな声で言われてしまった……。なるほどこれが言い出しっぺの方則。
「だめだ」
だがそれは槇寿朗さんの鶴の一声で断られた。
「芋なぞ作らずとも、買って来れば良い。
庭をいじる?庭師でもないのに。畑?百姓ではないだろう。うちは代々鬼狩りを生業とする家なのだ、そのような真似するな。大体煉獄家の女児たるものが、武家の娘が土いじり……許可できん。もちろん、杏寿郎がやるのは言語道断だ。お前は鬼狩りになる男。そんな暇があるならより多く鍛錬しろ」
これがこれこれこうなら、このようにあるべき。不自由な言葉の数々だがここは私がかつて過ごした令和でなく、そこから百年あまりは昔の時代。厳しく感じるも当時の考え方としては当然だ。
ただ、腕に抱いた千寿郎のよだれで顔中べとべとの中言われても、あまり威厳はない。
「芋……わっしょい出来ない……」
あの勢いはどこへやら、特徴的な眉毛がしょんぼりと下がっている。いつも元気よく跳ねている髪の毛も、心なしかへたっていた。
聞いた時はなんで私が!と思ったけれど、今の私には杏寿郎さんに喜んでもらいたいという想いが溢れていて、庭に大量のさつまいもを育てる気満々でいた。
それにもうすぐ大正の世になるならば、鬼と同等の災害がほどなくして来る。被害の程がどのくらいなのかはわからなくとも、自分たちの備蓄はないよりあった方がいいに決まっている。
「女だからとか、武家だからとか決めつけは良くないと思います。
杏寿郎兄さんは、さつまいもが好物。ほんの少しの芋畑で笑顔が見られるなら、他のしがらみやしきたり。こうあるべきという考えは捨てて、私は土いじりでも何でもします。
私は杏寿郎兄さんに喜んで貰いたい。彼の幸せは私の幸せなのですから」
槇寿朗さんも、杏寿郎さんも絶句して私を見た。
本当ならば家長に向かって口答えなど、許されるような時代ではない。私のような幼な子でもそれは同じ。
だけど言ってしまった。かつて鬼殺の事で屋敷を出た時のように、勘当……されてしまうのだろうか。杏寿郎さんへに至っては、またも告白まがいの言葉を言ってしまったと気がついた。顔が直視出来ない。
口を開いたのは、それまで黙っていた瑠火さんだった。
「子供達の笑顔が見られるのなら私は反対しません。
今は恋愛ですら、自由恋愛からの結婚も多い時代になってきました。朝緋の言う通り、決めつけるのもいかがなものかと。
庭も広いです。何もうわっていない場所もありますし、やりたいようにやらせてあげては」
「えっ。る、瑠火……。だが、武家の娘だぞ。代々の鬼狩りの家に畑だぞ……?周りに何を言われるかわかったものではないだろう。
杏寿郎が鍛錬そっちのけで土いじりに興じ始めたらどうする」
「俺はさぼるような真似はしません!」
「杏寿郎兄さんはただ食べる役です。
私は兄さんの笑顔は好きですが、鍛錬や修行で成果を出した褒美にお芋を差し出すだけですよ。何もなしに好物がポンポン出てくるとか、笑顔にありがたみがない」
「八つ時には食べられないのかっ!?」
そもそも作ってもないのに、上手く畑として機能するかどうか……。確かあまり肥沃な土でない場所を使い、畝を大きくするんだったっけ。
瑠火さんの言葉と私と杏寿郎さんのやり取りに、槇寿朗さんは頭を抱えて深いため息。蚊の鳴くような小さな声で好きにしてくれ、と聞こえてきた。瑠火さんは、良かったですねと微笑んでくれた。
「ただし朝緋。武家の娘としてどこに出ても恥ずかしくない程度に内内の事、かしぎの事。華道や茶道、お裁縫。覚えるべき事についてはちゃんとなさい。その上でやれないなら駄目です。わかりましたか」
「はい。ありがとうございます、かあさま」
私は杏寿郎兄さんを伴って、深々と頭を下げる。父である槇寿朗さんからは、ぶつぶつとつぶやく声が聞こえた。
「俺の屋敷……庭なのに……。畑など作って景観が、見栄えが、体裁が……。俺の親が生きていたらなんと言うか」
「なんです?貴方は子供たちの笑顔を見たくないのですか?」
「……見たい」
母が一番強い。
「なぜ杏寿郎兄さんは私と目を合わせてくださらないのですか。とうさまかあさまとは目を合わせて話してるのに!」
無視されているわけではなく会話はする。でも目を合わせようとすると、さすがは未来の炎柱の反応速度!と絶賛したくなるくらいのスピードで顔を逸らされ続けていた。偶然かもしれない。わざとではないかもしれない。そう思いたかったが、逸らされた顔側に私が移動すれば反対側に顔が向く。
流石に気がついた。
今日もまた逸らされたので、私はぐいと顔を掴み、強制的にこっちを向かせる事に成功した。
「むぅん……」
向日葵のような目を何度も宙に泳がせてからぎゅっと瞑る。そのまま呟かれた「むぅん」は、大人の杏寿郎さんの「むう」とは違い、子供らしくてかわいかった。でもそれで話を脱線させる私ではない。
「『人と話す時は目を見て話しましょう』。杏寿郎兄さんが使っている修身の書にありました」
修身とは、現代で言う道徳の授業にあたる。社会ルールや、心のあり方、日頃の心得など一般的なことを学ぶもの。今となっては当たり前で言わなくてもわかっている、目を見て話す。というのもそこに書いてあった。
「尋常小学校のあれを読んだ……?朝緋は国語を習ったわけでもないのに、字の読み書きができるのか?」
「独学ですお気になさらず!」
うわあそこに気が付かれたッ!さすがは未来の炎柱。聡い、超聡い!
私はまだ学校に通っていない歳なのに、字が書ける読めるになるといよいよおかしい。天才でもない私が独学っていうのも中々に無理のある話だけど、なんとか誤魔化す。
「うむ!なるほどわかった!!
……話は目を合わせてする。それが礼儀というものなのは俺も知っているのだ。
けど本当に怖くないのか、と不安に思った。
朝緋は怖くないと言ってくれたが、同じ年頃の子には……学舎では、獲物として見られているように感じて俺の目は怖い、と時折言われる!!どこを見ているかわからず怖いともな!!
だからなるべく、目を合わせないようにしていた!すまん!」
なんということか!
鬼殺隊のあの頃ならまだわかる。この歳からそんなことを言われていたとは、心外ッ!ぱっちりしたくりくりなこの目のどこが怖いんだよ杏寿郎さんの学舎のお子様たち!
それは一種のいじめと変わらないぞ。杏寿郎さんがひねくれたり、自己肯定欲が未発達になったらどう責任とってくれる?
ひとりひとりに問いただしたい。
「杏寿郎兄さんは人よりも少しだけ目がおっきいだけです。
だからどうか、とうさまかあさまと同じように、私のこともまっすぐその目で見てください。目を合わせてください。仲間はずれみたいでなんだか悲しい……」
「ああ、悪かった!ちゃんと目を見て話すと誓う!」
私は怖がる人たちとは違う。真っ直ぐに見ていてほしい。きらきらしたその瞳が見たい。
泣く一歩手前のように俯いて言えば、両手を握られ、力強い目で見つめられた。
「これからは真っ直ぐに朝緋を見る!毎日穴が開くほどずっと見る!!」
「え、いや……穴が開くほどは困るよ」
「なんとっ!?」
ガーン!という効果音が聞こえてきそうな大きな声に、くすくすと笑みが溢れる。
「でも、貴方の笑顔が私にも向くのは、とっても嬉しい。杏寿郎兄さんの笑顔が大好きだから」
「だ、『だいすき』……?」
今まで聞いたことのない言葉であるかと言うようにゆっくりと復唱する杏寿郎さんは、頬をみるみる赤く染めながら、さらなる大声を出した。
「お、俺の笑顔は食べ物じゃないぞっ!他に朝緋が好きな食べ物はないのか?俺はさつまいもが大好きだ!食べると頭の中で神輿を担ぐほどに好きでなっ!!」
「ふはっ!好きって、好物の話じゃないのにぃっ!私はですね、稲荷寿司やあいすくりんが特に好きなんですよ」
「そうかそうか。
むー。さつまいもの話をしたら食べたくなったな……」
ぐー。杏寿郎さんのお腹から、大きな音が鳴る。本人同様元気なお腹の虫だなあ。
でもまたなのか。見間違いじゃなければ、昨日も食べてたと思うんだけど……。
その内、杏寿郎さんからは芋の匂いがするようになりそうだ。列車の中で炭治郎は焦げだとか焼けるような匂いがどうこう言ってたけど、あれはもしかして焼き芋の匂いだった……?
「買ってこないと予備の芋はないのでは……?」
「よもやぁ……」
「うーん、そんなに好きならもう家で育てた方がよさそう」
「なるほどそれだ!!!!」
「えっ」
好物のことだからだろうか、杏寿郎さんの行動は早かった。
私の手を引き、物凄いスピードで槇寿朗さんと瑠火さんがいる部屋に突撃する。
今日は完全な非番らしいから、夫婦二人でゆっくりお茶しばいてるんだなあ……ってはっや!足、はっや!!私の足浮いてるよ!
まだ鬼殺隊じゃないよね杏寿郎さんんん!?
「父上!お庭の一部を借りたい!朝緋がさつまいも畑を作る!!」
騒々しいと注意を受けながら、部屋に滑り込んで矢継ぎ早に宣う。
「……ぱーどぅん?」
つい英語が出た。通じないのでスルーされたからよかったけども。
えっ私が作るの?どういうこと?と思ったが、杏寿郎さん曰く言い出しっぺがやることだと、ドーン!と効果音がつきそうな声で言われてしまった……。なるほどこれが言い出しっぺの方則。
「だめだ」
だがそれは槇寿朗さんの鶴の一声で断られた。
「芋なぞ作らずとも、買って来れば良い。
庭をいじる?庭師でもないのに。畑?百姓ではないだろう。うちは代々鬼狩りを生業とする家なのだ、そのような真似するな。大体煉獄家の女児たるものが、武家の娘が土いじり……許可できん。もちろん、杏寿郎がやるのは言語道断だ。お前は鬼狩りになる男。そんな暇があるならより多く鍛錬しろ」
これがこれこれこうなら、このようにあるべき。不自由な言葉の数々だがここは私がかつて過ごした令和でなく、そこから百年あまりは昔の時代。厳しく感じるも当時の考え方としては当然だ。
ただ、腕に抱いた千寿郎のよだれで顔中べとべとの中言われても、あまり威厳はない。
「芋……わっしょい出来ない……」
あの勢いはどこへやら、特徴的な眉毛がしょんぼりと下がっている。いつも元気よく跳ねている髪の毛も、心なしかへたっていた。
聞いた時はなんで私が!と思ったけれど、今の私には杏寿郎さんに喜んでもらいたいという想いが溢れていて、庭に大量のさつまいもを育てる気満々でいた。
それにもうすぐ大正の世になるならば、鬼と同等の災害がほどなくして来る。被害の程がどのくらいなのかはわからなくとも、自分たちの備蓄はないよりあった方がいいに決まっている。
「女だからとか、武家だからとか決めつけは良くないと思います。
杏寿郎兄さんは、さつまいもが好物。ほんの少しの芋畑で笑顔が見られるなら、他のしがらみやしきたり。こうあるべきという考えは捨てて、私は土いじりでも何でもします。
私は杏寿郎兄さんに喜んで貰いたい。彼の幸せは私の幸せなのですから」
槇寿朗さんも、杏寿郎さんも絶句して私を見た。
本当ならば家長に向かって口答えなど、許されるような時代ではない。私のような幼な子でもそれは同じ。
だけど言ってしまった。かつて鬼殺の事で屋敷を出た時のように、勘当……されてしまうのだろうか。杏寿郎さんへに至っては、またも告白まがいの言葉を言ってしまったと気がついた。顔が直視出来ない。
口を開いたのは、それまで黙っていた瑠火さんだった。
「子供達の笑顔が見られるのなら私は反対しません。
今は恋愛ですら、自由恋愛からの結婚も多い時代になってきました。朝緋の言う通り、決めつけるのもいかがなものかと。
庭も広いです。何もうわっていない場所もありますし、やりたいようにやらせてあげては」
「えっ。る、瑠火……。だが、武家の娘だぞ。代々の鬼狩りの家に畑だぞ……?周りに何を言われるかわかったものではないだろう。
杏寿郎が鍛錬そっちのけで土いじりに興じ始めたらどうする」
「俺はさぼるような真似はしません!」
「杏寿郎兄さんはただ食べる役です。
私は兄さんの笑顔は好きですが、鍛錬や修行で成果を出した褒美にお芋を差し出すだけですよ。何もなしに好物がポンポン出てくるとか、笑顔にありがたみがない」
「八つ時には食べられないのかっ!?」
そもそも作ってもないのに、上手く畑として機能するかどうか……。確かあまり肥沃な土でない場所を使い、畝を大きくするんだったっけ。
瑠火さんの言葉と私と杏寿郎さんのやり取りに、槇寿朗さんは頭を抱えて深いため息。蚊の鳴くような小さな声で好きにしてくれ、と聞こえてきた。瑠火さんは、良かったですねと微笑んでくれた。
「ただし朝緋。武家の娘としてどこに出ても恥ずかしくない程度に内内の事、かしぎの事。華道や茶道、お裁縫。覚えるべき事についてはちゃんとなさい。その上でやれないなら駄目です。わかりましたか」
「はい。ありがとうございます、かあさま」
私は杏寿郎兄さんを伴って、深々と頭を下げる。父である槇寿朗さんからは、ぶつぶつとつぶやく声が聞こえた。
「俺の屋敷……庭なのに……。畑など作って景観が、見栄えが、体裁が……。俺の親が生きていたらなんと言うか」
「なんです?貴方は子供たちの笑顔を見たくないのですか?」
「……見たい」
母が一番強い。